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  • 昭和60年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

福祉年金と公的年金との併給調整についての事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


福祉年金と公的年金との併給調整についての事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 国民年金特別会計(福祉年金勘定) (項)福祉年金給付費
部局等の名称 社会保険庁
給付の根拠 国民年金法(昭和34年法律第141号)
給付の種類 福祉年金の各年金(老齢福祉年金、障害福祉年金、母子福祉年金、準母子福祉年金)
給付の内容 国民年金の拠出制年金を受給できない者に対する老齢福祉年金等の給付
支給の相手方 3,043人
上記に対する年金の支給額の合計 996,335,946円

 上記の福祉年金の支給において、公的年金との併給調整についての事務処理体制等が十分でなかったため、福祉年金996,335,946円が公的年金と二重払されたままとなっていた。
 すなわち、これらの福祉年金は、受給権者が公的年金を受給する場合、その額が所定の額を超えているなどのときには、受給権者から届け書を提出させ福祉年金の全部又は一部の支給を停止することとなっているが、この届け書の提出が遅延していたこと、都道府県等で公的年金の受給状況を迅速的確に把握していなかったこと、社会保険庁で公的年金の受給開始月まで遡及して支給を停止し、二重払となったものについて返還させる措置を十分執っていなかったことにより、福祉年金と公的年金が二重に支給されたままとなっていた。
 したがって、社会保険庁において、上記のような事態の発生を防止するため、届け書の期限内提出について周知徹底させ、公的年金の受給状況を迅速的確に把握する体制を整備するとともに、適正な併給調整を実施し、二重払となったものについては返還させる措置を講ずるなどして年金支給の適正化を図る要がある。

 上記に関し、昭和61年12月1日に社会保険庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

福祉年金と公的年金との併給調整の適正化について

 貴庁では、国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定に基づき、保険料の拠出が開始された昭和36年4月1日現在において、50歳を超えていて国民年金の被保険者になれなかったり、45歳を超え国民年金の被保険者となっても拠出制老齢年金の受給要件を満たせなかったりして、拠出制年金を受給できない者等に対して、老齢福祉年金、障害福祉年金、母子福祉年金等の無拠出制の福祉年金を全額国庫の負担で支給しており、61年3月末日現在の受給権者数は、老齢福祉年金2,247,081人、障害福祉年金689,780人、母子福祉年金等781人合計2,937,642人、支給額は、59年度9536億9633万余円、60年度9161億0322万余円に上っている。そして、これらの受給権者に対する福祉年金の支払は、60年度までは1年を3期に分け、支払月(4月、8月、11月)の前月(11月支払は当月)までの4箇月分をまとめて、郵政官署から支払っている。

 これらの福祉年金は、受給権者が、公的年金(注1) を受給する場合、その額が一定額(59年6月から60年5月までは515,000円、60年6月からは532,000円)を超えているとき、又は、福祉年金と公的年金とを合算した額が上記の額を超えているときは、公的年金の受給開始月から福祉年金の全部又は一部の支給停止(以下「併給調整」という。)を行うこととなっている。そして、61年3月末日現在の支給停止者数及びこれらの者に係る1年分の停止年金額は、全部支給停止者で244,903人79,658,551千円(老齢福祉年金229,489人72,977,292千円、障害福祉年金15,287人6,625,165千円、母子福祉年金127人56,094千円)、一部支給停止者で66,932人14,311,226千円(老齢福祉年金62,667人13,246,314千円、障害福祉年金4,263人1,064,465千円、母子福祉年金2人447千円)となっている。

 そして、福祉年金の受給権者は、公的年金を受給することにより福祉年金について併給調整の事由が生じたとき、又は公的年金の額の変更等により併給調整の額を変更する事由が生じたときは、いずれも14日以内に福祉年金支給停止関係届(以下「停止届」という。)を市区町村(以下「市町村」という。)を経由して都道府県知事に提出し、都道府県知事はこれを調査して、併給調整を行うこととなっている。また、福祉年金の受給権者(全部支給停止されている者を除く。)は市町村に毎年1回公的年金の受給状況等についての届け書(以下「定時届」という。)を提出し、市町村ではこれについて調査して、公的年金を受給していて併給調整の対象となることが判明したときは停止届を提出させ、また、公的年金の受給状況を記載した福祉年金受給権者定時届関係連名簿(以下「連名簿」という。)を作成して都道府県知事に提出し、都道府県知事は連名簿により公的年金の受給の有無等を把握することとなっている。さらに、貴庁では、公的年金のうち、貴庁が管掌する厚生年金及び船員保険の年金受給権者については、毎年4月に、都道府県に対して、前年の2月から当年の1月までに新たにこれらの年金の裁定を受けた者を記載した新規裁定者一覧表を送付して、併給調整の対象者の有無を調査させ、また、国家公務員等の共済組合に係る年金受給権者については、数年に1回、都道府県に、これらの共済組合の協力を得て共済年金の受給権者名、生年月日等を記入した受給権者カードを作成させて併給調整の対象者の有無を調査させ、それぞれ併給調整を必要とする者から停止届を提出させることとしている。

 しかして、北海道ほか12都府県(注2) において、60年1月から61年3月までの間に停止届を提出した福祉年金の受給権者5,310人について、本院が併給調整の事務処理の適否を調査したところ、受給権者が、前記の額を超える公的年金を受給していたり、福祉年金と公的年金とを合算した額が前記の額を超えていたりしているのに、停止届の提出が遅延していたなどのため、貴庁では、福祉年金を併給調整することなく支給していて、年金が二重払されたままとなっているものが3,043人996,335,946円あった。

これについて

(1) 公的年金の受給期間別にみると、

ア 公的年金を遡って支給する裁定を受けたことにより、公的年金の受給開始月から裁定月の前月までの間、二重払の事態となっていたものが2,428人343,785,791円(二重払額全体に占める割合34.5%)

イ 公的年金の裁定を受けて受給しているのに、停止届を提出しないなどのため、公的年金の裁定を受けてから併給調整されるまでの間、二重払の事態となっていたものが2,454人(注3) 652,550,155円(二重払額全体に占める割合65.5%)

となっていた。

(2) 停止届提出の動機別にみると、

ア 公的年金を受給することとなったことにより、併給調整の事由に該当したとして、自主的に停止届を提出した者3,489人のうち、停止届の提出が遅延していたなどのため、二重払の事態となっている者が1,565人(発生割合44.9%)

イ 公的年金を受給していることが都道府県の調査によって判明した後、停止届を提出した者1,821人のうち、上記アと同様二重払の事態となっている者が1,478人(発生割合81.2%)

となっていた。

 そして、都道府県では、このように二重払の事態となっている福祉年金について返還の措置が十分執られていない状況であった。

このような事態を生じているのは、

(1) 福祉年金の受給権者が、公的年金を受給したときには停止届を提出することとなっていることなどについての理解が十分でないこと

(2) 毎年1回の定時届の調査に当たり、市町村での公的年金の受給状況の把握が十分行われていなかったり、都道府県では、貴庁が定めた連名簿の様式と異なる様式を定めていたため、公的年金の受給状況を的確に把握できることとなっていなかったりしていること

(3) 貴庁では、都道府県における併給調整の調査のため、貴庁が管掌している厚生年金等については新規裁定者一覧表を年に1回しか送付していなかったり、また、貴庁が管掌していない共済年金等の調査については、都道府県において貴庁が指示した特定の共済組合しか調査していなかったり、さらに、都道府県ではこれらの調査に長期間を要していたりしていること

(4) 貴庁では、都道府県に併給調整を行わせるに当たって、二重払の事態となっていたのに、原則として停止届の提出後の福祉年金の支給分から支給停止していて、公的年金の支給開始月に遡及して支給停止をすることとしていないこと

(5) 福祉年金の受給権者が死亡等により失権している場合に、年金を支給して過払となったものについては返還させることとしているのに、公的年金を受給して二重払となったものについては返還させる措置が十分執られていないことなどによるものと認められる。

 ついては、今後も引き続いて多額の福祉年金の支給が見込まれるとともに、公的年金の新規裁定者も毎年多数生じていることにかんがみ、貴庁では、

(1) 福祉年金の受給権者に対して、公的年金の裁定を受けたときには、停止届を提出しなければならないことについて周知徹底させること

(2) 市町村で行う定時届の調査に当たっては、公的年金の受給状況を十分把握させ、都道府県において定めている連名簿の様式が公的年金の受給状況を的確に把握できるものとなるように改めさせ、速やかに停止届を提出させるようにすること

(3) 新規裁定者一覧表の送付については、現行の年1回に止まることなく福祉年金の支払期(年3回)に対応して都道府県に送付し、都道府県での調査を迅速的確に行わせるようにし、また、貴庁が管掌していない共済年金、恩給等の公的年金については、関係機関の協力を得て調査の範囲を拡げ、その徹底を図るようにすること

(4) 公的年金を遡って支給する裁定がなされたことにより二重払の事態となったものについては、二重払の発生月まで遡及して支給停止させるとともに、他の公的年金の場合と同様に返還させること

などの措置を講じ、適正な併給調整を行い、もって年金支給の適正化を図る要があると認められる。

よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

 (注1)  公的年金  厚生年金保険法、船員保険法、国家公務員等共済組合法等に基づく各種の年金(国民年金法に基づく国民年金を除く。)

 (注2)  北海道ほか12都府県 北海道、東京都、大阪府、青森、宮城、埼玉、千葉、神奈川、静岡、愛知、兵庫、福岡、熊本各県

 (注3)  2,454人 公的年金を遡って支給する裁定により、公的年金の裁定月の前月までの間二重払の事態となっていた者が1,839人含まれている。