会計名及び科目 | 一般会計(組織)農林水産本省(項)農蚕園芸振興費(項)水田利用再編対策費 |
部局等の名称 | 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局 |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 宮城県ほか12県、268営農集団 |
補助事業 | 麦大豆等生産総合振興対策事業(昭和57年度)、転作促進特別対策事業(昭和57、58両年度)、主要穀物等生産総合振興対策事業(昭和58〜60年度)、高位生産営農特別促進対策事業(昭和58〜60年度)、転作促進特別対策事業推進事業(昭和57、58両年度)、水田利用再編対策推進事業(昭和59、60両年度) |
事業の内容 | 地域の主要作物の計画的な生産、生産性の向上等を図るため、また、需要の動向と地域の実態に即した転作の定着化を促進するため、麦用収穫機等の農業機械359台を導入するなどの事業 |
上記に対する国庫補助金交付額の合計のうち麦用収穫機導入に係る分 | 604,809千円(昭和57年度〜60年度) |
上記の補助事業において営農集団が麦を収穫することとして導入した収穫機について、営農集団を構成する農業者からその所有する収穫機の提供を受けてこれらの有効利用を図ることができたとすれば導入する要がなかったと認められるものが多数見受けられた。
このような事態を生じているのは、事業主体の農業機械導入に対する補助事業についての理解が十分でなかったこと、農林水産省の農業機械導入に対する指導が明確でなかったことなどによると認められる。
したがって、農林水産省において、都道府県及び市町村に対し、営農集団が補助事業により農業機械を導入するに当たり、営農集団を構成する農業者が所有する機械で共同利用できるものがある場合にはこれらの効率的利用を配慮したうえで導入するよう指導するとともに、農業者の同種機械の所有状況等を把握し、審査体制を整備して適正な審査を行うよう指導、監督するなどして補助事業の適正な運営に努める要がある。
上記に関し、昭和61年12月2日に農林水産大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、地域の主要作物の計画的な生産、生産性の向上、流通の改善、農業生産組織の育成等を図るための地域農業生産総合振興事業、需要の動向と地域の実態に即した転作の定着化を促進するための水田利用再編対策推進事業等の各種事業において、農業生産力の増進と農業経営の改善に寄与することを目的として、麦用収穫機等の農業機械を導入した営農集団等に対して補助金を交付している。
しかして、上記事業を実施するに当たり、営農集団等の各事業主体は、事業実施計画書を作成し、市町村長を経て、都道府県知事に提出し、承認を受けるものとされており、都道府県知事は、その承認を行うときは、あらかじめ地方農政局長に協議をすることが原則とされている。
そして、営農集団等が上記事業実施計画書を作成するに当たっては、農業機械化促進法(昭和28年法律第252号)に基づき貴省が定めた「高性能農業機械導入基本方針」に即して都道府県知事が策定した「高性能農業機械導入計画」において、農業機械の導入を効果的に行うため、都道府県知事が土地条件等を考慮して、機械の種類別に1台当たりの最小利用規模面積(以下「下限値」という。)を定めていて、この下限値を農業機械導入の際に確保することとしている。
市町村長及び都道府県知事が事業実施計画書を審査するに当たっては「新地域農業生産総合振興対策の運用について」(昭和57年農蚕園芸局長、食品流通局長通達57農蚕第4217号)及び「水田利用再編対策推進事業の運用について」(昭和59年農蚕園芸局長通達59農蚕第2397号)等において、機械の効率的かつ合理的な利用が図られるよう、事業対象ほ場のまとまり、利用組織の整備、既存機械の有効利用等に十分配慮することとし、また、「補助事業により導入する農業機械に係る審査の適正化等について」(昭和60年構造改善局長、農蚕園芸局長、畜産局長、食品流通局長、林野庁長官通達60農蚕第1947号)において、既に導入されている機械との調整状況を確認することとしている。
しかして、宮城県ほか14県(注1) において、548営農集団が補助事業により導入(農業協同組合等が補助事業で導入し、営農集団に管理委託しているものも含む。)した収穫機(以下「コンバイン」という。)、防除機、播種機等の農業機械のうち、次表のとおり、昭和57年度から60年度までの間に麦の収穫に使用することとして導入したコンバイン788台(事業費2,907,968千円、国庫補助金1,453,610千円)を調査対象として取りあげ、事業実施計画の策定に当たって、営農集団を構成する農業者(以下「農業者」という。)が所有する機械を含めて既存機械の有効利用を考慮していたかどうかの観点から調査した。
年度 | 営農集団数 | 導入台数 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
57 |
171 |
台 249 |
千円 797,328 |
千円 398,565 |
58 | 160 | 235 | 917,853 | 458,838 |
59 | 159 | 210 | 768,129 | 383,905 |
60 | 66 | 94 | 424,657 | 212,301 |
計 | (548) 556 |
788 | 2,907,968 | 1,453,610 |
(注) 計は4箇年の単純合計で、営農集団の純計は548である。
その結果、上記548営農集団のうち、大部分の営農集団では、農業者は補助事業計画時、既にコンバインを主として稲の収穫に使用するために所有していたが、これらのコンバインは性能からみて麦の収穫にも使用できるものであるから、営農集団の導入計画の策定に当たっては、上記のコンバインのうち農業者から提供を受けて営農集団で共同利用できるものがある場合にはこれを営農集団所有のコンバインと合わせて有効利用することを配慮して定める要があったと認められる事態が見受けられた。
すなわち、営農集団が農業者の所有しているコンバインの提供を受けて有効利用する場合、その営農集団は、少なくとも営農集団のコンバイン及び農業者のコンバインの下限値の合計に相当する面積(以下「下限値計」という。)の麦を、コンバインにより収穫できることとなるから、新規に補助事業でコンバインを導入するに当たって、
(ア) 営農集団の麦の作付面積が、下限値計を下回っているときは、新規にコンバインを導入する要はないこと
(イ) 営農集団の麦の作付面積が、下限値計を超えているときは、その超えた作付面積を満たす能力のコンバインのみを導入すれば足りること
となるものである。
いま、仮に、上記548営農集団のうち宮城県ほか12県(注2) の268営農集団において、営農集団が農業者の所有しているコンバインの提供を受けてその有効利用を図ることができたとすれば、次表のとおり、新規に導入したコンバイン359台(事業費1,209,915千円、国庫補助金604,809千円)のうち341台(事業費1,141,173千円、国庫補助金570,492千円)は、上記(ア)及び(イ)の理由により、導入する要がなかった計算となる。
年度 | 過剰導入のあった営農集団数 | 左の農業者数 | 左の農業者の所有台数 | 営農集団の所有台数 | 補助事業による導入台数 | 補助事業による過剰導入台数 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
57 |
93 |
人 6,084 |
台 2,093 |
台 40 |
台 126 |
台 125 |
千円 387,983 |
千円 193,916 |
58 | 87 | 4,674 | 1,125 | 43 | 120 | 109 | 381,812 | 190,904 |
59 | 57 | 2,811 | 399 | 17 | 71 | 68 | 216,049 | 108,009 |
60 | 33 | 2,084 | 604 | 6 | 42 | 39 | 155,328 | 77,663 |
計 | (268) 270 |
15,653 | 4,221 | 106 | 359 | 341 | 1,141,173 | 570,492 |
(注) 1 計は4箇年の単純合計で、営農集団の純計は268である。
2 農業者及び営農集団やコンバイン所有台数は、補助事業計画時点で耐用年数内にあるものに限っている。
上記のコンバインの導入が過剰になっている事例を挙げると次のとおりである。
岐阜県の某転作組合では、作付面積5.4haの麦を収穫することとして、60年度水田利用再編対策推進事業により、3条刈コンバイン(下限値5ha)1台(事業費2,650,000円、国庫補助金1,325,000円)を導入している。
しかしながら、同組合の農業者は2条刈コンバイン(下限値3ha)22台を既に所有しており、これらは主として稲の収穫のため所有されていて、麦の収穫期にはほとんど使用されていない状況であって、これらを同組合の事業実施計画に組み込んで有効利用を図ることとしたとすれば、これによって収穫できる面積は66haとなり、作付面積5.4ha程度の麦の収穫は容易に行うことができ、同組合において、コンバインを新規に補助事業で導入する要がなかった計算になる。
栃木県の某営農集団では、作付面積24haの麦を収穫することとして、58年度地域農業生産総合振興事業により、4条刈コンバイン(下限値10ha)2台(事業費8,632,000円、国庫補助金4,316,000円)を導入している。
しかしながら、同営農集団の農業者は2条刈コンバイン(下限値3ha)5台を既に所有しており、これらは主として稲の収穫のため所有されていて、麦の収穫期にはほとんど使用されていない状況であって、これらを同営農集団の事業実施計画に組み込んで有効利用を図ることとしたとすれば、これによって収穫できる面積は15haとなり、作付面積24haとの差9haの麦の収穫は4条刈コンバイン1台で容易に行うことができ、同営農集団において、新規に補助事業で導入したコンバイン2台のうち1台は導入する要がなかった計算になる。
このような事態を生じているのは、(1)農業機械導入に対する補助の目的は、集団栽培や機械の効率的利用による生産コストの低減、生産性の向上にあって、営農集団が農業機械を補助事業で導入する場合、農業者が所有している農業機械も含めて既に導入されている機械の有効利用を図り、過大な導入を避ける要があるのに、これを配慮することなく補助事業で導入したこと、(2)稲作、麦作の両方にコンバインを使用しても、所要の清掃を行えば異種穀粒の混入を防ぐことができるのに、農業者が所有しているコンバインは稲を収穫するためのもので、これを麦の収穫にも使用すると異種穀粒混入の虞があるとして、新たに麦の収穫用として補助事業で導入したこと、(3)貴省において、都道府県及び市町村に対し、前記通達等により、新規に農業機械を導入する場合は、既に導入されている機械の有効利用等に配慮することとの指導を行ってきてはいるものの、農業者所有の機械を含めて既に導入されている機械の有効利用を図ることについてまでは明確にしておらず、したがって、農業者が所有している同種機械の把握についても徹底を欠いていることなどによると認められる。
ついては、水田転作の目標面積の拡大等により、コンバイン等の農業機械導入に対する補助事業は今後も継続されるものと思料されることから、前記事態にかんがみ、貴省において、都道府県及び市町村に対し、
(1) 補助事業においては、農業者が所有する農業機械や農作業の受託組織等(注3) の保有する農業機械の効率的利用を図るなどしたうえで、なお不足する分について新規に導入することを明確にするなどして適切な指導を行うこと
(2) 事業実施計画書等に、営農集団で既に導入されている機械に加えて、農業者の同種機械の所有状況等の記載を行わせるなどして実情を十分に把握するとともに、審査体制を整備して適正な審査を行うよう指導、監督すること
などの措置を講じ、もって本事業の適正な運営に努める要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) 宮城県ほか14県 宮城、山形、栃木、新潟、富山、福井、長野、岐阜、三重、滋賀、兵庫、広島、香川、愛媛、佐賀各県
(注2) 宮城県ほか12県 宮城、山形、栃木、新潟、富山、福井、長野、岐阜、三重、滋賀、兵庫、香川、佐賀各県
(注3) 受託組織等 農業協同組合が中心となって作っている農業機械銀行や農業者が数名で組織しているオペレーター集団などをいう。