中小企業庁では、中小企業近代化資金等助成法(昭和31年法律第115号)の規定に基づき、中小企業設備近代化資金の貸付事業を実施している都道府県に対し、その貸付けに必要な資金の一部に充てるため、毎年度多額の中小企業設備近代化補助金を交付しており、その交付額は、昭和54年度30億の396万余円、55年度31億5657万余円、56年度32億5093万余円となっている。そして、この貸付事業は、設備の近代化に必要な資金の調達が困難な中小企業者に無利子で貸し付けるもので、中小企業者の資金需要に即応できるよう都道府県において的確な事業計画に基づき適期に効果的な貸付けを行う一方、この貸付財源が国の毎年度の補助金等によって賄われるものであることから、国の補助金が必要な額を超えて交付されることによって必要以上の資金の滞留や次年度への繰越金が生じることのないよう効率的な運営を図る要があるものである。
しかして、本院が、北海道ほか29都府県(注1) (以下「各県」という。)の54年度から56年度までの中小企業設備近代化資金の貸付事業に係る特別会計の収支状況等について調査したところ、次のとおり、償還実績額が計画額を大幅に上回っていたり、貸付実績額が計画額を大幅に下回っていたりしていて、ひいて国庫補助金交付額が過大となっているなど適切でないと認められる事態が見受けられた。
すなわち、
1 本件中小企業設備近代化資金の貸付事業に係る経理は、都道府県が特別会計を設置して行い、その貸付財源は上記の国庫補助金のほか都道府県繰入金(国庫補助金と同額)、償還金及び特定剰余金等(注2) からなっているが、各県におけるこれら貸付財源に係る収支実績(収入額54年度264億2430万余円、55年度273奥4376万余円、56年度293億8498万余円、貸付金54年度249億7426万余円、55年度256億6142万余円、56年度269億7768万余円、いずれも各県合計額)についてみると、貸付財源が貸付金を大幅に上回っているため多額の次年度繰越金を生じていた。その原因は、各県の事業計画の策定に当たり償還金や前年度繰越金を過少に見込んでいることのほか、償還金等の実績額が計画額を大幅に上回っていることや、中小企業者の設備投資の停滞等により資金需要が低調なため貸付計画額に対し実績額が大幅に下回っていることが年度途中で判明じているのに、事業計画の見直しを行わないまま国庫補助金の交付を 受けていたことなどによると認められた。この結果、各県の次年度繰越金合計額は、54年度14億5003万余円(当該年度国庫補助金19億9026万余円の 72.9%)、55年度16億8233万余円(同18億7652万余円の89.7%)、56年度24億の729万余円(同20億3966万余円の 118.0%)と毎年度増加していて、この繰越金に係る国庫補助金相当額(54年度7億2501万余円、55年度8億4116万余円、56年度12億の364万余円)は当該年度の貸付財源として有効に運用されていなかった。
また、各県における貸付状況についてみると、貸付けが遅延していたり、年度下期に偏っていたりなどしていて、中小企業者の設備計画及びその資金需要に即応したものとなっておらず、本貸付制度の主旨に沿わないこととなっていた。
2 各県の56年度末現在における特定剰余金は、10億5134万余円に上っており、この剰余金は、貸付財源に充てることとなっているのに充てていなかったり、又は過少に充てていたりしていて適正な処理を行っていなかった。
したがって、仮に各県の56年度の事業計画につき、事務処理等の面からみて事業計画の変更が一般的に可能と認められる12月末現在で見直しを行ったものとして国庫補助金所要額を計算すると、合計額で16億6215万余円で足り、この結果、4億0545万余円が貸付けに必要な額を超えて過大に交付されていたこととなる。そして、この額と同額の各県繰入金との合計額8億1091万余円が次年度繰越金から減少し、その残余の繰越金16億5228万余円(国庫補助金相当額8億2614万余円)についても貸付事務を迅速に行い、適時に事業計画の見直しを行うなどして計画額と実績額の開差を縮小したり、国庫補助金交付額を減額したりすれば、更に相当の繰越金が減少すると認められた。また、56年度末現在の特定剰余金10億5134万余円について適正に貸付財源に充てたとすれば、これに見合う国庫補助金相当額を減額することができると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、中小企業庁では、57年10月に、本件国庫補助金の交付庁である通商産業局(沖縄総合事務局を含む。)に対して、都道府県に対する指導監督の徹底を図るとともに、国庫補助金の交付決定及び交付に当たっては、都道府県の事業計画等を十分審査し、適時に償還金、貸付金等の収支実績を把握して過大交付とならないようにし、次年度繰越金の縮小を図るよう、また、都道府県に対して、適正な事業計画を策定し適時その見直しを行うほか、貸付事務の迅速化に努めるよう、それぞれ通達を発し、業務の適正化及び指導監督の徹底を図るとともに、57年度の予算執行分からその実効を確保する処置を執るなどして、本件補助事業の適正を期する措置を講じた。
(注1) 北海道ほか29都府県 北海道、東京都、大阪府、山形、福島、茨城、群馬、埼玉、神奈川、新潟、富山、福井、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、徳島、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島、沖縄各県
(注2) 特定剰余金 特別会計において生ずる預金利息、違約金等の収入から貸付けに関する書類作成費等の事務費を控除した残余の額であって、貸付財源に充てることとなっている。そして、この収支は、貸付財源に係る収支とは別に区分して経理されている。