会計名及び科目 | 一般会計(組織)水産庁 | (項)沿岸漁場整備開発事業費 |
(項)北海道沿岸漁場整備開発事業費 | ||
部局等の名称 | 水産庁 | |
補助の根拠 | 予算補助 | |
事業主体 | 北海道ほか7県、町1、計9事業主体 | |
補助事業 | 増養殖場造成事業13事業 | |
事業の概要 | 天然における水産動植物の再生産を助長し、又は人工種苗の保護育成を図るため、藻類育成礁等の設置により増殖場の造成を行う事業及び内湾等の養殖適地を整備開発するため、消波堤の設置等により養殖場の造成を行う事業 | |
上記に対する国庫補助金交付額の合計 | 1,823,712,000円(昭和51年度〜57年度) |
上記の増養殖場造成事業は、沿岸漁業の安定的な発展と水産物の供給の増大に寄与することを目的とする沿岸漁場整備開発事業の一環として実施したものであるが、養殖場の管理運営体制が十分整っていないもの、増殖場への種苗の放流が計画どおり行われていないものなど所期の事業効果が発現しておらず、適切とは認められない事態が見受けられた。
このような事態を生じているのは、道県において事業実施に当たり増殖場及び養殖場の管理運営について関係者間の調整等が十分でなかったこと、水産庁において事業の推進体制等についての審査の体制や増殖場及び養殖場の利用状況等の把握が十分でなかったことなどによると認められる。
したがって、水産庁において、都道府県等に対し、事前の調査検討を十分に行い、適切な事業実施計画を策定するよう指導するとともに、事業実施計画に対する審査を十分に行い、事業完了後の管理運営状況等を的確に把握するなどの処置を講ずることにより、事業の実施の適正を期する要がある。
上記に関し、昭和61年11月28日に水産庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴庁では、沿岸漁場整備開発法(昭和49年法律第49号)に基づき、沿岸漁場の整備及び開発を図り、沿岸漁業の安定的な発展と水産物の供給の増大に寄与することを目的とする沿岸漁場整備開発事業として、魚礁設置事業、増養殖場造成事業及び沿岸漁場保全事業を実施している。
沿岸漁場整備開発事業は、貴庁が定めた沿岸漁場整備開発計画(以下「開発計画」という。)に基づき都道府県又は市町村等が事業主体となって実施しているもので、この開発計画は、沿岸漁場における水産資源の動向並びに沿岸漁業の生産性の向上及びその生産の増大の見通しに即しつつ、沿岸漁場の総合的な利用の方向、水産動植物の種苗の生産施設の整備、生産技術の開発等栽培漁業の振興を図るための条件の整備の動向並びに国及び地方公共団体の財政事情等を総合的に勘案し策定されており、第1次開発計画は昭和51年度から57年度、総事業量2000億円、第2次開発計画は57年度から62年度、総事業量4000億円としている。
この沿岸漁場整備開発事業のうち、増養殖場造成事業は、天然における水産動植物の再生産を助長し、又は人工種苗の保護育成を図るため、投石、藻類育成礁、離岸堤又は干潟の造成等を行い、水産動植物を対象とする増殖場の造成を行う事業(1地区の事業費が2000万円以上3億円未満の小規模増殖場造成事業と3億円以上の大規模増殖場造成事業とがある。)と内湾等の養殖適地を整備開発するため、消波堤の設置、しゅんせつ、作澪等を行い、水産動植物を対象とする養殖場の造成を行う事業(1地区の事業費が1億円以上で生産性の高い養殖場を造成する事業)から成っており、51年度から57年度までの間に、北海道ほか37都府県において実施された事業費913億2740万余円に対し、511億7575万余円の補助金が交付されている。
そして、上記事業の実施に当たっては、都道府県又は市町村が、事前調査の結果、増殖場又は養殖場の適地として認められた箇所であって、当該事業が技術的及び資金的に実施可能で、相当な経済効果が期待でき、かつ、関係沿岸漁業者の事業の推進協力体制が確立されていて、事業完了後も施設の管理運営が適切になされる見込みがあるなど補助条件に適合していると認めたものについて、都道府県が事業実施計画を作成し、貴庁による審査を受け、補助事業として採択しているものである。
しかして、今回、北海道ほか26県(注1)
において実施した増養殖場造成事業のうち、魚介類の生産量の増大など事業効果の発現が見込まれる51年度から57年度までの間に造成した99地区、事業費271億4652万余円(国庫補助金152億7756万余円)の増殖場及び養殖場の管理運営等について調査したところ、所期の事業効果が発現しておらず適切とは認められない事態が北海道ほか8県において13地区、事業費33億1232万余円(国庫補助金18億2371万余円)見受けられた。
上記の事態を態様別に掲げると次のとおりである。
1 養殖場の管理運営体制が十分整っていないもの
養殖場の利用に関する関係者の協議や県の養殖技術の指導体制などが十分整っていなかったり、当該養殖場で養殖を行う経営体の育成がなされていなかったり、当該養殖場の利用を予定した漁業協同組合の飼養技術が未熟であったりしていたなどのため、養殖場の管理運営体制が十分整っておらず、魚介類の生産量の増大が当初計画に対し、著しく下回っていて所期の事業効果が発現していないものが、青森県ほか2県(注2) において3地区、事業費16億3680万余円(国庫補助金8億1840万余円)ある。
その主な事例を挙げると次のとおりである。
県名 | 事業名 | 事業の種類等 (造成面積) |
事業主体 (地区名) |
年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
青森県 |
養殖場造成事業 |
消波堤1基 290.65m (4.9ha) |
青森県 (野辺地) |
55〜57 |
千円 510,100 |
千円 255,050 |
この事業は、野辺地地区に小型定置網、刺網等で水揚げされたイシガレイ、モスソガイ、トゲグリガニ等で小さなものを種苗として養殖し、商品価値を高めるなどして、魚介類の生産量年間132.5tの増大を図ることを目的として、消波堤を設置することにより養殖場の造成を行ったものである。
しかして、事業実施計画では、養殖場の効果的な利用を推進するため、県、町及び漁業協同組合で構成する漁場管理運営委員会を設置することとしていたが、これを設置していないばかりか、県において制定することとしていた魚類等養殖指導指針も制定していないなど事業実施に当たっての関係者の事業推進体制が十分整備されておらず、また、養殖場の利用状況を見ると、58年度にトゲグリガニを養殖しただけで、その生産量も477 kg にすぎず、イシガレイ、モスソガイ等の養殖は、漁業者の協力 が得られないなどのため、現在に至るまで全く実施していない。
2 増殖場への種苗の放流が計画どおり行われていないもの
増殖場への種苗の放流計画と県、市、漁業協同組合の種苗生産施設等の種苗生産計画等との間の調整が十分図られていないことから、事業実施計画において予定していた種苗が確保できなかったため、計画どおりの当該増殖場への種苗の放流が行われておらず、魚介類の生産量の増大が当初計画に対し、著しく下回っていて所期の事業効果が発現していないものが、北海道ほか4県(注3) において6地区、事業費3億6564万余円(国庫補助金2億1938万余円)ある。
その主な事例を挙げると次のとおりである。
県名 | 事業名 | 事業の種類等 (造成面積) |
事業主体 (地区名) |
年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
秋田県 |
小規模増殖場造成事業 |
角型コンクリートブロック82個 (23.5ha) |
秋田県 (松ヶ崎) |
55 |
千円 70,000 |
千円 42,000 |
この事業は、マダイの人工種苗年間200,000尾を放流するとともに、天然マダイの幼稚魚の保護育成を行い、マダイの生産量年間6tの増大を図ることを目的として、角型コンクリートブロックを設置することにより増殖場の造成を行ったものである。
しかしながら、本件増殖場の種苗の生産等を担当する秋田県栽培漁業センターでは、幼稚魚の成長、移動等の調査目的のために生産した種苗に標識を付して放流している段階であって、56年度以降の種苗の放流実績は、年間3,000尾から9,000尾にすぎない状況で、計画どおりの種苗の放流は実施されていない。
3 当初計画と相違して長期にわたり周年禁漁としているなどのため増殖場としての機 能を発揮していないもの
造成した増殖場を含む水域について、水産資源保護法(昭和26年法律第313号)による保護水面としての指定を受けていたり、地元漁業協同組合等の申合せがあったりして、当初計画と相違して当該増殖場を長期にわたり周年禁漁としていて当該増殖場において生産が行われていないなどのため、魚介類の生産量の増大が当初計画に対し、著しく下回っていて所期の事業効果が発現していないものが、北海道ほか3県(注4) において7地区、事業費14億4316万余円(国庫補助金8億6589万余円)ある。(このうち、3地区、事業費1億3329万余円、国庫補助金7997万余円は2の事態と重複している。)
その主な事例を挙げると次のとおりである。
県名 | 事業名 | 事業の種類等 (造成面積) |
事業主体 (地区名) |
年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
静岡県 |
大規模増殖場造成事業 |
イセエビ礁496基投石73,228m3 (115ha) |
静岡県 (下田・南伊豆) |
51〜55 |
千円 900,000 |
千円 540,000 |
この事業は、イセエビの幼稚仔の沈着、保護育成により生産量年間20t、また、当該増殖場の波及効果としてその周辺区域である一般漁場に年間5t、計25tのイセエビの生産量の増大を図ることを目的として、イセエビ礁の設置及び投石により増殖場の造成を行ったものである。
しかしながら、当該増殖場は、地元関係漁業協同組合等で構成した伊豆地区大規模増殖場管理運営委員会の指示により、周年禁漁としていて、イセエビの生産は全く行われていない。また、一般漁場でのイセエビの生産量についても、事業実施前の52tに比べ、56年度以降35.2 t から48.7tの間にとどまっている状況である。
このような事態を生じているのは、
道県において、
(1) 事業実施に当たり、養殖場の管理運営について関係者の協議及び養殖技術等の指導体制が十分整っておらず、また、増殖場への種苗の放流計画と関連事業の種苗生産施設等の種苗生産計画等との間の調整が十分図られていないこと
(2) 増殖場の管理運営についての指導が十分でなかったため、当初計画に相違して当該増殖場が長期にわたり周年禁漁となっていること
(3) 施設の管理運営の状況を把握し、施設が補助の目的に従って適正かつ効率的に運営されるよう、適時に実地調査を行い適切な指導監督を行うこととなっているのに、その指導監督が十分行われていないこと
などによるものと認められる。
また、貴庁においても、
(1) 道県から提出される事業実施計画の審査に当たり、その計画の実施の可能性、事業の推進体制等についての審査が十分でなかったこと
(2) 事業完了後において、施設の管理、増殖場及び養殖場の利用状況等を十分把握していないこと
などによるものと認められる。
ついては、増養殖場造成事業が今後とも引き続き実施されることにかんがみ、貴庁において、都道府県及び,市町村に対し、事前の調査検討を十分に行い、適切な事業実施計画を策定するよう指導するとともに、事業完了後の管理運営状況等を的確に把握させるなど、本件事業実施に関する指導監督の徹底を期する要があると認められる。また、本件補助事業の審査に当たっては、その内容を十分調査検討するとともに、事業完了後においても造成した増殖場及び養殖場の管理運営状況等を的確に報告させることとするなどの措置を講じ、増養殖場造成事業の実施の適正を期する要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) 北海道ほか26県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、千葉、石川、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
(注2) 青森県ほか2県 青森、石川、長崎各県
(注3) 北海道ほか4県 北海道、岩手、秋田、三重、熊本各県
(注4) 北海道ほか3県 北海道、静岡、三重、熊本各県