(昭和47年10月20日付け47検第306号 日本国有鉄道総裁あて)
盛岡、仙台新幹線、東京第二、東京第三各工事局が昭和46年度中に随意契約によりパシフィック航業株式会社ほか6会社に3億3078万余円で請け負わせ施行した東北新幹線の計画予定路線等の空中写真測量(写真撮影面積1,577km2
、図化面積1,303km2
)について検査したところ、下記のとおり、予定価格の積算が適切でなく、また、測量作業が契約どおり行なわれずこのため納入された成果物の精度が低くなっていると認められる事例が見受けられた。
このような事態を生じたのは、積算基準が作業の実情に適合していないこと、作業中の監督および納入された成果物についの検査の基準が示されていなかったことなどによると認められる。
ついては、日本国有鉄道においては、今後新幹線建設等のための空中写真測量の発注量がますます増加することが見込まれるので、作業の実態等を十分把握、検討のうえ積算基準を実情に適合したものとし、また、監督、検査の基準を明確にするとともに職員を十分指導、研修するなどして、測量施行の適正を期する要があると認められる。
記
(1) 予定価格の積算について
前記測量作業の予定価格については、本社臨時工事積算室が44年に作成した空中測量積算要領(案)により積算しているが、その内訳をみると、次のとおり実情に適合しないものになっている。
(ア) 空中三角測量(注1) および細部図化作業の人件費についてはいずれも測量技師2名の編成で、また、原図点検校正着墨作業の人件費については測量技師および測量技師補各1名の編成で行なうこととして算定している。しかし、一般に、この種の作業は比較的高度な技術を持つ者1名とこれを補助整理する者1名の編成で行なうのが通例であるから、上記のように比較的高度な技術を持つ者だけの編成を基礎として積算しているのは適切でないと認められる。現に、本件測量作業の請負人もこのような編成で作業を実施している状況である。
(イ) 諸経費については、測量作業に従事する技術者の人件費に一律に105%を乗じて算定している。しかし、この種作業においては、直接測量費(測量作業に直接要する人件費、資材費、機械器具損料)の額の増大に伴って直接測量費に対する諸経費の割合が低減するものであり、建設省国土地理院の積算事例をみても、測量業者2百余会社の実情を十分調査した結果作成した積算基準により、直接測量費の額の大小に応じてその30%から70%を諸経費としている。
本件各測量作業について、上記(ア)(イ)の適切と認められる方式により積算したとすれば、積算額を相当程度低減できたと認められる。
(2) 監督、検査について
測量作業は、空中写真測量作業基準規程(昭和46年施、建、幹達第2号)および示方書で示した基準どおり実施しなければならないことになっている。
しかし、検査の際調査したところ、測量作業の実施にあたって監督、検査が十分に行なわれておらず、その結果、撮影の際の偏流角(注2)
や傾斜角(注3)
が許容限度をこえていたり、写真が鮮明でなかったり、図化の際の対地標定較差(注4)
等が許容限度をこえていたりしていて、ひいてはこれら作業の結果作成された最終の成果物である地形図の精度が低くなっていると認められるものをそのまま受領している事例が多数見受けられた。
(注1) 空中三角測量 空中写真を利用して図化に必要な標定点の位置や高さを求めること
(注2) 偏流角 横風を受けながら一定の飛行方向を維持するためには、風力に応じて機首を風上側に向けて飛ばなければならない。この場合の機首の方向と飛行方向とのなす角
(注3) 傾斜角 空中写真を撮影する際の写真画面と水平面とのなす角
(注4) 対地標定較差 現地または空中三角測量で求めた標定点の高さの値と図化機で求めた標定点の高さの値との差
検査の結果、本院の注意により、当局において処置を講じたものが次のとおりある。
日本国有鉄道では、業務の合理化等のため電子計算機を逐次導入しており、昭和46年度末におけるその保有台数は81台(うち購入したもの55台、賃借しているもの26台)に上っているが、その導入等の状況を検査したところ、次のとおり適切でないと認められる事例が見受けられた。
(1) 46年度に、門司ほか2鉄道管理局に設置するため、新品3台を4億0150万円で購入している。しかして、一般に、電子計算機の新品購入価格は賃借料月額の45倍程度であるので、45箇月程度以上継続的に使用することが見込まれる場合には賃借によるより購入による方が経済的であり、そして、電子計算機の賃借料が賃借期間の経過に関係なく一定であるのに対し、すでに賃借しているものを購入する場合の購入価格は賃借期間の経過に伴って低減するものである。したがって、電子計算機を導入する必要が生じた場合に購入によるか賃借によるかを決定するにあたっては、すでに賃借しているもののうちに引き続き長期間使用する見込みのものがあれば、通常の場合、新規導入分はとりあえず賃借し、購入資金はすでに賃借しているもののうち過去に賃借していた期間が長くしかも将来引き続き長期間使用する見込みのものの購入に充てる方が有利であると認められる。
上記のことから、日本国有鉄道において賃借中の前記26台の電子計算機について検討してみると、そのうちには既往年度に賃借を開始し今後も引き続き長期間使用する見込みがあると認められるものが相当数あるから、前記の3台はとりあえず賃借しておくこととし、その購入資金をもって、賃借中で長期間にわたって使用する見込みがあるもののうち北海道総局ほか4箇所で使用中の6台を購入することとすると、この6台の賃借料は購入しないで賃借することとする3台の賃借料を相当に上回っているので、両者の差額分だけ経費を節減できることになったと認められた。
また、賃借中の電子計算機の周辺機器のうちには、賃借期間が長期にわたっているため、その賃借料の年額を下回る価格でそれを購入できることが見込まれるものも相当に見受けられた。
(2) 電子計算機に使用する磁気テープのうち保存テープについては、2,400フィート(732m)物および1,200フィート(336m)物だけを使用しているが、その使用状況を調査したところ、実際にデータを記録している部分の長さが著しく短い(1巻当り1mから169m)ものが多数見受けられ、磁気テープが効率的に使用されていないと認められた。
上記について当局の見解をただしたところ、日本国有鉄道では、47年9月、各鉄道管理局長等に通達を発し、(1)については、賃借中の各電子計算機について使用経過期間、将来の使用予定期間を整理把握し、これらの要素を基にして、賃借中のもののうち将来長期間にわたって使用するものについては逐次購入に切り替えることとして購入計画をたてることとするとともに、賃借中の周辺機器のうち購入価格がすでに賃借料の年額を下回っているものについては早急に購入することとする処置を講じ、(2)については、600フィート(183m)物を仕様化するなど磁気テープを効率的に使用するよう処置を講じている。
日本国有鉄道の機関区、運転所、車両工場等では、車両の洗浄、ボイラーヘの給水、空気圧縮機の冷却等のため、毎年多量の水を使用しており、その水源としては上水の水の供給を受けている場合が少なくない。しかし、このような用途には、上水の水より廉価な工業用水、河川や井戸の水を使用すれば十分であり、なかには、必ずしも新しい水でなく使用済みのものを浄化して再使用することとしても十分な場合もあると認められたので、昭和47年中、機関区等214箇所について水の供給源および使用状況等を調査したところ、必要量の水について、工業用水から供給を受けまたは近傍の河川や既設の井戸から取水することができ、水源をこれらに切り替えることによって多額の経費を節減できると認められる事例が多数見受けられた。また、ボイラー等水を加熱して利用する設備を有する箇所で、これらの給水用として冷水を使用する一方、空気圧縮機等から排出される多量の温水を冷却し冷水として利用しているなど温排水の熱を有効に利用していないと認められる事例も見受けられた。
上記について当局の見解をただしたところ、日本国有鉄道では、47年9月、各鉄道管理局長等に通達を発し、工業用水、河川の水等の積極的利用および排出水の活用を促進するなどの処置を講じた。
日本国有鉄道では、東北新幹線ずい道工事の支保工用として業者に支給するアーチ形支保材を昭和46年度から50年度までの間に盛岡、郡山両工場で製作させることとし、その材料として47年8月までにH形鋼12,540本を2億0577万余円で購入し、今後さらに約16万本を購入する予定になっている。
しかして、購入したH形鋼の約半数は長さ8.1mの特殊寸法物で、これは長さが7.480mおよび7.466mのアーチ形支保材の製作用であるとしている。 しかし、前記の両工場に設備されているH形鋼のアーチ形加工装置をみると、上記寸法のアーチ形支保材を加工する材料としては、長さ8.0mの定尺物で十分であるので、ことさら8.1m物を購入する必要はないと認められた。しかも、8.1m物は定尺物でないため8.0m物に比べて1t当り1,000円割高となっている。
上記について当局の見解をただしたところ、日本国有鉄道では、47年10月以降、8.1m物に代えて8.0m物を購入することとした。
大阪、広島新幹線、下関各工事局が昭和46年度に上半先進工法(タイヤ方式)(注) によってトンネル工事を施工している山陽新幹線船穂中工区トンネルその他工事ほか21工事について検査したところ、次のとおり予定価格の積算が適切でないと認められる事例が見受けられた。
(1) トンネル坑内の掘削ずりの運搬費の積算について
(ア) ダンプトラック(8t車)の所要台数については、1台当り掘削ずり4.5m3 (重量換算6.7t)を積載することとして算出しているが、8t積みダンプトラックの荷台の容積が平積みでも5.3m3 程度であることおよび掘削ずりの単位体積当りの重量からみて、1台当り8t程度を積載することとして算出すべきであったと認められる。
(イ) ダンプトラックの供用日損料については、運搬作業が1日2交代で行なわれるので、施工期間の2倍をダンプトラックの供用日数とし、これに供用日当り損料を乗じて算出しているが、供用日損料は機械が工事現場に拘束されている期間を対象として計上されるものであるから、運搬作業が1日2交代で行なわれる場合であっても施工期間を2倍する要はないと認められる。
(2) トンネルの覆工等に使用する生コンクリートの運搬費について
トンネル坑口から打設箇所までの生コンクリートの運搬費を計上しているが、別に計上してある生コンクリートの価格には製造工場から打設箇所までの運搬費が含まれており、また、運搬にあたっては、生コンクリート業者の運搬車が打設箇所まで直接進入することができるので、トンネル坑内の作業条件を考慮する必要はあるとしても、運搬費を重ねて積算する要はないと認められる。
このような事態を生じたのは、いずれも、積算基準が適切でないことによると認められたので、当局の見解をただしたところ、日本国有鉄道では、47年11月、積算基準を改訂し、ダンプトラック(8t車)の掘削ずり積載量を8tとし、供用日損料については供用日数を施工期間として算出することとし、また、生コクリートの坑内運搬については、生コンクリート価格にトンネル坑内の作業条件を考慮した運搬割増しをするだけで坑内運搬費は積算しないこととする処置を講じた。
(注) 上半先進工法(タイヤ方式)トンネルの上部半断面の掘削および巻立てを先行して施工し、その後に下部の掘削等を施工する工法。掘削ずりの搬出、生コンクリート等資材の運搬はトラックによって行なう。トンネルの断面、延長、岩質等の条件が適している場合、最も経済的な工法として近年採用される例が多い。