会計名及び科目 | 簡易生命保険及郵便年金特別会計(保険勘定) |
部局等の名称 | 関東、近畿、北海道各郵政局 |
貸付けの内容 | 公共施設の建設事業等を行う地方公共団体等に対する簡易生命保険の積立金の長期貸付け |
貸付先 | 北海道ほか1県14市町村 |
貸付金額の合計額 | 58億9300万円(昭和54年度債〜59年度債) |
上記の部局では、簡易生命保険の積立金の長期貸付けに当たり、指定寄附金を貸付対象事業費から控除していなかったり、貸付けの対象外の費用を貸付対象事業費に含めていたりなどしていて、貸付額が過大になっているなど8億3099万余円の貸付けが適切でないと認められた。
このような事態を生じているのは、郵政省において、貸付時の審査及び貸付後の監査に関する具体的な基準を定めていないこともあって、貸付金額算定の基礎となる貸付対象事業費の適否についての調査確認、事業実施状況の把握が十分でないまま貸付けが行われてきたことなどによると認められる。
したがって、貸付規則等を整備するとともに、担当者に対する指導を強化するなどして本件積立金の貸付けの適正を期する要があると認められた。
上記に関し、昭和60年12月9日に郵政大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、簡易生命保険及郵便年金特別会計の保険勘定において、決算上生ずる剰余を将来の保険金等の支払準備金として積み立てている。この積立金については、簡易生命保険及び郵便年金の積立金の運用に関する法律(昭和27年法律第210号)の規定により、確実で有利な方法で、かつ、公共の利益となるよう運用することとされていて、貴省ではその運用の一環として、地方公共団体(以下「借入団体」という。)に対して長期貸付けを行っており、昭和60年5月末現在(59年度債貸付後)の貸付金残高は6兆0539億余円に上っている。
上記の長期貸付けは、簡易生命保険及び郵便年金の積立金の地方公共団体等に対する貸付規則(昭和49年郵政省令第20号)等により、借入団体が公共施設の建設事業費等の財源として自治大臣又は都道府県知事の許可を得て地方債を起こす場合における貸付けで2年以上にわたるものをいい、貸付時期は原則として貸付対象事業が完成した後に行うこととなっている。
そして、その貸付けに当たっては、借入団体から、貸付対象事業が完成した後、簡易生命保険積立金長期貸付借入申込書(以下「借入申込書」という。)に貸付対象事業の事業計画に関する書類、事業費の支出状況を明らかにした事業実施状況調書等を添付して地方郵政局長(沖縄郵政管理事務所長を含む。以下「郵政局長」という。)に提出させ、郵政局長は、その内容を審査のうえ、貸付額を決定して貸し付けることとしているが、その貸付額は、地方債許可方針等により、貸付対象事業費から当該事業に交付された補助金、当該事業に使用することが指定されている寄附金(以下「指定寄附金」という。)等の額を控除した額に、事業の種別等に応じて定められた充当率を乗じて得た額又はこの額から民間資金等借入額を控除した額としている。また、郵政局長は、貸付後に、借入金の使用状況、貸付対象事業の現況等について監査を行うこととされており、借入団体において借入条件等に違背した場合には繰上償還させることとしている。
しかして、借入団体が54年度債から59年度債までの貸付対象として実施した事業のうち、関東郵政局ほか4郵政局管内(注1)
の6道県及び80市町村が実施した事業について、昭和60年中に本院が検査したところ、指定寄附金を受け入れているのにこれを貸付対象事業費から控除していなかったり、貸付けの対象とならない費用を貸付対象事業費に含めていたりなどしていて、貸付金額が過大になっていると認められる事態が関東郵政局ほか2郵政局管内(注2)
の山梨県、北海道及び14市町村において83件、8億3099万余円(積立金相当額)見受けられた。
これらを態様別に示すと次のとおりである。
1 貸付対象事業費から指定寄附金を控除していないもの
積立金の貸付額は、貸付対象事業費から当該事業に交付された補助金及び指定寄附金等の額を控除した額を対象として算定することとなっているが、借入団体が指定寄附金を収納しているのに、これを貸付対象事業費から控除しなかったため、貸付額が過大になっているものが、関東郵政局管内の埼玉県桶川市で1件、過大貸付額542,126,168円ある。
郵政局 | 貸付先 | 貸付対象 | 貸付対象事業費 | 左に対する貸付金額 | 貸付金額のうち過大な貸付額 |
関東郵政局 |
埼玉県桶川市 |
市立朝日小学校用地取得事業 |
千円 1,348,028 |
千円 927,000 |
千円 542,126 |
この貸付けは、埼玉県桶川市が昭和57年度国庫補助事業として実施した市立朝日小学校用地取得事業に要する事業費の一部として、58年5月に積立金927,000,000円を貸し付けたもので、貸付対象事業費を1,348,028,000円としていた。
しかして、同市では、桶川駅西口再開発事業を実施している住宅・都市整備公団と費用負担契約を締結し、同市が建設する予定の市立朝日小学校建設用地取得費の一部に充てるものとして、58年3月に同公団から教育及び行政協力金570,670,000円を納付させ、一般財源として受け入れているが、これは上記事業に対する指定寄附金であるから、貸付対象事業費1,348,028,000円から控除する要があったと認められた。 したがって、上記に基づき適正な貸付額を計算すると384,873,832円となり、本件貸付額927,000,000円との差額542,126,168円が過大な貸付けとなっている。
2 貸付けの対象とならない費用を貸付対象事業費に含めているもの
積立金の貸付けは、借入団体が公共施設の建設事業等の財源として地方債を起こす場合に貸し付けているものであるから、貸付金算定の基礎となる貸付対象事業費は地方債許可方針等により算出されることとなっていて、同方針等では、一箇所当たりの工事費が少額なもの、耐用年数の短い施設費、消耗器材費、その他当該団体の財政状況等からみて一般財源をもって措置することが適当と認められる経費等は、原則として地方債を許可しないものとしている。
しかしながら、借入団体では貸付対象事業費のうちに消耗品購入費等起債の対象とはならないものなどを含めていたのに、これを貸付対象事業費から控除しないで貸付額を算定していたため、ひいては貸付額が過大になっているものが、関東郵政局管内の山梨県都留市ほか2町村で3件、過大貸付額14,545,149円ある。
郵政局 | 貸付先 | 貸付対象 | 貸付対象事業費 | 左に対する貸付金額 | 貸付金額のうち過大な貸付額 |
関東郵政局 |
山梨県南都留郡忍野村 |
村庁舎防音改築事業 |
千円 568,773 |
千円 172,000 |
千円 10,030 |
この貸付けは、山梨県南都留郡忍野村が昭和58年度事業として実施した村庁舎防音改築事業に要する事業費の一部として、59年5月に積立金172,000,000円を貸し付けたもので、貸付対象事業費を568,773,000円としていた。
しかしながら、村庁舎防音改築事業に要した事業費は、同村の決算書によれば562,617,844円であり、このうちには庁舎完成記念式典の列席者に配られた記念品代、消耗品購入費、事務用備品購入費等計21,592,844円が含まれており、これらはいずれも貸付対象事業費とは認められないものである。
したがって、実際の事業費から貸付けの対象とはならない経費を控除するなどして適正な貸付額を計算すると161,969,344円となり、本件貸付額172,000,000円との差額10,030,656円が過大な貸付けとなっている。
3 実際に要した事業費が計画額を下回っているのに、計画額により貸付額を算定しているもの
積立金の貸付けは、実際に要した事業費により貸付対象事業費を算定すべきであるのに、計画額により貸付対象事業費を算定したため、ひいては貸付額が過大になっているものが、関東郵政局管内の山梨県ほか1市、北海道郵政局管内の北海道ほか1市で6件、過大貸付額37,431,805円ある。
郵政局 | 貸付先 | 貸付対象 | 貸付対象事業費 | 左に対する貸付金額 | 貸付金額のうち過大な貸付額 |
関東郵政局 |
山梨県 |
県立甲府昭和高等学校用地取得事業 |
千円 1,819,330 |
千円 1,637,000 |
千円 22,292 |
この貸付けは、山梨県が昭和57年度事業として実施した県立甲府昭和高等学校用地取得事業に要する事業費の一部として、59年3月に積立金1,637,000,000円を貸し付けたもので、貸付対象事業費を1,819,330,000円としていた。
しかしながら、上記の貸付対象事業費のうち用地取得費が計画額を下回ったため、事業費が1,794,718,130円に減少しているのであるから、これにより貸付額を算定すべきであると認められる。
したがって、上記に基づき適正な貸付額を計算すると1,614,707,901円となり、本件貸付額1,637,000,000円との差額22,292,099円が過大な貸付けとなっている。
4 積立金の貸付後、国庫補助事業で対象事業費が減額されているのに、貸付額の減額措置が執られていないもの
各郵政局では、義務教育施設整備事業等の国庫補助事業を実施する借入団体に対し、その事業費の一部として積立金を貸し付けており、この場合は、国庫補助対象事業費を貸付対象事業費として貸付額を算定することとしている。
しかして、当該国庫補助対象事業費が各省各庁の長の決定により減額され、国庫補助金の交付決定の全部又は一部が取り消された場合には、これに対応して貸付対象事業費を減額することが必要となるが、貸付後、国庫補助対象事業費及び国庫補助金がそれぞれ当初の額から減額されているのに、貸付額を当初の貸付対象事業費に基づいて算出したままとしていて、減額の措置を講じていなかったため、貸付額が過大になっているものが、北海道郵政局管内の札幌市で2件、過大貸付額14,287,425円ある。
郵政局 | 貸付先 | 貸付対象 | 貸付対象事業費 | 左に対する貸付金額 | 貸付金額のうち過大な貸付額 |
北海道郵政局 |
札幌市 |
市立平岸西小学校校舎増築事業 |
千円 73,442 |
千円 28,400 |
千円 6,370 |
この貸付けは、札幌市が昭和58年度国庫補助事業として実施した市立平岸西小学校校舎増築事業に要する事業費の一部として、59年5月に積立金28,400,000円を貸し付けたもので、貸付時の貸付対象事業費は、国庫補助対象事業費と同額の73,442,000円としていた。
しかして、上記の国庫補助事業については、事業完了後補助対象事業費算定の基礎となる児童数の計算に誤りがあり、国庫補助対象事業費が過大に算定されていたことが判明したことから、文部省では、60年3月に補助対象事業費を56,973,000円に減額し、国庫補助金交付済額41,092,000円について交付決定の一部を取り消して31,878,000円とし、超過交付額9,214,000円を返還させているのであるから、これに対応する適正な貸付対象事業費に基づいて貸付額を算定すべきものと認められる。
したがって、上記に基づき適正な貸付額を計算するすると22,029,017円となり、本件貸付額28,400,000円との差額6,370,983円が過大な貸付けとなっている。
5 住宅新築資金等貸付事業において、借入団体の借入金の使用状況等が適切でなく、貸付けの目的を達していないもの
各郵政局では、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域の環境の整備改善を図ることを目的として、当該地域に係る住宅の新築及び改修並びに宅地の取得のために必要な資金を貸し付ける住宅新築資金等貸付事業(貸付限度額620万円、利率は年2%以内、償還期限は25年以内)を行う市町村に対して、その新規所要資金の一部として積立金を貸し付けている。
しかして、借入団体から住宅新築資金等の貸付けを受けた者が、借入れ後相当な期間を経過しているのに住宅の新築等を行っていないなど、同資金の使用状況等が著しく不適切となっていて、本貸付金が貸付けの目的を達していないと認められるものが、近畿郵政局管内の滋賀県長浜市ほか6市町で71件222,600,000円ある。
このような事態を生じているのは、積立金の長期借入れに当たって地方公共団体がその取扱いについて適切を欠いたことにもよるが、貴省において、郵政局に積立金の貸付事務を行わせるに当たって、貸付けの際の審査及び貸付後の監査についての具体的な基準を定めていないこともあって、貸付金額算定の基礎となる貸付対象事業費等の適否についての調査確認及び事業実施状況の把握が十分でないまま起債許可額の範囲内であれば貸付けが行われてきたこと、国庫補助対象事業費や国庫補助金に変動が生じた場合において、その事実を速やかに各郵政局が把握できる体制となっていないこと、地方公共団体に対する指導等が十分でなかったことなどによると認められる。
ついては、本件積立金は、簡易生命保険及郵便年金特別会計の保険勘定において、決算上生ずる剰余を将来の保険金等の支払準備金として積み立てているものであり、国の財政投融資の一環として社会資本充実のための貸付財源でもあることにかんがみ、簡易生命保険及び郵便年金の積立金の地方公共団体等に対する貸付規則等を整備し、各郵政局において事業の実施状況、経理の実態等を的確に把握し、貸付時の審査及び貸付後の監査が十分行えるようにするとともに、貸付事務担当者に対する指導教育を強化し、さらに借入団体に対しては、借入申込書等の書類を真実な決算書類等によって作成するよう指導の徹底を図るなど所要の措置を講じ、もって本資金の貸付けの適正を期する要があると認められる。
よって会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) 関東郵政局ほか4郵政局 関東、東海、近畿、九州、北海道各郵政局
(注2) 関東郵政局ほか2郵政局 関東、近畿、北海道各郵政局