医業又は歯科医業を営む個人(注1) (以下「医業等事業所得者」という。)が健康保険法等に定める給付又は医療若しくは助産について、社会保険診療報酬支払基金等から支払を受ける金額(以下「社会保険診療収入」という。)がある場合、当該医業等事業所得者の事業所得の金額の計算については、総収入金額から必要経費を控除する税制の基本的原則に対する例外として、租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第26条の規定により、社会保険診療に係る必要経費の金額が当該収入金額の72%相当額に満たない場合においても、72%相当額を必要経費として控除する取扱い(以下「特例」という。)が、確定申告書にその旨を記載することを条件に認められている。
この特例は、昭和29年に社会保険診療報酬の適正化が実現するまでの暫定措置として創設されたものであるが、その後、数次の診療報酬の増額改定が行われたり、患者数が増加したりしたため、この間の数次にわたる薬価基準の引下げにもかかわらず社会保険医療費は逐年増加を続け50年分の医業等事業所得者の平均所得額(注2) は給与所得者の平均収入額(注3) の4.6倍(29年分1.6倍)、事業(営業)所得者の平均所得額(注2) の6.6倍(同1.4倍)となっており、また、この間におけるこれら平均収入額又は平均所得額の伸びをみると、給与所得者で8.4倍、事業(営業)所得者で5.3倍になっているのに対し、医業等事業所得者は24.2倍となっている状況である。
本院において、52年1月から6月までの間に82税務署における49年分又は50年分の医業所得金額が1000万円以上(注4) の医業等事業所得者5,372人(青色申告者3,172人、青色申告者以外の者(以下「白色申告者」という。)2,200人)について50年分の申告書により特例の適用状況をみたところ、適用を受けていた者は青色申告者の54%に当たる1,700人、白色申告者の96%に当たる2,119人計3,819人(上記5,372人の71%)となっていた。そして、青色申告者の46%に当たる1,472人、白色申告者の4%に当たる81人計1,553人(上記5,372人の29%)は、社会保険診療収入に対応する必要経費の割合(以下「実際経費率」という。)が前記の法定経費率を超えているなどの理由により特例の適用を受けていなかった。
しかして、特例の適用を受けている者のうち、税務署長に提出された確定申告書及び収支計算書等によって、収支の明らかになった1,696人(青色申告者1,515人、白色申告者181人で上記5,372人の32%)について、収支の内容を分析すると、実際経費率は次表のとおりとなっていて、最高71.8%、最低19.7%であり、総平均は52%(その内訳は薬価19%、人件費14%、減価償却費2%、その他17%)で、法定経費率72%との間に20%の開差がある。
実際経費率 | 人員 | ||
30%未満 |
人 73 |
(4%) |
|
30〜40 | 195 | (12%) | |
40〜50 | 413 | (24%) | |
50〜60 | 503 | (30%) | |
60〜72 | 512 | (30%) | |
計 | 1,696 | (100%) |
また、これを主な診療科目別にみると、その平均実際経費率は内科52%、外科55%、整形外科57%、産婦人科60%、眼科43%、耳鼻咽喉科45%、歯科50%、その他57%となっていて、かなりのばらつきが認められる。
しかし、上記1,696人について、社会保険診療収入規模別に、実際経費率及び経費差額(収入金額の72%相当額と実際の経費との差額をいう。)をみると、次表のとおり、収入規模による実際経費率の開差は小さく、収入額にほぼ比例して経費差額が増加している。
社会保険診療収入規模 | 人員 | 平均実際経費率 | 平均経費差額 |
1億円以上 |
人 218 |
% 54 |
千円/人 26,296 |
1億円〜5000万円 | 779 | 52 | 13,762 |
5000万円〜3000万円 | 549 | 50 | 9,098 |
3000万円〜1500万円 | 132 | 54 | 4,574 |
1500万円未満 | 18 | 55 | 2,409 |
計 | 1,696 | 52 | 13,028 |
上記1,696人に係る経費差額を計算すると、総額220億円、1人当たり1302万円となっていて、仮にこれに基づいて所得税の軽減額を計算すると、1人当たり700万円を超えており、総額では118億円余となる。
(注1) | 医業又は歯科医業を営む個人 これに該当する者は、厚生省統計情報部の調べによると、49年末現在、医師及び歯科医師の総数170,135人のうち90,938人である。 |
(注2) | 医業等事業所得者の平均所得額 事業(営業)所得者の平均所得額 いずれも主たる所得、従たる所得の合計額を主たる人員、従たる人員の合計人員で除したものである。 |
(注3) | 給与所得者の平均収入額 1年を通じて勤務した給与所得者のうち非納税者を除いた者の平均給与額である。 |
(注4) | 医業所得金額が1000万円以上 (1)50年度版国税庁統計年報書によれば、全申告所得者4,623,720人のうち所得金額が1000万円以上の者の割合は4%(189,867人)となっているが、本院で、50年分確定申告書を提出した医業等事業所得者のうち18,924人について調査したところ、50年分医業所得金額が1000万円以上の者の割合は37%(6,956人)を占めている。(2)この所得金額のうちには、自由診療収入に係る所得額を含む。 |