ページトップ
  • 昭和56年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第4 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

沿岸漁業構造改善事業等の実施について処置を要求したもの


(2) 沿岸漁業構造改善事業等の実施について処置を要求したもの

(昭和57年11月16日付け57検第396号 水産庁長官あて)

  水産庁では、沿岸漁業等の近代化と合理化を促進し、生産性を向上させ、漁家経済の安定向上を図ることなどを目的として、沿岸漁業構造改善事業、水産物流通対策事業、内水面漁業振興対策事業、同和対策事業(以下「沿岸漁業構造改善事業等」という。)を実施している。

 これらの事業は、事業実施地区ごとの補助対象事業費を2億円から15億円、事業実施期間をおおむね4年間として実施するもので、これらの事業で設置する施設は、漁船用補給施設、製氷冷蔵施設、水産物荷さばき施設、処理加工施設、倉庫、卸売場建物、蓄養殖施設等となっている。

 これらの事業の実施に当たっては、同庁及び都道府県において、市町村、漁業協同組合等の各事業主体から提出された施設利用計画、資金計画及び管理運営計画等の事業実施計画を審査し、当該事業が技術的に実施が可能であり、適正な規模を有し、かつ、相当の経済的効果が期待でき、また、事業の推進体制が確立されているなど、補助目的に適合しているものについて補助事業として承認し、その補助事業に要する費用のおおむね10分の3相当額の補助金を交付しており、その交付額は、昭和48年度から54年度までの間に、北海道ほか46都府県において実施された事業計2,824件、事業費総額1169億6276万余円に対し、403億余円の多額に上っている。そして、事業完了後は、施設の管理運営状況等に関する報告を事業主体から都道府県を経て又は直接同庁に提出させることとしている。

 しかして、上記補助事業のうち、北海道ほか26都府県(注1) において実施した沿岸漁業構造改善事業等371件、事業費232億8464万余円(国庫補助金相当額73億4834万余円)により設置した施設の利用、管理運営状況等その事業効果について、本院で57年中に実地に調査したところ、その事業効果が十分発現されていないと認められるものが多数あり、このうち特に適切を欠いていると認められるものが次のとおり見受けられた。

 すなわち、北海道ほか13県(注2) において、漁獲量や加工技術等に関する調査検討が十分でないまま事業計画を策定したため、56年度末現在で施設設置後2年から8年を経過しているのに、事業計画に対する利用実績がいずれも30%以下と低い利用率となっているなど、事業効果の発現がなく、補助の目的を達していないと認められる事態が61件、事業費56億9804万余円(国庫補助金担当額16億4749万余円)あり、なかには施設が設置後全く使用されていなかったり、目的外に使用されていたり、無断で貸し付けられていたりしているなど著しく適切を欠いていると認められるものが見受けられた。

 その主な事例を態様別に挙げると、次のとおりである。

1 漁獲量及び加工技術等に関する事前の調査検討が十分でないまま策定された事業計画に基づいて事業を実施したため、施設が無断で貸し付けられていたり、事業を中止していたりなどしているもの
件数 事業費 左に対する国庫補助金
13 801,559千円 248,598千円
<事例1>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

北海道

水産物流通対策事業

倉庫

留萌水産物加工協同組合(留萌市)
千円
51
千円
71,391
千円
21,416
鉄骨造2階建1,312m2
フォークリフト2台
 この事業は、事業主体の組合員が水産加工品に使用する包装資材等を保管することを目的として、倉庫1棟及びフォークリフト2台を設置、導入したものである。

 しかし、本件施設を設置した51年当時は、200海里漁業専管水域問題が具体化していて漁獲量の激減が予想されたにもかかわらず、当初の計画を見直さないまま事業を実施したため、加工魚が激減したことから包装などに使用する資材が減少し、倉庫の利用は著しく低くなっていて、事業主体では52年1月倉庫の一部とフォークリフトを道に無断で某会社に賃貸しており、補助の目的を達していない。

<事例2>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

愛知県

内水面漁業振興対策事業

あゆ人工ふ化育成施設

兼升養魚漁業生産組合(宝飯郡御津町)

50
千円
27,090
千円
6,800
水槽10面1,141m2 保温棟1棟
この事業は、人工ふ化したあゆ及び購入した稚あゆを成魚まで飼育生産することを目的として、ふ化池、飼料池、養成池等10面を設置したものであるが、これに使用する用水の水質についての事前の調査が十分でなかったため、用水中に含まれる鉄分によりふ化飼育中のあゆ及び生餌が大量にへい死し、事業を54年から中止している。
2 立地条件及び協業体制等に関する事前の調査検討が十分でないまま策定された事業計画に基づいて事業を実施したため、施設がほとんど利用されていなかったり、目的外に使用されていたりなどしているもの
件数 事業費 左に対する国庫補助金
27 2,537,322千円 729,777千円
<事例1>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

北海道

水産物流通対策事業

卸売場建物

網走漁業協同組合(網走市)

49
千円
249,610
千円
72,000
鉄筋コンクリート造一部鉄骨造一部2階建2,301m2
同上 同上 検量施設(40t型1基) 同上 54 32,650 9,795
この事業は、新設の能取漁港に卸売場建物1棟(49年12月完成)及び検量施設1基(54年9月完成)を設置したものであるが、これらの施設を設置した同漁港は北海道開発局が現在なお防波堤の修築工事を進めている箇所であり、この漁港修築工事が完了しなければ漁船の係留が困難な状況であるのに、北海道開発局との調整を図らないまま本件施設を設置したため、これらの施設は完成以来ほとんど利用されていない。
<事例2>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金千
北海道
水産物流通対策事業

処理加工施設

余市水産加工業協同組合(余市郡余市町)

50
千円
65,150
千円
19,545
鉄骨造一部2階建1,090m2
 この事業は、余市町が造成した水産加工団地に24加工業者を集団移転させたうえ、魚体の前処理を行う目的で、処理加工施設1棟を設置したものであるが、関係者から事前に移転についての確約をとるなどして協業体制の整備を図るべきであるのにこれを怠って事業を実施したため、うち4業者が移転したにすぎず、しかも、この4業者は自己の施設で魚体の前処理を行っていて、本件施設を全く利用しておらず、また、他の業者の移転の見通しはたっていない。

 なお、同組合は54年1月、本件施設を冷蔵庫に改装している。

<事例3>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

愛知県

内水面漁業振興対策事業

休憩所

振草川漁業協同組合(北設楽郡東栄町)

51
千円
18,040
千円
6,000
鉄骨造平家建1棟135.4m2 駐車場、蓄養池
 この事業は、釣り人のための休憩所、駐車場及びオトリあゆの蓄養池を設置したものであるが、事業主体では53年7月、休憩所の前面の川にヤナ場を、隣接地に調理場を新設するとともに、本件事業で設置した休憩所等を飲食店等に改装したうえ、54年1月これらの施設を他の組合に賃貸している。
3 加工製品の販路及び需給動向等に関する事前の調査検討が十分でないまま策定された事業計画に基づいて事業を実施したため、事業を中止していたり、施設が無断で貸し付けられていたりなどしているもの
件数 事業費 左に対する国庫補助金
21 2,359,160千円 669,120千円
<事例1>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

福岡県

水産物流通対策事業

製造加工施設

福岡すり身生産事業協同組合(福岡市)

54
千円
346,924
千円
80,000
鉄骨造一部2階建1,768m2 加工機械一式冷蔵庫
この事業は、いわし、さばなどを原料としたすり身を製造することを目的として、製造加工施設1棟を設置したものであるが、これらのすり身を原料としたかまぼこの製造技術が確立されていないこともあって、消費者の嗜好に適するものが製造されないなどのため、56年度に計画量の26%を製造しただけで、57年1月以降は事業を中止している。
<事例2>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

鹿児島県

内水面漁業振興対策事業

処理加工施設

薩摩町(薩摩郡薩摩町)

51
千円
33,759
千円
11,253
加工場1棟179.8m2 蓄養池3基292.7m2
 この事業は、コイ、ニジマスをくん製、甘露煮等に加工する施設1棟を設置したもので、事業主体では、当初これら施設の管理運営を某内水面養殖漁業協同組合に委託していたが、同組合は、加工製造技術を持っていなかったこともあって消費者の嗜好に適するものが製造されないなどのため、製造及び販売の実績はほとんどなく、結局、同組合は53年以降事業を中止していて56年4月に至り組合を解散している。更に、これに対処するため、56年4月に某養鱒漁業協同組合に同施設の管理運営を委託したものの、同組合の構成員は主として活魚を販売していて、上記組合と同様加工製造技術が十分でなく、加工品の生産、販売に対する意欲も乏しく、当初から事業を全く実施していない。
<事例3>
道県名 事業名 施設名称
(構造規格等)
事業主体
(所在地)
年度 事業費 左に対する国庫補助金

北海道

水産物流通対策事業

倉庫

稚内地区水産加工業協同組合(稚内市)

51
千円
31,100
千円
9,330
鉄骨造平家建一部2階建620.72m2 フォークリフト1台
この事業は、飼肥料を保管することを目的として、倉庫1棟、フォークリフト1台等を設置、導入したものであるが、漁業情勢の変化による加工魚の激減等から飼肥料の製造を中止し、倉庫等も使用しなくなったため、事業主体では、53年6月本件倉庫等を道に無断で某会社に一括賃貸していて、補助の目的を達していない。このような事態を生じたのは、
1 事業主体において、事業計画の策定に当たり、実態に沿わない漁獲量によっていたり、加工技術等に関する調査、検討が十分でなかったり、施設の設置箇所の立地条件に関する調査が十分でなかったり、関係漁家、加工組合員等の間における協業体制の整備を怠っていたり、加工製品の販路及び需給動向等についての調査が十分でなかったりしたため、策定した事業計画が実態と遊離したものとなっているのに、そのまま事業を実施したこと
2 道、県においても、これらの事業計画について審査が十分でなかったことや、本件事業実施完了後おおむね5年間は事業主体から毎年度末現在の施設運営状況を報告させ、これにより施設の状況を把握したうえ適切な指導監督を行うことになっているのに、報告の審査が十分行われていなかったばかりでなく、なかには報告さえ徴しておらず、指導監督が徹底を欠いていたこと
3 同庁においても、これらの事業計画についての審査が十分でなかったことや、道、県を経由して報告させることになっている施設運営状況の報告が励行されておらず、このため実情に即した指導監督が十分行われていなかったこと、更に、本件事業で設置した施設の使用目的を変更するなどの場合に提出される計画の内容に対する審査が十分でなかったことによると認められる。
ついては、水産庁において、前記不適切と認められる事態については、早急に事業の体制整備を図らせ、必要に応じて管理運営に関する特別指導を行うなどして、施設の効率的な利用促進を図るなどの措置を講じさせることはもとより、これら沿岸漁業構造改善事業等が、今後とも国の補助事業として引き続き実施されることにかんがみ、都道府県の事業主体に対する指導を強化して、適切な事業計画書の提出及び事業実施後の施設の運営状況の報告を確実に励行させるとともに、必要に応じ現地確認を行わせるなどして、都道府県における厳格な審査及び確認を行うこととさせるほか、同庁においても、上記不適切な事態の発生原因を分析して、今後実施する事業についてはその適格性を見極め、事業完了後における運営状況を的確に把握し、補助目的の達成が困難と認められるものについては、補助金返還を含めた措置を講ずることなどについて検討のうえ、補助事業の効果的な実施を図り、もって国庫補助金の効率的な使用に努める要があると認められる。
(注1) 北海道ほか26都府県 北海道、東京都、京都府、青森、岩手、宮城、山形、茨城、神奈川、新潟、富山、石川、山梨、静岡、愛知、和歌山、鳥取、岡山、徳島、香川、愛媛、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島、沖縄各県
(注2) 北海道ほか13県 北海道、青森、岩手、宮城、茨城、新潟、石川、愛知、愛媛、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島各県