(昭和57年11月17日付け57検第397号 自治大臣あて)
自治省では、大蔵省及び自治省所管交付税及び譲与税配付金特別会計地方交付税(普通交付税)交付金(以下「交付税」という。)の市町村に交付すべき額の算定及び交付に関する事務を都道府県知事に取り扱わせており、昭和55年度及び56年度において3,191市町村に3,407,776,714千円、3,177市町村に3,676,726,579千円をそれぞれ交付している。
交付税は、地方団体の財源の均衡化を図り、地方行政の計画的な運営を保障するため、所得税、法人税及び酒税の収入額の一定割合に相当する額を財源とし、地方団体がひとしくその行うべき事務を遂行することができるように、財政需要額が財政収入額を超える地方団体に対し、衡平にその超過額を補てんすることを目途として交付されるものである。その交付税の額の算定に用いる基礎数値は、信ぴょう性が高く、かつ、入手が容易であるものとして、法令に規定された数値、指定統計調査により調査された数値、国の関係行政機関の調査の数値、法令により備付けを義務付けられている各種台帳の数値等を用いることになっている。このため、市町村長は交付税の額の算定に用いる資料を都道府県知事に提出し、都道府県知事はその資料を審査して交付税の額の算定を行い、自治大臣が額の決定を行うことになっている。
しかして、本院で57年中に北海道ほか21府県(注1) の小樽市ほか107市町における交付税55年度167,273,684千円、56年度181,104,208千円(ほかに、一部関連で52年度から54年度までの分を対象としたものがある。)について調査したところ、北海道ほか20府県(注2) の小樽市ほか91市町において、配分の基準となる財源不足額(基準財政需要額が基準財政収入額を超える額)を算定するに際し、基準財政需要額及び基準財政収入額の算定の基礎となる数値が適正でなかったものが多数見受けられ、交付税の額の算定が適切でないと認められた。
いま、本院の調査結果に基づく適正と認められる基礎数値によると、基準財政需要額の経費の種類において過大に算定していたものが473件2,939,086千円、過少に算定していたものが258件686,442千円、基準財政収入額の収入の項目において過大に算定していたものが137件150,032千円、過少に算定していたものが189件333,694千円あった。
これら基礎数値の誤りについて、それを態様別に示すと次のとおりである。
(1) 普通交付税に関する省令(昭和37年自治省令第17号。以下「自治省令」という。)で使用するよう定めている台帳や行政機関の調査を使用していなかったもの
道路橋りょう費の道路の面積、延長の算出に当たり、道路法(昭和27年法律第180号)第28条に規定する道路台帳か整備されていない場合は、建設省に報告した52年4月1日現在の道路橋りょう現況調書に記載されている数値を用いることとなっているのに、同調書によることなく、交付税担当課で別途に誤って把握した数値によったもの、市町村民税の個人均等割の納税義務者数については、同省が市町村に調査させ作成している「市町村税課税状況等の調」に記載されている前年7月1日現在の納税義務者数によることになっているのに、前年度末現在において賦課した者の数によったものなど
(2) 自治省令で使用するよう定めている台帳の数値を正しく記載していなかったもの
道路橋りょう費の投資補正に用いる非永久橋延長の算出に当たり、非永久橋から永久橋に架け替えられているのに、道路橋りょう現況調書の基礎となっている橋りょう現況台帳の数値が修正されていないため、非永久橋延長として算出されていたもの、農業行政費の投資補正に用いる農道延長の算出に当たり、農道から市町村道へ移管したにもかかわらず、同省が交付税の額の算定のために備付けを義務付けている農道台帳の数値が修正されていないため、農道延長として算出されていたものなど
(3) 自治省令で使用するよう定めている行政機関の調査等の数値を正しく記載していなかったもの
小・中学校費、清掃費等の算定に当たり、同省が市町村に調査させ作成している「市町村公共施設状況調」のうち、基礎数値として用いる遠距離通学児童・生徒数、ごみ処理人口等の数値の調査が十分でなかったため誤っていたものを使用していたもの、市町村民税の所得割の基準税額の算定に当たり、基礎数値として用いる「市町村税課税状況等の調」の所得割額等の数値を誤っているものを使用していたものなど
(4) 自治省令で使用するよう定めている台帳や行政機関の調査等の数値を用いるに当たり、基礎数値として採れないものを含めていたり、基礎数値として採るべきものを脱漏していたもの
道路橋りょう費の道路の面積、延長の算出に当たり、道路法第8条及び第18条に規定する認定又は供用開始の公示のない路線の数値を算入していたものなど
(5) 当該年度分の固定資産税等で、交付税の算定に用いた数値と実績数値に相違があったもので、翌年度に精算措置等を執っていないもの
固定資産税の償却資産についての精算措置を翌年度において執っていなかったものなど
(6) 計算、集計又は区分を誤ったり、転記を誤ったりしていたもの
生活保護費の密度補正に用いる一般生活扶助者数等の集計を誤ったものなど
このような事態が生じたのは、次のようなことによると認められる。
現行の交付税制度は、33年に地方交付税法(昭和25年法律第211号)の改正により、都道府県知事による市町村に対する交付税検査制度が設けられ、更に、36年の同法の改正により、交付税の額の算定に用いる基礎資料となる各種台帳の整備が義務付けられて、交付税の適正な算定、配分の衡平化が図られてから、既に20有余年の長年月にわたって運用されてきたにもかかわらず、市町において、交付税担当職員等の交付税制度及び地方交付税法、道路法等の関係法令に対する理解が十分でなかったり、交付税担当課と交付税に使用する基礎数値を所掌している関係各課との相互間における連絡調整が密に行われていなかったりなどしていたり、道府県において、市町から提出された資料の審査に際し、その提出された資料が自治省令に基づいて正確に作成されているかどうかの確認を適切に行っていなかったり、基礎数値として用いる「市町村公共施設状況調」等について十分な審査を行っていなかったり、交付税検査に際しても同省の通達による「地方交付税検査要領(市町村分)」に基づいた検査を十分に行っていなかったり、基礎資料の数値に誤りがあった市町に対するその後の指導を十分行っていなかったりなどしていたり、また、同省においても、道路橋りょう費の算定に用いる基礎数値の要件を必ずしも明確に示していなかったり、市町における基礎数値の適確な把握についての道府県に対する指導に徹底を欠いていたりしたことによると認められる。
ついては、自治省において、都道府県をして、市町村の交付税事務担当者等に対する交付税制度及び地方交付税法、道路法等の関係法令についての認識と理解を高めるような研修を行い、交付税担当課と台帳や行政機関の調査等の整備を行う関係各課との連絡調整の緊密化を図るなどして、市町村に適正な基礎数値の把握を行わせ、都道府県に対しては、交付税の額の算定に用いる資料や「市町村公共施設状況調」等についての審査及び交付税検査の充実強化を図り、基礎資料の数値に誤りがあった市町村に対する再発防止の指導を徹底するなどさせ、同省においても、交付税の額の算定に用いる基礎数値の取扱いに関する規定の整備を行うなどして、交付税の額の算定事務の適正化を図り、もって交付税の衡平な配分を目途とする交付税制度のより一層適正な運用を期する要があると認められる。
(注1) 北海道ほか21府県 北海道、京都府、大阪府、岩手、宮城、栃木、群馬、千葉、新潟、福井、山梨、愛知、三重、滋賀、兵庫、岡山、徳島、愛媛、佐賀、熊本、大分、宮崎各県
(注2) 北海道ほか20府県 北海道、京都府、大阪府、岩手、宮城、栃木、群馬、千葉、新潟、福井、山梨、愛知、三重、滋賀、兵庫、岡山、徳島、愛媛、熊本、大分、宮崎各県