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  • 昭和59年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第4 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

農業機械作業広域調整促進事業の運営について改善の処置を要求したもの


(3) 農業機械作業広域調整促進事業の運営について改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業振興費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
事業主体 北海道ほか22県、126農業機械銀行
補助事業 農業機械作業広域調整促進事業(昭和53年度までは農業機械銀行導入促進対策事業)
事業の内容 農業機械による農作業の受委託を広域にわたり組織的に仲介あっせんする事業、遊休化している農業機械を機械銀行に登録させ、これを貸し付ける事業等
上記に対する国庫補助金交付額の合計 773,269千円(昭和51年度〜59年度)

 上記の補助事業において、(1)受委託あっせん事業についてあっせん面積の計画達成率が低くなっていたり、事業規模に見合う事業費となっていなかったりなどしているもの、(2)他の国庫補助事業で導入された農業機械が機械銀行に登録されていないものが多数見受けられた。
 このような事態を生じているのは、事業実施の基準等が明確でなかったこと、農業機械の登録について具体的な指示がなかったこと、事業主体の本件事業に対する理解が十分でなかったことなどによると認められる。
 したがって、農林水産省において、機械銀行事業の運営について、実態を十分把握したうえ、その目的を達成できるよう、実施要領等を整備し、事業主体に対する指導を十分行うなどして、本事業の適正な運営に努める要がある。

 上記に関し、昭和60年12月5日に農林水産大臣に対して改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

 農業機械作業広域調整促進事業の運営について

 貴省では、近年における高性能な農業機械の普及の進展に対応し、農業機械の効率利用及びその適正な導入を図る観点から、農業機械銀行方式の普及・定着を促進するため、昭和47年度から農業機械銀行導入実験事業を実施し、以来、農業機械銀行導入パイロット事業、農業機械銀行導入促進対策事業を経て、54年度からは、農業機械作業広域調整促進事業(以下「機械銀行事業」という。)を実施しており、この事業の内容は、〔1〕 機械作業を広域的、組織的に仲介あっせんする農業機械銀行方式の普及・定着、〔2〕 遊休機械の効率的利用、〔3〕 受託者グループの育成強化、〔4〕 特殊作業に供する機械利用形態の育成、〔5〕 機械の修理整備体制の整備を図ることとなっている。そして、47年度から59年度までの間に46道府県490地区において458農業機械銀行(以下「機械銀行」という。)が設置されていて、その事業費及び国庫補助金交付額の累計はそれぞれ123億余円、41億余円に達している。

 この国庫補助事業のうち機械銀行の運営に係るものについては、各機械銀行の新規事業開始から5箇年度(59年度採択分は4箇年度、60年度採択分は3箇年度)にわたり補助率を逓減させつつ国庫補助金を交付することとしており、補助終了後は自立して永続的に事業を運営してゆくことが期待されているものであるので、本院では、補助対象となっていた期間に事業が定着しているか、将来に向っての事業の展望はどのようになっているかなど機械銀行運営の永続の可能性について、51年度から56年度までの間に事業を開始した機械銀行(全国43道府県で227機械銀行)のうち、北海道ほか22県(注) の126機械銀行(59年度までの国庫補助事業に係る事業費も4,497,254千円、国庫補助金1,459,406千円、うち機械銀行方式推進事業費2,600,298千円、国庫補助金773,269千円)について、〔1〕 受委託あっせん事業(保有する農業機械に余力があって、機械作業の受託を希望する農家に、委託を希望する農家の農作業を仲介あっせんする事業)を事業計画に対する実績及び事業規模に対する事業費の面から調査することとし、さらに、〔2〕 農業機械の過剰な導入の抑制を図る観点から、機械銀行運営地域内で保有されている農業機械が機械銀行に登録されて効率的に利用される体制となっているかについても調査することとした。
 しかして、検査の結果、次のような事態が見受けられた。

1 受委託あっせん事業について、受委託あっせん面積の計画達成率が低くなっていたり、事業規模に見合った事業費となっていなかったりなどしているもの

 機械銀行事業は、補助期間終了後自立して運営してゆくことが期待されているものであるので、補助を受けている期間中に事業の永続性を確保するための適正な事業規摸とそれに見合った財政基盤を持った機械銀行となっていることが必要である。この観点から、本件事業の中心である受委託あっせん事業の実施状況について、国庫補助事業の最終年度における計画達成度等をみてみると、次のような状況であった。

 (1) 計画達成状況

 事業計画においては、国庫補助事業の開始時に初年度から最終年度までの各年度の計画量が示されているので、これに基づいて事業の順調な実施という観点から計画の達成状況をみると、検査した126機械銀行のうちには計画達成率の低いものが多く、50%未満のものが81機械銀行(64.2%)、30%未満のものが54機械銀行(42.8%)、10%未満のものが14機械銀行(11.1%)もある状況である。(事例 参照)

 (2) 事業規模及び事業費

 本件事業を受委託あっせんの規模と収支の関係でみると例えば、1,500haの受委託あっせん面積を対象とし、農業機械を使用して行う10a当たりの1作業の料金を仮に各種作業の平均的な料金である7,000円として、この作業のあっせん手数料を平均的な手数料率である3%を採用して算出すると、300万円程度の手数料収入が見込まれる。これに対して、人件費を主体とする機械銀行の運営費は、年間300万円から500万円を要すると想定されることから、上記の収入を確保することができれば、機械銀行事業の運営は一応成り立つことになる。この観点から126機械銀行の運営状況をみると、受委託あっせん面積が500ha未満のものが87機械銀行(69.0%)、100ha未満のものが23機械銀行(18.2%)もあり、しかも、500ha未満の87機械銀行のうちには事業費が500万円以上にもなっている顕著な事例が16機械銀行(18.3%)見受けられた。(事例 参照)

上記(1)(2)について主な事例を挙げると次のとおりである。

<事例1>

 福島県 A農業機械銀行

年度
区分
56 57 58 59

事業費
千円
5,460
千円
6,440
千円
5,030
千円
5,068
千円
21,998
国庫補助金 2,730 2,738 1,500 1,000 7,968

 この機械銀行は、農家戸数1,969戸、耕地面積3,251haを対象地域として56年度に事業を開始している。
 この機械銀行では、事業の開始に当たり、耕地面積1ha程度の小規模農家の全てが農作業を委託するようになり従前受委託を個人間で合意するいわゆる相対受委託を行っていた農作業も機械銀行事業に取り込めると想定して、受委託あっせん計画面積を国庫補助事業の初年度(56年度)80ha、最終年度(60年度)1,000haと設定している。
 しかし、実際には、委託を見込んだ小規模農家の農地には、別途、農用地利用増進事業等によって、機械銀行の受託者でもある農家の利用権が設定されていて、委託の必要性のない面積が約3分の1に上っていたり、機械銀行のあっせんにより農作業を委託することとすると一定期間に作業が集中することになって委託者の希望する時期に田植等の作業ができなくなることや、作業の仕上り具合が悪くなることなどを懸念して、小規模農家も従来どおり、それぞれの農業機械により農作業を行っていたり、相対で受委託を行っていたりしたため、受委託あっせん面積が当初の計画どおりには増加しなかった。そのため58年に全体計画を第4年度(59年度)800haから600haに縮小して事業を実施することとしたが、それにもかかわらず実績面積はわずか219.3haにとどまり変更計画に対してもなお36.5%と低い達成率となっている。

<事例2>

 大分県 B農業機械銀行

年度
区分
55 56 57 58 59

事業費
千円
3,165
千円
3,165
千円
3,165
千円
3,165
千円
3,165
千円
15,825
国庫補助金 1,500 1,200 949 600 310 4,559

 この機械銀行は、農家戸数1,186戸、耕地面積1,206haを対象地域として55年度に事業を開始している。
 この機械銀行では、国庫補助事業の最終年度(59年度)における受委託あっせん計画面積400haに対してその実績面積は312haであるとして実績報告書を提出していたが、この実績面積のうちには、農業機械作業による受委託あっせんとは認められない農業協同組合の育苗施設、もみ乾燥調製施設を利用していた稲、麦の作付面積232haも含まれており、これを除いた実際の受委託あっせん面積は80haで、計画達成率は20%にすぎない状況である。また、受委託あっせん計画面積400haも施設利用に係る面積が含められていたとすれば、計画自体も、受託を通じて中核的農家を育成するためには極めて過小なものである。

<事例3>

   群馬県 C農業機械銀行

年度
区分
54 55 56 57 58

事業費
千円
9,774
千円
5,160
千円
4,748
千円
4,736
千円
4,756
千円
29,175
国庫補助金 4,071 1,880 1,410 940 470 8,771

 この機械銀行は、農家戸数1,505戸、耕地面積1,388haを対象地域として54年度に事業を開始している。
 この機械銀行では、国庫補助事業の最終年度(58年度)における受委託あっせん実績面積は2,827haであるとして実績報告書を提出していたが、実際は、この面積は、農業協同組合が農作業を請け負って職員が同組合所有のトラクタのオペレータとなって農作業を行ったものや、営農集団が相対で受託して農作業を行ったものであって、機械銀行が仲介あっせんをしたものではなかった。
 また、運営費についてみると、国庫補助事業実施期間中は毎年4,736千円から5,466千円の事業費を支出していながら、国庫補助事業終了直後の59年度にはわずか16,000円を事業費として支出しているにすぎず、機械銀行としての事業はほとんど停止している状況であった。

<事例4>  

北海道 D農業機械銀行

年度
区分
55 56 57 58 59

事業費
千円
4,642
千円
4,642
千円
4,642
千円
4,642
千円
4,642
千円
23,210
国庫補助金 2,321 1,856 1,392 928 464 6,961

 この機械銀行は、農家戸数1,013戸、耕地面積6,081haを対象地域として55年度に事業を開始している。
 この機械銀行では、発足当初から、機械銀行の運営を農業協同組合固有の営農指導業務の一部と認識して、手数料を徴収しない他の指導業務と同様に取り扱ったり、手数料を徴収するとその分だけ作業料金が割高になって相対による受委託作業を選択される可能性が強いと判断したりしたため、あっせん手数料を全く徴収していなかった。
 しかし、このような措置をとっていたにもかかわらず、受委託あっせん面積は国庫補助事業実施期間の後半には減少傾向を示し、最終年度の実績は339haと計画面積1,100haの30%程度にすぎない状況となっている。
 このような事態となっているのは、

 ア 事業実施基準及び事業効果測定基準等が明確に示されていなかったこと、

 イ 機械銀行事業の実施計画の段階で、地域内の農家の受委託に対する意向調査を十分行っておらず、また、相対又は生産組織内での農作業の受委託状況等の事前調査が十分でなかったことなどによると認められる。

2 他の国庫補助事業で個々の営農集団等に導入された農業機械が低利用となっているのに機械銀行に登録されていないもの

 機械銀行事業は、地域における農業機械の効率的利用を図り、もって、機械の過度の導入を将来にわたって抑制しようとするものであることから、機械銀行設置地域における農業機械の保有状況を的確に把握しておかなければ、その地域の農業機械作業の効果的な仲介あっせんが困難となり、農作業と農業機械とを有機的に結び付けて農業機械の効率的な利用の実現を図ることはできない。したがって、機械銀行の運営に当たっては、まず当該地域の農業機械の保有状況を的確に把握したうえで管内の遊休化している農業機械を登録させることが必要であり、その登録数は機械銀行運営の成否を左右するものである。また、これらの機械については、農家が自己資金で導入した農業機械についてもその余力の有無を確かめ、遊休しているものがあればこれを機械銀行に登録させることが望ましい。この観点から、特に他の国庫補助事業で導入した農業機械の保有状況は容易に把握できるのでその登録状況を調査したところ、126機械銀行のうち、設置後その管内の営農集団等が農業機械を他の国庫補助事業で導入しているものは116機械銀行(他の国庫補助事業のうち農業機械の導入に要した事業費12,894,646千円)あるが、導入した農業機械の事業費でみてその50%以上に相当する分が未登録となっているものが60機械銀行(未登録の農業機械の導入に要した事業費5,195,140千円)あり、なかには全く登録されていないものが16機械銀行(同1,325,489千円)も見受けられた。

 このうち主な事例を挙げると次のとおりである。

<事例5>

 青森県 E農業機械銀行

年度
区分
54 55 56 57 58

事業費
千円
4,670
千円
4,700
千円
4,700
千円
4,700
千円
5,000
千円
23,770
国庫補助金 2,321 1,880 1,393 928 500 7,022

 この機械銀行は、農家戸数4,242戸、耕地面積8,322haを対象地域として54年度に事業を開始している。
 この機械銀行管内では、各営農集団等ごとにトレンチャー(溝掘機)が導入されていて、その導入状況は、新農業構造改善事業により55年度に機械銀行事業の事業主体でもある農業協同組合で1台、55、56年度に4営農集団組合(構成員6名から18名)で7台、56年度に2営農組合(同12名及び20名)で3台、トラクター利用組合(23名)で1台、機械共同利用組合(同9名)で1台、共同防除組合(同25名)で1合計14台となっている。トレンチャーは、主として水田を畑に転換する際の排水のために溝を掘るのに使用するものであって、一度使用すると当該畑には当分の間必要がないものであるが、いずれも機械銀行に登録されておらず機械銀行を通した共同利用が十分図られないため、上記のトレンチャーの中には利用率の低いものが相当数見受けられる。
 このような事態となっているのは、

ア 農業機械の登録についての具体的な指示がなく、また、この事業と貴省で別途に企画されている機械導入に係る国庫補助事業との調整が行われていないこと、

イ これらの農業機械の登録について、事業主体の理解が十分でなかったこと

などによると認められる。

 ついては、機械銀行事業が果たすべき役割の重要性にかんがみ、貴省において、以上に述べたような事態を踏まえ機械銀行事業の運営について、その実態を十分把握したぅえ、

(1) 機械銀行事業がその目的を達成できるよう、他の機械導入補助事業との調整に留意して、実施要領等を整備し、

(2) モデル機械銀行を設定し、マニュアルを作成するなどにより、事業主体に対する本制度の周知徹底を図り、また、事業主体に対する指導監督を徹底する

などして本事業の適正な運営に努める要があると認められる。

 よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の処置を要求する。

 (注)  北海道ほか22県  北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、群馬、埼玉、新潟、富山、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、広島、山口、徳島、香川、長崎、大分、鹿児島各県