日本国有鉄道では、軌道整備工事を毎年多数施行しているが、仙台鉄道管理局ほか9鉄道管理局(注1) 管内の34保線区(注2) が昭和56年度中に施行している軌道整備工事のうち、脱線防止ガードの撤去、復旧工事を主たる内容とする198工事(工事費総額9億2436万余円)について検査したところ、次のとおり工事費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、上記の198工事は、軌道の保守整備のため、別途直営で施行するマルチプルタイタンパ(軌道上を自走し道床バラストを連続的につき固めなどする作業車)によるバラスト軌道保守作業に付随して行われるもので、この軌道保守作業の支障となる脱線防止ガード(列車の脱線を防止するため、主として曲線区間のレールの内側に取り付けられるもので、1本の長さ6mのL形鋼材(ガード材)と取付装置ブロックで構成されている。下図参照 )を作業前にいったん撤去し、作業終了後にこれを復旧する工事を行うほか、バラストのかき込み、整正等の簡易な道床整理作業等を行うものである。
しかして、上記脱線防止ガードの撤去、復旧工事の労務費(積算額合計5億2382万余
円)の積算についてみると、日本国有鉄道制定の「営業線軌道工事積算要領(在来線)」に定めるPCマクラギ用脱線防止ガード(取付装置とも)の撤去歩掛かり及び復旧歩掛かりを合算した数値を使用して算出していた。しかし、この撤去歩掛かりは、レール更換工事等の作業において、上図の取付装置ブロック(ガード材1本につき6個)とガード材又はレールとを固定しているA・B両ボルト(計12本)のすべてを取り外してガード材等を撤去する場合に、また、復旧歩掛かりは、取付装置ブロックをレール下部にセットしたうえ、ガード材を取り付けてすべてのボルトを装着し締め付けて復旧する場合にそれぞれ適用するものとして定められたものである。
これに対し、本件撤去、復旧工事は、前記のとおり軌道保守作業の前に脱線防止ガードをいったん撤去したうえ仮置きし、作業終了後にこれを復旧するものであり、本院において、この工事について調査したところ、上図のボルトBだけを取り外してガード材と取付装置ブロックを連結したままレールから撤去し、再びこれを復旧する方法で支障なく施工でき、この方法によればボルトの脱着本数が半減するので、脱線防止ガードの撤去、復旧の歩掛かりが相当低減することが判明した。
したがって、本件各工事について、脱線防止ガードの撤去、復旧工事を上記の作業方法による適切な歩掛かりにより積算したとすれば、積算額を約1億1500万円程度低減できたと認められた。
このような事態を生じたのは、従来、直営で行っていたこの種工事について、近年、軌道保守作業の付随作業として外注化した際、これに適する歩掛かりを定めなかったことによると認められる。
上記についての本院の指摘に基づき、日本国有鉄道では、57年8月に営業線軌道工事積算要領の一部を改正して前記の作業方法による歩掛かりを追加し、同月以降契約を締結する工事から適用することとする処置を講じた。
(注1) | 仙台鉄道管理局ほか9鉄道管理局 仙台、高崎、東京北、東京南、東京西、名古屋、大阪、天王寺、広島、門司各鉄道管理局 |
(注2) | 34保線区 郡山、福島、仙台、高崎、渋川、白河、新橋、川崎、新宿、大月、原町田、岡崎、名古屋、稲沢、米原、京都、吹田、大阪、尼崎、加古川、姫路、天王寺、鳳、田辺、和歌山、三原、海田市、広島、岩国、防府、小郡、下関、門司、博多各保線区 |