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  • 昭和59年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第2 文部省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国立大学における授業料の免除について合理的な基準により実施するよう意見を表示したもの


  国立大学における授業料の免除について合理的な基準により実施するよう意見を表示したもの

会計名及び科目 国立学校特別会計 (款)授業料及入学検定料 (項)授業料及入学検定料
部局等の名称 北海道大学ほか52大学
授業料免除の概要 国立学校設置法(昭和24年法律第150号)等の規定に基づき、国立学校の校長が、経済的理由等のため免除を受けようとする学生の申請に基づき、授業料の全部又は一部を免除するもの
上記53大学における授業料免除額 昭和59年度 6,394,404,000円

 上記の各国立大学における授業料免除の実施についてみると、将来の返還を条件として奨学金の貸付事業を行っている日本育英会の第一種奨学生の推薦基準よりも緩やかな基準など合理的とは認められない任意の基準で大学ごとに実施している事態が多数見受けられた。
 これは、各大学が実施する授業料免除の取扱いについて、文部省が統一的かつ合理的な基準を示さないまま、各大学における免除枠だけを示していることによると認められた。
 したがって、文部省において、速やかに合理的な基準を設定して各大学に示すとともに、各大学に対し指導を十分に行って、適切な授業料免除の実施を期する要がある。
 上記に関し、昭和60年12月9日に文部大臣に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。

  国立大学における授業料免除の取扱いについて

 国立学校では、国立学校設置法(昭和24年法律第150号。以下「法」という。)等に基づき、経済的理由によって授業料の納付が困難であり、かつ、学業優秀と認められるときなどの場合は授業料の全部又は一部を免除することができることとされていて、その額は昭和59年度で10,687,068千円(授業料の徴収決定済額95,870,520千円の11.1%)に上っている。
 しかして、北海道大学ほか52大学(注1) における59年度の授業料免除総額6,394,404千円のうち、学部学生及び大学院生に係る6,255,468千円についてその実施状況を調査したところ、法において免除の要件として定めている経済的困窮度及び学業優秀の判定の取扱いについて、次のような事態が見受けられた。

1 経済的困窮度の判定について

 上記の53大学における経済的困窮度の判定方法をみると、いずれも授業料免除と同様の目的で奨学金の貸与事業を行っている日本育英会の推薦基準で定めている修学困難の判定方法(以下「育英会家計基準」という。)に準じて次の算式により計算した認定総所得金額と収入基準額(注2) との対比によっている。

 ・学生の属する世帯の年間収入金額−必要経費(給与所得者にあっては、所定の控除額)=総所得金額

 ・総所得金額−特別控除額(注3) =認定総所得金額

 しかしながら、その判定の実態をみると、次のような取扱いとなっている。

(1) 収入基準額の取扱いについて

 収入基準額の設定等についてみると、日本育英会が奨学生のうち第一種奨学生(特に優れた学生等であって経済的理由により著しく修学が困難であると認定され、無利子の奨学金を貸与される者)に適用している収入基準額(以下「第一種収入基準額」という。)を収入基準額としているものが28大学あり、また、その他の25大学においては、うち6大学では第二種奨学生(有利子の奨学金を貸与される者)に適用している収入基準額(第一種収入基準額より高い水準で定められている。)を収入基準額としており、19大学では第一種収入基準額を収入基準額としているものの、認定総所得金額がこれを超えている者についても特段の理由もなく免除の対象としている状況である。

(2) 総所得金額等の算定について

 総所得金額の算定についてみると、次のような事態がみられる。

ア 奨学金及び免除される授業料の取扱いについて

 総所得金額の算定に当たっては、日本育英会等の奨学金を貸与されている場合には、これを総所得金額に加算し、免除を受けた場合に学生本人の必要経費とはならないこととなる授業料相当額は特別控除の対象にしないこととするのが合理的であると認められ、そのような取扱いをしているものが33大学あるが、その他の20大学では次のようにこれと異なる取扱いをしている。

 (ア) 奨学金を総所得金額に加算せず、また、本人の授業料を総所得金額から減額しているもの 4大学

 (イ) 奨学金を総所得金額に加算してはいるものの、本人の授業料を総所得金額から減額しているもの 10大学

 (ウ) 本人の授業料は総所得金額から減額していないが、奨学金を総所得金額に加算していないもの 6大学

イ 所得の調整について

 総所得金額の算定に当たって、給与所得者以外の者について申請者の申出額をそのまま総所得金額としているものが27大学あるが、他の26大学では、給与所得者と給与所得者以外の者との間に所得の捕そくに不公平が存在するとして、

 (ア) 給与所得者以外の者について、総所得金額に独自の調整率(1.2〜2.0)を乗じて得た額を総所得金額とみなしているものが25大学

 (イ) 給与所得者について所定の総所得金額の計算をした後、更に調整率(0.8)を乗じて得た額を総所得金額とみなしているものが1大学

ある。

 このように、所得金額の計算を各大学において任意の方針によって行っていて、合理的と認められない取扱いとなっているものが多数あり、また、この結果、経済的困窮度が同等の者であっても在学する大学によって免除の対象となったり、免除の対象から除外されたりしている状況である。
 ちなみに、〔1〕 日本育英会における第一種収入基準額は、国公私立大学の全学生の世帯の所得額を基にして、その平均以下の所得水準の者を対象とすることとして設定しているが、本件授業料の免除については、これにならい国立大学に在学する学生の世帯の所得額を基にして収入基準額を試みに設定し、〔2〕 認定総所得金額については、奨学金を総所得金額に算入し、授業料相当額を特別控除の対象としないこととし、〔1〕 〔2〕 により本件53大学の59年度の免除対象者について収入基準額と認定総所得金額とを対比して、免除の対象を試算してみると、認定総所得金額が収入基準額を超えているものが延べ9,100人、648,043千円ある計算となる。

2 学業優秀の判定について

 学業優秀の判定についてみると、日本育英会においては、推薦基準に定めている学力に関する基準(以下「育英会学力基準」という。)で、第一種奨学生については、1年次に在学する者にあっでは高等学校における学習成績(以下「高校成績」(注4) という。)が3.5以上の者、2年次以上に在学する者にあってはその成績が本人の属する学部(科)において上位3分の1以内(修得単位数が各年次における標準修得単位数を満たしており、かつ、学業成績をおよそ上・中・下の3段階に分けて上の成績を修めている者を標準)の者とすること、留年中の者は貸付けを停止又は廃止することとしているが、調査した53大学における学業優秀の判定基準についてみると、次のようになっている。

(1) 1年次に在学する者の場合

 1年次に在学する者のいない1大学を除く52大学のうち、育英会学力基準と同様の基準を設定しているものが2大学あるが、その他の50大学においては、その基準において、高校成績が3.5未満であっても学業優秀として取り扱っていたり(25大学)、入学を許可された者や履修中の者を学業優秀として取り扱ったり(11大学)などしている。

(2) 2年次以上に在学する者の場合

2年次以上に在学する者のいない2大学を除く51大学では、育英会学力基準と同様の基準を設定しているものは皆無であり、なかには、その基準において、標準修得単位数を満たしていれば学業優秀として取り扱ったり、標準修得単位数を満たしていない者も学業優秀として取り扱ったりしているものなど、学業成績の程度を考慮していないと認められるものが相当数見受けられる状況である。

(3) 留年している者の取扱い

 留年している者については、日本育英会では推薦の対象から除外することとしているが、18大学では、特別の理由もなく留年している者も免除の対象としていて、学業優秀として取り扱った結果となっている。
 このように、各大学において設定している学業優秀の判定基準は、学業成績について考慮することとなっていないものが多々あるほか、考慮している場合でもその大部分が育英会学力基準を下回っており、また、実際の取扱いをみると、更にこれらの適切とは認められない基準を下回って運用しているものもみられる状況である。ちなみに、前記53大学において59年度に特別の理由がなく留年している者について免除しているものをみると延べ1,581人、120,598千円となっている。

 各大学における授業料免除の取扱いの実態は上記1、2のとおりであるが、各国立大学ごとの授業料免徐の総額については、25年度以降50年度までは当該大学における在学生に係る授業料収入予定額の5%に相当する額の範囲内とされていたものが、51年度以降はこれが10%に、更に、57年度以降は12.5%に相当する額の範囲内とされている。そして、大学が独自に免除することができる範囲については、貴省が毎年度当初に各大学に通知する額(59年度においては、大学の学部及び大学院の学生の場合、57年度以降に入学した者にあっては授業料収入予定額の10%相当額、56年度以前に入学した者にあっては同8%相当額。以下「免除枠」という。)とされていて、この免除枠を超えて免除を行う必要が生じたときは各大学が貴省の承認を得て免除すること(以下「超過免除」という。)ができることとされている。
 そして、上記の免除枠は、各大学において授業料の免除ができる上限値を示したものであると認められるのに、上記1、2のような合理的とは認められない基準を用いている結果、ごく一部の大学を除き、この免除枠の限度まで消化しているばかりでなく、その基準を用いて超過免除をしているものもみられる(16大学)状況である。

 以上の、各大学における授業料免除の取扱いの実態にみられるように、本来、統一的かつ合理的な基準によって実施すべき国の授業料債権の免除が、各大学における任意の基準によって行われ、その結果、日本育英会が第一種奨学生に対して奨学金を貸与する場合の経済的困窮度及び学業優秀の判定基準より緩やかな基準で免除している者が多数見受けられるが、日本育英会の奨学金が、将来の返還を条件として貸し付けられるものであるのに対し、本件授業料免除は、国が徴収する債権を免除するものであることからみても、このような取扱いは適切とは認められない。
 このような事態を生じているのは、法において免除の要件として定めている経済的困窮度及び学業優秀の判定基準について、貴省では、超過免除に係る経済的困窮度の判定について高等教育局長通知において育英会家計基準に準じた基準を設けて各国立学校長に示しているだけで、学業優秀の判定及び免除枠の範囲内の免除に係る経済的困窮度の判定について、統一的かつ合理的な基準を示さないまま、各大学に免除枠だけを一律に示していること、各大学ではこのようなことから、独自の基準を設定するなどして免除枠の限度まで免除を実施していることによると認められる。

 したがって、上記のような実情にかんがみ、貴省において、速やかに合理的な基準を設定して、各大学に示すとともに、各大学に対して指導を十分に行って、適切な授業料免除の実施を期する要があると認められる。

 よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の意見を表示する。

 (注1)  北海道大学ほか52大学  北海道、北海道教育、室蘭工業、帯広畜産、旭川医科、北見工業、東北、秋田、福島、千葉、東京、東京医科歯科、東京学芸、東京農工、東京工業、東京水産、お茶の水女子、電気通信、一橋、新潟、上越教育、富山、富山医科薬科、金沢、福井医科、山梨、山梨医科、岐阜、名古屋、愛知教育、豊橋技術科学、滋賀、滋賀医科、京都、大阪、兵庫教育、神戸、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、鳴門教育、香川医科、高知、高知医科、九州、佐賀、熊本、大分、宮崎医科、鹿屋体育、琉球各大学

 (注2)  収入基準額  経済的困窮度を判定するための尺度となる金額で、この金額と、出願者の属する世帯の認定総所得金額とを対比し、〔認定総所得金額≦収入基準額〕である場合に奨学生として推薦される。そして、収入基準額は、奨学金を必要とする階層の上限の所得額として設定され、世帯の所在地域別及び構成人員別に定められている。

 (注3)  特別控除額  総所得金額から特別に控除することができる金額で、出願者の属する世帯が母子・父子世帯、就学者のいる世帯その他特別の事情のある世帯である場合には、総所得金額からその事情に応じた所定額を控除することができることとされており、さらに出願者が大学生である場合は、本人に係る経費として、国公私立別、通学態様別に定められた所定額のほか、授業料年額を控除することができることになっている。

 (注4)  高校成績  高等学校2、3年次の学習成績を5段階(1〜5点)に評定して、その合計点を全履修科目で除した平均値