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  • 昭和59年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第4 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

繁殖雌牛導入事業について適正な事業実施を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(4) 繁殖雌牛導入事業について適正な事業実施を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)畜産振興費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
事業主体 市町村42、農業協同組合227、その他2、計271事業主体
補助事業 肉用牛生産緊急総合対策事業(昭和55年度)、大家畜振興対策事業(昭和56年度)、家畜導入事業資金供給事業(昭和58、59両年度)
事業の概要 市町村及び農業協同組合等が繁殖雌牛を購入し、農業者等に一定期間貸し付けた後、その者に譲渡することにより肉用牛の繁殖経営の飼養規模の拡大等を図るための繁殖雌牛導入事業
上記に対する国庫補助金交付額の合計 984,357,182円 (昭和55、56両年度)
1,220,672,113円 (昭和58、59両年度)
計2,205,029,295円

 上記の繁殖雌牛導入事業は、3年から4年後におおむね5頭以上の肉用牛の飼養を目標とする農業者を事業の対象者としているが、対象者の具体的な選定基準が示されていなかったり、導入後における対象者に対する指導が十分でなかったりなどしたため、導入後相当期間を経過しているのに、いまだに増頭していないものが見受けられるばかりでなく、調査した農業者全体のうち、繁殖中核経営事業の目標としている5頭以上の飼養規模に達していないものが71%にも上り、また、計画頭数に達していないものが82%と著しく高率となっていて、事業の効果が発現しているとは認められない状況である。また、本事業は、対象者が生産した牛については、原則として補助の対象としないこととしているのに、この取扱いについて指導が徹底していなかったため、これを補助の対象としているものなど適切を欠く事態も見受けられた。
 したがって、農林水産省において、本事業の関係者に対して事業の主旨・目的及び内容の周知及び指導の徹底を図るとともに、事業の対象者の具体的な選定基準を定め、畜産経営計画を年次別に具体的なものとし、もって事業実施の適正を期する要がある。 

上記に関し、昭和60年12月5日に農林水産大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

 繁殖雌牛導入事業の実施について

 貴省では、畜産振興対策のうち肉用牛の生産対策については、牛肉の需要が堅調に推移しているなかで、繁殖経営にあっては、飼養規模が零細で、生産が停滞的であることから、繁殖雌牛を計画的に導入し、その飼養規模を拡大して繁殖中核経営群を育成するとともに、肉用牛資源の確保を図ることが緊急の課題であるとし、昭和55年度に肉用牛生産緊急総合対策事業、56年度に大家畜振興対策事業、57年度以降に家畜導入事業資金供給事業(以下、これら事業による肉用繁殖雌牛の導入事業を「繁殖雌牛導入事業」という。)を国庫補助事業として実施している。

 この繁殖雌牛導入事業は、市町村、農業協同組合(以下「農協」という。)等が事業主体となり、繁殖雌牛を購入して農業者等に一定期間(成牛3年、育成牛5年)貸し付けた後その者に譲渡する事業で、その事業目的等により肉用牛繁殖中核経営育成型事業、水田等肉用牛定着化型事業、高齢者等肉用牛飼育型事業等の8事業に区分されていて、これら事業に対して都道府県が補助する場合にその一部を国が補助するもので、その額は事業の種類により1頭当たり33,000円から262,500円となっており、都道府県に対する国庫補助金交付額は、55年度25億0363万余円、56年度28億5677万余円、57年度28億1630万余円、58年度24億9157万余円、59年度17億9236万余円、計124億6065万余円となっている。

 しかして、本年、北海道ほか12県(注1) において、上記補助事業の実施状況について調査したところ、補助事業の効果が十分発現していなかったり、補助対象とならないものを対象としていたりしていて適切を欠いていると認められる事態が次のとおり見受けられた。

1 繁殖中核経営事業の効果が十分発現していないもの

 繁殖雌牛導入事業のうち最も多く実施されている肉用牛繁殖中核経営育成型事業(55、56両年度においては肉用牛繁殖中核経営育成推進事業。以下、これら事業を「繁殖中核経営事業」という。)は、繁殖経営の飼養規模の拡大(繁殖雌牛の増頭)を主目的とし、これを志向する農業者を対象として繁殖経営の中核的担い手の育成を図るもので、3年から4年後におおむね5頭以上の繁殖雌牛の飼養を目標とする者を対象者としている。そして、農業者は、事業の実施に当たって、農業労働力、経営農用地等面積及び飼養計画を明らかにした畜産経営計画書を事業主体に提出し、その達成に努めなければならないこととなっている。

 しかして、前記13道県下の178農協等が55、56両年度に実施した繁殖中核経営事業により繁殖雌牛を導入した農業者の59年度末現在における飼養状況について55年度事業に係る8,060人(導入頭数9,931頭、これに係る国庫補助金475,824千円)、56年度事業に係る8,859人(同10,617頭、同508,532千円)、計16,919人(同20,548頭、同984,357千円)を対象として調査したところ、次のような状況となっていた。

(ア) 導入前の飼養規模に対して、増頭していないもの

導入年度 農業者数 導入頭数 左に係る国庫補助金

55
人 %
2,813(34)
頭 %
3,082(31)
千円
147,768
56 3,206(36) 3,517(33) 168,642
6,019(35) 6,599(32) 316,410

(イ) 5頭以上の飼養規模に達していないもの

導入年度 農業者数 導入頭数 左に係る国庫補助金

55
人 %
5,675(70)
頭 %
6,340(63)
千円
301,119
56 6,340(71) 6,899(64) 330,507
12,015(71) 13,168(64) 631,626

(ウ) 導入時に計画した飼養規模に達していないもの

導入年度 農業者数 導入頭数 左に係る国庫補助金

55
人 %
6,689(82)
頭 %
7,913(79)
千円
379,835

 

〔1〕  各表の( )内の数字は調査数に対する割合を示す。
〔2〕 表(ア)、(イ)、(ウ)には重複して計上されているものがある。

 上記のように、導入後相当期間を経過しているのに、いまだに増頭していないものが見受けられるばかりでなく、調査した農業者全体のうち、本件繁殖中核経営事業の目標としている5頭以上の飼養規模に達していないものが71%にも上り、また、計画頭数に達していないものが82%と著しく高率となっていて、本件補助事業の効果が発現しているとは認められない状況である。
 このように飼養規模が目標どおり拡大していない原因を農業者13,907人について調査したところ、その主なものは次のとおりであった。

(ア) 導入者が高齢であったり、後継者がいなかったりしているなど農業労働力不足によるもの 3,154人(23%)
(イ) 耕種農業等に経営転換し又は離農したことによるもの 2,458人(18%)
(ウ) 畜舎等の施設不足によるもの 1,896人(14%)
(エ) 飼料基盤がないなど自給飼料の確保難によるもの 1,269人(9%)

 このような事態を生じているのは、57年春以降の長期間にわたる子牛価格の低迷による収益性の低下等により、対象農業者の飼養規模拡大の意欲が阻害されたことにもよるが、

ア 貴省において、繁殖中核経営事業対象農業者の選定状況及び導入後の飼養状況等の実態を十分把握していないため、このような事態に対する適切な対策が講じられておらず、対象農業者の選定について、具体的な基準が示されていないことから、事業主体の農協等において、飼養規模の拡大に必要な労働力、草地等の飼料基盤等がなく規模拡大が困難な農業者を安易に選定していたり、また、選定の際の審査資料となる畜産経営計画書の様式が事業目標の達成までの具体的な年次計画を明らかにするようになっていないなど対象農業者選定のための十分な資料となっていなかったりしていること、

イ 肉用牛の繁殖経営は、雌牛の導入から子牛の出荷まで通常2年程度を要して資金の回転率が悪く、その対策として、繁殖中核経営事業により導入資金の調達を容易にし、経費負担の軽減を図りながら飼養規模を拡大しようとするものであるから、導入後において、相当期間にわたる事業効果を確保するための継続的な指導が必要であり、特に零細な対象農業者に対しては個別的指導が必要であると認められるのに、関係機関による指導が十分行われていないこと

などによると認められる。

 ついては、本件補助事業は、酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(昭和29年法律第182号。以下「酪肉振興法」」という。)に基づく重要施策として今後とも引き続き実施されるものであるから前記の事態にかんがみ、貴省においては、

ア 本件補助事業の関係者に対し、事業の主旨・目的及び内容の周知徹底を図るとともに、対象農業者の選定については、酪肉振興法に基づいて地域の実情に応じた具体的な選定基準を定めることとし、また、畜産経営計画については、具体的な年次計画を明らかにするようにする、

イ 導入後においては、都道府県、市町村、農協等関係機関が有機的連携を密にして、対象農業者に対し、飼養規模の適正な拡大についての指導の徹底を図るようにする

などの措置を講じ、もって本件補助事業の効果の発現に努める要があると認められる。

2 自家生産牛の取扱いが適切を欠いているもの
 繁殖雌牛導入事業の対象農業者が生産した牛(以下「自家生産牛」という。)については、当該事業が牛を外部から導入することを前提としており、繁殖雌牛を導入するのに要する資金の調達を容易にして、経費の負担を軽減することを目的としているものであることから、購入資金を要しない自家生産牛は原則として当該農業者についての補助事業の対象としないこととなっているが、繁殖中核経営事業に限り、単年度に2頭以上の急速な規模拡大を行う場合、その増頭数の2分の1以内を補助の対象とすることができることとしている。

 しかして、北海道ほか8県(注2) 下の1市62農協等では、繁殖中核経営事業において、単年度に2頭以上の規模拡大が行われていないのに自家生産牛を補助の対象としたり、増頭数の2分の1を超えて補助の対象としたり、また、繁殖中核経営事業以外の繁殖雌牛導入事業において、自家生産牛を補助の対象としたりしているものが、次のとおり見受けられた。

導入年度 農業者数 補助対象にできない自家生産牛を対象としていた頭数 左に係る国庫補助金
58
449

510
千円
21,766
59 472 506 20,244
921 1,016 42,011

 このような事態となっているのは、貴省において、自家生産牛の取扱いについての運用通達を発しているもののその実態を把握していないため指導の的確を欠いていること、このこともあって事業主体において安易に自家生産牛を補助事業の対象としていることなどによると認められる。
 ついては、貴省においては、上記の事態にかんがみ、自家生産牛の取扱いについて運用通達を遵守するよう関係機関に対する指導の徹底を図り、もって本件補助事業の適正な執行に努める要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

 (注1)  北海道ほか12県 北海道、青森、岩手、宮城、福島、栃木、長野、島根、広島、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県

 (注2)  北海道ほか8県 北海道、青森、岩手、宮城、福島、栃木、島根、宮崎、鹿児島各県