ページトップ
  • 昭和61年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第6 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農林漁業金融公庫における自作農維持資金(災害資金)等の貸付けを適切に行うよう改善させたもの


(1) 農林漁業金融公庫における自作農維持資金(災害資金)等の貸付けを適切に行うよう改善させたもの

科目 農林漁業金融公庫 貸付金
部局等の名称 農林水産省
農林漁業金融公庫
貸付けの根拠 自作農維持資金融通法(昭和30年法律第165号、農林漁業金融公庫法(昭和27年法律第355号)
貸付金の種類 (ア) 自作農維持資金(災害資金)
(イ) 沿岸漁業経営安定資金(災害資金)
貸付けの内容 災害により農作物等に損害を受けた農業者及び沿岸漁業者に対する経営再建費及び収入減補てん費に係る貸付け
貸付先 (ア) 北海道ほか12県下の延べ5,380農業者等
(イ) 北海道ほか5県下の28漁業協同組合等(転貸先延べ1,542漁業者)
上記に対する貸付金額
(昭和58年度〜61年度)
(ア) 45億6014万余円
(イ) 15億0941万余円

 上記の資金の貸付けにおいて、貸付限度額や所要額を超えて貸し付けているなどしていて、制度の趣旨に則さない貸付けとなっているものが、自作農維持資金(災害資金)で延べ5,380農業者等分30億4849万余円、沿岸漁業経営安定資金(災害資金)で28漁業協同組合等(転貸先延べ1,542漁業者)分10億6046万余円、計41億0896万余円見受けられた。

 このような事態を生じているのは、農林水産省の指導、監督が十分でなかったため都道府県等の関係各機関の連絡体制、審査体制が十分でなかったこと、審査方法等の基準が明確でなかったこと、資金所要額に変更を生じた場合の措置が定められていなかったことなどによるもので、都道府県等に対する指導を強化するとともに、基準の明確化や制度の整備を図る要があると認められた。

 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)
 農林水産省では、自作農維持資金融通法(昭和30年法律第165号)及び農林漁業金融公庫法(昭和27年法律第355号)の規定に基づき、災害により農作物等に損害を受けた農業者(農業生産法人を含む。以下同じ。)及び沿岸漁業者(以下「農業者等」という。)の経営の維持、安定を図ることを目的として行う自作農維持資金(災害資金)(以下「自作農資金」という。)及び沿岸漁業経営安定資金(災害資金)(以下「沿安資金」という。)の貸付けを農林漁業金融公庫(以下「公庫」という。)に行わせており、公庫における昭和58年度から61年度までの貸付決定額は、自作農資金については224億6317万余円、沿安資金については62億6630万余円となっている。

 上記の資金については、いずれも災害により農作物等に損害を受けた農業者等が農地、漁船等経営上必要不可欠な資産の売却等をしなければ、その経営の維持に必要な資金の調達が困難な場合に貸し付けることとなっており、その貸付対象の範囲は、今後の経営続行が可能な程度の経営再建費及び農作物等の減収額のうち他の制度金融、共済、補助、さらには預貯金の払戻し、家計費の節減等では補てんされないものとなっている。また、本件資金の貸付対象者は、自作農資金については農業を営む個人又は1ha以上の自作地を経営する農業生産法人、沿安資金については沿岸漁業を営み経営の安定を期待できる個人となっており、その貸付限度額は、原則として既往の貸付金残高と通算(自作農資金の場合は林業経営維持資金も通算)して150万円(農業生産法人の場合は750万円)となっている。

 そして、上記資金の貸付けの手続についてみると

(1) 自作農資金の場合

 借入希望者は、貸付適格認定申請書(以下「認定申請書」という。)に、農業委員会の指導により作成した農業経営安定計画(注1) 及び市町村長が災害による被害内容、被害金額等について証明した災害資金細部調書(以下「災害証明書」という。)を添付して農業委員会に提出し、農業委員会は、市町村、農業協同組合等の意見を参しゃくしてその内容を審査し、その結果を記載した意見書を添えて都道府県に提出することとなっており、都道府県は、実地調査等により記載内容を確認のうえ貸付けの適格認定を行い、認定をした場合はその旨を、借入希望者には認定通知書により、公庫には貸付適格認定済一覧表により、それぞれ通知することとなっている。

 そして、通知を受けた借入希望者は、借入申込書に認定申請書の写しを添付して公庫の受託金融機関に借入申込みを行い、受託金融機関は、これに融資意見書を添付して公庫に提出することとなっており、公庫は、これを都道府県から送付を受けた貸付適格認定済一覧表と対照のうえ、貸付決定を行い、受託金融機関を通じて資金を交付することとなっている。

(2) 沿安資金の場合

 借入希望者は、上記自作農資金の場合と同様借入申込書に災害証明書を添付して漁業協同組合(以下「漁協」という。)等に提出し、漁協等はそれを取りまとめて公庫の受託金融機関に借入れを申し込み、受託金融機関は、借入申込書について都道府県に対し借入申込金額、資格要件、借入計画の適否等の審査を依頼し都道府県から資格要件等の適否の判定結果及び意見を記載した貸付対象事業調書の送付を受け、その判定結果及び意見に基づき貸付決定を行い、漁協等を通じて借入希望者に資金を交付することとなっている。

 しかして、62年中に本院において、公庫の北海道支店ほか9支店(注2) が58年度から61年度までの間に行った上記資金の貸付けのうち、自作農資金については、北海道ほか12県下(注3) の延べ8,238農業者に対して貸し付けた66億7122万余円について、また、沿安資金については、北海道ほか5県下(注4) の31漁協等(転貸先延べ2,396漁業者)に対して貸し付けた23億0733万余円について検査したところ、貸付けが適切でないと認められるものが次のとおり見受けられた。

(1) 経営する自作地が1ha未満の農業生産法人や、漁業所得がなく沿岸漁業を営むものとは認められない者など、貸付けの対象者とならないものに貸し付けているもの

自作農資金 1法人 貸付金額 750万円
沿安資金 6漁協等(転貸先延べ41漁業者) 貸付金額 4175万円

(2) 本件資金や林業経営維持資金の貸付金残高を考慮しなかったり、生計を同じくする世帯の構成員が個々に借入申込みを行っているのに誤ってそのまま認めたりしたため、貸付限度額を超えた貸付けとなっているもの

自作農資金 38農業者

貸付金額

3808万円

(うち限度超過額 1541万余円)

沿安資金 2漁協

貸付金額

4622万円

(転貸先17世帯延べ35漁業者)

(うち限度超過額 2072万円)

(3) 災害発生時点において既に平年以上の収入を上げていて減収が生じていなかったり、災害時には減収が予想されたもののその後の作況、市況の変化等により減収が生じなかったり、実際の減収額が災害証明書に記載された額より少なかったりなどしているため、所要額を超えて貸し付ける結果となっているもの

自作農資金 延べ4,675農業者

貸付金額

  40億9910万円
沿安資金 25漁協 (転貸先延べ1,357漁業者) 貸付金額   13億1054万余円

(4) 農業共済又は漁業共済による補てんがあるのにないとしたり、これらによる補てんが災害時に見込んだ額以上に行われるようになったりしたなどのため、所要額を超えて貸し付ける結果となっているもの

自作農資金 延べ1,744農業者

貸付金額

  13億8157万円
沿安資金 11漁協 (転貸先延べ213漁業者) 貸付金額     2億0973万円

(5) 天災資金(注5) の融資等があるのにないとしたり、天災資金の融資が災害時に見込んだ額以上に受けられるようになったりしたなどのため、所要額を超えて貸し付ける結果となっているもの

自作農資金 延べ419農業者

貸付金額

   3億3117万余円
沿安資金 4漁協 (転貸先延べ5漁業者) 貸付金額

      448万円

上記事態には重複しているものがあるので、この分を除くと、

自作農資金 延べ5,380農業者

貸付金額

45億6014万余円
(うち不適切な貸付額 30億4849万余円)
沿安資金 28漁協等

貸付金額

15億0941万余円
(転貸先延べ1,542漁業者)

(うち不適切な貸付額 10億6046万余円)

となる。

 このような事態を生じているのは、

1 農林水産省の指導、監督が十分でなかったことなどのため、都道府県等の関係各機関において、本件融資制度についての趣旨、目的等についての理解が十分でなかったり、貸付けの認定に当たっての相互の連絡体制、農業者等への指導体制、農業者等から提出された書類の内容の審査体制、現地調査等が十分でなかったりしたこと、

2 貸付対象者の要件の審査方法及び農作物等の減収額の算定方法についての基準が明確でなかったこと、

3 貸付け後の天候や市況の変化により減収額等が見込額より少なくなったり、貸付け後に共済による補てんや天災資金等の融資が行われたりして、貸付額が所要額を超えることになった場合には、その後の実績により適正なものに是正する要があるのに、その制度が整備されていなかったこと

などによると認められた。

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、62年11月に都道府県等に対して通達を発し、本件融資制度を関係各機関に対し周知徹底させ、関係各機関においてその審査及び相互の連絡等業務が的確に実施されるようにするとともに、減収額の算定方法等を明確にし、また、貸付け後に貸付額が所要額を超えることとなって貸付金の全部又は一部について貸付けの理由がなくなったものについては、公庫がその実績により所要の措置を執ることができるよう制度の整備を図る処置を講じた。

(注1)  農業経営安定計画 従前の経営実績と現況、将来の経営の改善、必要資金の額、使途等を記載したもの

(注2)  北海道支店ほか9支店 北海道、青森、秋田、東京、長野、新潟、近畿、福岡、長崎、熊本各支店

(注3)  北海道ほか12県 北海道、青森、秋田、新潟、長野、山梨、静岡、兵庫、和歌山、福岡、長崎、熊本、大分各県

(注4)  北海道ほか5県 北海道、青森、新潟、長崎、熊本、大分各県

(注5)  天災資金 天災による被害農林漁業者等に対する資金の融通に関する暫定措置法(昭和30年法律第136号)に基づき、天災によって農作物等に損失を受けた被害農林漁業者等に対し、その経営等の再建を容易にするために低利で融通されるもの