(検査の対象)
会計検査院は、国の一般会計及び特別会計の収入支出をはじめ、国の所有する現金、物品、国有財産、国の債権、債務等すべての分野の国の会計のほか、公社、公庫等の政府関係機関の会計、国が資本金の2分の1以上を出資している公団、事業団等の会計、及び法律により会計検査院の検査に付するものと定められた日本放送協会の会計を検査の対象としている。
さらに、会計検査院は、国が資本金の一部を出資しているものの会計や国又は公社が資本金を出資したものが更に出資しているものの会計のほか、国が補助金その他の財政援助を与えた都道府県、市町村、各種組合、学校法人等の会計についても必要に応じて検査することができることになっている。
(検査の観点)
会計検査に当たっては、次のような多角的な観点から検査を実施している。すなわち、決算の表示が予算執行の状況を正確に表現しているかという正確性の側面、会計経理が予算や法律、政令などに従って適正に処理されているかという合規性の側面、事業が経済的、効率的に実施されているか、つまり、より少ない費用で実施できないか、同じ費用でより大きな成果が得られないかという経済性、効率性の側面、事業が所期の目的を達成し効果をあげているかという有効性の側面である。
(検査の方法及び実績)
前記の検査対象機関に対する検査の主な方法は、書面検査及び実地検査であって、書面検査は、前記の検査対象となる会計を取り扱う機関から、会計検査院の定める計算証明規則により、当該機関で行った会計経理の実績を記載した計算書及びその証拠書類等を提出させ、これらの書類について行う検査であり、また、実地検査は、これら検査対象機関の官署、事務所等に職員を派遣して行う検査である。
しかして、会計検査院が既往1年間に実施した検査の実績を示すと次のとおりである。
(1) 書面検査については、昭和59年度分の計算書24万1千余冊及びその証拠書類6590万3千余枚について実施した。
(2) 実地検査については、59年11月から60年10月までの間に、検査対象機関の官署、事務所等4万1千余箇所のうち、その9.0%に当たる3千7百余箇所(うち、重要な箇所4千9百余箇所については41.9%に当たる2千余箇所、これに準ずる箇所1万2千1百余箇所については10.3%に当たる1千2百余箇所、その他の箇所2万3千8百余箇所については1.5%に当たる3百余箇所)について実施した。上記3千7百余箇所の実地検査に要した人日数は、4万8千9百余人日となっている。
なお、検査の進行に伴い、関係者に対して発した質問は1千1百余事項である。
(検査結果の大要)
検査の結果、この検査報告に掲記した事項は、第2節の「法律、政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項等の概要」に述べるとおり合計180件となっているが、その大要は以下のとおりである。
1 会計検査院は、「検査の観点」において記述したように、多角的な観点から検査を実施してきているが、昭和60年中の検査においても、前年までの検査に引き続き、特に、予算の経済的、効率的執行に対する検査と、事業目的の達成状況についての検査を重視して行った。その結果、上記に関する本年度の主な指摘事例は、
ア 各省庁の行政運営において、予算執行の効果の発現が十分とは認められず今後改善を要する問題として、〔1〕 農林水産省が国営事業又は補助事業として実施している農用地開発事業において、造成された農地が造成後全く利用されていなかったり、いったんは作付けされたもののその後の肥培管理不良等により荒廃したりしていて事業効果が発現していない事態、〔2〕 農林水産省が補助事業として実施している繁殖雌牛導入事業において、事業の目的とする飼養規模の拡大の実が挙がっておらず事業効果が十分発現していない事態、〔3〕 建設省が補助事業として実施している都市施設等の整備事業において、目的とする都市施設等の工事に着手していなかったり、一部に未完了となっている箇所があるため全く供用できず事業効果が発現していない施設があったりなどしている事態などを指摘し、
イ 公社、公団、事業団の事業運営において、多額の資金を投入しているもののその効果が発現していない事態あるいは多額の損失をきたしている事態につき今後改善を図る要がある問題として、〔1〕 日本国有鉄道が実施している東北新幹線建設工事において多額の費用を投じて取得した都市施設用地が利用されておらず、投下資金が未回収のままとなっていて建設利息の負担も累増している事態、〔2〕 住宅・都市整備公団が実施している土地区画整理事業及び新住宅市街地開発事業において、事業完了後長期にわたり造成した宅地を保有していて投下した事業費の効果が発現していない事態、〔3〕 日本電信電話公社が収益を上げることを目的として設置している委託公衆電話について、その設置及び管理が適切でないため、大幅な支出超過となっている事態を指摘した。
2 業務執行あるいは事務処理が適切でなかったことにより、不経済、非効率な事態を招来し又は不適正な事態となっていたので、これらについてその適正化を図るよう是正させ、又は改善を促した。
すなわち、
ア 各省庁の業務執行あるいは事務処理に関する問題として、〔1〕 文部省の国立学校特別会計において、授業料免除について、統一的かつ合理的な基準が設けられていないため、各大学ごとに合理的とは認められない基準によって実施している事態、〔2〕 厚生省が補助事業として実施している生活保護事業において、被保護者の保有する資産についての取扱基準が明確でないため、被保護者がその保有する遊休不動産を活用していなかったり、保護受給中に新たに土地家屋等を取得したりなどしている事態、〔3〕 農林水産省の食糧管理特別会計において、国内米の買入れ契約に伴い生産者に支払った概算買入代金のうち自主流通米に係る分を返納させる際、生産者に受益相当分を負担させる措置を講じていない事態、〔4〕 農林水産省が補助事業として実施している農業者年金事業のうち経営移譲年金の支給において、経営移譲の意義が損なわれていたり、受給資格のない者に年金を支給したりしている事態、〔5〕 厚生省が実施している厚生年金及び国民年金の両事業において、死亡した受給権者について失権の事務処理を適時に行う体制となっていないため、年金が不適正に支給されている事態、〔6〕 適正確実な事務処理が行われていないため、租税、保険料が徴収過不足となっている実態、保険金が不適正給付となっている事態などを指摘し、
イ 公社、公団、事業団の業務執行あるいは事務処理に関する問題として、〔1〕 日本国有鉄道が実施する貨物輸送において、貨物の取扱いに配慮を欠いたため、輸送を受託した混載貨物のうち貨幣等の貴重品について貴重品割増しを適用して増収を図る措置を講じていない事態、〔2〕 首都高速道路公団及び阪神高速道路公団が実施している高速道路等の建設工事において、借家人に対する移転補償額の算定方法が実態に即していないため、補償額が不適切となっている事態、〔3〕 水資源開発公団が実施している琵琶湖開発事業において、その施行により発生する旅客船の航行障害等の損失を補償したものの、建造された代替船の現況からみてその趣旨が生かされていない事態などを指摘した。
3 補助事業の実施及び経理が不適切となっている事態は、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、建設省及び日本私学振興財団において依然として見受けられ、その内容も例年同様に、補助の対象とならないもの、補助事業費を過大に精算しているもの、補助工事の設計、積算が適切でないもの、補助工事の施工が設計と相違しているものなどとなっている。このうち、昨年一部の都道県において検査を実施し作為による交付申請の事態を特に指摘した文部省の義務教育費国庫負担金については、検査の範囲を全国的なものに広げてみたところ、負担金算定の基礎となる小中学校の在学児童生徒数を過大に計上して負担金を受領していた事態がなお多数見受けられた。
4 貸付金の経理に関し不適切となっている事態は、昨年度同様多数見受けられ、〔1〕 大蔵省の資金運用部資金、〔2〕 郵政省の簡易生命保険の積立金、〔3〕 農林漁業金融公庫の総合施設資金等、〔4〕 沖縄振興開発金融公庫の農林漁業資金、〔5〕 中小企業事業団の中小企業高度化資金、〔6〕 社会福祉・医療事業団の土地取得資金等について指摘した。
これらは、貸付機関における審査等が不適切であったことによるものが大部分であるが、借受者の不実な借入申込みによる事例も少なからず認められた。
5 工事又は役務についての計画や予定価格の積算が適切でなかったため、工事費又は役務費が過大に支払われて不経済になっているなどの事態については、毎年度の検査報告に掲記しているところであるが、本年度においても相当数見受けられた。このうち、工事費の積算が適切でなかったため不適切となっている事態が建設省、日本道路公団及び首都高速道路公団において、役務費の積算が適切でなかったため不経済となっている事態が郵政省、日本国有鉄道において見受けられた。
6 以上のほか、職場の管理体制の弛緩が誘因となって、公金意識の欠如した会計事務職員等の犯罪により損害を生じている事態を、郵政省をはじめ、労働省、日本国有鉄道、通信・放送衛星機構について指摘した。