(昭和52年12月3日付け52検第448号 農林大臣あて)
農林省が直轄で施行している農用地造成工事のうち、関東ほか2農政局(注1) が昭和51年度に施行した塩那台地開拓建設事業農地造成(その2)工事ほか13工事(工事費総額5億3265万円)について検査したところ、次のとおり、掘削運土費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、上記の14工事は、いずれも丘陵の未墾地を改良山成工(注2) により農用地に造成するため、1工事当たり1万m3 以上の多量の土砂を掘削運搬するなどの工事であるが、これらの工事の予定価格の積算についてみると、掘削運土費は、同省が制定した「土地改良事業等機械施工標準歩掛算定表」を適用して、使用する機械の機種を運土距離70m未満についてはブルドーザとし、また、70m以上についてはブルドーザ及び被けん引式スクレーパ等として、掘削運土総量1,038,125m3 分で計1億6489万余円と算定している。
しかし、本件各工事のようにブルドーザを使用して多量の土砂を掘削運土する場合には、その運土距離が長くなるほど作業能率が著しく低下するので、このような作業には、スクレープドーザを使用するのが効率的であると認められる。すなわち、スクレープドーザは腹部(ボウル)に装置している前刃で土砂を掘削しながら、掘削した土砂をボウルに収容し、これを盛土箇所に運搬することができ、特に、50m以上の掘削運土には前後進によって掘削積込み(前進30m以内)及びまき出し(前進又は後進20m以内)作業ができる特長があるので、本件農用地造成工事のような場合には最も効率的な機種と認められる。そして、本件各工事はいずれも運土距離が50m以上と長いものが多いのであるから、ブルドーザに代えスクレープドーザを使用することとして掘削運土費を積算するのが経済的であったと認められる。
いま、仮に本件各工事の予定価格の積算に当たって、運土距離50m未満の場合はブルドーザだけによるとしても、運土距離50m以上(686,385m3 分)についてはスクレープドーザ(一部については被けん引式スクレーパ)を使用することとして、掘削運土費を積算したとすれば積算額を約3150万円程度低減できたと認められる。
このような事態を生じたのは、「土地改良事業等機械施工標準歩掛算定表」の「運搬距離による適用機種の標準」等にスクレープドーザの適用基準及び作業能力の算定式を定めていないことなどによると認められる。
しかして、上記のような積算の現状について本院が注意したところ、同省では取りあえず民間団体等の資料を基にして定めたスクレープドーザの作業能力の算定式等を参考資料として構造改善局建設部設計課施工企画調整室長名をもって各農政局設計課長に示してはいるが、この種工事は今後も引き続き多数施行することが見込まれ、しかも、一般の造成工事とは異なり傾斜の緩いほ場を造成する工事であるので、速やかに調査検討を進めて適切な積算の基準を定め、もって予定価格積算の適正を期する要があると認められる。
(注1) 関東ほか2農政局 関東、北陸、東海各農政局
(注2) 改良山成工 複雑な地形の傾斜地を切り盛土によって整形し、全体として傾斜の緩いほ場を造成する工法