(昭和52年12月3日付け52検第447号 農林大臣あて)
農林省では、農林畜水産業の振興を図るため、農業構造改善事業等の補助事業を推進しており、市町村、農業協同組合等が導入する集荷、選別及び貯蔵を行う建物、米麦乾燥調製施設等の農業施設並びにトラクタ、コンバイン等の農業機械について毎年多額の国庫補助金を交付している。
しかして、上記国庫補助金の交付対象になった事業のうち、昭和43年度から50年度までの間、北海道ほか33府県管内において実施された補助事業909事業(事業費274億4556万余円、これに対する国庫補助金102億9694万余円)について、本院が52年中、これら事業において導入した施設及び機械の利用、運営状況等その事業効果を実地に調査したところ、このうち、北海道ほか23府県(注) 管内の42事業については、導入に当たり事前の調査が十分でなかったなどのため施設等をほとんど利用していないものがあったり、利用困難なため施設等を無断で処分し又は他の用途に転用したりしていて、補助の目的を達していないと認められるものが事業費11億5527万余円(これに対する国庫補助金4億6844万余円)のうち事業費7億6087万余円(これに対する国庫補助金3億2268万余円)認められた。これを態様別に示し、その主な事例を挙げると、次のとおりである。
1 導入に当たり事前の調査が十分でなかったなどのため施設等をほとんど利用していないもの
事業数 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 | ||
25 | 千円 597,990 |
千円 259,494 |
<事例1>
事業名 | 45年度農業構造改善事業 | |||
庁名 | 県名 | 事業主体 (所在地) |
事業費 | 左に対する国庫補助金 |
関東農政局 |
千葉県 |
栄町 (印旛郡栄町) |
千円 12,223 |
千円 6,093 |
この事業は、トマト、きゅうりの育苗施設4棟等を導入したものであるが、本件敷地内の土じょうは塩類を多く含んでいて、野菜の育苗に適していなかったため、苗の栽培はその計画本数に対して46年度から48年度までの間、わずかに6.5%から1.7%程度と著しく低率に推移しており、49年度以降は上記施設を全く利用していない。 |
<事例2>
事業名 | 47年度農業構造改善事業 | |||
庁名 | 県名 | 事業主体 (所在地) |
事業費 | 左に対する国庫補助金 |
近畿農政局 |
滋賀県 |
近江八幡農 業協同組合 (近江八幡市) |
千円 7,615 |
千円 3,807 |
この事業は、いちご苗の長期株冷による抑制栽培を実施することとして、冷蔵施設1棟を導入したものであるが、本件冷蔵施設を運転するためには、清浄な冷却水が必要であるのに、その取水が困難な箇所に施設を設置したなどのため、その利用状況は年間計画株冷量380,000株に対して49年中に3,700株を実施したにすぎず、その後全く利用していない。 |
2 利用困難なため施設等を無断で処分し又は他の用途に転用しているもの
事業数 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 | ||
17 |
千円 162,887 |
千円 63,185 |
<事例1>
事業名 | 46年度広域営農団地整備事業 | |||
庁名 | 県名 | 事業主体 (所在地) |
事業費 | 左に対する国庫補助金 |
北陸農政局 |
石川県 |
小松市農業 協同組合 (小松市) |
千円 6,850 |
千円 3,425 |
この事業は、稲作用として普通型コンバイン(刈り幅3.27m)1台、大規模乾燥調製貯蔵施設等を導入したものであるが、うちコンバインは、対象地区内におけるほ場に軟弱地盤が多く、本件のような重量のある大型の機械を使用することが困難であったため、その利用状況は計画作業面積に対して47年度5.2%と著しく低率となっており、48年度以降全く利用することなく49年9月、農政局の承認を得ないまま売却している。 |
<事例2>
事業名 | 44年度稲作転換対策推進事業 | |||
庁名 | 県名 | 事業主体 (所在地) |
事業費 | 左に対する国庫補助金 |
近畿農政局 |
兵庫県 |
鮎原農業協同組合 (津名郡五色町) |
千円 10,585 |
千円 5,292 |
この事業は、稲作転換に伴い酪農の粗飼料用乾草の生産を実施することとして、乾燥集草貯蔵庫1棟、農機具格納庫1棟、トラクタ2台を導入したものであるが、対象地区内のほ場は、基盤整備を実施していない狭小な区画のものが多く、トラクタを十分使用できず、牧草の栽培が困難であったため、乾草の生産はその計画生産量に対して45年度から48年度までの間、16.6%から0.6%程度と著しく低率に推移し、ひいてはその運営が困難となり、48年8月、農機具格納庫を店舗に、50年1月、乾燥集草貯蔵庫を生活資材等の倉庫にそれぞれ農政局の承認を得ないまま転用している。 |
このような事態を生じたのは、次のようなことなどによると認められる。
1 事業主体のうちには、次のように事前の調査が十分でないまま事業計画を策定しているものや、導入後の管理運営が適切でないと認められるものがあること。
(1) 当該地域における生産実績等についての調査が十分でないため、生産目標の設定が過大となり、ひいては導入した施設等の規模が過大になっていること。
(2) ほ場整備、排水等の土地の条件が、当該施設等に適応しているかどうかについて調が査十分でないこと。
(3) 受益農家との協議が十分でなく、また、利用体制の整備を十分に実施していないこと。
(4) 補助金の交付条件に対する認識が十分でないこと。
2 同省、道府県及び市町村における事業計画の審査が十分でないこと、また、導入後における管理運営について指導監督が十分でないこと。
3 事業主体に対して、補助金を交付する際に施設等を無断で処分した場合等に国庫補助金を返還させる旨の条件を明確に付していないものがあること。
ついては、都道府県等に今後、これらの施設等の導入について適切な事業計画を策定するよう指導させ、その審査を十分に行わせるとともに、導入後の管理、運営について財産台帳を備えつけるなどして適切な指導監督を行わせるとともに、事業主体に補助金を交付するに際しては、施設等を無断処分等した場合国庫補助金を返還させる旨の条件を明確にさせることとし、また、同省においても事業計画の審査及び指導を十分に行い、もって補助の効果をあげる要があると認められる。