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  • 昭和57年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

沿岸漁業改善資金の貸付けについて適正な事業実施を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(4) 沿岸漁業改善資金の貸付けについて適正な事業実施を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁 (項)水産業振興費
部局等の名称 水産庁
補助の根拠 沿岸漁業改善資金助成法(昭和54年法律第25号)
事業主体 北海道ほか13府県
事業の内容 沿岸漁業従事者等に経営の改善等を図る目的で無利子で貸し付ける沿岸漁業改善資金(経営等改善資金、生活改善資金、後継者等養成資金)の貸付け
貸付件数 110件
上記に対する貸付金の合計額 貸付金額 156,695,000円(昭和54年度〜56年度)
(国庫補助金相当額 104,463,308円)

 上記資金の貸付けにおいて、本件貸付制度の周知徹底が十分でなかったため、110件、1億5192万余円(国庫補助金相当額1億0128万余円)の貸付けが適切でないと認められた。
 この貸付事業は、沿岸漁業経営の改善等を図るため、都道府県が国庫補助金の交付を受けて資金を造成し沿岸漁業従事者等に無利子の貸付けを行うものであるが、貸付対象事業が実施されていないもの、貸付決定前に事業が実施されているものなど、貸付制度の趣旨に沿わない事態となっていた。
 したがって、水産庁において、都道府県及び借受者に対して本制度の趣旨の周知徹底を図り、都道府県における貸付申請書の審査及び事業実施報告に関する確認業務を的確に実施するよう指導監督を強化するなどの措置を講ずる要がある。

 上記に関し、昭和58年11月25日、水産庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

沿岸漁業改善資金の貸付けについて

 貴庁では、沿岸漁業改善資金助成法(昭和54年法律第25号)に基づき、沿岸漁業の経営の健全な発展、漁業生産力の増大及び沿岸漁業の従事者の福祉の向上を図るため、沿岸漁業従事者又はその組織する団体等に対して経営等改善資金、生活改善資金又は後継者等養成資金の貸付事業を実施している都道府県に対し、その貸付けに必要な資金の一部に充てるため昭和54年度以降57年度までに沿岸漁業改善資金助成補助金として79億5674万余円を交付している。そして、この沿岸漁業改善資金助成補助金の交付を受けた都道府県においては、この補助金と自己の一般会計からの繰入金等40億1161万余円を合わせ57年度末までに119億6835万余円の資金を造成し、累計145億6795万余円の貸付けを実施している。

 これら資金の貸付けは、借受申請者の申請により行い、事業の所要資金を無利子で貸し付けるもので、資金の種類ごとに貸付限度額を8万円から400万円までとし、償還期間を2年以内から7年以内としている。そして都道府県では、貸付対象事業の適正な実施を図るため、貸付申請時においては、貸付申請書及びその添付書類に記載された事業の計画が法令、通達等に適合しているかなどの審査を行い、また、事業実施後においては、事業実施報告の確認を行うとともに、必要に応じて現地の事業実施状況について調査を行うこととしている。

 しかして、58年中に本院において、北海道ほか27府県(注1) が54年度から56年度までの間に行った本件貸付け11,123件、貸付金額80億2444万余円のうち、1,976件、貸付金額25億6817万余円について調査したところ北海道ほか13府県(注2) において、貸付けが適切でないと認められる事態が110件、1億5192万余円(国庫補助金相当額1億0128万余円)見受けられた。
 これらのうち、主な事例を挙げると次のとおりである。

1 貸付けの対象とならないものに貸し付けているもの

件数 貸付金額 左のうち国庫補助金相当額
1 800,000円 533,333円

 

県名 貸付先

貸付対象

貸付昭和年月 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額

佐賀県

沿岸漁業従事者

居室の改築


56.3

千円
982
(800)
千円
982
(800)
千円
533

 この貸付けは、既存家屋の改築費982,000円の所要資金として貸し付けたもので、56年6月に上記建物を改築したとしているが、実際は、既存家屋の改築ではなく倉庫兼住宅の新築を行っていた。しかして、本資金は既存家屋を改築する場合に貸し付けるものであり、本件倉庫兼住宅の新築は貸付けの対象とはならないものである。

2 借受者が事業の全部又は一部を実施していないもの

件数 貸付金額 左のうち国庫補助金相当額
22 13,925,850円 9,283,896円

<事例>

県名 貸付先 貸付対象 貸付昭和年月 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額

熊本県

沿岸漁業従事者

低燃費機関一式


57.2

千円
3,600
(3,000)
千円
3,600
(3,000)
千円
2,000

 この貸付けは、低燃費機関一式3,600,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で57年3月に設備を設置したとしているが、実際は、設置していなかった。
 したがって、本件貸付けはその要はないものである。

3 借受者が貸付額より低額で事業を実施しているもの

件数 貸付金額 左のうち国庫補助金相当額
5 3,750,000円 2,500,000円

<事例>

県名 貸付先 貸付対象 貸付昭和年月 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額

宮城県

沿岸漁業従事者

低燃費機関一式


56.9

千円
5,000
(4,000)
千円
1,750
(750)
千円
500

 この貸付けは、低燃費機関一式5,000,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で56年9月に設備を設置したとしているが、実際は、貸付金より低額な3,250,000円で設置していた。
 したがって、適切な貸付額は3,250,000円となり、本件貸付額4,000,000円との差額750,000円は過大な貸付けとなっている。

4 借受者が当該資金で導入したものを無断で処分しているもの

件数 貸付金額  左のうち国庫補助金相当額
4 4,930,000円 3,286,666円

<事例>

県名 貸付先 貸付対象 貸付昭和年月 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額

福岡県

沿岸漁業従事者

低燃費機関一式


56.7

千円
6,945
(4,000)
千円
6,945
(4,000)
千円
2,666

 この貸付けは、低燃費機関一式6,945,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で設備を設置していた。 しかし、借受者は57年7月に無断で同設備を所有船と共に売却していた。

5 借受者は、貸付決定の後に事業に着手することになっているのに、貸付決定前に事業に着手しているもの(注3)

件数 貸付金額 左のうち国庫補助金相当額
90 134,325,000円 89,549,978円

 このうちの約7割の68件98,740,000円(国庫補助金相当額65,826,649円)は、貸付申請以前に事業に着手しており、更に、53件70,260,000円(国庫補助金相当額46,839,987円)は、貸付申請以前に既に事業を完了している状況である。

<事例1>

県名 貸付先 貸付対象 貸付昭和年月 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額

愛媛県

沿岸漁業従事者

油圧装置一式、揚網機一式、自動操だ装置一式


55.12

千円
2,900
(2,400)
千円
2,900
(2,400)
千円
1,600

 この貸付けは、55年8月の貸付申請により、油圧装置一式、揚網機一式及び自動操だ装置一式2,900,000円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で55年12月に上記設備を設置したとしているが、実際は、貸付申請の前の55年2月に設備を設置し、同年3月に事業を完了していた。

<事例2>

府名 貸付先 貸付対象 貸付昭和年月 貸付対象事業費
(同上に対する貸付額)
貸付対象として適切でない事業費
(同上に対する貸付金相当額)
補助の目的に沿わない結果になった国庫補助金相当額

京都府

沿岸漁業従事者

油圧装置一式、揚網機一式


55.4

千円
2,315
(1,600)
千円
2,315
(1,600)
千円
1,066

 この貸付けは、54年12月の貸付申請により、油圧装置一式及び揚網機一式2,315,420円の所要資金として貸し付けたもので、貸付対象事業費どおりの価格で55年5月に上記設備を設置したとしているが、実際は、貸付申請の前の54年10月に設備を設置し、同年11月に事業を完了していた。
 このような事態を生じたのは、貴庁において、道府県に対する指導が的確でなく、本制度の趣旨の周知徹底が十分でなかったこと、また、道府県において貸付申請書の審査、事業実施報告に関する確認、貸付対象事業の実施状況についての現地調査がいずれも十分でなかったこと、借受者の資金需要に応じた適時、適切な貸付けの実施が行われていなかったこと、更に、借受者においても本制度に対する認識が十分でないまま安易に資金を借り受けていたことによると認められる。
 ついては、今後も引き続き本制度により沿岸漁業の振興を図るものであるから、貸付対象事業の適正な実施を期するため、貴庁において都道府県及び借受者に対し、本制度の趣旨の周知徹底を図り、都道府県における貸付申請書の審査及び事業実施報告に関する確認業務を的確に実施するよう指導監督を強化するとともに、借受者の資金需要に応じた適時、適切な貸付けについての具体的な実施方法を明確にするなどの措置を講ずる要があると認められる。
 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

(注1) 北海道ほか27府県 北海道、京都府、大阪府、岩手、宮城、茨城、神奈川、福井、長野、静岡、愛知、三重、兵庫、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
(注2) 北海道ほか13府県 北海道、京都府、宮城、福井、鳥取、島根、広島、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、鹿児島各県
(注3) この中には、2の事態と重複するもの7件、2,055,000円(国庫補助金相当額1,369,999円)、3の事態と重複するもの5件、3,750,000円(国庫補助金相当額2,500,000円)が含まれる。