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  • 昭和59年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第7 水資源開発公団|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

琵琶湖開発事業における旅客船に対する補償の処理について意見を表示したもの


琵琶湖開発事業における旅客船に対する補償の処理について意見を表示したもの

科目 (一般勘定) (款)建設費 (項)ダム等建設費
部局等の名称 琵琶湖開発事業建設部
補償の概要 琵琶湖開発事業の施行により発生する旅客船の航行障害等の損失をあらかじめ補償したもの
補償対象 旅客船15隻(昭和59年度末現在。ただし、このほか旅客船3隻について補償協定が成立。)
支払済額 35億3928万円(昭和56年4月〜60年3月)

 上記の補償は、琵琶湖における旅客船運航事業の公益性を重視し、非常渇水による水位低下時においてもその運航が確保されることを前提に軽合金製による喫水深1.0m以内の代替船を建造するための機能回復費用相当額を補償したものであって、この経緯からみて、建造された代替船のうちに喫水深が1.0mを超えているものがあったり、建造直後から琵琶湖に就航することなく大阪市内の河川に就航しているものがあったりなどしている事態は、多額の機能回復費用相当額を補償した趣旨が生かされているとはいえないものである。

 したがって、今後、水資源開発公団が行う水資源開発事業の実施において、この種の補償を行う場合には、機能回復の実現を確保するための処置を講じるなど、適切な配慮を要すると認められる。

 上記に関し、昭和60年12月6日に水資源開発公団総裁に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。

 琵琶湖開発事業における旅客船に対する補償の処理について

 貴公団では、琵琶湖開発事業の実施に伴い、琵琶湖汽船株式会社ほか4名(以下「会社等」という。)に対しその所有に係る旅客船の運航について同事業施行により将来発生することが予想される損失をあらかじめ事業損失として補償するため、旅客船18隻を対象として、昭和56年3月から5月までの間に補償額を総額46億5780万円とする補償協定を会社等と締結し、このうち15隻分について56年度から59年度までの間に総額35億3928万円を支払っている。

 この補償は、上記事業が大阪府内及び兵庫県内の増大する水需要に対処するため最大毎秒40m3 の都市用水を新たに供給することを目的としており、その施行によって、将来、非常渇水時には琵琶湖の水位が基準水位に比べて2m低下すると予測されており、この水位低下が2mの場合、平均水深が4m程度の南湖水域のほぼ全域で、喫水深が1m以上の船舶に船速の低下や波浪の影響による触底等の航行障害が生じることが予見されるとして、これら旅客船の航行上の障害等についてあらかじめ補償することにより、会社等が被る一切の損害について解決することとして実施されたものである。そして、この補償に当たって、貴公団では、琵琶湖における旅客船運航事業が公益性の高い事業であることから、非常渇水による水位低下時においてもなお旅客船の運航を確保する必要性があると判断し、このような事態について旅客船の低喫水化を図ることにより対処することにし、運航の用に供している旅客船を改造することは技術的に困難であることから、専門機関に技術的検討を委嘱した結果を基に滋賀県旅客船協会(琵琶湖において旅客船運航事業を営む者で構成する団体)等と協議のうえ、56年3月に、同協会等との間で、補償額は代替船の建造費用相当額とすることを内容とする覚書を取り交わしている。この覚書では補償額算定の基礎とする代替船の構造を、〔1〕 喫水深は1.0m以内、〔2〕 船型は排水量型、〔3〕 材質は軽合金とすることとし、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」(昭和42年閣議決定)で定める機能の回復に係る補償費の算定方式を参考とするなどして補償対象船の機能回復に要する費用相当額を合計46億7684万余円と算定し、これに基づき会社等と補償協定を締結している。そして、この補償協定書では、事業損失補償は原則として金銭渡し切り補償で行われるものであるとの観点から、補償後の処置については会社等の責任において対応されるべきものであるとして、補償額算定の基になった覚書記載の喫水深1.0m以内、軽合金製等の要素の実行については何らの定めも設けていなかった。

 しかして、本件補償について調査したところ、59年度までに補償が行われた15隻の代替船として59年7月までに建造された12隻のうち、琵琶湖汽船株式会社ほか3名所有の「玻璃丸」等11隻に対する補償(補償支払額28億4172万円)の代替船「ミシガン」等8隻は、いずれもスクリュー最下端部までの喫水が、最大のものでは1.76m、最小のものでも1.12mとなっていて、いずれも1mを超えていた。このなかには、船底までは1.0m未満であるがかじ最下端部までが1.25mであることを考慮して補償対象とした「銀竜丸」の代替船の「第8わかあゆ」のように、スクリュー最下端部までが1.2mとなっていて補償対象船とほとんど変らない喫水深となっているものや、「ゆうぎり」等5隻の代替船である「第6わかあゆ」等4隻のように、代替船の方がスクリュー最下端部までの喫水がかえって深くなっているものも見受けられ、また、材質が軽合金でなく鋼船となっているものが2隻ある状況であった。さらに、上記15隻に対する補償のうち、橋本汽船株式会社(現、株式会社近江舞子ホテル)所有の「ちくぶしま」(補償支払額1億7916万円)の代替船として建造された「なにわ1号」についてみると、58年8月に進水後、琵琶湖に就航することなく直ちに淀川で旅客船運航事業等を営む大阪水上バス株式会社(58年8月設立)に貸し渡され、同一設計の他の3隻とともに同社の定期航路(毛馬一淀屋橋間)及び不定期航路(淀川周遊)で通勤、観光併用船として使用されており、60年7月に至るまで琵琶湖の旅客船運航事業の用に供されたことはない状況であった。

 上記のように、本件補償は、琵琶湖における旅客船運航事業の公益性を重視し、非常渇水による水位低下時においてもその運航が確保されることを前提に代替船の建造費用相当額を補償した経緯からみて、その趣旨が生かされているとはいえないものとなっている。

 このような事態となっているのは、本件補償が、琵琶湖における旅客船運航事業の公益性を重視して非常渇水時においても運航できるように、公共施設に対する補償の場合に準じて機能回復に要する多額の費用相当額を補償金として支払うこととしている特殊な補償であり、たとえ事業損失補償が金銭渡し切りによる補償を原則としているとしても、機能回復が図られないこととなった場合には公益性を重視した趣旨が生かされないことになるのに、この点についての貴公団の認識と配慮が十分でなかったことによると認められる。

 ついては、貴公団の行う事業は、多額の国費を含む公共の資金をもって実施されているのであり、今後も水資源の開発に伴って同種の補償を行う場合も多いと思料されるので、今後の水資源開発事業の施行の際、公益性を重視して機能回復に要する多額の費用相当額を補償するような場合には、機能回復の実現を確保するための適切な処置を講じる要があると認められる。

 上記のほか、代替船の喫水深が1mを超える11隻の補償対象船のうち「銀竜丸」及び「湖城」については、補償協定締結時(56年)まで10年以上にわたり係船されていたが、エンジン及び船体の維持管理状況は良好であり、所要の調整を加えれば将来南湖航路に就航することができるとして、その場合には航行障害等を被ることとなるなどを理由に補償の対象(補償支払額それぞれ1億0348万円及び1億4420万円)としたものであるが、この両船は、係船と同時に、航行時の常備が義務付けられている船舶検査証書等を国に返納していて旅客船として運航されていなかったものであり、このような船舶を補償の対象とする場合は、維持管理及び改造状況、これらを裏づける経理状況等について特に入念に調査検討し、補償の根拠を明確にしておくべきであるにもかかわらず、資料の保管が十分でなかったため、当該船舶が解体処分された現在、補償対象船として選定したことなどの適否が確認できない状況であったので、今後この種の補償を行うに際しては、適切な配慮を要すると認められる。

 よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の意見を表示する。