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  • 昭和60年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第11 建設省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

公営住宅に多数の空家が生じているので適切な事業実施を図るよう是正改善の処置を要求したもの


公営住宅に多数の空家が生じているので適切な事業実施を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)建設本省 (項)住宅建設等事業費
(項)北海道住宅建設等事業費
(項)沖縄開発事業費
部局等の名称 北海道、岩手、千葉、新潟、愛知、兵庫、福岡、沖縄各県
補助の根拠 公営住宅法(昭和26年法律第193号)
事業主体 道県8、市2、計10事業主体
補助事業 公営住宅建設事業
補助事業の内容 住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的として公営住宅を建設する事業 32団地 3,028戸
国庫補助基本額 22,194,794千円
上記に対する国庫補助金交付額 11,178,037千円(昭和51年度〜59年度)

 上記の公営住宅のうち1,093戸(国庫補助基本額81億4728万余円、国庫補助金相当額41億1540万余円)が1年から6年5箇月の長期間空家のまま遊休していて事業の効果が発現しておらず、適切とは認められない事態となっている。
 このような事態を生じているのは、公営住宅を建設した地域の人口及び世帯数の減少、工業団地への企業進出の遅れなどの事情もあるものの、事業主体において、公営住宅の建設に際し、当該住宅に対する需要の把握が十分でなかったこと、建設省において、事業主体の事業計画の審査及び事業主体に対する指導が必ずしも十分でなかったことなどにもよると認められる。
 したがって、建設省において、上記の公営住宅について空家の解消に努めるよう指導することはもとより、事業主体に対し、公営住宅の建設に当たりその需要を的確に把握して需要に応じた事業計画の策定に努めるよう指導し、また、事業計画の審査の充実を図り、もって公営住宅建設事業の適切な実施を期する要がある。

 上記に関し、昭和61年12月5日に建設大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

公営住宅の新築空家等について

 貴省では、公営住宅法(昭和26年法律第193号)に基づき、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的とした公営住宅の建設を推進するため、都道府県及び市町村(以下「事業主体」という。)に対し毎年度多額の公営住宅建設費補助金を交付しており、これにより事業主体が建設し管理している公営住宅は多数に上っている。そして、事業主体では、公営住宅の建設について国の補助を受けようとするときは、事業計画書及び工事設計要領書を添付して補助金交付申請書を貴職に提出し、貴職はこれらの提出書類を審査のうえ補助金の交付決定を行うこととなっている。
 しかして、本院において、北海道ほか15府県(注1) 及び花巻市ほか8市町(注2) が事業主体となって実施した公営住宅建設事業(94団地13,845戸、国庫補助基本額1021億7192万余円、国庫補助金相当額550億0573万余円、建設年度昭和51年度から60年度)について、計画及び実施の状況を調査したところ、北海道ほか7県(注3) 及び北九州市ほか1市(注4) が事業主体となって建設した32団地の第一種公営住宅3,028戸(国庫補助基本額221億9479万余円、国庫補助金相当額111億7803万余円、建設年度51年度から59年度)において多数の空家が見受けられた。
 すなわち、昭和61年9月末現在において、

(1) 新築の住宅で、入居者の募集を行い入居開始日が到来してから1年以上経過しているのに入居者が確定していないもの又は入居可能な日より1年以上経過しているのに入居者の募集を行っていないもの(以下、これらを合わせて「新築空家」という。)

31団地

 958戸(国庫補助基本額71億3004万余円、国庫補助金相当額36億0678万余円)

(2) 既存の住宅で、入居者の募集を行っているにもかかわらず従前の入居者が退去した後1年以上空家となっているもの(以下「長期空家」という。)

 19団地

  135戸(国庫補助基本額10億1724万円、国庫補助金相当額5億0862万円)

(1)(2)の計(純計)

 32団地

  1,093戸(国庫補助基本額81億4728万余円、国庫補助金相当額41億1540万余円)

と多数に上っており、このうち新築空家は1年から6年5箇月の期間、また、長期空家は1年から5年1箇月の期間にわたって空家のまま遊休しており、本事業の効果が発現しておらず適切とは認められない。

 このうち、主な事例を掲げると次のとおりである。

<事例1> A団地

建設年度 入居開始
年月
建設戸数
(1種)
空家
新築 長期 国庫補助基本額
(国庫補助金相当額)

57

58.8

24

9

3

12
千円
88,740
(44,370)
58 59.8 24 24 0 24 176,640
(88,320)
  48 33 3 36 265,380
(132,690)

 この団地は、所在市の人口、世帯数に比べ公営住宅の戸数が少ないことに対処するなどのため、57、58両年度において、市街地の東方約7kmの場所に、第一種公営住宅48戸を建設したものである。
 しかし、人口及び世帯数が期待したようには伸びないことなどの事情もあるものの、建設に際しての立地条件等の検討が十分でなかったことなどから、市街地から離れていて利便施設等が整っておらず、市街地の同程度の民間賃貸住宅と家賃の較差が小さいなどの状況であり、上記のように多数の空家が生じている。

<事例2> B団地

建設年度 入居開始
年月
建設戸数
(1種)
空家
新築 長期 国庫補助基本額
(国庫補助金相当額)

56

60.3

78

42

1

43
千円
361,200
(180,600)
57 60.3 108 75 0 75 630,000
(315,000)
  186 117 1 118 991,200
(495,600)

 この団地は、県都を中心とする市街連坦地域の公営住宅需要及び団地周辺地域に見込まれる人口の増加に対処するなどのため、56、57両年度において、県庁の西北西約18kmの場所に、第一種公営住宅186戸を建設(注5) したものである。
 しかし、人口の伸びが予想に反し鈍化したことなどの事情もあるものの、建設に際しての立地条件等の検討が十分でなかったことなどから、県都市街地への通勤に長時間を要し、県都市街地に比べ住み替え対象地として利便性が悪く、また相対的に家賃負担が大きいなどの状況であり、上記のように多数の空家が生じている。

<事例3> C団地

建設年度 入居開始
年月
建設戸数
(1種)
空家
新築 長期 国庫補助基本額
(国庫補助金相当額)

57

59.5

30

0

0

0
千円
0
(0)
58 60.3 70 41 0 41 293,478
(146,739)
  100 41 0 41 293,478
(146,739)

 この団地は、近接する工業団地の整備等にともない進出してくる企業の従業員の住宅需要に対処するなどのため、57、58両年度において、市の中心より東北東約14kmの場所に、第一種公営住宅100戸を建設(注6) したものである。
 しかし、工業団地への企業進出が遅れているため同団地からの需要が低調であるなどの事情もあるものの、建設に際しての立地条件等の検討が十分でなかったことなどから、市街地から離れていて利便施設が整っていないなどの状況であり、上記のように多数の空家が生じている。

<事例4> D団地

建設年度 入居開始年月 建設戸数
(1種)
空家
新築 長期 国庫補助基本額
(国庫補助金相当額)

54I期

56.8

30

2

1

3
千円
17,400
(8,700)
54II期 57.4 30 2 4 6 34,800
(17,400)
55I期 58.11 90 57 3 60 398,580
(199,290)
55II期 59.4 40 40 0 40 265,720
(132,860)
58 60.1 40 40 0 40 285,200
(142,600)
  230 141 8 149 1,001,700
(500,850)

 この団地は、所在市の西部地区における人口及び世帯数の増加に対処するなどのため、54年度から58年度において、市の中心より南西約8kmの場所に、第一種公営住宅230戸を建設(注7) したものである。
 しかし、〔1〕 55年度第I期及び第II期の計130戸については、所在市、特に西部地区において第一種公営住宅の応募倍率が1以下と低く、また、第I期建設工事発注前の時点において、当団地に隣接して建設されていて同規模でしかも家賃が低廉な公的賃貸住宅に多数の空家があり、更に54年度第I期及び第II期の計60戸の入居戸数が39戸にすぎない状況であるのに一時に多数の第一種公営住宅を建設したこと、〔2〕 58年度の40戸については、建設工事発注前の時点において、55年度第1期の90戸のうち86戸の新築空家があり、また、55年度第II期の40戸を建設中であることからみて、建設しても入居がほとんど見込めないことが予想されたにもかかわらず建設したことなどにより、上記のように多数の空家が生じている。そして、55年度第II期の40戸、58年度の40戸については、現在なお入居者の募集を行っていない。

 このような事態を生じているのは、公営住宅を建設した地域の人口及び世帯数が減少していたり、工業団地への企業進出が遅れていたりしているなどの事情もあるものの、

(1) 事業主体において、公営住宅の建設に際し、当該住宅の立地条件等及び既存の公的賃貸住宅等の応募・入居状況等に対する調査検討が的確に行われておらず、当該住宅に対する需要の把握が十分でなかったこと、

(2) 貴省においても、事業主体の事業計画の審査及び事業主体に対する指導が必ずしも十分でなかったこと、

などにもよると認められる。

 ついては、前記32団地の公営住宅について、速やかに空家の解消に努めるよう事業主体を指導することはもとより、公営住宅建設事業は今後も引き続き推進される重要な事業であることにかんがみ、事業主体に対して、公営住宅を建設するに当たっては、当該住宅の立地条件等及び既存の公的賃貸住宅等の立地条件、家賃、応募・入居状況等を検討するなどして当該住宅に対する需要を的確に把握し、需要に応じた事業計画の策定に努めるよう指導し、また、貴省においても、事業計画の審査の充実を図り、もって公営住宅建設事業の適切な実施を期する要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

 (注1)  北海道ほか15府県 北海道、大阪府、青森、岩手、埼玉、千葉、新潟、愛知、三重、兵庫、広島、山口、福岡、大分、鹿児島、沖縄各県

 (注2)  花巻市ほか8市町 花巻、仙台、新井、大阪、神戸、北九州、福岡、臼杵各市、桃生郡河北町

 (注3)  北海道ほか7県 北海道、岩手、千葉、新潟、愛知、兵庫、福岡、沖縄各県

 (注4)  北九州市ほか1市 北九州、福岡両市

 (注5)  本団地には、前記のほか第二種公営住宅が36戸あるが、これについては新築空家、長期空家はない。

 (注6)  本団地には、前記のほか60年12月に竣工した第一種公営住宅が30戸あるが、これについては全戸空家となっている。

 (注7)  本団地には、前記のほか第二種公営住宅が160戸あるが、これについては新築空家、長期空家はない。