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この工事のうち、道路の土留工として施工した井桁組擁壁(工事費相当額61,204,722円)は、設計及び施工が適切でなかったため、桁材にき裂が生じているなど擁壁としての強度が著しく低くなっていると認められる。
(説明)
この工事は、奈良俣ダム建設工事の一環として、ダム地点と県道との間に幅員7m、延長320mの取付道路を新設するもので、このうち谷あい部を横断する延長48mの区間については、本件工事の地山掘削により発生したまさ土約36,000m3 を山側に最高約19mの高さに盛土し、その路側土留工として井桁組擁壁(以下「擁壁」という。)725.8m2 (工事費相当額61,204,722円)を施工したものである。
しかして、この擁壁は、設計書、図面及び仕様書等によると、谷側の盛土法(のり)面に法長9.2mから20.8m、法勾配4分のいわゆる[もたれ擁壁]としてコンクリート基礎の上に築造するものであり、その桁材は径4mm及び6mmの鉄筋を使用したコンクリート製品で、断面形状がH形の縦桁(高さ20cm、幅17.5cm、長さ1.3m)、横桁(高さ17.5cm、幅20cm、長さ1.4mから2.5m)及び駒桁(高さ14cm、幅20cm、長さ24cmから43cm)を井桁状に組み、その中に割ぐり石を詰め、背面の盛土を入念に締め固めるとともに順次桁材を積み上げ、法長に応じて下部は2連式から4連式、天端(ば)部は1連式のもので施工して盛土の安定を期することとしていた。
しかし、上記のようにこの擁壁は、背後に土質が均一でない発生土を大量に使用して、最高約19mの盛土をした法面に、法長が長く勾配も急な「もたれ擁壁」として縦桁、横桁及び駒桁の各桁材を井桁状に組みあげて設置するものであるから、盛土材にまさ土を使用するとしてもその締め固めを十分行うとともに、浸透水の排除と擁壁に加わる土圧の軽減に効果がある裏込ぐり石等を施工するなどして盛土等の安定性を確保する設計とすべきであったと認められるのに、裏込ぐり石等を施工するなどの配慮が不足したことに加えて、盛土の締め固めが十分でなかったなどのため、本件擁壁は、正面から見える桁材だけについてみても、既に縦桁1,023本のうち250本、横桁984本のうち502本及び駒桁2,046個のうち1,109個には無数のき裂が生じており、これらのき裂から雨水等が各桁材の内部に浸透し、鉄筋に錆や腐食を生ずるおそれがあるなど、井桁組擁壁としての強度が著しく低下している。
(参考図)