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  • 昭和57年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

水田利用再編対策事業について効果的な事業実施を図るよう改善の処置を要求したもの


(2) 水田利用再編対策事業について効果的な事業実施を図るよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省
(項)水田利用再編対策費
部局等の名称 北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
補助の根拠 予算補助
事業主体 札幌市ほか375市町村農業者延べ1,591,971名
事業の内容 米の生産調整と農産物の総合的自給力の向上を主眼として水稲から水稲以外の作物への転作の定着化を促進するための水田利用再編対策事業
上記に対する国庫補助金交付額の合計 183,607,739,446円(昭和56、57両年度)

 上記の水田利用再編対策事業において、事業の効果が十分発現していないと認められる事態が次のとおり見受けられた。

(1) 水田利用再編計画のないまま転作が実施されていて、本対策事業が意図している転作の定着性の向上を図れないばかりか、事業目的の達成のうえでも障害となると認められるもの28,552地区83,699ha(これに対する奨励補助金の交付総額327億5千万円)

(2) 水田利用再編計画のある地区について、

ア 計画団地と認定されているがその実体はなく、転作実施水田が点在していて、水田利用再編計画のない地区と同程度となっているもの5,250地区41,486ha(同210億7千万円)

イ 連担団地と認定されているが、実態は団地に連担性がなかったり、作物が統一的に作付けされていなかったりしているもの195地区742ha(同5億0千万円)

ウ 農業協同組合等に預託されたままとなっていて転作に結び付いていない水田や、飼料作物として適当でない青刈り稲による転作実施水田を2分の1以上も含んでいる実効の少ないもの3,147地区22,949ha(同111億7千万円)

エ 都市計画区域内の市街化区域又は用途地域に計画団地、連担団地が設定されていて転作の定着化を期待することは困難であるもの1,151地区5,522ha(同25億7千万円)

(3) 転作作物のうち、転作の重点作物である大豆、麦、そばの出荷状況及び飼料作物の供与の状況について、

ア 大豆、麦、そばの出荷率がいずれも30%未満と著しく低くなっているもの28,571ha(同165億9千万円)

イ 飼料作物が無償で提供されているもの27,833ha(同173億9千万円)

ウ 飼料作物が家畜に供与されていなかったり、家畜に供与されているかどうか不明であったりしているもの21,577ha(同125億2千万円)

 なお、本件は水田利用再編対策事業の効果をさまざまな視点からとらえたものであるため、各項目に掲げた地区数、面積及びこれに対する奨励補助金の交付総額には重複がある。

 したがって、農林水産省において、昭和59年度からの第3期水田利用再編対策事業を開始するに当たって、転作営農の生産性の向上とその定着化の一層の推進を図るために、抜本的な対策を講ずる要があると認められる。

 上記に関し、昭和58年11月28日、農林水産大臣に対して改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

水田利用再編対策事業の実施及び効果について

 貴省では、昭和40年代に入り米が過剰基調となったことから、米の生産調整を進めるための施策として、昭和46年度から50年度までは稲作転換対策事業を、また、51年度及び52年度は水田総合利用対策事業を実施してきたが、53年度からは、長期的な視点に立って農産物の需要の動向に即した総合的な自給力の向上を図るため、水田利用再編対策事業を推進することとし、これを数期(第1期は53年度から55年度、第2期は56年度から58年度、第3期は59年度以降)に分けて、実施しているところである。

 この水田利用再編対策事業の実施に当たって、貴省においては、本対策が単に米の減産を目的とする一時的・緊急避難的なものではなく、積極的に今後増産の必要な農産物の生産の拡大を図るとともに、長期・構造政策的な視点をも踏まえ、農用地利用増進法(昭和55年法律第65号)の活用等により、水田利用の中核的農家(注1) への集積とその高度化を促進することによって高い生産性を有する農業経営の展開を図り、このような経営の中に転作を定着させていくことを通じて、需要の動向に安定的に対応し得る農業生産構造の確立を期することをねらいとしている。

 このため、本対策の目標の実現を期して、〔1〕 地域ぐるみの集団的転作、〔2〕水田利用の中核的農家への集積、〔3〕大豆、麦、そば、飼料作物等への転作の定着という3つの柱を基調として事業を推進することとしているものである。

 そして、この対策の実施期間中、水田利用再編対策実施要綱(昭和53年53農蚕第2379号農林事務次官依命通達)及び水田利用再編対策実施要領(昭和53年53農蚕第2380号農林省農蚕園芸局長通達)に基づき、米の生産調整に協力して水稲から水稲以外の作物への転作、農業協同組合(以下「農協」という。)等への水田の預託及び土地改良事業の通年施行(注2) を実施した農業者に対して、これらの実施面積、転作作物の種類等に応じて水田利用再編奨励補助金(以下「奨励補助金」という。)を交付することとしている。

 この奨励補助金は、基本額、計画加算額、団地化加算額等から構成されており、このうち、計画加算額は53年度から、団地化加算額は56年度から、それぞれ一定の要件を満たす転作農業者に対して、基本額に加えて交付されている。そして、奨励補助金の交付額は56年度3566億円、57年度3592億円、計7158億円で、本対策が発足した53年度から57年度までの交付総額は1兆6164億円の多額に上っている。

 しかして、水田利用再編対策事業は従来から巨額の国費を投入して実施してきている農林水産行政の根幹の事業であることにかんがみ、この事業の実施については、本院は従来から強い関心をもって検査を実施してきており、過去の決算検査報告においても本事業の実施及び効果につきしばしば指摘してきたところであるが、今回、58年度中に終了する第2期対策について、転作が我が国における農産物の総合的な自給力の向上に真に役立つ実効あるものとなっているか、特に大豆、麦、そば、飼料作物等の生産拡大とその農業経営における定着化は促進されているかなど本対策の事業効果に着目し、58年1月から同年9月までの間に、北海道ほか39府県における札幌市ほか375市町村に交付された奨励補助金

56年度 912億円(交付対象水田面積172,079ha)
57年度 923億円(交付対象水田面積173,267ha)

1836億円(交付対象水田面積345,346ha)

について検査したところ、次のように本事業の実施及び効果に関し問題点を有する事態が見受けられた。
 これを態様別にみると次のとおりである。

1 水田利用再編計画がなく計画的な転作が実施されない地区の状況について

水田利用再編対策事業の実施に当たっては、前記のように地域ぐるみの集団的転作が行われることを推進目標の一つとしている。このため、貴省においては、集落ごとの水田利用再編計画が策定されることを期して、次のような仕組みを導入している。
 すなわち、今後、転作を安定的に推進していくためには、計画的に転作実施水田を集団化し、転作の定着性の向上を図ることが不可欠であって、その実現のためには個別農家ごとの対応では限界があり、転作を地域全体の問題として受け止めて農家間の話合いを積み重ね、地域農家の総意によって計画的な転作を実施していく態勢が不可欠であるとの観点から、集落ごとに水田利用再編計画を策定し、これに沿って地域ぐるみで計画的に転作を推進する「地域ぐるみの計画的転作」の仕組みを導入することとした。
 更に、生産性が高く定着性のある転作営農を育成していくためには、地域ぐるみの計画的転作に加え、転作実施水田の団地化を一層促進し、質の高い転作を育成することが肝要であるとの観点から、水田利用再編計画の参加者等が転作実施水田を完全な地続きの団地にまとめ、質の高い転作を推進する「連担した団地転作」の仕組みを導入することとした。
 そして、その推進を期して、地域ぐるみで計画的に転作を実施した農業者に対しては基本額に合わせて計画加算額を、連担した団地で転作を実施した農業者に対しては計画加算額に加えて団地化加算額を交付することとしている。

 このように、貴省では、本対策を円滑に推進していくには、まず、地域ぐるみの話合いが行われることが重要であり、この話合いを通じて水田利用再編計画が作成され、この計画に沿った転作が実施され、やがては連担した団地において質の高い転作が実施されることにより転作の定着化が図られることを期待しているところであるが、本対策が発足して既に5年を経過した今日においても、いまなお、水田利用再編計画がなく計画的な転作が実施されない地区(計画の認定は受けたが、計画に沿った転作等を実施しなかった地区を含む。)が次のとおり見受けられる状況であった。

年度 道府県数 市町村数 地区数 面積 奨励補助金

56

38

272
地区
14,724
ha
43,403

169億9千万円
57 38 273 13,828 40,296 157億6千万円

28,552 83,699 327億5千万円

 そして、これら計画のない地区における転作等実施水田面積は、今回本院が調査した前記交付対象水田面積345,346haの約24%に相当するものとなっていた。
 このように貴省が予期した計画的な転作が実施されないのは、当該地域農家における地域ぐるみの計画的転作を進める意欲の乏しさにもよるが、集落内部で意見調整がつかなかったり、とりまとめのリーダーが存在しなかったりして計画の樹立が遅れていることのほか、経営規模の零細な農家が多い場合やほ場条件が整備されていないため集団化が困難な事情があることなどによると認められる。
 しかしながら、上記のように水田利用再編計画が策定されないまま推移することは、地域ぐるみの転作はもとより連担団地化による転作が実施されないことによって、転作実施水田が点在してまとまりのないものとなり、また、水田利用再編計画のある地区に比べ実効ある転作が実施されなくなって、本対策が意図している転作の定着性の向上を図れないばかりか、水田利用再編対策事業の目的達成のうえでも障害となる事態であると認められる。

2 水田利用再編計画のある地区の状況について

 一方、水田利用再編計画が策定され計画的な転作を実施することとしている地区においても、(1)計画団地と認定しているが実体はなく転作実施水田が点在している事態、(2)連担団地と認定しているが実態は連担性がない事態、(3)保全管理中の預託水田及び飼料作物として適当でない青刈り稲による転作を含めて計画団地を設定している事態、(4)市街化区域又は用途地域内に計画団地、連担団地を設定している事態が次のとおり見受けられた。

(1) 計画団地と認定しているが、その実体はなく、転作実施水田が点在しているもの水田利用再編計画の認定を受けた地区(以下「計画地区」という。)の中において一定の要件を満たす転作農業者に対しては、基本額に加えて、計画加算額が交付されるが、その要件についてみると、

〔1〕 その地区の転作等の計画面積が、その地区に割り当てられた転作等目標面積を下回っていないこと、

〔2〕 転作等の計画面積の合計のおおむね2分の1以上が、おおむね1ha(北海道にあっては3ha)以上又は2個以内の地縁的なまとまり(以下「計画団地」という。)に団地化されていること、

〔3〕 計画の内容がその地区の営農実態等に照らして妥当であり、転作の定着が期待できるものであること

などが定められている。

 この要件は、地域ぐるみの話合いに基づいて転作実施水田の集団化を進めようとするためのもので、基本的には転作実施水田が互いに地続きになっていて、農耕用機械が直ちに移動でき、かつ、隣接する水田の排水を一緒に行うことができる一連のまとまりをもつ計画的転作であることが要求されている。
 しかして、本制度の設けられた趣旨、計画加算交付の要件等を踏まえ、計画団地内で計画的転作が実施されているかどうかに重点を置いて調査したところ、転作実施水田がばらばらに点在していて地縁的なまとまりがなく、非計画地区と同程度のものを計画団地と認定しているなど適切とは認められない事態が次のとおり見受けられた。

年度 道府県数 市町村数 地区数 面積 奨励補助金

56

39

177
地区
2,551
ha
20,201

102億3千万円
57 39 186 2,699 21,285 108億4千万円

5,250 41,486 210億7千万円

(2) 連担団地と認定しているが、実態は団地に連担性がなかったり、作物が統一的に作付けされていなかったりしているもの

 計画地区内において、転作実施水田を団地化計画により一定規模にまとめた転作農業者に対しては、基本額及び計画加算額に加えて、団地化加算額が交付されるが、その要件についてみると、

〔1〕 計画地区の当該計画参加者等が団地化計画を作成して市町村長の認定を受けること、

〔2〕 転作実施水田を完全な地続きにまとめた団地(以下「連担団地」という。)の規模が3ha(北海道にあっては9ha)以上、又は1ha(北海道にあっては3ha)以上であってそれらの面積の合計が計画地区の転作等の計画面積の合計の3分の2以上であること、

〔3〕 連担団地内では転作作物が原則として2作物以内に統一されていること、

〔4〕 計画の内容がその地区の営農実態等に照らして妥当であり、転作の定着が期待できるものであること

などが定められている。
 この要件は、計画団地の場合の「地縁的なまとまり」より、更に質の高い団地の育成を図る趣旨から、団地の連担性及び作物統一の要件等について要求したものである。
 しかして、本制度の設けられた趣旨、団地化加算交付の要件等を踏まえて調査したところ、地続きにまとまった団地になっていなかったり、転作作物が統一されていなかったりしていて、上記の要件に違背していると認められる事態が次のとおり見受けられた。

年度 道府県数 市町村数 地区数 面積 奨励補助金


56


13

33
地区
79
ha
307

2億0千万円
57 17 55 116 435 2億9千万円

195 742 5億0千万円

(3) 預託水田の保全管理及び飼料用青刈り稲(注3) による転作の実態並びにこれらを含めて計画団地を設定しているもの

 水田利用再編対策事業の実施に当たっては、前記のように、水田利用の中核的農家への集積が行われること、大豆、麦、そば、飼料作物等への転作への定着が図られることを推進目標として掲げているところである。
 預託水田制度は、経営規模が零細な、あるいは、労働力や機械・技術装備等の制約から、自ら転作することが困難な農業者の水田利用再編対策への協力を可能にし、その水田を転作に誘導していくため、これら農業者の水田を農業者の申込みに応じて農協等が預託を受け管理することとし、その水田を第三者による転作に結び付け、早期に転作を実現することにより食糧自給力の向上を図るとともに、併せて中核的農家の規模拡大にも資することを目的としているもので、この制度は第1期から導入されており貴省ではその推進を期して、農業者が農協等に水田を預託した場合は、管理転作奨励補助金を交付することとしている。
 また、大豆、麦、そば、飼料作物等への転作の定着化については、本対策において、特にこれらが転作の拡大を担うべき重点作物である特定作物として位置付けている。これは、これらの作物が基幹的な農産物であるのにそのほとんどを海外からの輸入に依存しているため、国内自給力の向上を図ることが緊要であることから、需要の動向に応じた作付けの促進を図るとともに、単収の向上、生産性の向上、品質の改善、流通の合理化及び農地の効率的利用を通じて転作の定着性の向上を図ることをねらいとしているものである。
 そこで、貴省においては、これらの特定作物を転作した場合は、野菜、花き等の一般作物を転作した場合より高額の奨励補助金を交付することとしている。
 しかしながら、上記の預託水田、飼料作物特に青刈り稲に関し、次のような不適切な事態が見受けられた。

ア 預託水田の実態について

 この預託水田については、昭和55年度決算検査報告の中で特に掲記を要すると認めた事項として掲記し、預託水田のほとんどが転作に結び付かない保全管理(農業者の水田を農協等が預託を受け転作に結び付けるまでの間管理すること)となっていて預託水田制度が円滑に推進されておらず、農産物の自給力の向上や中核的農家の規模拡大に寄与するものとなっていないことを指摘したところである。
 しかして、上記指摘を踏まえて、その後の預託水田の実態を調査したところ、55年度末における預託水田は全国で49,002ha、うち保全管理48,843ha(99.7%)となっていて預託水田の転作等実施水田面積に占める割合は8.4%であったものが、57年度末では預託水田59,417ha、うち保全管理59,244haと増加し、しかも保全管理の割合も99.7%、転作等実施水田面積に占める割合も8.9%となっていて、55年度当時に比べ事態は全く進展しておらず、なかには管理が十分行われていないため原野に近い状態になっていて、直ちに耕作することが不可能であると認められるものも見受けられた。
 以上のように、水田利用の中核的農家への集積を図ることなどを目的として発足した本制度の目的達成は極めて困難になっていると認められた。

イ 飼料用青刈り稲による転作の実態について

 青刈り稲が飼料作物への転作と認められる条件は、〔1〕 あらかじめ農業者が、青刈り稲の作付けを行う旨を市町村長に届け出ていること、〔2〕自ら飼養している家畜の飼料、又は家畜飼養農家との間に供給契約を締結した飼料であること、〔3〕糊熟期(注4) 以前に確認事務を行う者(市町村担当職員等)の立会いで刈取りが行われることなどとなっている。
 しかして、青刈り稲による転作の実態について調査したところ、青刈り稲は単収が低く、刈取り時には隣接する水田との関係で湛水したままで作業を実施せざるを得ないため作業の機械化が困難であって効率的な生産が難しく、また、家畜の飼料としての栄養面、嗜好性に問題があるとされており、別項「転作作物のうち大豆、麦、そば、飼料作物の生産及び流通の状況について」で記述しているように、そのほとんどが家畜飼養農家に無償で提供されていて、耕種農家(注5) の収入につながっておらず、更に提供先の家畜飼養農家において家畜に供与されているかどうか不明のものや、供与されていないものも見受けられた。

 上記の状況からみて、飼料用青刈り稲による転作は、国内自給力の向上及び転作営農の安定化、定着化につながることは到底期待できないと認められた。

ウ 保全管理、飼料用青刈り稲による転作を含めて計画団地を設定しているもの

 上記のように、保全管理は、貴省で期待しているような転作につながっておらず、青刈り稲は飼料作物としては適当でないと認められるのに、保全管理や青刈り稲による転作が計画地区内の計画団地の転作実施水田面積の2分の1以上を占めているもの、あるいは計画地区全体の転作実施水田面積の2分の1以上を占めているものが次のとおり見受けられた。

年度 道府県数 市町村数 地区数 面積 奨励補助金


56


38

193
地区
1,546
ha
12,143

59億6千万円
57 38 180 1,601 10,805 52億0千万円

3,147 22,949 111億7千万円

 このように実効の少ない計画団地を構成して計画加算額の交付を受けているのは、本対策の趣旨からみて適切を欠いた事態であると認められる。

(4) 市街化区域(注6) 又は用途地域(注7) 内に計画団地、連担団地を設定しているもの

 建設省が多額の国費を投じて道路、公園、広場等の都市施設を設置し市街化の促進を積極的に進めている都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく都市計画区域内の市街化区域又は用途地域内における転作の実態について調査したところ、同区域内等に計画団地、連担団地を設定しているものが次のとおり見受けられた。

年度 道府県数 市町村数 地区数 面積 奨励補助金

56

35

90
地区
554
ha
2,697

12億4千万円
57 34 90 597 2,825 13億2千万円

1,151 5,522 25億7千万円

 これらの計画団地、連担団地の転作実施水田の中には、既に盛土が行われていて農業用地に適さない形状となっているものがあり、また、団地内の用水路の中には、都市の雑排水が混入していて用水路としての機能が低下しているものもあった。
 なお、土地区画整理事業が完了した地域内の水田に計画団地、連担団地を設定しているものが見受けられるが、これらの地域内では、営農の転作の定着化を期待することは困難であると認められた。
このような事態を生じているのは、

(1)及び(2)については、

ア 道府県及び市町村が計画加算及び団地化加算の設けられた趣旨に沿った指導を十分に行っていないこと、

イ 水田利用再編計画及び団地化計画の認定に当たる市町村が、計画の審査を十分に行わないで認定していること、

ウ 市町村の関係者の中には、市町村あるいは集落ごとの転作等目標面積を総量で達成しさえすれば計画加算の交付を受けられるものと誤解していたり、できうる限り多額の奨励補助金を転作農業者に交付するよう取り計らおうとして計画団地の要件を拡大解釈したりしていること

などによると認められる。

(3)については、

ア 農協等への預託水田は、湿田であったり、不整形、狭あいな区画であったりしていて、ほ場条件が悪く、機械の効率的稼働による生産性の高い転作に適さない水田が預託される傾向が強いこと、

イ 湿田地帯の水稲単作経営が行われている地域では、他作物の栽培技術水準が低く、また、その地域に適した転作作物がほとんどないため、青刈り稲による転作が行われる傾向が強いこと、

ウ 現行の奨励補助金の制度が、飼料用青刈り稲については、大豆、麦等の転作作物と同様、特定作物として格付けし、一般作物の転作の場合より高額の奨励補助金を交付することとしていることから、他作物による転作を十分検討しないまま安易に青刈り稲による転作を行っていること

などによると認められる。

(4)については、

 農業的土地利用と都市的土地利用について地方自治体内部における実施部門間の調整が十分でないこと

などによると認められる。

3 転作作物のうち大豆、麦、そば、飼料作物の生産及び流通の状況について

 貴省が本事業において、大豆、麦、そば、飼料作物を転作の拡大を担うべき重点作物である特定作物として位置付けているのは、前述のように、単収の向上、生産性の向上、品質の改善、流通の合理化及び農地の効率的利用を通じて転作の定着性の向上を図ることをねらいとしているものである。
 しかして、転作作物の生産及び流通は、国内自給力の向上及び転作の定着化に真に役立つ実効あるものとなっているかどうか、本対策の事業効果に着目して出荷等の状況について調査したところ、大豆、麦、そばについては出荷率(農協を通じた出荷量の収穫量に対する割合をいう。)が低く、飼料作物については無償で提供されるなどしていて、いずれも国内自給力の向上、転作の定着化に結び付かないと認められる事態が見受けられた。

(1) 大豆、麦、そばの出荷率が30%未満と著しく低いもの

ア 大豆について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金

56

37

221
ha
10,219

57億8千万円
57 37 187 8,624 48億7千万円

18,843 106億6千万円
イ 麦について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金

56

24

63
ha
679

4億4千万円
57 20 49 687 4億6千万円

1,366 9億0千万円
ウ そばについて
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金

56

39

237
ha
4,359

26億3千万円
57 39 228 4,001 23億9千万円

8,360 50億2千万円

(2) 飼料作物が無償で提供されていたり、家畜に供与されていなかったりなどしているもの

ア 無償で提供されているもの
(ア)飼料用青刈り稲について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金


57


40

308
ha
7,203

40億2千万円
(イ)その他の飼料作物(青刈りとうもろこし、青刈りソルガム、イタリアンライグラス等)について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金


57


40

347
ha
20,630

133億7千万円
イ 家畜に供与されていないもの
(ア)飼料用青刈り稲について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金


57


12

22
ha
575

3億4千万円
(イ)その他の飼料作物について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金


57


6

13
ha
47

3千万円
ウ 家畜に供与されているかどうか不明のもの
(ア)飼料用青刈り稲について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金


57


38

260
ha
6,776

37億5千万円
(イ)その他の飼料作物について
年度 道府県数 市町村数 面積 奨励補助金


57


39

286
ha
14,178

84億0千万円

このような事態を生じたのは、

(1) 大豆、麦、そばについては、

ア 転作農業者が大豆、麦、そばの栽培に本格的に取り組まなかったこと、

イ ほ場整備、暗きょ排水等の土地基盤整備が不備な湿田には種したこと、

ウ 道府県及び市町村等の栽培技術、流通販売面等についての指導が十分でなかったこと

などによると認められる。

(2) 飼料作物については、

ア 家畜飼養農家でない耕種農家は、青刈り稲以外の飼料作物の栽培については、栽培技術に乏しいうえ、栽培用の機械を所有していないことなどから、栽培についての意欲は低く、実際には、転作実施水田を家畜飼養農家に無償で使用させ、家畜飼養農家が飼料作物のは種から収穫までを行う傾向にあること、

イ 飼料用青刈り稲の品質、数量は、刈取り、調整時の天候に左右されやすく、家畜飼養農家に安定的に供給されないこと、

ウ 飼料用青刈り稲は、刈取り時期が短期間に集中するため、その供給が一時期に限定されること、

エ 現行の要綱、要領等は青刈り稲の刈取りについての確認を要求しているが、刈取り後の供与の実態の確認までは要求していないこと

などによると認められる。

 ついては、米の生産調整対策は、46年度から実施された稲作転換対策事業等に引き続いて水田利用再編対策事業を実施して既に12年を経過しており、しかも水田利用再編対策費は、57年度についてみると、一般会計農林水産省所管支出済歳出額の約1割を占める約3600億円もの多額に上っており、昨今の我が国農業を取りまく厳しい諸情勢、特に財政事情からみて、現行のような奨励補助金が今後長期にわたって存続することは困難な状況となっていると認められる。このような状況の下に、貴省では、需要の動向に応じた農業生産の再編成と生産性の向上による転作の定着化を一層図ることを旨として水田利用再編対策事業を実施してきているが、本年度は第2期対策の最終年度であり、第3期対策の準備も進んでいるのであるから、前記のような事態にかんがみ、第3期対策においては、転作営農の生産性の向上とその定着化の一層の推進を図るため、抜本的な対策を講ずる要があると認められる。
 すなわち、

(1) 転作の定着化を図るためには、団地化を推進することが重要であると認められるが、現行の計画加算制度は前記事態からみても団地化には余り寄与しているとは認められないので、団地化加算のウエイトを高めるなど現行奨励補助金制度の見直しを行うこと、

(2) 預託水田制度は転作に結び付いておらず、その実態はほとんどが休耕となっているばかりでなく、なかには管理が不十分で原野に近い状態となっているものもある実情からみて、これを抑制する方向で制度の見直しを行うとともに、既発生の保全管理水田について流動化の促進を図ること、

(3) 飼料用青刈り稲から他の作物への転換を促進するよう努めること、

(4) 市街化区域内での計画団地、連担団地の設定に当たっては、建設省の施策との整合性に配慮すること、

(5) 大豆、麦、そばの出荷率の低い原因、飼料作物の無償提供、家畜に対する不供与等の原因を徹底的に究明し、大豆、麦等特定作物による転作の定着化を促進するため、排水等の基盤整備を推進し、水田の汎用化に努めるとともに、品種の選定、生産力、商品価値向上のための栽培管理技術、流通販売の促進等について指導体制の強化等を図ること

などの措置を講ずることが肝要であると認められる。また、今後転作はこれまで以上に集落全体の問題としてとらえて推進しないと生産性の高い営農の確立も、生産条件の改善も困難であると認められる。したがって、集落の話合い活動をすべての基本として取り組み、これまでのような農業者個々のばらばらの転作による緊急避難的な対応によることなく、非計画地区の解消、農用地の流動化、生産性の高い連担団地の育成に積極的に取り組むとともに、要綱等で定めた交付要件の厳守、確認事務の適正な励行等についても都道府県及び市町村に対する指導の徹底を図り、もって、多額の国庫補助金を投じて実施している水田利用再編対策事業の効果の向上を期する要があると認められる。

 よって、会計検査院法第36条の規定により上記の処置を要求する。

(注1) 中核的農家 16歳以上60歳未満の男子で年間自家農業従事日数が150日以上の者のいる農家
(注2) 土地改良事業の通年施行 工事の期間が稲作の期間とおおむね1月以上重複して実施するほ場整備事業等
(注3) 飼料用青刈り稲 家畜の飼料に供与するため糊熟期以前に刈り取る稲
(注4) 糊熟期 稲の茎やもみがまだ緑色で、米粒は糊状、もみは指で押すと簡単につぶれるが、乳汁は出ない時期
(注5) 耕種農家 家畜を飼養していない専ら耕作に従事している農家
(注6) 市街化区域 都市計画区域内で既に市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域
(注7) 用途地域 都市計画区域内で建物を用途によってできるだけ合理的に配置していくために定められた住居地域、商業地域、工業地域等の地域