会計名及び科目 | 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業給付費 |
部局等の名称 | 労働省 |
給付の根拠 | 雇用保険法(昭和49年法律第116号) |
給付金の種類 | 特例一時金 |
給付の内容 | 毎年一定の期間にしか就職することができない短期雇用特例被保険者の失業に対する特例一時金の支給 |
支給の相手方 | 16,687人 |
上記に対する特例一時金の支給額の合計 | 79億4267万余円(昭和60年度) |
上記の特例一時金の支給において、同一事業所において短期間で就職・離職を繰り返し、離職の都度特例一時金の支給を受けている者のうちには、同一事業所に継続して雇用されることが可能であると認められる者がおり、これらの者に対しても特例一時金を支給していて制度の趣旨に沿わない事態が見受けられた。
このような事態を生じているのは、労働省において、短期雇用特例被保険者(以下「特例被保険者」という。)の就職・離職の実態、特例一時金の支給状況等を把握する体制が十分整っていないこと、公共職業安定所に対し特例被保険者であること等の確認方法を具体的に指示していないこと、公共職業安定所において、特例被保険者の確認、受給資格の決定を形式的に行っていることなどによると認められる。
したがって、労働省において、雇用保険のデータ等を活用するなどして特例一時金の支給状況等を把握する体制を整備し、公共職業安定所に対して具体的な方策を指示するとともに、受給資格の決定等を的確に行うよう指導を徹底するなどの措置を講じ、もって特例一時金の支給の適正を期する要がある。
上記に関し、昭和61年12月8日に労働大臣に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)の規定に基づき、雇用保険の被保険者のうち季節的に雇用される者又は短期の雇用に就くことを常態とする者(以下併せて「季節的雇用者等」という。)が失業した場合に、その者の生活の安定を図り、求職活動を容易にすることを目的として、特例一時金を支給することとしており、昭和60年度の支給額は、1469億2229万余円(支給件数673,691件)となっている。
この制度は、失業保険法(昭和22年法律第146号、50年4月1日廃止)に基づく失業保険制度の下において、季節的雇用者等に対する失業保険金の給付とその保険料の負担とに過度の不均衡が生じていたことから、これを是正するために、失業保険金が毎年一定の期間にしか就職することができない季節的雇用者等の生活に深くかかわっている実態も考慮して、50年から季節的雇用者等を一般の被保険者と区別して短期雇用特例被保険者(以下「特例被保険者」という。)として取り扱い、その保険料の負担については、特例被保険者の雇用の状況等を考慮して、特定の業種の負担率を他の業種のそれより若干高くし、給付については、特例一時金として失業日数にかかわりなく一律に基本手当日額(賃金日額の約6割から8割)の50日分を支給することとしているものである。
この特例被保険者となる者は、貴省職業安定局長通達(昭和52年職発第500号)によると、季節的業務に期間を定めて雇用される者若しくは季節的に就職・離職する者又は過去の3年間において1年未満の雇用に就くことを2回以上繰り返し、かつ、新たな雇用も1年未満の雇用である者となっており、その確認は、当該労働者が雇用された事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(以下「事業所管轄安定所」という。)において、事業主が提出する雇用保険被保険者資格取得届(以下「資格取得届」という。)に記載された雇用形態、雇用期間の定めの有無、雇用期間を定めた理由等から季節性を判断することなどして行うことになっている。
そして、特例一時金の支給手続は、事業所管轄安定所で特例被保険者を雇用する事業主が提出した雇用保険被保険者資格喪失届により喪失の確認をした後、特例一時金の支給を受けようとする者が雇用保険被保険者離職票(以下「離職票」という。)の交付を受け、同人の居住地を管轄する公共職業安定所(以下「居住地管轄安定所」という。)に出頭して求職の申込みを行ったうえ離職票を提出し、居住地管轄安定所では、その者について、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことができない状態(以下「失業状態」という。)にあること及び離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6箇月(暦月で計算し、賃金支払日数が11日以上ある月は1箇月とする。)以上あることの確認を行い、受給資格を決定するとともに、待期期間である7日間を経過した8日目以降に失業認定日を指定し、待期期間中及び失業認定日に失業状態にあることの認定を行って、支給することになっている。
しかして、特例一時金の支給状況について本院が調査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 59、60両年度に特例一時金の支給を受けた特例被保険者について、支給台帳等から、両年度中に同一事業所に3回連続して就職し、直近の過去2回の失業期間がいずれも特例一時金の支給日数である50日に満たないものを抽出したところ、これに該当する者が16,687人おり、これらの者に対する60年度の支給件数は29,147件、支給金額は79億4267万余円となっていた。そのうち、30日未満の者が8,301人、支給件数15,077件、支給金額41億4903万余円あり、このうち15日未満の者が457人、支給件数829件、支給金額2億3351万余円となっていた。
イ 上記16,687人のうち青森県ほか9都県(注) の77公共職業安定所管内の340事業所に雇用された2,864人について、同一事業所において短期間で就職・離職を繰り返している状況を被保険者台帳の過去7年間の記録によってみたところ、次表のとおり、
同一事業所に最初に就職した年 | 53年以前 | 54年 | 55年 | 56年 | 57年 | 58年 | 59年 | 計 |
人数 | 317 | 393 | 269 | 330 | 374 | 541 | 640 | 2,864 |
比率(%) | 11.1 | 13.7 | 9.4 | 11.5 | 13.1 | 18.9 | 22.3 | 100.0 |
34.2 | 65.8 | 100.0 |
となっており、60年12月現在で、5年以上繰り返している者が979人(34.2%)、1年以上5年未満の者が1,885人(65.8%)となっている状況である。そして、これらの者については、いずれも就職に当たって雇用期間を定めているが、その理由を資格取得届等によって調査したところ、「農業に就くため」、「出稼ぎのため」、「本人の都合」など受給者の都合によると認められるものが2,687人(93.8%)となっており、ほとんどの受給者が本人の都合により雇用期間を定めている状況であり、他方、これらの者を雇用した340事業主についてみても、うち279事業主(82.1%)は年間を通して雇用することが可能であるとしていた。
このうち、一例を挙げると次のとおりである。
受給者A(49歳、B県居住)は、次表のとおり、53年からC県所在の事業所に作業員として雇用され60年までの間に半年ごとに就職・離職を繰り返し、離職の都度計14回特例一時金の支給を受けている(基本手当700日分)が、事業所は本人が応ずれば年間を通して雇用することが可能であるとしている。
就職年月日 離職年月日 | 在職日数 | 失業日数 | 支給額 |
53.12.01〜54.05.15 54.05.30〜54.11.15 |
166 170 |
14 15 |
支給額不明(注)
〃 |
54.12.01〜55.05.15 55.05.27〜55.11.15 |
167 173 |
11 18 |
〃 〃 |
55.12.04〜56.05.15 56.06.09〜56.11.23 |
163 168 |
24 13 |
〃 〃 |
56.12.07〜57.05.20 57.06.04〜57.11.27 |
165 177 |
14 14 |
〃 〃 |
57.12.12〜58.05.22 58.06.09〜58.11.20 |
162 165 |
17 13 |
〃 〃 |
58.12.04〜59.05.22 59.06.08〜59.11.18 |
171 164 |
16 14 |
333,500円 366,500円 |
59.12.03〜60.05.18 60.06.08〜60.11.20 |
167 166 |
20 16 |
366,500円 366,500円 |
60.12.07〜 | |
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計 | 219 | 支給回数14回 支給日数700日分 |
(注) 58年以前については、支給事実の記録は残っているが、金額についての記録がないため不明である。
しかしながら、以上のように、受給者本人の都合により雇用期間を定め、同一事業所において短期間で就職・離職を繰り返し、離職の都度特例一時金の支給を受けている者のうちには、同一事業所に継続して雇用されることが可能であると認められる者がおり、これらの者に対しても特例一時金を支給している事態は、毎年一定の期間にしか就職することができない季節的雇用者等の生活の安定を目的とする制度の趣旨からみて適切とは認められない。
このような事態を生じているのは、
(1) 貴省において、(ア)雇用保険のデータ等を活用するなどすれば、特例被保険者の就職・離職の実態、特例一時金の支給状況等を把握することができるにもかかわらず、その体制が十分整っていないこと (イ)公共職業安定所が行う特例被保険者の確認、特例一時金の支給要件の確認等について、確認すべき事項の確認方法を具体的に指示していないこと
(2) 公共職業安定所において、事業所管轄安定所では資格取得届に記載されている雇用形態、雇用期間の定めの有無、雇用期間を定めた理由等による特例被保険者であることの確認を形式的に行っていること及び居住地管轄安定所では労働する意思の有無等を聴取するに止まるなど特例一時金の受給資格の決定を形式的に行っていることなどによるものと認められる。
ついては、特例被保険者に対する特例一時金の支給は、今後も引き続き行われるのであるから、貴省において、上記の事態にかんがみ、(1)雇用保険のデータ等を積極的に活用するなどして、特例被保険者の就職・離職の実態、特例一時金の支給状況等を把握する体制を整備すること(2)公共職業安定所における特例被保険者の確認、支給要件の確認等が効果的に行えるよう具体的な方策について指示を行うこと(3)事業所管轄安定所に対しては特例被保険者であることの確認を、居住地管轄安定所に対しては特例一時金の受給資格の決定を的確に行うよう指導を徹底することなどの措置を講じ、もって特例一時金の支給の適正を期する要があると認められる。
よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の意見を表示する。
(注) 青森県ほか9都県 東京都、青森、埼玉、千葉、神奈川、新潟、愛知、兵庫、奈良、福岡各県