会計名及び科目 | 一般会計 (組織)林野庁 (項)林業振興費 |
部局等の名称 | 林野庁 |
補助の根拠 | 林業改善資金助成法(昭和51年法律第42号) |
事業主体 | 北海道ほか26府県 |
事業の内容 | 林業従事者等に経営の改善等を図る目的で無利子で貸し付ける林業改善資金(林業生産高度化資金、林業労働安全衛生施設資金、林業後継者等養成資金)の貸付け |
貸付件数 | 290件 |
上記に対する貸付金の合計額 | 貸付金額775,058,000円(昭和54年度〜56年度) (国庫補助金相当額516,705,269円) |
上記資金の貸付けにおいて、本件貸付制度の周知徹底が十分でなかったため、290件、7億6202万余円(国庫補助金相当額5億0801万余円)の貸付けが適切でないと認められた。
この貸付事業は、林業経営の改善等を図るため、都道府県が国庫補助金の交付を受けて資金を造成し林業従事者等に無利子の貸付けを行うものであるが、貸付けの対象にならないものに貸し付けているもの、貸付対象事業が実施されていないもの、貸付決定前に事業が実施されているものなど、貸付制度の趣旨に沿わない事態となっていた。
したがって、林野庁において、都道府県及び借受者に対して本制度の趣旨の周知徹底を図り、都道府県における貸付申請書の審査及び事業実施報告に関する確認業務を的確に実施するよう指導監督を強化するなどの措置を講ずる要がある。
上記に関し、昭和58年11月25日、林野庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
林業改善資金の貸付けについて
貴庁では、林業改善資金助成法(昭和51年法律第42号)に基づき林業経営の改善又は林業労働に係る労働災害の防止及び林業後継者等の養成を図るため、林業従事者又はその組織する団体並びに木材製造業者等に対して、林業生産高度化資金、林業労働安全衛生施設資金又は林業後継者等養成資金の貸付けを実施している都道府県に対し、その貸付けに必要な資金の一部に充てるため昭和51年度以降57年度までに林業改善資金助成補助金として135億8552万余円を交付している。そして、この林業改善資金助成補助金の交付を受けた都道府県においては、この補助金と自己の一般会計からの繰入金等68億7255万余円を合わせて57年度末までに204億5807万余円の資金を造成し、累計353億8098万余円の貸付けを実施している。
これら資金の貸付けは、借受申請者の申請により行い、事業の所要資金を無利子で貸付けるもので、資金の種類ごとに貸付限度額を6万円から600万円までとし、償還期間を3年以内から7年以内としている。そして、都道府県では貸付対象事業の適正な実施を図るため、貸付申請時においては、貸付申請書及びその添付書類に記載された事業の計画が法令、通達等に適合しているかなどの審査を行い、また、事業実施後においては、事業実施報告の確認を行うとともに必要に応じて現地の事業実施状況について調査を行うこととしている。
しかして、58年中に本院において北海道ほか30府県(注1)
が54年度から56年度までの間に行った本件貸付17,788件貸付金額132億2869万余円のうち2,171件貸付金額49億2827万余円について調査したところ、北海道ほか26府県(注2)
において、貸付けが適切でないと認められる事態が290件、7億6202万余円(国庫補助金相当額5億0801万余円)見受けられた。
これらのうち、主な事例を挙げると次のとおりである。
1 貸付けの対象とならないものに貸し付けているもの
件数 | 貸付金額 | 左のうち国庫補助金相当額 | |
3 | 14,200,000円 | 9,466,666円 |
<事例>
県名 | 貸付先 | 貸付対象 |
貸付昭和年月 | 貸付対象事業費 (同上に対する貸付額) | 貸付対象として適切でない事業費 (同上に対する貸付金相当額) |
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額 |
茨城県 |
林業後継者団体 |
しいたけ栽培及び育林 |
55.10 |
千円 18,716 (12,000) |
千円 19,600 (12,000) |
千円 8,000 |
この貸付けは、林業後継者団体が自らしいたけ栽培と育林を組み合わせた林業複合経営を開始するためのしいたけ原木等の購入費18,716,000円の所要資金として貸し付けたもので、事業費19,600,725円で55年10月に事業を開始したとしているが、実際は、この団体は既に49年度から林業複合経営を開始していた。
しかして、本資金は、林業複合経営を開始するものに対して貸し付けるものであるから、本件事業は貸付けの対象にならないものである。
2 借受者が事業の全部又は一部を実施していないもの
件数 | 貸付金額 | 左のうち国庫補助金相当額 | |
11 | 76,257,510円 | 50,838,339円 |
<事例>
県名 | 貸付先 | 貸付対象 |
貸付昭和年月 | 貸付対象事業費 (同上に対する貸付額) |
貸付対象として適切でない事業費 (同上に対する貸付金相当額) |
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額 |
三重県 |
製材業者 |
水圧バーカ一式 (皮はぎ機) |
|
千円 5,500 (4,500) |
千円 5,500 (4,500) |
千円 3,000 |
この貸付けは、水圧バーカ(皮はぎ機)一式5,500,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で56年10月に設備を設置したとしているが、実際は、設置していなかった。
したがって、本件貸付けはその要がないものである。
3 借受者が貸付額より低額で事業を実施しているもの
件数 | 貸付金額 | 左のうち国庫補助金相当額 | |
3 | 2,876,000円 | 1,917,332円 |
<事例>
県名 | 貸付先 | 貸付対象 |
貸付昭和年月 | 貸付対象事業費 (同上に対する貸付額) |
貸付対象として適切でない事業費 (同上に対する貸付金相当額) |
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額 |
埼玉県 |
林業従事者 |
林内作業用トラクタ |
|
千円 1,980 (1,700) |
千円 980 (980) |
千円 653 |
この貸付けは、林内作業用トラクタ1台1,980,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で55年4月に機械を導入したとしているが、実際は、中古の林内作業用トラクタを720,000円で導入していた。
したがって、適切な貸付額は720,000円となり、本件貸付額1,700,000円との差額980,000円は過大な貸付けとなっている。
4 借受者が当該資金で導入したものを無断で処分しているもの
件数 | 貸付金額 | 左のうち国庫補助金相当額 | |
1 | 1,360,000円 | 906,666円 |
県名 | 貸付先 | 貸付対象 |
貸付昭和年月 | 貸付対象事業費 (同上に対する貸付額) |
貸付対象として適切でない事業費 (同上に対する貸付金相当額) |
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額 |
岡山県 |
林業従事者 |
暖房装置付人員輸送車 |
|
千円 1,360 (1,360) |
千円 1,418 (1,360) |
千円 906 |
この貸付けは、暖房装置付人員輸送車1台1,360,000円の所要資金として貸し付けたもので、事業費1,418,000円で56年11月に車両を導入していた。しかし、借受者は57年11月に無断で車両を売却していた。
5 借受者は、貸付決定の後に事業に着手することになっているのに、貸付決定前に事業に着手しているもの(注3)
件数 | 貸付金額 | 左のうち国庫補助金相当額 | |
273 | 669,587,000円 | 446,391,272円 |
このうち、約5割を占めている150件436,355,000円(国庫補助金相当額290,903,295円)は、貸付申請以前に事業に着手しており、更に、87件138,647,000円(国庫補助金相当額92,431,306円)は、貸付申請以前に既に事業を完了している状況である。
<事例1>
県名 | 貸付先 | 貸付対象 |
貸付昭和年月 | 貸付対象事業費 (同上に対する貸付額) |
貸付対象として適切でない事業費 (同上に対する貸付金相当額) |
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額 |
奈良県 |
製材業者 |
バーカ一式 (皮はぎ機) |
|
千円 4,550 (4,300) |
千円 4,550 (4,300) |
千円 2,866 |
この貸付けは、55年12月の貸付申請によりバーカ(皮はぎ機)一式4,550,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で56年3月に設備を設置したとしているが、実際は、貸付申請前の55年4月に設備を設置し、同年7月に事業を完了していた。
<事例2>
県名 | 貸付先 | 貸付対象 |
貸付昭和年月 | 貸付対象事業費 (同上に対する貸付額) |
貸付対象として適切でない事業費 (同上に対する貸付金相当額) |
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額 |
兵庫県 |
林業従事者 |
暖房装置付人員輸送車 |
|
千円 1,540 (1,500) |
千円 1,540 (1,500) |
千円 1,000 |
この貸付けは、56年5月の貸付申請により暖房装置付人員輸送車1台1,540,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で56年8月に車両を導入したとしているが、実際は、貸付申請前の56年2月に導入し、同年4月に事業を完了していた。
このような事態を生じたのは、貴庁において、道府県に対する指導が的確でなく、本制度の趣旨についての周知徹底が十分でなかったこと、また、道府県において、貸付申請書の審査、事業実施報告に関する確認、貸付対象事業の実施状況についての現地調査がいずれも十分でなかったこと、借受者の資金需要に応じた適時、適切な貸付けの実施が行われていなかったこと、更に、借受者においても本制度に対する認識が十分でないまま安易に資金を借り受けていたことによると認められる。
ついては、今後も引き続き本制度により林業の発展を図るものであるから、貸付対象事業の適正な実施を期するため、貴庁において都道府県及び借受者に対し、本制度の趣旨の周知徹底を図り、都道府県における貸付申請書の審査及び事業実施報告に関する確認業務を的確に実施するよう指導監督を強化するとともに、借受者の資金需要に応じた適時、適切な貸付けについての具体的な実施方法を明確にするなどの措置を講ずる要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) | 北海道ほか30府県 | 北海道、大阪府、京都府、岩手、宮城、茨城、埼玉、神奈川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県 |
(注2) | 北海道ほか26府県 | 北海道、京都府、岩手、宮城、茨城、埼玉、神奈川、福井、長野、岐阜、愛知、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、鹿児島各県 |
(注3) | この中には2の事態と重複するもの1件2,257,500円(国庫補助金相当額1,505,000円)を含む。 |