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  • 昭和61年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
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  • 不当事項|
  • 工事

巡視艇の係留施設の建設工事の施行に当たり、係留ブロックの設計が適切でなかったため、その耐力が不足しているもの


(59) 巡視艇の係留施設の建設工事の施行に当たり、係留ブロックの設計が適切でなかったため、その耐力が不足しているもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)海上保安庁 (項)海上保安官署
(項)海上保安官署施設費
部局等の名称 第五管区海上保安本部
工事名 (1) 岸和田(署)船艇基地施設整備工事
(2) 岸和田(署)船艇基地諸設備整備工事
工事の概要 巡視艇の係留施設として、(1)係留ブロック及び係留杭を設置してこれらに浮桟橋を固定するなどの工事、(2)浮桟橋等に電気設備及び給水設備を設置する工事
工事費 (1) 6,600,000円(ほかに支給材料費2,034,151円)
(2) 2,200,000円
請負人 (1) 株式会社根来組
(2) 近畿電気工事株式会社
契約 (1) 昭和61年9月 指名競争契約
(2) 昭和61年12月 指名競争契約
しゅん功検査 (1)及び(2) 昭和62年1月
支払 (1)及び(2) 昭和62年3月

 これらの工事は、浮桟橋を固定するコンクリートブロックの設計が適切でなかったため、巡視艇を係留する施設((1)の工事費のうち4,416,758円及び支給材料費2,034,151円、(2)の工事費2,200,000円、計8,650,909円)の耐力(注) が著しく不足し、工事の目的を達していないと認められる。

(説明)
 これらの工事は、第五管区海上保安本部管内の岸和田海上保安署所属の巡視艇(総トン数40.37トン、全長17.65m、全幅4.3m)を係留する施設(以下「係留施設」という。)を、大阪府の阪南港内の岸和田市新港町地先に移転することになったため、同地先に係留施設として、(1)移転先にある既設桟橋を撤去したのち、浮桟橋を固定するため、護岸の捨石基礎の上にコンクリートブロック(以下「係留ブロック」という。)2基を、沖側に杭(外径558.8mm、長さ16mの鋼管杭3本をH形鋼で結合したもの。以下「係留杭」という。)をそれぞれ設置し、これらの間に浮桟橋(長さ15m、幅5m。支給材。台帳価格2,034,151円)をチェーン又はワイヤロープで固定するなどし、さらに、(2)浮桟橋等に電気設備及び給水設備を設置したものである。

 しかして、係留施設の設計に当たっては、「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」(昭和49年運輸省令第30号)等に基づいて、係留施設は、巡視艇を係留している状態で風速毎秒60mの風荷重を受けたときでも安定した耐力を保持することを設計条件としており、その場合、係留ブロックには15.16t、係留杭には11.53tの引張力が作用するとしている。

 そして、上記の設計条件に基づき、係留ブロックについては、護岸の捨石基礎の法肩部分の間隙に約10cm厚さでコンクリートを充填したのち、その上に1基当たり4.53m3 のコンクリートを打設することにより縦横各2.00m、高さ1.05mの係留ブロックを設置することとして設計している。このような設計をしたのは、捨石基礎の上にコンクリートを打設すれば捨石基礎と係留ブロックが一体となって引張力に対する耐力として有効に働くものと考え、これに基づき両者の合計重量を基にその耐力を計算したところ18.70tとなり、前記引張力15.16tに安全率1.2を見込んだ所要耐力18.19tを確保できると判断したためである。

 しかしながら、上記設計のように捨石基礎の上に単に係留ブロックを設置しても、両者は引張力に対しては構造的に全く別個のもので一体となることはないのであるから、引張力に対して有効に働くのは係留ブロックの耐力のみであり、耐力の計算に当たって捨石基礎の重量をも算入したのは誤りであると認められる。そして、上記により係留ブロックの耐力を計算すると3.46tとなり、所要耐力18.19tの5分の1程度に過ぎないものとなる。

 また、風速毎秒60mの風荷重を受けて係留ブロックの機能が失われた場合には、係留杭に対する引張力は57.65tとなり、その設計上の耐力12.34tを著しく上回ることから、係留杭も損傷を受けることとなる。そして、これに伴い電気設備等も損傷するなどすることから、本件各工事で施工した施設はその機能を発揮できないことになる。

 したがって、係留施設((1)の工事費のうち既設桟橋の撤去費相当額を除いた4,416,758円及び支給材料費2,034,151円、(2)の工事費2,200,000円、計8,650,909円)は、係留ブロックの設計が適切でなかったため、耐力が著しく不足したものとなっており、工事の目的を達していないと認められる。

(注)  耐力 構造物、部材、接合部などが外力に対して耐えうる最大荷重