(昭和50年8月29日付け500普第1888号 日本国有鉄道総裁あて)
日本国有鉄道が昭和48、49両年度に実施した排水処理施設工事等52箇所のうち22箇所(工事費等総額5億7304万余円)について検査したところ、次のとおり、設計が適切でなかったため、不経済な結果になっていると認められる点が見受けられた。
これらの排水処理施設は、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)の施行に伴い、機関区等からの排出水に含まれる油分等を所定の基準値以下に処理するための施設で、集水槽、原水槽、スラッジ槽、薬剤槽等の各槽及び加圧浮上装置等で構成されている。
しかして、この種排水処理施設の水槽等の配置については、水槽等を平面的に分散配置する場合と、水槽等を接続して集約的に配置し、更に一部の水槽等を他の水槽等の上部に立体的に配置する場合とがある。そして、集約的に配置した場合には、水槽等の接続部の側壁が共用できるのでコンクリート量が減少し、立体的に配置した場合には、上部に配置した水槽等の基礎工事が不要となったりするので、これらの側壁や基礎の工事費が不要となり、地形、地盤等の条件が適していて集約化、立体化のため必要となる工事費の増加額がこの不要となる額を下回る場合には工事費を節減できると認められ、加えて、集約的、立体的に配置した場合には、平面分散配置する場合に比べて敷地が相当に縮減でき、しかも、機能や保守にも格別の支障はないと認められる。
しかして、前記22箇所のうち北海道、四国両総局及び青函船舶ほか4鉄道管理局(注) が施行した苫小牧機関区ほか7箇所の土木、建築工事(工事費総額1億4888万余円)は、平面分散配置の設計で施工されているが、現地の地形、地盤等の条件からみて、いずれも集約化、立体化することによって工事費を相当程度節減できたと認められ、立体化、集約化したとして工事費を修正計算すると、節減額は約2100万円(一部の箇所で水槽の容量を過大に計算していたものの修正分を含む。)となる。なお、上記のほか、前記22箇所のうち既に設計を了しているがまだ工事が完了していない箇所やまだ工事に着手していない箇所計7箇所の設計についてみても、集約化、立体化すれば工事費を節約できると認められるのに平面分散配置の設計をしているものが6箇所見受けられた。
また、上記各箇所のうちにはこの工事のため新たに用地を取得しているものが2箇所あるが、集約化、立体化すればその相当部分(取得に要した費用約1600万円)は必要がなかったと認められる。
本件排水処理施設は、機関区等既設の建物や施設の間の限られた用地に設置されるものであるので、特に集約化、立体化を考慮して経費の節減を図るべきであったと認められるのに、上記のような事態を生じているのは適切とは認められない。
このような事態を生じたのは、工作局において排水処理施設の処理方式の選定、処理能力の決定等についての指針をとりまとめるなどある程度の指示はしているものの、各槽の集約化、立体化については適切な指示がほとんど行われていないなど経済的な設計についての配慮が十分でなかったことによると認められる。
ついては、日本国有鉄道においては、今後ともこの種排水処理施設の新設工事を多数施行することが見込まれているのであるから、経済的な設計についての基準を整備するとともに工事実施部局に対して適切な指導を行い、もって経費の節減を図る要があると認められる。
(注) 青函船舶、水戸、天王寺、米子、広島各鉄道管理局
上記のとおり処置を要求したところ、日本国有鉄道では、50年10月に地形や地質等を勘案して各槽の構造、配置を集約、立体化することとして設計するよう関係部局に対して通達を発するとともに、発注済みの工事についても設計変更の処置を講じた。
(昭和50年12月4日付け50検第414号 日本国有鉄道総裁あて)
日本国有鉄道資材局及び北海道ほか8地方資材部(注) が昭和48、49両年度中に車両改造工事、踏切等保安設備の電気関係工事等特定の工事の資材に充てるためのものとして購入した工事用品(49年度購入額587億1365万余円)について検査したところ、次のとおり適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、上記の工事用品は、いずれも、各使用部門からの「準備要求」により、又は予算示達前に例外的に行われる「見込準備」(以下この両者を併せていう場合は「準備要求等」という。)により購入したものであるが、これら工事用品のうちには、準備要求等に当たって、所要時期、所要数量等の見込みが適切でなかったなどのため、49年度末までに使用に至らず翌年度に繰り越されたものが168億1569万余円相当分見受けられた。そして、更に、このうち51億1928万余円相当分は50年9月現在なお使用見込みがたたず、しかも、これらの大部分は、それぞれの工事に限って使用される特定用品であるため他の工事に転用することが困難で、そのまま保有されている状態となっていた。
いま、その主な事例を挙げると下記のとおりである。
このような事態を生じたのは、この種工事用品の準備要求等に当たっては、当然、それを使用する工事の規模や施行時期等を十分は握し、これに応じて所要数量、所要時期等を適切に見込むべきであり、やむを得ず「見込準備」による場合には、過蔵品を生じないようその数量を必要最少限度にとどめるべきであるのに、使用部局がこれらの点について十分な配慮を行っていなかったことなどによると認められる。
ついては、日本国有鉄道においては、特定用品を使用する工事を今後も引き続いて多数施行することが見込まれており、これに伴ってこの種工事用品を今後も多量に購入するのであるから、これらの準備要求等に当たっては、工事実施に関係する各局所等との連絡、調整を緊密に行って当該工事の施行時期、規模等を適確には握するとともに、やむを得ず「見込準備」による場合にはその数量を必要最少限にとどめるよう特段の配意をするなど前記事態の発生を極力防止する対策を講じ、もって資金の効率的運用を図る要があると認められる。
(注) 北海道、東北、新潟、関東、中部、関西、四国、広島、九州各地方資材部
記
(1) 資材局で、工作局の「見込準備」により、49年度に施行する車両改造工事用の資材として冷房装置、車上電気機器等の工事用品27億5772万余円を購入している。
しかし、上記の「見込準備」は、工場の施行能力を超える車両の改造を行うこととしてこれに必要な数量を見込んだり、他の関連工事の施行の見通しがたっていない時点で要求したりしたものであったため、結局、上記購入量のうち15億5428万余円相当分は49年度中に使用するに至らず、しかも、このうち4億0432万余円相当分は50年9月末現在、なお今後の使用見込みがたっていない。
(2) 資材局及び各地方資材部で、北海道、四国両総局及び各鉄道管理局の準備要求等により、49年度中に施行する踏切整備工事用の資材として、しゃ断機等の工事用品41億6285万余円を購入している。しかし、上記の準備要求等の数量は、踏切の整理統合についての地域住民との交渉の目途がたっていなかったり、費用負担について道路管理者側との協議が十分整っていなかったりしている箇所の分を含めて算定したものであったため、結局、上記購入量のうち11億3508万余円相当分は49年度中に使用するに至らず、しかも、このうち5億3405万余円は、50年9月末現在、工事施行についてなお部外関係者との間の合意が成立しないなどのため、今後の使用見込みがたっていない。
(3) 資材局で、東京建築工事局の48年度の「準備要求」により乗車券印刷発行機36台(2億8066万円)を購入している。しかし、上記の準備要求は、関係部局相互の協議が開始されておらずしたがって施行の見通しもたっていなかった48年11月及び12月にされたもので、このため、購入した全量は49年度中に使用するに至らず製造業者に保管させたままとなっていた。そして、49年度には、更に、東京建築工事局及び仙台鉄道管理局等からの「準備要求」により、乗車券印刷発行機52台4億4842万円及び群管理券売装置66台2億2711万円を購入しているが、この49年度の「準備要求」も、48年度の東京建築工事局の場合と同様、工事施行の見通しがたっていない段階でなされたもので、この結果、50年9月末現在、工事施行についてなお関係部局との協議が整わないなどのため、48年度購人分を含め乗車券印刷発行機75台6億2206万円及び群管理券売装置57台1億9411万円は今後の使用見込みがたっていない。
検査の結果、本院の注意により、当局において処置を講じたものが次のとおりある。
北陸本線ほか2線区(注1)
における急行形食堂付随車(注2)
(以下「食堂付随車」という。)41両の運用について検査したところ、次のとおり適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、金沢、広島、鹿児島各鉄道管理局では、従来、急行列車内における旅客サービスのため、急行列車に食堂付随車を連結し、これにより列車運行中の食堂営業を行わせてきたが、人件費の高騰、人手不足等のため、昭和48年10月以降急行列車内における食堂営業は取りやめられている。しかるに、列車の運行に当たっては、食堂付随車に36の座席があることから、これを利用するためとして、依然として食堂営業をしていた当時と同様に急行列車に食堂付随車を連結して運行していた。しかし、前記の各線区における普通急行列車は、1編成の乗車定員が716人から840人となっているが、いずれも乗車効率(各急行列車の指定された多客区間における乗車人員と座席数との比率)が61%から75%程度となっていて、運行中の平均空席数が上記の食堂付随車の座席数を大幅に上回っている状況であること及び輸送力が一般車両の2分の1以下であるのにその運行に要する経費が一般車両と同程度である不経済な車両であることから食堂付随車を運用から除外すべきであると認められ、もし、これを運用から除外したとすれば、その運転、検査等の経費(49年度分についてみると約9900万円)を節減できたと認められた。
上記について当局の見解をただしたところ、日本国有鉄道では、前記の各線区に配置している食堂付随車35両については、これを運用から除外することとした。
(注1) 北陸本線、山陽本線、鹿児島本線
(注2) 食堂付随車 食堂部分と客室部分からなり、動力装置を持たない車両。
東京第一、大阪、門司各電気工事局が昭和49年度中に施行した山陽新幹線275km〜339km間変電設備新設その3工事ほか16工事について検査したところ、次のとおり、新幹線の変電所等新設工事における土工費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、上記の各工事における屋外鉄構及び機器基礎の掘削等土工費(積算額7426万余円)の積算に当たっては、本社が作成した「電気関係工事予定価格積算標準」に示されている主として人力施工を主体とする作業の場合の標準歩掛かり等を適用して算定していた。しかし、本院の調査の結果によれば、近年、土木機械の多様化と変電所規模の大型化に伴って、この種土工事においても機械施工の割合が増加しており、この施工の実態に適合した積算をしたとすれば、積算額を約1700万円程度低減できたと認められた。
上記について当局の見解をただしたところ、日本国有鉄道では、50年10月に施工の実態に適合した「電気関係工事機力積算要領(変電設備)」を新たに制定する処置を講じた。
新幹線総局及び東京第二、岐阜、大阪各工事局が昭和49年度中に施行した京都、新大阪間神崎川橋りょう防音工新設その他工事ほか16工事(工事費合計28億9360万余円)について検査したところ、次のとおり、無道床鉄けた橋りょうの鉄けたの下面に防音のため取り付ける消音鋼板、耐候性鋼板の工場加工費及び取付け労務費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。
(1) 工場加工費については、新幹線総局が49年7月に作成した積算基準(「鉄けた防音工、工場加工及び工場塗装の積算」)に示されている加工基本直接工数を適用して算定していた。しかし、その施工の実態を調査したところ、加工基本直接工数は積算の基礎とした工数を相当程度下回っており、施工の実態に適合した加工工数によって積算したとすれば、積算額を約7000万円程度低減できたと認められた。
(2) 取付け労務費については、新幹線総局が49年7月に作成した「防音工現場建方積算要領」に示されている標準歩掛かりにより算定していた。しかし、この取付け作業の主体となるボルト締め付けは日本国有鉄道が在来線の工事で多数施行している鉄骨現場建方工事における作業と同様のものであると認められ、同年4月に本社が施工の実態を調査の上作成した「鉄骨現場建方積算要領(案)」に示されているボルト締め付けの標準歩掛かりは本件積算の基礎とした歩掛かりを相当程度下回っており、ボルト締め付けについてこれを準用して積算したとすれば、積算額を約7000万円程度低減できたと認められた。
上記について当局の見解をただしたところ、新幹線総局では、50年9月に積算要領を改めて歩掛かりを施工の実態に適合したものとし、同月以降施行する工事についてこれを適用することとする処置を講じた。