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  • 昭和60年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第3 大蔵省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農地等に係る相続税の納税猶予制度の運用について改善させたもの


農地等に係る相続税の納税猶予制度の運用について改善させたもの

会計名及び科目  一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入

(項)各税受入金
部局等の名称 保土ケ谷税務署ほか29税務署(注1)
納税を猶予する根拠 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第70条の6
制度の概要  相続人が継続して農業の用に使用する農地等に関する相続税について所定の額の納税を猶予し、この農地等を20年間使用した場合などには免除するもの
納税義務者数 37人
納付すべき税額 107,421,000円
上記に係る利子税額 54,262,600円

 上記税務署において、相続税の納税の猶予の対象となった農地等(以下「特例農地」という。)を譲渡したり転用したりしていて、猶予されていた相続税を納付しなければならないのに、これを納付していない者が37人、納付すべき税額107,421,000円及びこれに係る利子税額54,262,600円見受けられた。
 このような事態となったのは、納税の猶予を受けている者の本制度についての理解が十分でなかったこと、税務署において特例農地の現況の把握、関係資料の活用が十分に行われていなかったこと、税務署と農業委員会等との連絡調整が十分でなかったことなどによるもので、所要の処置を講じてこの制度の適切な運用を図る要があると認められた。

 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)

 農地等に係る相続税の納税猶予の制度は昭和50年に租税特別措置法の改正により創設されたもので、この制度によれば、農地等を取得した相続人が引き続き農業を営む場合で、農業委員会よりその旨の証明を受けるなど所定の要件を満たしているときは、次の式により算出した相続税の額について、農業を継続する相続人の死亡の日又は相続税の申告書の提出期限の翌日から20年を経過する日のいずれか早い日までその納税を猶予し、当該期間が経過したときは猶予額を免除することとなっている。

猶予される税額 = 相続により取得した財産のすべてを通常の評価額により計算した場合の相続税額 - 相続により取得した財産のうち、特例農地を農業投資価格(注2) により、他の取得財産を通常の評価額により計算した場合の相続税額

 また、農業を継続する相続人が当該期間の経過前に、特例農地の全部又は一部を譲渡したり、他の用途に転用したりなどしたときは、猶予額の全部または一部の金額について、譲渡等の日から2箇月を経過する日までに当該税額と利子税額(年率6.6%)を納付することとなっている。
 そして、61年6月末現在、この制度の適用を受けている者は約5万8千人で、納税の猶予を受けている額は約1兆1698億円に上っている。
 しかして、本制度の運用状況について検査したところ、次のとおり適切でないと認められる点が見受けられた。
 すなわち、61年4月から9月までの間に、大森税務署ほか133税務署において、譲渡、転用等の可能性の高い市街化が進んでいる地域に所在する特例農地について納税猶予の適用を受けている者844人、これに係る納税猶予額199億7215万余円について、調査を行った結果、30税務署において、特例農地を譲渡したり、転用したりしていて納付すべき税額があるのにこれを納付していない者が次のとおり37人、納付すべき税額107,421,000円及びこれに係る利子税額54,262,600円見受けられた。

税務署数 納税義務者数 納付すべき税額 利子税額
1 特例農地を駐車場等として貸し付けたり、自己の建物を建設したりして他の用途に転用していたもの
27 33 90,663,100 49,613,000
2 特例農地を譲渡していたもの
8 8 16,757,900 4,649,600
35 41 107,421,000 54,262,600

  (備考)税務署数35署のうち5署、納税義務者数41人のうち4人は重複して掲記している。

 このような事態となったのは、納税の猶予を受けている者の本制度の趣旨についての理解が十分でなく、転用等を行った場合に農業委員会に対する所要の手続などをしていなかったこと、農業委員会が納税の猶予を受けている者から転用等の届出を受けた場合に税務署に所要の通知をしていないなど税務署と農業委員会等との連絡調整が十分でなかったこと、税務署において、納税の猶予を受けている者に対する問い合わせなどによる特例農地の現況の把握及び納税の猶予を受けている者から提出された確定申告書等の関係資料の活用が十分に行われていなかったことによると認められた。

 上記についての本院の指摘に基づき、国税庁では、61年11月、指示文書を発し、各種広報紙の活用などにより本制度の趣旨の周知徹底を図ることとするとともに、納税猶予を受けている者に対し問い合わせするなどして的確に特例農地の現況を把握することとしたり、関係資料の効果的な活用を図ることとしたほか、農業委員会等との連絡調整を密にするなどの処置を講じた。また、同庁と農林水産省との協議の結果、農林水産省においても、同年同月、通達を発し、農業委員会と税務署との連絡調整を密にするとともに、特例農地が所要の手続を執らないで転用等がなされた場合に、同委員会がその事実を知ったときは税務署にその旨を速やかに連絡することとするなどの処置を講じた。

 (注1)  保土ケ谷税務署ほか29税務署 保土ケ谷、緑、小田原、所沢、東松山、熊谷、水戸、宇都宮、栃木、足利、高崎、新潟、堺、東大阪、八尾、枚方、門真、峰山、伊丹、姫路、和歌山、札幌北、仙台中、熱田、一宮、豊橋、沼津、金沢、呉、香椎の各税務署

 (注2)  農業投資価格 農地等が恒久的に農業の用に供されるものであるとした場合に、通常成立すると認められる価格をいう。