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  • 昭和59年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第3 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

厚生年金及び国民年金における受給権の消滅についての事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(2) 厚生年金及び国民年金における受給権の消滅についての事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 (1) 厚生保険特別会計 (年金勘定) (項)保険給付費
(2) 国民年金特別会計 (国民年金勘定) (項)国民年金給付費
部局等の名称
社会保険庁

給付の根拠 (1) 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)
(2) 国民年金法(昭和34年法律第141号)
給付の種類 (1) 厚生年金保険の各年金(老齢年金、通算老齢年金、障害年金、遺族年金、通算遺族年金)
(2) 国民年金のうち老齢年金、通算老齢年金
給付の内容 (1) 厚生年金保険 被保険者の老齢、障害、遺族に対する年金の給付
(2) 国民年金 被保険者の老齢に対する年金の給付
支給の相手方 (1) 厚生年金保険 453人
(2) 国民年金 1,123人
上記に対する年金の支給額の合計 (1) 厚生年金保険 77,679,747円
(2) 国民年金 107,004,509円

 上記の年金の支給において、死亡した受給権者について受給権消滅の事務処理を適時に行う体制となっていなかったため、厚生年金保険で77,679, 747円及び国民年金で107,004,509円が不適正に支給されていた。
 すなわち、これらの年金は、受給権者が死亡した月まで支給されることとなっているが、届出義務者からの死亡届の提出が遅延していたこと、届書を受理した後これを迅速に処理する体制になっていなかったこと及び受給権者の現況の調査確認が十分でなかったことにより、引き続いて支給されていた。
 したがって、社会保険庁において、上記のような事態の発生を防止するため、届書の期限内提出を容易にするなどして受給権消滅の事実の早期把握の方途を講じ、また、届書の進達方法を改善し、受給権の消滅が確認された者に対しては速やかに支払を留保する体制を整備するとともに、受給権者の現況確認の徹底を図るなどして年金支給の適正化を図る要がある。 

 上記に関し、昭和60年12月9日に社会保険庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

  厚生年金及び国民年金の支給の適正化について

 貴庁では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定に基づき、厚生年金及び国民年金の受給権者に対して、厚生年金については、老齢年金、通算老齢年金、障害年金、遺族年金及び通算遺族年金を、また、国民年金については、老齢年金、通算老齢年金、障害年金等の各種の年金を支給しており、厚生保険特別会計からの支給額は昭和58年度5兆0075億3457万余円、59年度5兆5254億5388万余円、国民年金特別会計からの支給額は58年度3兆2650億7537万余円、59年度3兆3751億1787万余円に上っている。
 厚生年金の各年金(以下「厚生年金」という。)並びに国民年金の老齢年金及び通算老齢年金(以下「国民年金」という。)は、貴庁から直接、それぞれ受給者の預貯金口座に振り込みを行うなどの方法により、年金の種類に応じて2期から4期に分け、支払月の前月(国民年金の11月支払分は当月)までの数箇月分をまとめて支払うこととしている。
 しかして、厚生年金及び国民年金について、60年中に、本院がその支給の適否を検査したところ、次のとおり、受給権者の死亡により受給権が消滅(以下「失権」という。)しているのに、この者(以下「失権者」という。)に年金を支給(以下「過払」という。)していて適切を欠くと認められる事態が多数見受けられた。

1 年金受給権の失権の事務処理について

 厚生年金及び国民年金の受給権者が死亡したときは、同居している親族等の届出義務者(戸籍法の規定による。)は、その死亡届を、厚生年金に係る者については10日以内に社会保険事務所に提出することとなっており、また、国民年金に係る者については14日以内に市町村に提出し、市町村が直ちにこの内容を確認して社会保険事務所に提出することとなっており、これらの提出を受けた社会保険事務所は、内容を調査確認のうえ、これを失権の事務処理を行う機関(以下「本庁」という。)に進達することとなっている。そして、本庁では、年金支払月の前月の10日ごろまでに行う支払等の事務処理のなかで、この死亡届の内容を受給権者の年金証書の記号番号、氏名等の記録と照合して電子計算機に入力し、20日ごろまでに裁定原簿から消除して失権の処理をし、その後の年金を支給しないこととしている。

 上記のような受給権者の死亡による失権の事務処理をしたものについて年金の過払の事態が発生しており、その発生総額は、厚生保険特別会計(年金勘定)及び国民年金特別会計(国民年金勘定)を併せ、58年度59,018人分6,368,866,781円、59年度58,146人分6,188,737,699円に上っていて、この人数、金額は、各年度における失権者に係る過払総数のうち人数で98.1%、98.1%、金額で87.1%、86.9%となっている。
 そして、これらの、失権に伴い又はその他の事由により発生した過払に係る債権の 59年度末の現在額は、厚生保険特別会計(年金勘定)で4,937,526,471円、国民年金特別会計(国民年金勘定)で1,798,827,730円に達しており、また、59年度中に時効により消滅したため不納欠損の処理をしたものが厚生保険特別会計(年金勘定)で501,478,490円、国民年金特別会計(国民年金勘定)で86,291,743円に上っている状況である。
 しかして、北海道ほか13都府県の札幌西社会保険事務所ほか37社会保険事務所(注1) 管内の死亡した受給権者で、59年1月から59年6月までの間に厚生年金に関して失権の事務処理をした1,896人及び国民年金に関して失権の事務処理をした1,827人について調査したところ、失権者に係る死亡届の提出遅延や社会保険事務所等におけるその後の事務処理が遅延したなどのため過払となっていたものが厚生年金で380人55,376,827円、国民年金で349人14,680,130円あった。
 これを態様別に示すと次のとおりである。

(1) 届出義務者が所定の期限を大幅に超えて、死亡届を提出したため、本庁において適時に失権の事務処理ができず過払となったもの

厚生年金 161人 25,935,379円
国民年金 102人 6,192,342円

(2) 社会保険事務所及び市町村において、死亡届若しくはこれに基づく死亡の事実を迅速に進達又は報告していなかったこと、又は、本庁において適時に失権の事務処理若しくは支払の留保をしていなかったことにより過払となったもの

厚生年金 219人 29,441,448円
(うち所定の期限内に死亡届が提出されていたもの  22人 1,755,958円)
国民年金 247人 8,487,788円
(うち所定の期限内に死亡届が提出されていたもの 106人 2,957,111円)

 このような事態を生じているのは、次のような事由によると認められる。

(1) 死亡届の提出について

 年金受給権者が死亡した場合、届出義務者は所定の期限内に死亡届を提出しなければならないこととなっているが、届出義務者においてこれについての認識が乏しかったり、死亡届の手続が煩雑であったりなどして、死亡届の提出が遅延していること

(2) 死亡届の事務処理について

 ア 本庁から社会保険事務所に年金の裁定及び支払等の事務処理の日程表が送付されてはいるが、社会保険事務所からの死亡届の進達を週に1回郵送等の方法により行うこととしているなど、社会保険事務所等からの死亡届が本庁の事務処理の日程に合わせて迅速に進達される体制となっていないこと

 イ 本庁において支払等の事務を電子計算機で一括処理するための入力期限後に年金受給権者の死亡を確認した場合に、貴庁で支払を留保する体制となっていないこと

2 現況届の未提出者に係る現況の確認について

 貴庁では、厚生年金及び国民年金を適正に支給するため、受給権者から市町村長がその者の生存の証明をした現況届を毎年誕生月の末日までに提出させて現況を確認することとしており、現況届を提出しない受給権者については、年金の支払を一時差し止めるとともに、年金の支払を差し止めた者(以下「差止者」という。)の氏名、住所、差止期間等を記載した一覧表を作成して、厚生年金については毎年1回、国民年金についてはその支払期ごとに社会保険事務所等に送付し、差止者の現況の調査を行わせている。 上記の差止者の総数は、厚生年金で45,387人(60年2月現在、ただし通算老齢年金及び通算遺族年金の17,402人は59年12月現在)、国民年金で82,210人(60年3月現在、ただし通算老齢年金の8,187人は59年12月現在)に上っている。

 しかして、北海道ほか15都府県の札幌西社会保険事務所ほか40社会保険事務所(注2) 管内の厚生年金の差止者917人、国民年金の差止者7,414人について、その状況及び年金過払額の有無を調査したところ、それぞれ98人、1,239人が既に死亡していたのに、その事実が把握されていない状況であった。そして、このうち現況届未提出のため支払を差し止めるまでの間、年金の支払を続けて過払となっていたものが、厚生年金で73人分22,302,920円、国民年金で774人92,324,379円に上っており、しかも、上記のうち、厚生年金の9人分1,931,611円及び国民年金の109人分10,327,565円は、既に当該過払金の債権に係る時効期限の5年を経過している状況であった。

 このような事態を生じているのは、現況届を提出しない受給権者は、上記のように相当数が既に死亡しており、過払が生じている場合も少なくないと考えられるのに、貴庁において、差止者について適切な調査をしていないことによると認められる。  ついては、上記のように受給権者の死亡に起因する過払が毎年多数発生しており、また、今後厚生年金及び国民年金の受給権者及び受給金額とも大幅に増大することが予測される現状にあることから、

(1) 受給権者の死亡について、届出義務者及び関係者に対して死亡届の期限内提出の励行を周知徹底させるとともに、届出義務者が死亡届の用紙を入手し易くしたり、容易に記載できるものとしたりするなどして届出義務者の負担の軽減を図り、また、死亡の事実を早期に把握するため、市町村の情報の利活用を図ることとし、関係機関との調整を早急に行うこと、

(2) 死亡届の進達について、社会保険事務所等に対し、年金の支払に係る電子計算機への入力期限に適応した進達を励行させること、

(3) 入力期限後に死亡の事実が確認された者に係る年金について、支払を留保することとし、これに必要なシステム開発及び支払機関との調整を行い、支払留保の体制を整備すること、

(4) 現況届の未提出者に係る現況の確認について、貴庁及び社会保険事務所等において生存調査等による確実な現況確認の徹底を図り、また、過払となった年金に係る事務処理の適正を期すること
などの方途について適切な処置を講じ、もって過払の発生を防止し、年金支給の適正化を図る要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

 (注1)  北海道ほか13都府県の札幌西社会保険事務所ほか37社会保険事務所

北海道 札幌西 社会保険事務所ほか 2 社会保険事務所
埼玉県 浦和 2
東京都 杉並 3
新潟県 長岡 2
静岡県 静岡 1
愛知県 熱田 1
京都府 上京 2
大阪府 玉出 2
兵庫県 須磨 3
愛媛県 松山 1
福岡県 西福岡 1
長崎県 長崎南 2
熊本県 熊本西 1
宮崎県 宮崎 1

(注2) 北海道ほか15都府県の札幌西社会保険事務所ほか40社会保険事務所

北海道 札幌西 社会保険事務所ほか 2 社会保険事務所
埼玉県 浦和 2
東京都 杉並 3
新潟県 長岡 2
福井県 福井 1
静岡県 静岡 1
愛知県 熱田 1
京都府 上京 2
大阪府 玉出 2
兵庫県 須磨 3
岡山県 岡山西 1
愛媛県 松山 1
福岡県 西福岡 1
長崎県 長崎南 1
熊本県 熊本西 1
宮崎県 宮崎 1