科目 | 貸出金 |
部局等の名称 | 商工組合中央金庫本店営業部 |
貸付けの根拠 | 商工組合中央金庫法(昭和11年法律第14号) |
貸付けの内容 | 商工組合中央金庫に出資している団体の事業運営に要する運転資金及び設備資金の貸付け |
貸付先 | 土木事業協同組合 |
貸付金の合計額 | 1,000,000,000円 |
上記資金の貸付けは、貸付けに当たっての担保の調査及び評価が適切でなかったため、貸付金残高349,014,100円が回収不能となっている。
(説明)
商工組合中央金庫では、中小企業等協同組合その他主として中小規模の事業者を構成員とする団体に対する金融の円滑を図るため必要な業務を営むことを目的として、これらの団体のうち同金庫に出資を行っている団体又はその構成員に対し、事業運営に要する運転資金、設備資金等の貸付けを行っている。そして、貸付けを行う場合は、借入申込者が作成する所定の借入申込書及び必要添付書類を提出させ借入申込者の人的構成、事業内容、資金の使途、償還計画、資産状態等について審査した後、貸付けを適当と認めるものに対して貸し付けることとしており、その場合、債権保全上担保を徴求する必要があると認めたときはその担保について書面及び実地調査により適正な評価を行うこととしている。
しかして、上記貸付けは、海外工事受注に伴う共同事業資金として、土木事業協同組合に対し、昭和50年11月、運転資金520,000,000円及び同年12月、機械購入資金480,000,000円計1,000、000,000円を貸し付けたものであるが、貸付けに当たっては、同金庫は貸付けが長期貸付で、金額も多額であることなどを考慮して有担保とし、担保物件として同組合の組合員である建設会社の役員所有の土地5,100.85m2 及び建物2,132.2m2 を徴求することとし、担保評価に当たっては、借入申込者が提出した鑑定評価書の更地としての土地評価額1m2 当たり314,114円の千円未満を切捨てて採用して、総額1,601,661,000円と評価し、担保価額を1,281,323,000円(建物については担保価額を零)とし、これから先順位債権50,000,000円を控除した担保余力は1,231,393,000円となるから債権保全に懸念はないとしていた。しかして、52年3月、同組合の理事長が代表者となっている主力組合員である基礎工事会社の経営が悪化し、同組合に対する債権保全に懸念を生じたため、同金庫が調査したところ、上記貸付金は同基礎工事会社に流用され、また、上記担保物件のうち建物は49年8月から第三者に賃貸されていたことが判明したため、同基礎工事会社を保証人に追加するとともに、同会社所有の土地61,142m2 を追加担保として徴求し、後順位の抵当権を設定した。
しかしながら、52年4月同会社の倒産後、同金庫が同年11月上記の第三者に建物が賃貸されている担保物件について鑑定評価を依頼したところ、土地の評価額は評価書についてみると438,000,000円(1m2 当たり約85,900円)になり、建物を含めても評価額の総額は481,000,000円にすぎず、その後同年12月、当該担保物件を賃借人に売却した際も、その価額は550,000,000円にすぎなかったもので、この売却代金は先順位の他の金融機関の貸付金50,000,000円に充当された後の残額500,000,000円を前記機械購入資金の貸付金480,000,000円及び遅延損害金の一部20,000,000円の回収に充当しただけで、運転資金の貸付金520,000,000円については全く回収されず、54年3月に至り、同会社の会社更生計画が認可されたことにより、その約31%については54年12月から61年12月までの間に返済されることとなったものの、約69%については債権切捨てが確定したことなどにより、貸付金のうちなお349,014,100円が回収不能となっている。
このような事態を生じたのは、貸付けに際しての担保の評価に当たり、借入申込者から提出された鑑定評価書は、担保提供者である担保物件の所有者の依頼に基づいて作成されたものであるが、その内容をみると取引実例から求めた価格や収益から求めた価格等の記載がなく、単に本件担保所在地より距離が離れた繁華な商業中心地の公示価格だけから評価額を算出していて、極めて信用性の乏しいものとなっているのにこれを見過し、また、現地調査を行いながら、当該物件の建物が第三者に使用されているのにこれを見落して、当該評価書の評価額をそのまま採用したことによるもので、貸付けに当たり、担保の調査及び評価が適切を欠き処置当を得ないものと認められる。