会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 | (項)老人福祉費 (項)国民健康保険助成費 |
厚生保険特別会計(健康勘定) | (項)老人保健拠出金 | |
船員保険特別会計 | (項)老人保健拠出金 | |
部局等の名称 | 社会保険庁、北海道ほか26都府県 | |
国庫負担の根拠 | 老人保健法(昭和57年法律第80号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号) | |
事業主体 | 市270、特別区9、町258、村20、計557事業主体 | |
事業内容 | 老人の医療に要する費用の一部を国が負担し、また、国民健康保険の保険者として市町村及び組合が拠出する資金の一部を国が負担する事業 | |
事業主体に対する国庫負担の額の合計 | 2,213,744,355千円 |
上記の老人保健事業において、特別養護老人ホームの嘱託医が老人措置事業の中で行っている同ホームの入所者に対する生活指導管理について、別途に同嘱託医の所属する保険医療機関等が診療報酬として保険請求し、市町村等がこれを十分調査することなくそのまま支払っている不適切な事態が、本院が調査を実施した27都道府県の上記557事業主体において386,683件(これについての事業主体に対する国庫負担の額720,673,201円)見受けられた。
このような事態を生じているのは、厚生省において特別養護老人ホームの入所者に係る嘱託医が行った生活指導管理については保険請求できないという指導をしてはいるものの、その周知徹底が十分に図られていなかったことなどによると認められる。
したがって、厚生省において、この取扱いについての周知徹底を図り、もって医療費の支払の適正を期する要がある。
上記に関し、昭和62年12月4日に厚生大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、老人保健法(昭和57年法律第80号)の規定に基づき、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るための保健事業が健全かつ円滑に実施されるよう必要な各般の措置を講ずるとともに、この法の目的とする老人福祉の増進等に資するため、社会福祉その他の関連施策を推進しているところである。
しかして、上記の保健事業のうち医療については、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の長が、当該市町村の区域内に居住地を有する医療保険の加入者であって70歳以上の者(65歳以上70歳未満の寝たきり老人等を含む。 以下「老人等」という。)に対して行うものとし、これらの者が医療を受けようとするときは、健康保険法(大正11年法律第70号)に規定する保険医療機関、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に規定する療養取扱機関等(以下「保険医療機関等」という。)に対して、健康手帳を提示して医療を受けることとなっている。また、これら老人等について医療を担当した保険医療機関等は、当該医療に要する費用について「医療に要する費用の額の算定に関する基準」(昭和58年厚生省告示第15号)に基づき算定のうえ、費用の負担割合に応じ医療を受けた者及び市町村に請求することとなっている。そして、この請求に対し市町村が支払う費用については、国がその10分の2を、都道府県及び市町村がそれぞれ10分の0.5を負担し、残りの10分の7に相当する額については、各医療保険の保険者たる国、市町村等から、医療保険全体の加入者総数に対する老人等の加入者数の割合とこれを各保険者ごとに算出した割合との比率などを基に算定し徴収する拠出金をもって社会保険診療報酬支払基金が交付することとなっており、さらに、国は上記保険者たる市町村等が負担する拠出金について、その納付に要する費用に一定率を乗じて得た額の100分の50又は100分の47を負担することとなっている。そして、保健事業の医療に係るこれら国の負担額は、昭和61年度で老人医療給付費国庫負担金871,686,571,367円、厚生保険特別会計における老人保健拠出金685,974,998,355円、船員保険特別会計における老人保健拠出金13,050,867,198円、老人保健医療費拠出金国庫負担金847,390,441,730円及び老人保健医療費拠出金補助金36,498,526,980円と多額に上っている。
そして、前記老人等の医療に要する費用のうちには、高血圧症等の慢性疾患を有する老人等に対して主治医により食事、運動、その他日常生活全般にわたって懇切丁寧に生活指導を受けられるよう、老人保健法の制定に伴い設定された生活指導管理料がある。この生活指導管理料は、前記「医療に要する費用の額の算定に関する基準」によると、慢性疾患を主病とする者に対して計画的な医学的管理を継続して行い、かつ、当該患者又はその家族等に対して療養上必要な指導を行った場合に、同一暦月につき1回に限り算定できるもので、その額は医療法(昭和23年法律第205号)に規定する病院の場合は2,550円又は2,750円、診療所の場合は2,950円となっている。
しかして、本院が62年中に、北海道ほか26都府県(注1) の632市町村において、1,039の保険医療機関等から提出された61年3月診療分から62年2月診療分までの診療報酬請求明細書について調査したところ、特別養護老人ホーム(以下「特養ホーム」という。)の入所者である老人等に対して当該特養ホームに配置された医師(以下「「嘱託医」という。)が行っている生活指導について、嘱託医の所属する保険医療機関等がその診療報酬として生活指導管理料の保険請求を行っていたものが、上記27都道府県の557市町村に係る966の保険医療機関等において、386,683件、医療に要する費用1,093,059,720円見受けられ、これらに対して市町村から支払が行われていた。
しかしながら、これら診療報酬の対象とした生活指導は、食事、運動、その他の日常生活全般にわたり嘱託医が特養ホームの施設内で入所者である老人等に対して行っているものであり、これは、老人福祉法(昭和38年法律第133号)及び「養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(昭和41年厚生省令第19号)等において、入所者の給食、生活指導等の処遇にあたっては、入所者の身体的、精神的条件に応じて適切に行うこと、健康管理については、常に入所者の健康の状況に注意し、必要に応じて健康保持のための適切な措置をとること、医療については、医療法上の診療所を併設し、もって、入所者の医療的処遇に万全を期すことと定められていることからみて、特養ホーム本来の基本的な業務の一つとされているものであって、老人福祉法に基づく国の補助事業として実施している老人措置事業の中で当該医師が特養ホームの嘱託医として行っているものであると認められる。
したがって、このような特養ホームにおける生活指導について、嘱託医の所属する保険医療機関等が別途生活指導管理料として診療報酬の保険請求を行うことは適切でないと認められ、このことについては、貴省においても、主治医が特養ホームの嘱託医であって定期的に当該患者の診察等を行っているような場合については、既に嘱託医として患者の生活指導管理が行われているものと判断されるので、生活指導管理料は算定できない、としているところである。そして、これに基づき、一部の県及び国民健康保険団体連合会では、特養ホームの入所者である老人等に係る生活指導管理料の保険請求の取扱いについて注意を促しているところである。
いま、仮に、上記生活指導管理料1,093,059,720円を61年度における老人等の医療に要する費用から除外して、国庫負担の額を計算すると、その開差額(注2) は、老人医療給付費国庫負担金で218,611,944円、厚生保険特別会計における老人保健拠出金で211,432,739円、船員保険特別会計における老人保健拠出金で496,643円、老人保健医療費拠出金国庫負担金で288,744,758円、老人保健医療費拠出金補助金で1,387,117円、計720,673,201円となる。
このような事態を生じているのは、保険医療機関等において、特養ホームの入所者である老人等に係る生活指導管理料の請求の認識が十分でないことにもよるが、
(1) 貴省において、市町村及び保険医療機関等に対し、嘱託医の行った生活指導管理については、生活指導管理料の保険請求を行うことができない旨の指導はしているもののその周知徹底が十分図られていないこと、
(2) 都道府県において、一部の県では生活指導管理料の保険請求について保険医療機関等に注意を促すなど指導しているものの、ほとんどの都道府県においてその指導が十分行われていないこと、
(3) 市町村において、生活指導管理料の保険請求に対する審査が十分でないまま支払を行っていること
などによると認められる。
ついては、近年老人人口の増加等に伴い老人医療費が大幅な増加傾向にあることに鑑み、貴省において、市町村、保険医療機関等に対し特養ホームの入所者に係る生活指導管理料の適正な取扱いについて周知徹底を図るとともに、都道府県等に対し保険医療機関等に対する指導を強化させるなどし、もって保険請求及びその支払の適正を期する要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により上記の処置を要求する。
(注1) 北海道ほか26都府県 北海道、東京都、京都、大阪両府、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、奈良、島根、岡山、愛媛、高知、福岡、長崎、大分、宮崎各県
(注2) 開差額の計算に当たっては、61年度粗確定加入者調整率を使用したほか、市町村が行う国民健康保険については、総加入者数を基に算出した加入者調整率を使用した。