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これらの工事は、既設旅客ホームを嵩上げするための改築工事の施行に当たり、運行車両の形状等に即した設計により施行すべきであったのに、その配慮を欠いたため、工事費約2750万円が不経済になったと認められる。
(説明)
これらの工事は、伯備線倉敷、伯耆大山間の電化に伴い木野山駅ほか8駅の既設の旅客ホームのうち、レール面からの高さ(以下「高さ」という。)が約55cmから91cmで、電車の床面(高さ約120cm)との間に約65cmないし29cmの高低差を生ずる延長3,287.1mについては、乗降客の利便を考慮して、これを高さ92cmに嵩上げするとともに、軌道中心から既設旅客ホームの擁壁までの距離が約144cmから162cmと区々となっていたものを158cmに統一するための改築を行ったものである。
しかして、本件工事の設計についてみると、軌道中心から旅客ホームの擁壁までの距離を158cmとして設計したのは、「日本国有鉄道建設規程」(昭和4年鉄道省令第2号。以下「建設規程」という。)において、車両の最大幅を300cmと定め、この車両(以下「大形車両」という。)の運行を前提として、軌道中心から旅客ホームの縁端までの距離(以下「離れ」という。)を156cmと定めていることから、これに余裕幅2cmを見込んだことによる。この結果、既設旅客ホームの離れが確保されていて、かつ、高さも比較的高いため、笠石部分のみの嵩上げだけで施工の目的を達した延長473.6mを除く延長2,813.5mについては、既設擁壁の離れを158cmとするため、高さおおむね33cm以上の部分を一律に取り壊した後、中空コンクリートブロツク(長さ、幅とも40cm、厚さ20cm又は25cm)を2段積みとするなどして旅客ホームを所定の高さに嵩上げしていた。
しかしながら、建設規程では、上記のとおり大形車両の運行を前提として、旅客ホームの離れを156cmとしているものの、実際は、既設旅客ホームのすべてがこれに対応した離れを確保して築造されておらず、他方、現に運行している車両の下部(高さ116cm以下の部分。参考図参照 )はすべて既設旅客ホームの離れに対応した幅となっているなどの点を考慮して、日本国有鉄道では建設規程とは別に「車両構造基準規程」(昭和41年工達第12号)を制定して、車両下部の幅を285cm以内とすることとしており、また、旅客ホームの離れについても、「建造物基本構造基準規程」(昭和40年建施達第4号。以下「構造規程」という。)において、この車両幅に対応し、その2分の1に余裕幅6cmを見込んで148.5cmとしているものである。
したがって、旅客ホームの嵩上げに当たり、既設の堅固な擁壁を改築する場合の離れは、構造規程で定めている148.5cmが確保されていれば車両の運行には何ら支障はないものであるから、本件工事のうちその離れが148.5cmを確保していないなどの延長490.9mを除く延長2,322.6mの擁壁については、既設の笠石を取り壊した後、既設の擁壁をそのまま利用してその上部に厚さ15cmないし30cmの中空コンクリートブロックを1段積みとするなどした必要最小限の改築にとどめる経済的な設計をすべきであったのに、このような配慮を欠いて堅固な既設の擁壁を一律に取り壊すこととしたのは適切とは認められない。
現に、他鉄道管理局におけるこの種工事では、既設の擁壁が堅固で、その離れが148.5cm以上ある場合は、上記のような配慮を行い、必要最小限の改築にとどめる設計により経済的に施工している状況である。
いま、仮に前記延長2,322.6mについて、前記のような経済的な設計により修正計算したとすれば、工事費は総額230,533,805円で足り、本件工事費を約2750万円節減できたと認められる。
(注) 木野山駅ほか8駅 木野山、豪渓、新見、倉敷、清音、備中広瀬、備中高梁、石蟹、備中神代各駅