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  • 昭和57年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第4 住宅金融公庫|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

公庫貸付金により建設された中高層建築物について、無断用途変更の防止を図るよう是正改善の処置を要求したもの


公庫貸付金により建設された中高層建築物について、無断用途変更の防止を図るよう是正改善の処置を要求したもの

科目 (貸付金勘定)中高層耐火建築物貸付
部局等の名称 住宅金融公庫東京、名古屋、大阪、高松、福岡各支所
貸付けの根拠 住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)
貸付金の内容 大都市、地方中心都市等において中高層建築物(建物全部が住宅)の建設を希望する土地所有者(借地権者を含む。)に対して貸し付ける資金
貸付件数 54件
貸付金の合計額 6,966,400,000円 (昭和53年度〜56年度)

 上記の貸付け54件において、貸付けを受けた者により、貸付契約に違反して建物の一部が店舗等に用途変更されていた。これに係る要繰上償還額及び違約金の合計額は20億5982万余円となっていた。
 このような事態は、貸付けを受けた者の不誠実にもよるが、住宅金融公庫において、この貸付けが非住宅部分の併設を認めている同種の貸付けより有利な貸付条件となっているにもかかわらず、貸付時の審査及び貸付後の実態調査に当たって、非住宅部分へ転用されやすい建物について格別の考慮を払っていなかったことによると認められるので、速やかに是正改善の処置を講ずる要がある。

 上記に関し、昭和58年10月21日、住宅金融公庫総裁に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

土地担保中高層建築物貸付けの対象建物の無断用途変更の防止について

 貴公庫では、貸付業務の一環として、昭和40年度以降、「土地担保中高層建築物貸付け」(56年度までは「土地担保中高層耐火建築物貸付け」)を実施しており、その貸付実績は、53年度から57年度までについてみても、848件931億7640万円となっている。

 この貸付けは、大都市、地方中心都市又はこれらの周辺都市の既成市街地で居住環境の良好な地域に中高層共同住宅の建設を促進し、これらの地域における土地の合理的利用を図ることを目的として、遊休未利用地の所有者又は借地権者に対し貸し付けるもので、対象となる建物は、その全部が貸付契約により賃料が規制されている住宅に限られており(居住者用の車庫、物置等は住宅面積に含まれる。)、貸付金額の限度を建物の建設費の99.45%に相当する額、貸付金の償還期間を20年以内、利率を年利7.5%(57年2月以降)としている。これは、賃料が規制されていない店舗、事務所等の非住宅部分の併設が認められている「一般中高層建築物貸付け」の場合の、貸付金額の限度を建設費の75%、償還期間を住宅部分20年以内及び非住宅部分10年以内、利率を住宅部分7.5%(57年2月以降)及び非住宅部分8.15%(57年4月以降)としているのに比べて、相当有利な貸付条件となっている。

 しかしながら、58年中に、本院において、貴公庫東京、名古屋、大阪、高松、福岡各支所が53年度から56年度までの間に行った本件貸付け564件貸付金額633億7070万円のうち、304件貸付金額359億9460万円について、その対象建物の使用状況を実地に調査したところ、東京支所管内の29件、名古屋支所管内の5件、大阪支所管内の15件、高松支所管内の2件、福岡支所管内の3件、合計54件貸付金額69億6640万円については、貸付契約に違反して、車庫、ピロティなどの全部若しくは一部又は住戸の一部が住宅以外に用途変更(以下「転用」という。)されていることが判明した。このうち、車庫、ピロティなどが転用されているものが41件に上っている状況であった。そして、これら転用された建物は、内部が住宅としての用途を果たさない程度にまで造作、改造が加えられており、しかも、外観上容易に転用の事実を確認できる状態となっていた。

 しかして、これらの事態に対しては、貴公庫で定める「中高層耐火建築物等用途変更処理要領」(昭和41年8月16日住公発第421号)によれば、原状回復を請求することとなるが、原状回復が困難な場合には、転用部分に係る貸付現在額を繰上償還させるとともに違約金を徴求し、併せて「一般中高層建築物貸付け」へ貸付種別を変更して住宅部分に係る貸付金についての貸付金額の限度の差に見合う額を別途繰上償還させることとなっている。そして、前記の54件について、繰上償還の方法によって処理することとすれば、転用部分に係る要繰上償還額は4億9299万余円、同違約金は4879万余円(57年度末までの額)、貸付種別の変更に伴う要繰上償還額は15億1803万余円となるものである。

 いま、これらのうち主な事例を挙げると次のとおりである。

支所名

建築物所在地 貸付年度 貸付金額 建築延面積 転用部分の延面積 左に係る要繰上償還額相当額同違約金相当額 種別変更に伴う要繰上償還額相当額
千円 m2
(戸数)
m2 千円 千円
(1) 東京 東京都文京区水道 53 91,300 1,052.7
(20)
235.4 14,664
1,898
20,899
貸付対象建物の1階車庫部分24.9m2 が55年8月に改造のうえスナック1店舗に、また、住戸4戸210.5m2 が55年11月から57年4月にわたり順次造作のうえ会社事務所(4社)に、それぞれ転用されていた。
(2) 東京 東京都渋谷区桜丘町 55 110,100 1,290.2
(21)
442.0 36,400
3,756
16,724
貸付対象建物の住戸8戸が、56年11月に改造のうえ簡易宿泊所16室に転用されていた。
(3) 東京 東京都渋谷区桜丘町 56 80,200 865.8
(11)
515.5 37,524
2,331
16,960
貸付対象建物の住戸7戸が、57年3月から58年1月にわたり順次造作のうえ会社事務所(6社)等に転用されていた。
(4) 名古屋 愛知県名古屋市中村区二瀬町 54 67,000 724.4
(12)
142.1 9,931
672
14,509
貸付対象建物の1階車庫部分が、57年1月から9月にわたり順次改造のうえ会社事務所(2社)及び喫茶店1店舗に転用されていた。
(5) 大阪 大阪府寝屋川市香里北之町 54 121,600 1,313.6
(18)
131.2 9,398
692
27,216
貸付対象建物の1階車庫部分が、56年10月から58年3月にわたり順次改造のうえスナック等の飲食店3店舗に転用されていた。

 このような事態を生じているのは、貸付けを受けた者の不誠実にもよるが、本件貸付対象建物の全部が住宅であるので収益性が低いこと、実際の貸付対象建物をみると商業地域や近隣商業地域の主要道路に面して立地しているものが少なくないこと、その構造上、車庫、ピロテイ等を含んでいるものが少なくないことなどから、本件貸付けは、対象建物が店舗、事務所等の非住宅用途に転用されやすく、しかも貸付金額の限度について優遇されているにもかかわらず、貴公庫においては、貸付審査に当たって、非住宅部分へ転用されやすい建物について格別の考慮が払われているとは認められず、また、貸付け後、毎年実施している貸付対象についての実態調査に当たって、調査対象の選定などについて十分な配慮が払われていないことによると認められる。

 ついては、前記の54件について早急に是正の措置を講ずる要があることはもとより、貴公庫では、今後も多数の「土地担保中高層建築物貸付け」を行うことが見込まれているのであるから、上記にかんがみ、速やかに、次のような方途を講じ、もって本件貸付業務の適正な運営を確保する要があると認められる。

(1) 貸付担当部門においては、借入申込者に対して本件貸付制度とりわけ転用の場合の厳しい措置について十分認識させ、また、貸付審査の際には、立地条件や建物の構造等から非住宅用途に転用される虞の有無についても十分留意し、必要に応じて管理担当部門に対し適切な情報提供をするなどの審査体制を整備する。

(2) 管理担当部門においては、貸付対象についての実態調査を行うに当たって、貸付種別、個々の貸付けの態様、貸付担当部門からの情報等に応じて調査対象を適切に選定し、重点的、効果的な実態調査を実施するなどの管理体制を整備する。

 よって、会計検査院法第34条の規定により上記の処置を要求する。