会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)農林水産本省 | (項)土地改良事業費 |
特定土地改良工事特別会計 | (項)土地改良事業費 | ||
部局等の名称 | 北陸、東海、近畿各農政局 | ||
施設管理の概要 | 国営及びこれに附帯する県営かんがい排水事業によって生じた農業用用排水施設の土地改良区等に対する管理委託 | ||
事業数及び金額 | 9事業、 | 国営事業分 | 427億5448万余円 |
国庫補助事業分 | 262億5057万余円 | ||
(同上国庫補助金相当額138億9821万余円) |
上記の国営及びこれに附帯する道府県営のかんがい排水事業によって生じた農業用用排水施設において、国及び県における管理が適切を欠いたため、一部の施設(国営事業費相当額113億4403万余円、国庫補助金相当額16億7035万余円計130億1438万余円)が国又は県に無断で、農業以外の用途又は目的に使用されていた。
これらの用排水施設は、多額の国費を投入した専ら農業に使用される財産であるが、その一部が、国又は県に無断で、上水道事業や工業用水道事業等の用水の取水のために使用されていたり、工場廃水あるいは生活汚水の排水路として使用されていたりしていて、その管理が適切を欠く事態となっていた。
したがって、農林水産省において、上記のような事態の発生を防止するため、土地改良区等への指導、監督等を徹底するとともに、関係諸規定の整備を早急に行い、用排水施設の管理の適正を期する要がある。
上記に関し、昭和58年11月30日、農林水産大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
国営及びこれに附帯する道府県営のかんがい排水事業によって生じた農業用用排水施設の管理について
貴省では、農業上の土地利用の高度化、水利用の安定と合理化を図ることを目的として、農業用かんがい排水基幹施設の整備事業を実施しており、昭和22年度以降57年度末までに完了した114事業及び現在継続中の126事業計240事業に投下された事業費は総額1兆3959億余円の巨額に上っている。そして、この国営のかんがい排水事業は、農業用用排水施設のうち主として基幹的なダム、頭首工、揚排水機場及び幹線用排水路等の新設及び改良などを行うことを内容とするものであり、これに附帯して道府県が行うかんがい排水国庫補助事業と密接に関連して事業効果が発揮されることとなるものである。
上記の国営及び道府県営のかんがい排水事業によって生じた農業用用排水施設(以下「用排水施設」という。)は、国有財産である土地改良財産を始めとして、各事業の実施主体が所有する財産となるが、これらの用排水施設の管理は、土地改良法(昭和24年法律第195号。以下「法」という。)第94条の6第1項及び第94条の10第1項の規定により、かんがい排水事業の受益者たる農業者で組織している土地改良区等に委託しているのが通例であり、土地改良区等は、受託に係る用排水施設をその用途又は目的に応じて善良な管理者の注意をもって管理しなけれぼならないこととなっている。
そして、貴省においては、上記のうち国営事業によって生じた用排水施設を他目的に使用し又は使用させる場合には、土地改良区等から土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)第59条による他目的使用の承認申請書を提出させ、当該施設を本来の用途又は目的を妨げない限度において使用し又は使用させることを適当と認めるときには、当該施設の建設費負担相当額に基づいて算定した使用料を徴収することとしたうえこれを認めることとしている。特に、用排水施設を発電事業、水道事業その他の公共の利益となる事業に永続的に使用させようとする場合には、法第94条の4の2第2項の規定により、その本来の用途又は目的を妨げない限度において、これらの事業を行う者に対して、共有持分の付与を行うこととしており、当該施設の建設費負担相当額に基づいて共有持分の対価を算定し、これを徴収することとしている。なお、道府県営事業によって生じた用排水施設についても、道府県の要綱等により、国に準じた取扱いが定められている。
しかして、57年度末までに事業の全部又は一部が完了した国営かんがい排水事業及び国営事業に附帯する道府県営国庫補助事業のうち、当該事業を取りまく社会的、経済的諸条件に顕著な変化が認められる国営旧迫川農業水利事業ほか25事業(事業費総額1142億3680万余円)及びこれらに附帯して実施された県営国庫補助事業において生じた用排水施設の管理状況について、本院が58年中に調査したところ、国営常願寺川農業水利事業ほか8事業(注) (事業費総額427億5448万余円)及びこれに附帯する県営の国庫補助事業(事業費総額262億5057万余円、これに対する国庫補助金相当額138億9821万余円)によって生じた用排水施設が、国又は県に無断で、上水道事業や工業用水道事業等の用水の取水のために使用されていたり、工場廃水あるいは生活汚水の排水路として使用されていたりしている事態が見受けられ、これに係る国営事業費相当額113億4403万余円、国庫補助金相当額16億7035万余円計130億1438万余円が不適切と認められた。
その主な事例を挙げると、次のとおりである。
1 用排水施設が国又は県に無断で上水道事業等の用水の取水のために使用されていたもの
他目的に使用させていた用排水施設の事業費相当額(国庫補助金相当額) | 国営事業分 国庫補助事業分 |
7,049,326千円 |
<事例1>
事業名 | 国営常願寺川農業水利事業及び附帯県営事業 |
農政局名 | 北陸農政局 |
他目的に使用させていた施設の事業費相当額 (国庫補助金相当額) |
国営事業分 国庫補助事業分 |
859,702千円 |
国営常願寺川農業水利事業は、16年度から54年度までの間に事業費1,096,579千円で頭首工1箇所、幹線水路延長3,309m等の新設及び改修を実施したものである。また、これに附帯して実施した県営の国庫補助事業は、事業費4,327,239千円(うち国庫補助金相当額2,163,619千円)で用水路延長65,880m等の改修を実施したものである。そして、これらの事業により生じた用排水施設の管理を、北陸農政局及び富山県は、36年度以降逐次、常願寺川沿岸用水土地改良区連合、常東用水土地改良区及び常西用水土地改良区に委託している。
しかして、58年7月、本院が上記施設の管理の状況を調査したところ、
(1) 常願寺川沿岸用水土地改良区連合及び常東用水土地改良区は、国又は県に無断で、上記施設のうち、国が所有する頭首工及び幹線用水路延長3,309m(事業費相当額859,702千円)、県が所有する用水路延長3,397m(事業費相当額164,483千円、うち国庫補助金相当額82,241千円)を、50年度以降中新川郡立山町に使用させ、年間最大73万m3 の上水道用水を取水させていた。
(2) 常西用水土地改良区は、県に無断で、県が所有する用水路延長2,794m(事業費相当額43,513千円、うち国庫補助金相当額21,756千円)を、37年度以降富山市に、48年度以降砕石業者等にそれぞれ使用させ、富山市には年間最大6496万m3 の上水道用水及び工業用水を、砕石業者等には年間最大29万m3 の砕石洗浄用水及び工業用冷却水を取水させていた。
<事例2>
事業名 | 国営東条川農業水利事業 |
農政局名 | 近畿農政局 |
他目的に使用させていた施設の事業費相当額 | 国営事業分 | 1,246,639千円 |
国営東条川農業水利事業は、22年度から39年度までの間に事業費2,065,836千円で、ダム1箇所、幹線水路延長22,548m等を新設したものである。そして、これらの事業によって生じた用排水施設の管理を、近畿農政局は、34年以降兵庫県東播土地改良区に委託している。
しかして、58年1月、本院が上記施設の管理の状況を調査したところ、同土地改良区は、国に無断で、上記施設のうち、ダム及び幹線水路延長17,773m等(事業費相当額1,246,639千円)を49年度以降加東郡滝野町に、50年度以降小野市に、53年度以降加東郡社町にそれぞれ使用させ、滝野町には年間最大73万m3
、小野市には年間最大150万m3
、社町には年間最大109万m3
の上水道用水を取水させていた。
なお、上記についての本院の指摘に基づき、近畿農政局は、58年4月、上記小野市ほか2町に対して、49年度から57年度までの用排水施設の他目的使用について、その使用料として62,922千円を徴収し、58年度以降については、当該施設の建設費負担相当額に基づいて算定した258,255千円を徴収したうえ共有持分を付与することとした。
2 用排水施設が国又は県に無断で工場廃水の排水路等として使用されていたもの
他目的に使用させていた用排水施設の事業費相当額 (国庫補助金相当額) |
国営事業分 国庫補助事業分 |
4,294,710千円 |
<事例>
事業名 | 国営尾張用水農業水利事業及び附帯県営事業 国営濃尾用水農業水利事業及び附帯県営事業 国営濃尾用水第二期農業水利事業及び附帯県営事業 |
農政局名 | 東海農政局 |
他目的に使用させていた施設の事業相当額 | 国営事業分 国庫補助事業分 |
3,818,894千円 2,351,200千円 (1,410,720千円) |
上記の各事業は濃尾平野に所在するほぼ同一の地区を対象受益地として実施したもので、国営尾張用水農業水利事業は、17年度から33年度までの間に事業費614,223千円で用排水路延長46,261mの改修等を、国営濃尾用水農業水利事業は、32年度から43年度までの間に事業費5,176,969千円で頭首工1箇所、用水路延長42,653m等の新設、改修を、また、国営濃尾用水第二期農業水利事業は、44年度から57年度までの間に事業費25,333,594千円で用水路延長48,128mの改修をそれぞれ行ったものである。また、これに附帯して実施した愛知、岐阜両県営の国庫補助事業は、事業費15,815,804千円(うち国庫補助金相当額8,680,834千円)で用排水路延長243,883mの新設及び改修を行ったものである。そして、東海農政局及び愛知、岐阜両県は、これらの事業により生じた用排水施設の管理を33年度以降逐次、宮田用水、木津用水及び羽島用水各土地改良区に委託している。
しかして、58年8月、本院が上記施設の管理の状況を調査したところ、
(1) 宮田用水及び木津用水両土地改良区は、37年頃から国に無断で、上記施設のうち、国営尾張用水農業水利事業で生じた用排水路延長12,219m(事業費相当額188,619千円)を、国営濃尾用水農業水利事業で生じた用水路延長23,981m(事業費相当額1,447,275千円)を、また、国営濃尾用水第二期農業水利事業で生じた用水路延長8,627m(事業費相当額2,183,000千円)をそれぞれ愛知県一宮市ほか5市3町の地域内から排出される工場廃水あるいは生活汚水の排水路として使用させていた。
(2) 羽島用水土地改良区は、34年頃から県に無断で、県が所有する排水路延長13,881m(事業費相当額2,351,200千円、うち国庫補助金相当額1,410,720千円)を、岐阜県羽島市ほか1町の地域内から排出される工場廃水あるいは生活汚水の排水路として使用させていた。
しかも、上記の国営常願寺川農業水利事業ほか8事業及びこれに附帯する国庫補助事業によって生じた用排水施設を管理している常東用水土地改良区ほか9土地改良区等では、国又は県に無断で、当該施設を他目的に使用させているばかりでなく、維持管理費等を収受していて、本院が調査した上記9事業の48年から57年までの10年間の分だけでも総額6億8964万余円に達している状況である。
このような事態を生じているのは、土地改良区等において用排水施設の管理委託の趣旨を理解していないことによるが、貴省、当該農政局及び県における用排水施設に対する管理が適切でなく、土地改良区等が国又は県に無断で、施設を他目的に使用させている実態を把握していなかったこと、用排水路へ排出される工場廃水等についての関係諸規定の整備が図られていなかったことなどによると認められる。
ついては、多額の費用を投入して実施する国営、都道府県営のかんがい排水事業は、国民に食糧を安定供給するために行われるものであり、これら事業によって完成した用排水施設は、専ら農業に使用されるとはいえ国全体のための貴重な財産であるから、上記の実情にかんがみ、貴省において、かんがい排水事業以外への無断使用についてその発生を防止するため、用排水施設の管理を厳重に行う要があると認められる。そのためには、管理を委託した土地改良区等に財産管理の状況報告を定期的に行うことを励行させて当該施設の状況を的確に把握し、必要に応じて指導、監督を実施するとともに、法第132条の規定に基づく検査を随時行うなどして管理の適正を期し、また、各都道府県に対しても指導を徹底する要があると認められ、更に、用排水路へ排出される工場廃水、生活汚水の取扱いに関する関係諸規定について早急にその整備を行う要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注) 国営常願寺川農業水利事業ほか8事業 常願寺川、手取川第一、手取川、九頭竜川、尾張用水、濃尾用水、濃尾用水第二期、東条川、野洲川各農業水利事業