日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)では、原木等大型貨物の搬出入が行われる貨物取扱駅に、貨物積卸用機械として駅設備営業用クレーン等(橋形クレーン、門形クレーン、ジブクレーン等の起重機等。以下「クレーン」という。)を設置し、荷主等が行う貨物積卸等作業の利便に供して能率的な作業を行わせ貨物輸送を円滑に進めることとしており、昭和56年度末現在におけるクレーンの設置状況は、千葉鉄道管理局ほか14鉄道管理局管内の越中島駅ほか42貨物取扱駅で計55基となっている。そして、その使用料金は、国鉄本社が定めた「駅設備営業用クレーン等使用基準規程」(昭和39年営達第19号。以下「規程」という。)により、各鉄道管理局長等が、修繕費、動力費等の直接経費(以下「直接経費」という。)を下回らないこととするなどして決定することになっている。
しかして、本院において上記クレーンの稼働状況及び収支状況等について調査したところ、近年における国鉄の貨物輸送量の減少に伴いクレーンの稼働率が著しく低下しており、このため、使用料金収入が直接経費を下回っていて多額の損失を招来している事態が次のとおり見受けられた。
すなわち、上記貨物取扱駅のうち千葉鉄道管理局ほか12鉄道管理局(注1) 管内の39駅に設(注2) 置されている50基については、56年度中における使用時間が平均200時間程度にすぎず、なかには全く使用されていないものもあって、その結果、これら50基について、直接経費のうち外注修繕費や動力費等の本院が明確に把握できた経費だけに限って、これと使用料金収入とを対比してみると、54年度、55年度、56年度の3箇年間の合計で当該経費が162,737,790円であるのに対し、使用料金収入は66,033,390円にすぎず、前者が96,704,400円上回っており、年間平均約3200万円程度の収支差損が発生している状況であった。
しかしながら、前記直接経費の大部分を占めている修繕費が、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)及びクレーン等安全規則(昭和47年労働省令第34号)により、稼働の多寡にかかわらず月例検査、年次検査を義務づけられている結果生ずる固定的なものであることを考慮すると、稼働率が著しく低いクレーンについては経費を償うために高額な使用料金を設定することが事実上不可能と認められ、これらについては、休止又は廃止等の措置を講ずべきであり、また、使用料金を改定してもなお利用が見込まれるものは規程に定める経費を的確に把握するとともにこれを回収し得るような使用料金を設定し、前記の収支差損の解消を図るべきであると認められた。
このような事態を生じたのは、上記の損失が数年以上継続して発生しているにもかかわらず、これに対して、国鉄本社において休止、廃止を含めたクレーンの総合的な運用についての改善策がとられていなかったことなどによると認められる。
上記についての本院の指摘に基づき、日本国有鉄道では、57年9月に前記クレーン50基に係る休止、廃止等及び使用料金改定に関する計画を策定するとともに、「駅設備営業用クレーン等の使用効率が低下した場合の措置等について」の通達を発して、同年11月末までに19基については休止、廃止又は売却し、6基については使用料金改定の処置を講じた。
(注1) 千葉鉄道管理局ほか12鉄道管理局 千葉、東京北、東京南、静岡、名古屋、金沢、大阪、天王寺、福知山、米子、岡山、広島、門司各鉄道管理局
(注2) 39駅 越中島、西船橋、小名木川、北柏、白河、東高島、高島、湘南貨物、横浜港、平岡、西名古屋港、伏木、金沢、富山、西明石、梅小路、梅田、尼崎、尼崎港、摩耶埠頭、淀川、放出、宇治川口、北伊丹、飾摩、桜島、湊町、浪速、舞鶴港、宍道、糸崎、尾道、西岡山、宇野、笠岡、下松、呉、光、若松各駅