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  • 昭和57年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第8 日本道路公団|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

トンネル工事における火薬取扱労務費の積算を施工の実態に適合するよう改善させたもの


(2) トンネル工事における火薬取扱労務費の積算を施工の実態に適合するよう改善させたもの

科目 (款)高速道路建設費
(款)一般有料道路建設費
(項)建設工事費
(項)建設工事費
部局等の名称 仙台、東京第一、名古屋、大阪、広島各建設局
工事名 東北自動車道坂梨トンネル南(その1)工事ほか7工事
工事の概要 高速道路等の建設工事の一環として、トンネル等を施工する工事
工事費 27,956,000,000円
請負人 株式会社熊谷組、株式会社錢高組東北自動車道坂梨トンネル南(その1)工事共同企業体ほか7共同企業体
契約 昭和57年6月〜58年3月 指名競争契約、随意契約

 上記の各工事において、火薬取扱労務費の積算(積算額3億4446万余円)が適切でなかったため、積算額が約1億2100万円過大となっていた。
 このように積算額が過大となっているのは、積算基準が制定された昭和55年当時に比ベトンネルの施工方法が変わり、1日当たりの発破回数が少ないNATM(注1) が主体となっているため、火薬の取扱いや帳簿整理などの作業が減少しているのに、これを積算に反映していなかったことによるもので、作業の実態に即した積算をする要があると認められた。

 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)

 日本道路公団(以下「公団」という。)では、高速道路等建設工事を毎年多数実施しているが、このうち、上記部局が昭和57年度中に契約しているトンネル工事8工事(工事費総額279億5600万円)について検査したところ、次のとおり、トンネル工事における火薬取扱労務費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。

 すなわち、上記各工事は、いずれもトンネル工事をNATMにより施工するもので、トンネルの掘削に使用する火薬類の取扱労務費については、公団本社制定の「土木工事積算要領」(以下「積算要領」という。)により、トンネル1本(上り及び下り線を対面通行で使用する場合のトンネルをいう。)を施工する場合には1日2方(注2) 当たりトンネル特殊工4.9人、トンネル2本(上り及び下り線を専用に使用する場合で並行したトンネル2本を同一工事で施工する場合のトンネルをいう。)を施工する場合には1日2方当たりトンネル特殊工5.9人をそれぞれ見込んで、8工事で計3億4446万余円と算定していた。

 しかして、火薬類の取扱作業の内容は、トンネル特殊工が爆薬包及び雷管を火薬庫より搬出し、これを火薬類取扱所まで運搬、搬入する作業及び火薬類取扱所に搬入、保管した火薬類のうち爆薬包を直接切羽の作業員に引き渡し、また、爆薬包及び雷管を火工所に搬入して親ダイ(注3) を作製する作業であり、これらの各作業の各々について、その数量の確認、整理、帳簿への記入を行うこととなっている。そして、上記の作業の歩掛かりについては、53年当時、主として底設導坑先進上部半断面工法(注4) や側壁導坑先進上部半断面工法(注5) の施工実態を調査して定めたもので、これらの工法では、トンネル掘削断面を幾つにも分割して掘削するため、発破回数がトンネル1本につき1日2方で11回から15回程度と多かったことによるものである。

 しかしながら、近年トンネル工事は主としてNATMが採用されるようになってきており、上記工法とは異なり大断面で掘削するため、発破回数はトンネル1本につき1日2方で3回程度と少なくなっているので、本院において火薬取扱労務歩掛かりの実態を調査したところ、発破回数が著しく少なくなったため、従前に比べ火薬取扱作業がまとめて行われるようになり、搬入、搬出の作業や帳簿の記入、整理の出納作業が少なくなり、火薬庫から火工所までの一連の作業を1日2方当たり、トンネル1本を施工する場合はトンネル特殊工3人、トンネル2本を施工する場合はトンネル特殊工4人ですべて処理されており、前記の歩掛かりを相当程度下回っていると認められた。

 したがって、上記各工事の火薬取扱労務費について、施工の実態を考慮して積算したとすれば、積算額を約1億2100万円程度低減できたと認められた。

 上記についての本院の指摘に基づき、日本道路公団では、58年11月に積算要領の火薬取扱労務費の歩掛かりを適正なものに改め、同月以降契約を締結する工事から適用することとする処置を講じた。

(注1) NATM New Austrian Tunnelling Methodの略でナトムと呼ばれる。トンネルを掘削した後、吹付けコンクリート、ロックボルトなどを適宜組み合わせ、覆工コンクリートを施工して、地山を支持し、地山の持っている保持力を最大限に生かす工法
(注2) 2方 作業を1日当たり昼夜2交替で施工すること
(注3) 親ダイ 火工所において爆薬包に雷管を取り付けたものを親ダイという。また、親ダイ以外の爆薬包を子ダイという。
(注4) 底設導坑先進上部半断面工法
トンネル掘削断面の中央下部に設けた導坑を先進して掘削し、上部に切り広げてトンネルを完成する工法。底設導坑によって地質の確認と地下水位の低下が図れるため、従前からトンネル掘削工法の標準工法とされてきた。
(注5) 側壁導坑先進上部半断面工法
2本の側壁導坑を交互に先進させて、上部半断面を切り広げる工法。地質が軟弱で湧水が多量であっても施工できる。

(参考図)

(参考図)