会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)畜産振興費 |
部局等の名称 | 農林水産本省 |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 社団法人全国鶏卵価格安定基金 |
社団法人全日本卵価安定基金 | |
補助事業 | 鶏卵価格安定対策事業 |
事業の概要 |
鶏卵生産者の経営の安定と鶏卵の需給及び価格の安定を図るため、鶏卵の価格が低落した場合に価格差補てん金を交付する事業 |
上記に対する国庫補助金交付額の合計 | 2,633,538,000円(昭和60、61両年度) |
上記事業の対象となる鶏卵生産者は、鶏卵の計画生産を遵守することとなっているのに採卵鶏を増羽していて計画生産を遵守していなかったり、鶏卵の生産予定数量の全量について価格差補てんに関する契約をすることとなっているのに全量についての契約をしていなかったり、また、価格差補てん金の交付に当たり、鶏卵の販売実績数量が契約対象数量を下回っているのに契約対象数量で交付されているため価格差補てん金が過大に交付されていたりなどしていて、国が定めた実施要領等に沿わないものとなっている事態が多数見受けられた。
このような事態を生じているのは、鶏卵生産者及び農業協同組合等の関係機関が本制度の趣旨及びその内容を十分理解していなかったこと、農林水産省が事業の見直し、指導等を十分行っていなかったことなどによると認められる。
したがって、農林水産省において、本件事業を見直し、本制度への加入及び価格差補てん金の交付についての審査体制を強化するなどして、価格安定対策事業としての計画生産の推進を図るとともに、補助事業の実施の適正を期する要がある。
上記に関し、昭和62年12月1日に農林水産大臣に対して改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、鶏卵生産者の経営の安定を図るとともに鶏卵の需給と価格の安定に資するため、社団法人全国鶏卵価格安定基金(以下「全国基金」という。)及び社団法人全日本卵価安定基金(以下「全日本基金」といい、両者を併せて「基金」という。)が事業主体となって実施している鶏卵価格安定対策事業に対し、昭和50年度より毎年度国庫補助金(補助率は定額)を交付しており、その交付額は60年度13億1676万余円、61年度13億1676万余円、計26億3353万余円となっている。
この事業は、貴省が定めた「鶏卵価格安定対策事業実施要領」(昭和50年農林事務次官依命通達50畜A第5064号。以下「実施要領」という。)及び基金の業務方法書に基づき、基金が鶏卵価格の異常低落時に、基金に加入している鶏卵生産者(以下「加入生産者」という。)に価格差補てん金を交付するもので、事業の実施に当たっては、貴省が別途実施している肉畜鶏卵生産出荷調整指導事業による鶏卵の計画生産(以下「計画生産」という。)と有機的に関連させることにより計画生産の一層の推進を図ることとしている。
この事業の加入生産者となり得る者は、採卵用成鶏めす(以下「採卵鶏」という。)を常時100羽以上飼養している者(1,000羽以上飼養している場合は上記計画生産を遵守している者に限る。)であって、その生産する鶏卵の全量をその者が加入している農業協同組合(以下「農協」という。)又は農業協同組合連合会(以下、これらを「農協等」という。)に委託して販売している者となっている。
そして、本制度への加入に当たっては、生産者は、肉畜鶏卵生産出荷調整指導事業に基づき鶏卵の生産者等で組織している市町村等の需給調整協議会(以下「需給調整協議会」という。)において採卵鶏の飼養羽数(以下「飼養羽数」という。)の確認を受け、これを基とした鶏卵の予定生産量の全量を契約することとなっており、その契約に当たっては3年間を1業務年間とする価格差補てん基本契約及びこれに基づく各月別の契約対象数量等を定める年次契約を、〔1〕 全国基金の場合、生産者は加入している農協と、農協は都道府県経済農業協同組合連合会(以下「県連」という。)と、県連は全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)と、全農は全国基金と、〔2〕 全日本基金の場合、生産者は加入している道府県鶏卵販売農業協同組合等(以下「県農協」という。)と、県農協は全国鶏卵販売農業協同組合連合会(以下「全鶏連」という。)と、全鶏連は全日本基金と、それぞれ順次締結することとなっている。
また、価格差補てん金は、加入生産者及び農協等の積立金並びに国庫補助金などにより造成した交付準備金を交付財源とし、鶏卵の各月ごとの全農の卸売価格に基づく「標準取引価格」が鶏卵の生産条件及び需給事情等を考慮して基金が定めた「補てん基準価格」を下回った場合、その差額の90%に相当する額に、当該月の販売実績数量又は当該月の契約対象数量のいずれか少ない方の数量を乗じて得た金額を加入生産者に交付するものである。
そして、60、61両年度における基金の加入生産者、契約対象数量及び価格差補てん金交付額は、次表のとおりとなっている。
年度 |
基金名 |
加入生産者 | 契約対象数量 | 価格差補てん金交付額 |
60 |
全国基金 | 人 3,288 |
t 410,732 |
千円 951,763 |
全日本基金 | 3,751 | 668,942 | 1,496,121 | |
計 |
7,039 | 1,079,674 | 2,447,885 | |
61 |
全国基金 | 2,978 | 393,614 | 3,812,125 |
全日本基金 | 3,470 | 628,571 | 6,085,380 | |
計 |
6,448 | 1,022,186 | 9,897,505 | |
合計 |
13,487 | 2,101,860 | 12,345,390 |
このうち、北海道ほか18県(注) における加入生産者、契約対象数量及び価格差補てん金交付額は、次表のとおりとなっている。
年度 |
基金名 |
加入生産者 | 契約対象数量 | 価格差補てん金交付額 |
60 |
全国基金 | 人 1,335 |
t 194,968 |
千円 452,258 |
全日本基金 | 1,264 | 286,933 | 643,806 | |
計 |
2,599 | 481,902 | 1,096,064 | |
61 |
全国基金 | 1,241 | 188,146 | 1,809,980 |
全日本基金 | 1,176 | 269,179 | 2,597,837 | |
計 |
2,417 | 457,326 | 4,407,818 | |
合計 |
5,016 | 939,228 | 5,503,883 |
しかして、今回、上記の19道県における全加入生産者について、その契約状況及び価格差補てん金の交付状況等を調査したところ、次のとおり、基金は、加入資格のない生産者を加入させていたり、価格差補てん金を過大に交付していたりなどしていて適切とは認められない事態が見受けられた。
1 計画生産を遵守していないもの
採卵鶏を1,000羽以上飼養している生産者で本制度に加入できるのは、計画生産を遵守している者となっており、また、加入生産者が計画生産を遵守していない場合には価格差補てん金を交付しないこととなっている。そして、計画生産については、「鶏卵の計画生産の推進について(運用方針)」(昭和56年農林水産省畜産局長通達56畜A第3376号)によれば、各生産者は、需給調整協議会にその飼養羽数を登録し、この登録した飼養羽数(以下「登録羽数」という。)が5,000羽以上の者にあっては登録羽数を超えて飼養しないこと、登録羽数が5,000羽未満の者にあっては5,000羽を超えて飼養しないこととなっている。一方、需給調整協議会は、毎年定期的に生産者の飼養羽数を調査し、加入生産者の契約締結時に計画生産を遵守している旨の証明を行うこととなっている。
しかして、需給調整協議会において各生産者の飼養羽数の実態を十分把握していないなどのため、各年次契約に当たって、計画生産を遵守せずに登録羽数を超過して飼養している生産者(以下「超過羽数飼養者」という。)に対しても、計画生産に協力している者である旨の証明をしており、1,000羽以上を飼養している加入生産者のうち超過羽数飼養者が多数あり、その数及びこれらの者に対する価格差補てん金交付額は、次表のとおりとなっている。
年度 |
基金名 |
1,000羽以上を飼養している加入生産者数 | 左のうち超過羽数飼養者数 | 左の者に対する価格差補てん金交付額 |
60 |
全国基金 | 人 1,226 |
人 % 232 (19) |
千円 114,626 |
全日本基金 | 1,215 | 203 (17) | 167,892 | |
計 |
2,441 | 435 (18) | 282,519 | |
61 |
全国基金 | 1,154 | 262 (23) | 635,862 |
全日本基金 | 1,133 | 222 (20) | 1,026,770 | |
計 |
2,287 | 484 (21) | 1,662,633 | |
合計 |
4,728 | 919 (19) | 1,945,153 |
表中の( )内の数字は1,000羽以上を飼養している加入生産者数に対する割合を示す。 |
上記のうち登録羽数1万羽以上の加入生産者は61年度で955人おり、これらの者の総登録羽数は2871万羽で、これは、全加入生産者2,417人の総登録羽数3499万羽の82%を占めている。そして、この955人のうち超過羽数飼養者となっている242人の飼養羽数がこれらの者の登録羽数に対し218万羽(登録羽数に対し24%)も超過している状況である。
2 鶏卵の生産予定数量の全量を契約していないもの
鶏卵生産予定数量の全量を対象として契約(以下「全量契約」という。)することを加入条件としているのは、鶏卵生産予定数量の一部を対象として契約(以下「一部契約」という。)することを容認した場合、卵価が高く推移すると予想される期間は一部契約にして積立金(契約対象数量1kg当たり、加入生産者5円、農協等1円75銭)の負担の軽減を図る一方、卵価の低落が予想される期間は全量契約にして価格差補てん金の交付を受ける、いわゆる逆選択の事態を招くので、これを排除することにより基金財政の健全化を図るものであり、また、全量契約によって加入生産者の経営安定と計画生産の推進を図るためのものである。
しかして、農協等及び基金が、各年次契約を締結する際の審査に当たり、需給調整協議会において確認を受けた加入生産者の飼養羽数等と鶏卵生産予定数量及び契約対象数量とを対比して検討すれば、その契約が全量契約となっているかどうかを確認できるのに、この審査が十分に行われていなかったため、全量契約をしていない加入生産者が多数あり、その数及びこれらの者に対する価格差補てん金交付額は、次表のとおりとなっている。
年度 |
基金名 |
全量契約をしていない加入生産者数 | 左の者に対する価格差補てん金交付額 |
60 |
全国基金 | 人 % 603 (45) |
千円 183,427 |
全日本基金 | 447 (35) | 292,808 | |
計 |
1,050 (40) | 476,236 | |
61 |
全国基金 | 573 (46) | 824,106 |
全日本基金 | 410 (35) | 1,173,936 | |
計 |
983 (41) | 1,998,042 | |
合計 |
2,033 (41) | 2,474,279 |
表中の( )内の数字は調査数に対する割合を示す。以下、各表について同じ。 |
上記のうち、販売実績数量に対する契約対象数量の割合が2分の1以下となっている者が、60、61両年度で延べ510人(全国基金339人、全日本基金171人)見受けられた。
3 生産した鶏卵の全量又は一部を農協等以外に販売しているもの
委託販売体制は、全国基金の場合には、加入生産者から農協、県連、全農、そして卸売業者等へとその流通系統が相当程度までは整備されているが、一部の加入生産者はこの委託販売体制外でも取引をしている。
一方、全日本基金の場合には、一部の地域において全鶏連又は県農協が共同販売所又は共同荷捌所で生産者からの委託販売を実施しているものの、大部分の地域では、全鶏連が特定の鶏卵販売業者を指定販売先(以下、これを「指定店」という。)として認定し、この指定店と全鶏連及び県農協の3者により販売価格の算定基準、代金決済等の取引条件等に関する取引契約を締結しており、加入生産者がこの指定店に販売した場合にも、これを県農協への委託販売として取り扱うこととしている。
しかして、近年、各生産者が自ら地域内の小売店等に直接販売するなど鶏卵の流通形態が多様化していること、全日本基金の場合、その委託販売体制の整備が不十分であることなどのため、委託販売以外の取引をしている加入生産者が多数あり、その数及びこれらの者に対する価格差補てん金交付額は、次表のとおりとなっている。
年度 |
基金名 |
委託販売以外の取引をしている加入生産者数 | 左の者に対する価格差補てん金交付額 |
60 |
全国基金 | 人 % 205 (15) |
千円 86,139 |
全日本基金 | 834 (66) | 393,360 | |
計 |
1,039 (40) | 479,499 | |
61 |
全国基金 | 218 (18) | 310,292 |
全日本基金 | 811 (69) | 1,650,431 | |
計 |
1,029 (43) | 1,960,724 | |
合計 |
2,068 (41) | 2,440,223 |
上記のうち、委託販売以外の取引の割合が高い全日本基金の場合をみると、本院が調査した60、61両年度延べ2,440人の67%に相当する1,645人が委託販売以外の取引をしており、このうち、販売実績数量の全量を委託販売以外の取引で販売しているものが856人も見受けられた。そして、加入生産者の販売実績数量のうち、農協等への委託販売以外の取引によるものの全販売実績数量に占める割合は、46%(全国基金の場合は6%)であった。
なお、委託販売として取り扱っている指定店と加入生産者との取引の実態をみると、そのほとんどのものが前記取引契約で定めた条件どおりには実施されておらず、委託販売以外の取引と同様の状況となっていた。
4 価格差補てん金が過大に交付されているもの
基金は、全農又は全鶏連から毎月報告される販売実績数量及び契約対象数量に基づいて価格差補てん金を交付しているが、この販売実績数量は、〔1〕 全農の場合には、県連が、農協を通じて各加入生産者の販売実績数量を報告させ、これをとりまとめて全農に報告し、〔2〕 全鶏連の場合には、県農協が、各加入生産者から販売実績数量を報告させ、これをとりまとめて全鶏連に報告している。
しかして、調査した19道県のすべての県連及び県農協は、実際の販売実績数量に基づかないで、各月の契約対象数量をそのまま販売実績数量とするなどして作為した数量を報告していたため、価格差補てん金が過大に交付されている加入生産者が多数あり、その数及びこれらの者に対する価格差補てん金過大交付額は、次表のとおりとなっている。
年度 |
基金名 |
過大交付されている加入生産者数 | 左の者に対する価格差補てん金過大交付額 |
60 |
全国基金 | 人 % 342 (26) |
千円 19,575 |
全日本基金 | 200 (16) | 24,890 | |
計 |
542 (21) | 44,465 | |
61 |
全国基金 | 285 (23) | 55,577 |
全日本基金 | 186 (16) | 57,315 | |
計 |
471 (20) | 112,893 | |
合計 |
1,013 (20) | 157,359 |
上記のうち、廃業などしていて、当該月には全く生産販売実績がないのに作為した販売実績数量報告に基づき、基金から価格差補てん金の交付を受けている者が60、61両年度延べ77人(これらの者に対する価格差補てん金過大交付額2262万余円)見受けられた。
上記1から4の事態のほか、全国基金、全日本基金別に、都道府県ごとの各月販売実績数量の合計が当該月の契約対象数量の合計の105%を超えた場合又は95%を下回った場合は、都道府県単位で当該基金の加入生産者には価格差補てん金を交付しないこととなっているにもかかわらず、調査した19道県のうち、全国基金ではそのすべて、全日本基金では18道県において販売実績数量の合計が当該月の契約対象数量の105%を超えているなどしているのに、販売実績数量が作為して報告されていたため、これらの道県の加入生産者に対しても価格差補てん金が交付されていた。
しかして、上記事態は、国が定めた実施要領及び基金の業務方法書に沿わないものとなっていて、計画生産の推進に寄与するものとなっておらず本件補助事業が適切に実施されているとは認められない。
このような事態を生じているのは、
ア 農協等において各年次契約締結に当たっての審査が十分でなかったこと、需給調整協議会において、生産者の飼養羽数の調査が的確でなく、また、超過羽数飼養者が判明している場合にも農協等及び基金への通知等を的確に行っていなかったことなどのため、計画生産を遵守していない者を本制度から排除できなかったこと、
イ 本制度への加入及び価格差補てん金の交付に当たって、これを取り扱う農協等及び基金において審査体制が十分でなかったこと、
ウ 近年、各生産者が自ら地域内の小売店等に直接販売するなど鶏卵の流通形態が多様化しており、生産した鶏卵の全量を農協等に委託販売するという制度がこれに対応した仕組みとなっていなかったこと、
エ 加入生産者及び農協等の関係機関が本制度の趣旨及びその内容を十分理解していなかったこと、
オ 貴省においては、本件事業実施の実態を十分把握していなかったため、事業の見直し、的確な指導等を十分行っていなかったこと
などによるものと認められる。
ついては、本件補助事業は、加入生産者の経営の安定と鶏卵の需給及び価格の安定に資するため、価格安定対策の一環として、今後とも引き続き実施されるものであるから、前記事態にかんがみ、貴省においては、
ア 生産者が加入している農協等に対し、各年次契約締結に当たっての審査体制の整備を図らせること、需給調整協議会に対し的確な運営を図るよう指導を強化し、計画生産の適正化を図らせること、及び一定以上の羽数を飼養する生産者について超過飼養の事実が確認された場合には、都道府県から直接基金に通知させるようにすることなどにより、計画生産を遵守していない者を本制度から的確に排除する体制を整備すること、
イ 本制度への加入及び価格差補てん金の交付に当たって、必要に応じて都道府県等の協力を得るなど、農協等及び基金の審査体制等を整備すること、
ウ 近年、鶏卵の販売流通形態が多様化しているので、その販売流通実態に対応するよう委託販売体制を整備するなどして、販売実績数量の全量を的確に把握できるようにすること、
エ 加入生産者及び農協等の関係機関に対し、指導を強化し、本制度の趣旨及びその内容について周知徹底を図ること、
オ 都道府県段階において、販売実績数量が契約対象数量の105%を超えた場合又は95%を下回った場合は、当該都道府県の加入生産者全員に対して価格差補てん金を交付しないこととなっているが、このことは、一部の不適格者のために善良な加入生産者にも補てん金が交付されないといった不合理を生じ、しかも、この規定があるため、県連又は県農協が実際の販売実績数量を報告しないといったことにもなっているので、これの見直しを行うこと
などの措置を講じ、価格安定対策事業としての計画生産の推進について実効ある事業とするとともに、補助事業の実施の適正を期する要があると認められる。
よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の処置を要求する。
(注) 北海道ほか18県 北海道、青森、岩手、宮城、山形、埼玉、千葉、新潟、福井、長野、岐阜、滋賀、島根、広島、山口、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県