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  • 昭和57年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第6 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国民健康保険助成費について国庫補助事業の適正な執行を図り、国庫補助金の適正な交付を行うよう改善の処置を要求したもの


国民健康保険助成費について国庫補助事業の適正な執行を図り、国庫補助金の適正な交付を行うよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)国民健康保険助成費
部局等の名称 北海道、京都、大阪両府、宮城、福島、茨城、栃木、埼玉、神奈川、新潟、福井、長野、静岡、愛知、兵庫、和歌山、島根、岡山、広島、山口、愛媛、福岡、熊本、沖縄各県
補助の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
事業主体 市63、町3、村3、計69事業主体
補助事業 保険者が、被保険者の疾病、負傷に関し保険給付を行う事業
上記に対する国庫補助金等交付額の合計 456,530,518,824円(昭和56、57両年度)

 上記の保険給付に係る補助事業において、損害賠償金等の取扱いが適切でなかったため、国庫補助金等約1億8691万円が過大に交付されていると認められ、また、法定給付割合を超えて支給した療養費の額を対象として療養給付費等補助金約2億0653万円が交付されていた。
 これらの補助事業において、(1)第三者行為によって生じた保険給付に係る損害賠償金等は、その調定した額を調定した日の属する年度において療養給付費等補助金及び財政調整交付金の対象額から控除すべきであるのに、収納された額だけを控除していて、国庫補助金等が過大に交付されたと同様の結果となっており、また、(2)法定給付割合を超える給付を行う一部の保険者に対し、法定給付割合を超えて支給した療養費の額をも対象として療養給付費等補助金を交付しており、他の保険者より多額な補助金が交付される結果を招くこととなっていて、医療保険の社会的公平の確保の見地からみて合理的でないと認められた。
 したがって、厚生省において、損害賠償金等に係る国庫補助金等の経理については、速やかに関係通達等の整備を行い経理の適正を期し、また、法定給付割合を超えた療養費に対する国庫補助金の交付については、その合理的な執行について所要の措置を講ずる要がある。

 上記に関し、昭和58年11月25日、厚生大臣に対して改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

国民健康保険助成費について

 貴省では、国民健康保険事業を実施する3,272市町村(特別区を含む。以下「保険者」という。)に対し、国民健康保険助成費のうちの療養給付費等補助金を昭和56年度に1兆8213億0640万余円、57年度に1兆8557億8491万余円、また、財政調整交付金を56年度に2272億1229万余円、57度に2292億8055万余円それぞれ交付している。

 上記は国民健康保険法(昭和33年法律第192号)の規定に基づいて、療養給付費等補助金については、保険者に対して被保険者の疾病、負傷に関して療養の給付及び療養費の支給に要する費用(以下「療養給付費」という。)などの額の100分の40を補助するものであり、また、財政調整交付金については、国民健康保険の財政を調整するため保険者の療養給付費などの額を考慮して算定する需要額から被保険者の所得を考慮して算定する収入額を控除した額に別に定められた率を乗じて得た額などを保険者に対し交付するものである。
 しかして、56年度及び57年度における上記療養給付費等補助金及び財政調整交付金(以下「国庫補助金等」という。)の交付について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

1 第三者行為に伴う損害賠償金等の経理について

 保険者は、療養給付費の給付事由が交通事故等の第三者行為による場合には、その給付の価額の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得することになっており、また、被保険者が国民健康保険の資格を喪失しているのに、その被保険者証で診療を受けていたなどのため過誤払いとなった療養給付費に係る不当利得がある場合には、受診者に返還の請求を行うことになっている。そして、第三者行為に伴う損害賠償金又は過誤払いによる不当利得に伴う返還金(以下「賠償金等」という。)がある場合における国庫補助金等の精算については、貴省の指導により賠償金等として調定した額に係る療養給付費は、当該年度に収納されると否とにかかわりなく調定した日の属する年度において補助の対象から控除することになっている。

 しかして、58年中に札幌市ほか80保険者(56年度療養給付費等補助金交付額3171億6322万余円、財政調整交付金交付額272億1585万余円)における賠償金等に係る療養給付費の取扱いについて調査したところ、札幌市ほか56保険者(同療養給付費等補助金交付額2008億7606万余円、財政調整交付金交付額198億4316万余円)において国庫補助金等の精算に当たり、56年度中に納入義務者に賠償金等の納入の通知をしているもののうち、当該年度に収納された額のみについてこれを補助の対象から控除していた。

 しかしながら、このような取扱いによって、本来保険者の責任において徴収すべき賠償金等でありながら、収納されなかった額についても補助の対象となり、未納となっている賠償金等が収納されるまでの間は国庫で負担することになるばかりでなく、未納額が収納不能となる場合は、これに対する国庫補助金等相当額が国庫に回収されないこととなり、国庫補助金等が過大に交付されたと同様の結果となり、適切とは認められない。

 いま、仮にこれらの保険者において収納されなかった賠償金等を補助の対象から控除して国庫補助金等を算定したとすれば、療養給付費等補助金約1億6233万円及び財政調整交付金約2458万円は56年度において交付する要がなかったと認められる。

 このような事態を生じているのは、保険者において、賠償金等については納入義務者及び債権額が確定したときに調定を行わなければならないのに、現金を収納した後に調定することとしていること(いわゆる事後調定)によると認められるが、貴省において、これを防止するための実効性ある強い指導を欠いていたことによると認められる。

 ついては、本件国庫補助事業は今後とも継続されるものであることにかんがみ、保険者における賠償金等に係る療養給付費の取扱いについてその指導監督を強化するとともに速やかに関係通達等の整備を行い、もって本件国庫補助事業の適正な執行を図る要があると認められる。

2 法定給付割合を超えて療養費を支給している保険者に対する補助金の交付について

 療養給付費等補助金の補助の対象となる療養給付費のうち、療養費の支給に要する費用(以下「療養費」という。)の額は、療養に要する費用の額からその額に被保険者が負担する一部負担金の割合を乗じて得た額を控除した額となっている。

 そして、この一部負担金の割合は原則として療養に要する費用の10分の3、すなわち保険者が負担すべき割合は療養に要する費用の10分の7(以下「法定給付割合」という。)となっているが、保険者は一部負担金の割合を引き下げることによって国民健康保険の財政の健全性を損なうおそれがないと認められる場合に限り、あらかじめ都道府県知事に協議のうえ、条例で一部負担金の割合を引き下げ、法定給付割合を超えて保険者が負担することができることとなっており、3,272保険者のうち川口市ほか12保険者(注) では、一部負担金の割合を引き下げて、保険者の法定給付割合を10分の8から10分の10としている。そして法定給付割合を超えて保険者が負担している額をも補助の対象とし、療養給付費等補助金を56年度に1222億1428万余円、57年度に1215億9525万余円交付していた。

 しかしながら、上記の保険者は、一部負担金の割合を引き下げても国民健康保険事業の健全な運営を行うことができる財政力を有するとの判断のもとに、自ら条例でその引下げ措置を定めたものであると思料されるのに、この措置によって生じる当該保険者の負担した額をも含めて療養費を算定し、これを補助の対象とする現行の取扱いは適当でなく、医療保険の社会的公平の確保の見地からみて合理的とは認められない。

 いま、仮に上記の13保険者における療養費を法定給付割合により算定したとすれば、当初の療養費との間に56年度約2億6261万円(国庫補助金相当額約1億0504万円)、57年度約2億5374万円(国庫補助金相当額約1億0149万円)の開差を生ずることとなる。

 ついては、今後とも一部負担金の割合の引下げの制度は継続されるものであり、また、このような事態が是正されない場合には、他の保険者に比べ多額の国庫補助金を交付する結果になることにかんがみ、補助の対象とする療養費について早急に検討を行い、所要の措置を講じ、もって国庫補助金の適正な交付を行う要があると認められる。
 よって、会計検査院法第34条及び第36条の規定により改善の処置を要求する。

(注)  川口市ほか12保険者 川口市、戸田市、名古屋市、大阪市、堺市、尼崎市、西宮市、芦屋市、大井町、和木町、入広瀬村、布施村、西粟倉村各保険者(ただし、堺市は56年6月から、大阪市は57年10月から、それぞれ一部負担金の割合の引下げを廃止している。)