(昭和54年11月6日付け54検第362号 中小企業共済事業団理事長あて)
中小企業共済事業団(以下「事業団」という。)では、小規模企業者の福祉の増進等に寄与し、併せて中小企業の経営の安定に資することを目的として、小規模企業者の事業の廃止等の事態に備えるための小規模企業共済事業を、また、取引先企業の倒産の影響を受けて中小企業者が倒産するなどの事態の発生を防止するための中小企業倒産防止共済事業をそれぞれ実施している。これらの事業に係る掛金の請求、収納等の事務処理について検査したところ、次のとおり、小規模企業共済事業において事業団が賃借のうえ使用している電子計算機で処理できる事務を外部に委託していて適切でないと認められる事態が見受けられた。
すなわち、小規模企業共済事業は、小規模企業者が事業団に掛金を納付し、事業団がその者の事業の廃止等につき所定の共済金を支給することを約する共済制度を運営するものであるが、このうち、(ア)掛金の納付については、事業団からの請求に基づき毎月所定の掛金を、共済契約者である小規模企業者がその預金口座から事業団の委託金融機関の口座に振替えたり、事業団の委託を受けた商工会等の団体が各共済契約者から集金して事業団の委託金融機関に一括納付したりする方式によっている。また、(イ)一方、同一共済契約者の掛金月額が法定限度額を超えていないかどうかの照合を行うこととしている。そして、事業団では、前記(ア)の事務処理のうち、掛金の請求のため、事業団が使用している電子計算機により作成した共済契約者ごとの掛金払込状況等を磁気テープに記録したマスターファイルに基づいて、預金口座振替方式又は団体一括納付方式別に、共済契約者に対する毎月の掛金の請求票等を作成する作業を、また、収納金の確認のため、委託金融機関から提出された毎月の収納金報告書に基づいて収納票テープ等を作成する作業をいずれも昭和51年9月から外部の業者に委託しており、また、前記(イ)の事務処理に資するため、上記マスターファイルに基づいて、掛金月額が限度額を超過している者の四半期ごとの一覧表等を作成する作業を52年8月から同業者に委託していて、53年度中に委託費として、掛金請求票等作成作業分52,820,401円、限度額超過者一覧表等作成作業分8,780,000円、計61,600,401円を支払っている。これらの作成作業は、いずれもその大部分は電子計算機で処理されており、上記委託費の73.3%に当たる45,156,560円は電子計算機の処理部分に係る経費であり、残りの16,443,841円はカードパンチ等の手作業部分に係る経費である。
一方、事業団においては、従来実施していた小規模企業共済事業に加えて、53年4月から新たに中小企業倒産防止共済事業を併せ実施したことなどに伴って業務量の大幅な増加が見込まれ、これに対処するため、同年7月、従来使用(賃借)していた電子計算機FACOM230−38からFACOM M−160AD に機種を更改している。この機種は、電子計算機の処理能力を表わす内部記憶装置の容量をみると、最大6メガバイト(注1) まで増設することができるものであるが、事業団では、機種更改時には当面の業務量を考慮して内部記憶装置の容量を2メガバイトにとどめて、現在でもこの容量で事務を処理している。
しかしながら、前記委託作業のうち、カードパンチ等の手作業部分については従来どおり外部に委託するとしても、電子計算機による処理部分については、事業団が使用している電子計算機の内部記憶装置の容量を0.5メガバイト増加させることにより、要員等を増加させることなく、事業団の現行の処理体制で内部において十分処理できるものと認められる。すなわち、事業団においては、電子計算機の使用に当たり、現在バッチ処理業務(注2) を3多重処理(注3) しているが、中央処理装置にはなお余力があるので、内部記憶装置の容量を0.5メガバイト増加させるだけで4多重処理することができ、これにより前記外部に委託している作業を支障なく行うことができるものであるが、この場合においても単に中央処理装置の余力を活用するものであるから、電子計算機の処理時間の増加は極めてわずかで足り、要員の補充及び周辺装置の増設も特に必要なく、現行の処理体制で処理できるものと認められる。 また、この作業のため、内部記憶装置の容量を0.5メガバイト増加させてもなお増設可能容量は3.5メガバイト残されており、事業団が見込んだ将来の業務量の増加に十分対応できるものと認められる。
いま、電子計算機の機種を更改した53年7月以降、外部に委託している作業のうち、電子計算機による処理部分を仮に事業団内部で処理したとすれば、内部記憶装置の容量増加による賃借料の増加分月額40万円及び内部処理化に伴って発生するプログラム変換のための初度経費約600万円が見込まれるが、これらを考慮しても53年度は約2500万円、54年度以降は毎年度約3800万円を節減することができるものと認められる。
このような事態を生じたのは、事業団では、電子計算機の処理能力の拡大を図るため機種を更改したにもかかわらず、その際委託作業を含めた対象業務の見直しを十分行わないまま推移したもので、電子計算機の有効利用についての配慮検討が欠けていたことによるものと認められる。
ついては、事業団においては、掛金請求票等作成作業及び限度額超過者一覧表等作成作業は、今後もその件数が増大することが見込まれるのであるから、前記委託作業のうち、電子計算機による処理部分については内部で処理することとして、電子計算機の有効な利用を図り、もって事務経費の節減に努める要があると認められる。
(注1) | メガバイト 100万バイトのことで、1バイトは電子計算機で取り扱う1文字を表わす情報の単位 |
(注2) | バッチ処理 一定期間内に発生した伝票、カードなどを取りまとめてデータ処理する方法 |
(注3) | 多重処理 電子計算機の中央処理装置の処理速度は、入出力装置のそれに比べて著しく速く、中央処理装置に余力が生ずるので、これを活用するため同時に複数の仕事を処理させる方法 |