石炭鉱害事業団では、鉱害復旧業務、鉱害賠償資金融資業務等を行っており、その業務を実施するために必要な資金の原資は、主として国及び県からの補助金(昭和56事業年度分587億余円)、国からの事務費等交付金(同44億余円)、既往貸付けに係る貸付金償還金及び同利息(同58億余円)並びに賠償義務者の納付金(同15億余円)であるが、これらの補助金、交付金等を受け入れてから、工事費、貸付金等として支払又は貸付実行をするまでの間は、常時余裕金として保有していて、同事業団における昭和56事業年度の1日当たりの平均残高は58億2466万余円に上っている状況である。この余裕金の運用状況について検査したところ、次のとおり適切でないと認められる点が見受けられた。
すなわち、同事業団における業務上の余裕金の運用方法については、石炭鉱害賠償等臨時措置法(昭和38年法律第97号。以下「法」という。)第40条の規定により、国債その他通商産業大臣の指定する有価証券の保有、資金運用部への預託、銀行への預金又は郵便貯金及び信託会社又は信託業務を行う銀行への金銭信託とされていて、上記の余裕金平均残高58億2466万余円について、運用種別ごとの運用実績をみると、利回りの低い通知預金によっているものが43億6978万余円と75%を占め、債券の条件付売買(注1) (以下「現先売買」という。)、定期預金、債券買取等によっているものは長期間余裕金として見込まれる退職手当引当金(55事業年度末残高15億2858万余円)相当額にすぎない状況であった。その結果、これらに係る年間受取利息は2億0452万余円で、その平均運用利回りは3.5%にとどまっていた。
しかし、同事業団における業務上の資金の受払い状況についてみると、収入のうち、補助金及び交付金については国及び県に対してあらかじめ提出した補助金又は交付金の請求計画に基づいて定期的に受領しており、また、支払の大部分を占める復旧費(56事業年度分620億1233万余円)については支払月の前月の20日までに各支部から資金需要見込みを報告させていることなどによって、各月の資金の受払い額及び時期は十分予測できるのであるから、それらに基づいて的確な資金収支の予測を行い、それによって見込まれる余裕金については法に定める運用方法を十分に活用して可能な限り有利に運用できるよう、きめ細かい配慮をして収益の増加を図る要があったと認められる。すなわち、56事業年度における上記の運用方法に代えて、例えば、5億円以上の額について、期間3箇月以上にわたって運用できる場合には譲渡性預金(注2) に、20日間以上運用できる場合には現先売買によるなど種々の方法が考えられるが、仮に、同事業団が同事業年度に20日間以上の通知預金としているものについて、これを現先売買で運用したとすれば、受取利息は事業団の運用実績に比べて約8300万円(復旧勘定分約5300万円、融資勘定分約2900万円)増加し、余裕金の平均運用利回りは4.9%になった計算となり、ひいては、復旧勘定の当該年度分の交付対象経費の合計額から運用利息等の収入を控除した額とされている前記事務費等交付金の交付額が約5300万円低減したこととなる。
このような事態を生じたのは、業務上の余裕金については安全性、確実性を考慮しながらも、運用可能額、期間に応じて最も有利な運用を図るべきであったのに、同事業団では、資金収支の予測に基づいて的確に余裕金の額及び運用可能期間を把握する体制が整備されておらず、このため、受け入れた資金の大部分を取りあえず通知預金として預け入れるにとどまっていたことによると認められる。
上記についての本院の指摘に基づき、石炭鉱害事業団では、57年3月に取りあえず余裕金の運用範囲の明確化及び運用手続の簡略化を図り、譲渡性預金による運用について
試行してきたが、更に、同年10月に新たに「資金運用実施要領」(57石経第102号 理事長達)を定め各月ごとにきめ細かい資金収支予測に基づく資金の運用計画を作成することにより余裕金の額及び運用可能期間を的確に把握することとして、余裕金の効率的運用を図るための処置を講じた。
(注1) 債券の条件付売買 一定期間後に一定の価格で売り、又は買い戻すことを条件とした債券売買をいう。
(注2) 譲渡性預金 払戻しについて期限の定めがある預金で、譲渡禁止の特約のないものをいい、銀行等が証書1枚当たり5億円以上の単位で発行し、預入期間は3箇月以上6箇月以内で、利率は臨時金利調整法の適用除外となっている。