会計名及び科目 | 一般会計 (組織)建設本省 (項)住宅建設等事業費 |
部局等の名称 | 東京都、北海道、京都、大阪両府、福島、埼玉、千葉、神奈川、石川、長野、岐阜、静岡、愛知、兵庫、奈良、島根、岡山、広島、香川、高知、佐賀各県 |
補助の根拠 | 公営住宅法(昭和26年法律第193号) |
事業主体 | 都道府県21、市259、町245、村20、計545事業主体 |
補助事業 | 公営住宅建設補助事業 |
補助事業の内容 | 住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的として住宅を建設する事業 |
収入超過者が入居している戸数 | 210,851戸 |
上記に対する国庫補助金交付額 | 178,569,126,000円(昭和26年度から58年度) |
上記事業主体が建設し管理している公営住宅のうちの719,143戸において、収入超過者の入居している住宅が210,851戸あり、このうち、高額所得者の入居している住宅が26,332戸あるのに、これらに対して適切な対応策が講じられておらず、制度の趣旨に沿わない事態になっている。
このような事態を生じているのは、住宅の明渡しについて入居者の理解が得られないこと、事業主体における積極的な対応策が執られていないことなどにもよるが、建設省における本制度の趣旨を実現させるための指導、監督が十分でなかったことによると認められる。
したがって、建設省において、本制度の趣旨が公営住宅の管理運営において十分実現されるよう周知徹底するとともに、各事業主体に対しても本制度の趣旨に則して指導、監督を強化し、もって本制度の適切な運営を図る要がある。
上記に関し、昭和60年12月3日に建設大臣に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、住宅施策の一環として、公営住宅法(昭和26年法律第193号。以下「法」という。)に基づき公営住宅の建設を推進するため、都道府県及び市町村(以下「事業主体」という。)に対し、毎年度多額の公営住宅建設費補助金を交付しており、これにより事業主体が建設し管理している公営住宅は多数に上っている。
そして、これら公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的としており、このことから、法第21条の2ないし第21条の4の規定により、
ア 公営住宅の入居者のうち、当該公営住宅に引き続き3年以上入居していて公営住宅法施行令(昭和26年政令第240号。以下「政令」という。)で定める基準を超える収入がある者(以下「収入超過者」という。)は、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならず、この場合事業主体は、他の適当な住宅をあっせんするなど明渡しを容易にするよう努めるほか、これらの者に対して条例で定めるところにより割増賃料を徴収することができること、
イ 公営住宅の入居者のうち、当該公営住宅に引き続き5年以上入居していて最近2年間引き続き政令で定める基準を超える高額の収入のある者(以下「高額所得者」という。)に対しては、事業主体の長は、期限を定めて当該公営住宅の明渡しを請求することができ、この場合事業主体は、明渡しを容易にするよう公営住宅以外の公的資金による住宅への入居等について、特別の配慮をしなければならないこと
と定められている。また、法第26条の規定によって、貴職及び都道府県知事は、公営住宅の管理に関し事業主体に対して必要な指示を行い、報告書の提出を命ずることができることとなっている。
しかして、本院において、北海道ほか544事業主体が昭和26年度から58年度までに建設して管理している公営住宅で収入調査の対象となる住宅(引き続き3年以上入居している者の入居する住宅。以下「収入調査対象戸数」という。)のうち、第一種公営住宅423,275戸、第二種公営住宅295,868戸、計719,143戸(国庫補助基本額1兆3319億1213万余円、国庫補助金相当額7345億7017万余円)について、収入超過者及び高額所得者に対する措置の実情等公営住宅の管理状況を調査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
すなわち、収入調査対象戸数のうち収入超過者が入居している戸数は、北海道ほか544事業主体において第一種公営住宅114,327戸、第二種公営住宅96,524戸、計210,851戸(国庫補助基本額3195億0567万余円、国庫補助金相当額1785億6912万余円)に上っており、収入調査対象戸数の29.3%を占めている。そして、収入超過者についての各事業主体の対応状況をみてみると、収入状況の調査さえしていないもの(33事業主体)、調査をしていても収入超過者であることを決定した旨の収入認定通知書を送付していないもの(133事業主体)、収入認定通知書を送付していても収入認定通知書において明渡努力義務の喚起をしていないもの(167事業主体)があるほか、増割賃料の徴収をしていないもの(131事業主体)や他の適当な住宅へのあっせんをしていないもの(222事業主体)が見受けられた。
そして、これら収入超過者戸数のうち高額所得者が入居している戸数は北海道ほか461事業主体において第一種公営住宅18,286戸、第二種公営住宅8,046戸、計26,332戸(国庫補助基本額285億7195万余円、国庫補助金相当額152億9265万余円)で、収入調査対象戸数の3.6%、収入超過者が入居している戸数の12.4%を占めている。
しかして、これら高額所額者についての各事業主体の対応状況をみてみると、
(ア) 高額所得者であることを決定した旨の高額所得者認定通知書を送付していないもの |
282事業主体(9,607戸) |
(イ) 前記の認定通知書に明渡請求を行うことがある旨の明示をしていないもの |
18事業主体(262戸) |
(ウ) 公営住宅以外の公的資金による住宅へのあっせんをしていないもの |
399事業主体(6,541戸) |
となっており、明渡請求をしているのは63事業主体(920戸)にすぎない状況である。そして、これらの高額所得者の収入についてみると、総務庁統計局の「貯蓄動向調査」を基にした57年度における所得分布の上位30%以内に含まれる者が約76%を占めており、なかには月額200万円を超える収入のある者も見受けられる状況となっている。
このように、入居後所得が増加し、相当高額の収入を得るに至ってもなお引き続き居住を継続している者が多数いるのに、これらの者に対して事業主体が積極的な対応を行っていないのは、公営住宅が低額所得者を対象とする住宅として建設されており、住宅に困窮し公営住宅に入居を希望している低額所得者が現に多数存在していて、その入居のために毎年相当数の公営住宅が建設されている状況からみて著しく公平を欠くとともに、本制度の趣旨に沿わないと認められる。
このような事態を生じているのは、
ア 入居者においては、公営住宅の家賃が低額で割増賃料を加算してもなお一般の賃貸住宅に比べて低廉である、永年住み慣れた所を離れたくない、適当な転居先がないなどの理由から明渡しを忌避すること、また、公営住宅制度に対する理解の不足や事業主体から格別の明渡しの請求を受けていないなどの事情があること、
イ 事業主体の制度に対する理解が十分でなく、収入超過者や高額所得者に対して明渡請求等の積極的な対応を執っておらず、公営住宅の管理に関する条例においても、収入超過者や高額所得者に対する認定通知、明渡請求手続き等に関する条項を設けていなかったり、条項を設けていても遵守していなかったりしており、なかには収入超過者の把握や割増賃料の徴収も行っていないところがあるなど、関係法令の規定の趣旨が管理運営の実施面に的確に反映されていないこと、
ウ 貴省において、住宅に困窮する低額所得者に対して住宅を建設し低廉な家賃で賃貸するという本制度の趣旨を実現させるための指導監督が十分でないこと
によると認められる。
ついては、公営住宅事業は低額所得者に対する住宅施策として引き続き計画的に推進される重要な事業であるから、貴省では、前記の事態にかんがみ、本制度の趣旨が公営住宅の管理運営において十分実現されるよう周知徹底するとともに、各事業主体に対しても本制度の趣旨に則して、条例等の整備や事業の的確な実施を図るよう指導監督を強化し、もって本制度の適切な運営を図る要があると認められる。
よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の意見を表示する。