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  • 昭和57年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第14 日本原子力船研究開発事業団|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

原子力船「むつ」の開発について


原子力船「むつ」の開発について

科目 (款)開発事業費
(款)事業管理費
(款)一般管理運営費
部局等の名称 日本原子力船研究開発事業団
事業の概要 原子力船「むつ」を建造し、実験航海等を行って小型高性能の改良型船舶用原子炉の研究開発に資する実証的データを得ること
決算累計額 44,920,965,704円 (昭和38〜57事業年度)
国の支出累計額 事業団への出資金
事業団への補助金
地元対策としての補助金
31,781,000,000円
12,961,219,702円
3,717,080,000円

合計

48,459,299,702円

 日本原子力船研究開発事業団では、原子力船「むつ」を建造し、実験航海等を行って小型高性能の改良型船舶用原子炉の研究開発に資する実証的データを得ることとしているが、建造後10余年を経過した現在においてもいまだに実験航海等が実施できる状況になっておらず、昭和38年度以降総額484億5929万余円に上る多額の国費が投じられてきたにもかかわらず、「むつ」の開発に係る事業効果の発現が著しく遅延している。

(説明)

 原子力船研究開発事業は、将来の原子力商船時代の到来に備え、船舶用原子炉の研究開発を中心に原子力船の建造技術を確立することなどを目的とした長期の科学技術研究開発事業であり、原子力委員会が昭和36年2月に策定した原子力開発利用長期計画において45年までに原子力船1隻を建造すべきこととされて以来、38年8月に設立された日本原子力船開発事業団(55年11月、日本原子力船研究開発事業団に改組、以下「事業団」という。)を中心に推進されてきており、既に20余年が経過している。そして、上記計画(42年4月改訂)に従い内閣総理大臣及び運輸大臣が38年10月に定めた原子力第1船開発基本計画(42年3月及び46年7月改訂)において50年度末までに終了することとされていた原子力船「むつ」の開発については、47年9月、建造費約73億円をもって建造されたが、49年9月、外洋における出力上昇試験の初期段階において、しゃへいの不備により放射線漏れを生じたため、大湊港に原子炉を凍結した状態で係留されたままとなり、このような状態で推移すれば、「むつ」の開発は多額の国費を投じたにもかかわらず、その開発の成果が確認されないまま、更に、相当額の国庫負担を要することとなると認められたので、昭和50年度決算検査報告において特に掲記を要すると認めた事項として掲記したところである。

 その後の経緯についてみると、事業団は修理港の選定に3年余を費やし、53年7月に至り長崎県等関係五者(注1) の協定によって、「むつ」のしゃへい改修等の修理は約3箇年の期間で佐世保港で実施し、修理終了後「むつ」は新定係港に回航することが取り決められた。しかし、修理請負会社の体制が整わず、係船契約にも時日を要したため工事実施が遅れ、ようやくしゃへい改修工事が55年8月に、また、安全性総点検補修工事が56年10月にそれぞれ開始され57年6月に修理が完了し、同年9月、「むつ」は補助ボイラーを動力源として佐世保港から大湊港に回航され、原子炉が凍結された状態で、現在同港に停泊している。

 一方、「むつ」の定係港については、大湊港に約30億円を投じて核燃料交換施設その他の定係港施設等を整備したが、地場産業の変化等もあって、放射線漏れを契機として、49年10月、青森県等関係四者(注2) の協定により、定係港を撤去することとされ、新定係港を6箇月以内に決定することとされた。しかし、この新定係港の決定は大幅に遅れて修理終了後の57年8月、ようやく青森県等関係五者(注3) の協定により、新定係港をむつ市関根浜に建設することの決定をみた。そして、この協定により新定係港はおおむね61年9月の供用開始を目途として建設されることとなったが、それまでの間「むつ」は原子炉が凍結された状態で大湊港に停泊させるものとされ、また、この停泊中に出力上昇試験等を実施するために原子炉の凍結を解除するには地元関係者の同意を得る必要があるとされた。

 この間、「むつ」の開発に要した経費についてみると、38事業年度から57事業年度までの事業団の支出決算累計額は、政府出資金317億8100万円、国庫補助金129億6121万余円を主な原資として449億2096万余円に達している。また、国の一般会計からは青森、長崎両県に対する地元対策のための補助金として49年度から57年度までに合計37億1708万円が支出されている。

 このように多額の事業費を要したのは、主として49年9月の放射線漏れにより、しゃへい改修工事や安全性総点検補修工事に多額の経費が発生したことによるものであり、49事業年度までの12事業年度間の事業団の支出決算累計額157億7527万余円に対して、50事業年度以降57事業年度までの支出決算累計額は291億4568万余円となっており、このうち、佐世保港における「むつ」のしゃへい改修等に要した資金だけでも、しゃへい改修工事費60億7895万余円、安全性総点検補修工事費26億8359万余円のほか、係船料及び管理費等37億0350万余円を含めると総額124億6604万余円に上っている。

 しかして、このように多額の経費を要してしゃへい改修等を実施してきたのであるから、その適否を契約上のかし担保期間内に確認し開発の成果をあげるためにも格段の努力を要すると考えられる。

 上記のとおり、原子力船実用化のための技術的基盤の確立を目的とする「むつ」による原子力船開発は、50年度末までにすべて完了することとされていたのに、放射線漏れによりしゃへい改修工事や安全性総点検補修工事が必要となったこと、及び放射線漏れや地場産業の変化等により、定係港の変更を余儀なくされたことから著しく遅延を来しており、いまだ開発の成果を確認するに至っていないばかりでなく、当初の予想を大きく上回る多額の国費を投ずる結果となっている。そして、このまま推移すると、今後、更に多額の国庫負担を要するものと認められる。

(注1) 長崎県等関係五者 科学技術庁長官、日本原子力船開発事業団理事長、長崎県知事、佐世保市長、長崎県漁業協同組合連合会会長
(注2) 青森県等関係四者 政府代表、青森県漁業協同組合連合会会長、青森県知事、むつ市長
(注3) 青森県等関係五者 科学技術庁長官、日本原子力船研究開発事業団理事長、青森県知事、むつ市長、青森県漁業協同組合連合会会長