会計名及び科目 | 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費 |
部局等の名称 | 労働省 |
給付の根拠 | 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号) |
給付の種類 | 労働者災害補償保険の各年金(傷病(補償)年金、障害(補償)年金、遺族(補償)年金) |
給付の内容 | 労働者が業務上又は通勤途上において被災した場合の被災労働者又はその遺族に対する年金の給付 |
支給の相手方 | 342人 |
上記に対する過払されていた労災年金の合計額 | 196,213,857円 |
上記の労働者災害補償保険の各年金(以下「労災年金」という。)の支給において、厚生年金等との併給調整についての事務処理体制等が十分でなかったため、併給調整を要する期間における労災年金196,213,857円が過払となっており、このうち29,187,910円は、既に当該過払金に係る返納金債権の時効期限である5年を経過していて、回収できないものとなっていた。
すなわち、これらの労災年金は、受給権者が、その支給の事由と同一の事由により厚生年金等の支給を受けることができるときには、受給権者からその旨を届出させるなどして、所定の額に調整率を乗じて得た額に減額して支給することとなっているが、受給権者において、この届出を適正に行っていないこと、労働基準監督署において、受給権者の厚生年金保険等への加入及び厚生年金等の受給状況の把握や社会保険事務所への照会等による調査確認を十分に行っていないこと、労働省において、労働基準監督署に対し、これらについての調査確認の時期、方法を具体的に示していなかったことなどにより、労災年金と厚生年金等との併給調整が適正に行われていなかったため過払となっていたものである。
したがって、労働省において、受給権者に対し、適正かつ速やかに厚生年金等の受給状況等を届け出ることについて周知徹底させ、労働基準監督署に対し、労災年金の支給決定に際しては請求書について調査確認を行って厚生年金保険等への加入及び厚生年金等の受給についての把握を十分に行うことなどの指導をするとともに、併給調整を行っていない者に関するリストを定期的に労働基準監督署に送付して調査確認を行わせるなどの審査体制を確立して適正な併給調整を行い、もって労災年金支給の適正化を図る要がある。
上記に関し、昭和62年12月1日に労働大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)の規定に基づき、業務上の事由又は通勤途上における労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に関し、被災労働者又はその遺族に対して行う保険給付の一環として、傷病(補償)年金、障害(補償)年金及び遺族(補償)年金(以下「労災年金」という。)の長期給付を行っており、労災年金の昭和61年度における支給額は2488億3406万余円となっている。そして、受給権者に対する労災年金の支払は、1年を4期に分け、支払月(5月、8月、11月、2月)の前月までの3箇月分をまとめて郵政官署及び市中金融機関で行っており、62年2月支払期における受給権者数は、傷病(補償)年金23,494人、障害(補償)年金74,344人、遺族(補償)年金84,340人、合計182,178人となっている。
しかして、労災年金は、受給権者が、その支給の事由と同一の事由により厚生年金保険、船員保険及び国民年金の年金(注1) (以下「厚生年金等」という。)の支給を受けることができるときには、所定の額に、労働者災害補償保険法施行令(昭和52年政令第33号)において労災年金の区分に応じ厚生年金等の種類の別に定められた調整率(0.76〜0.91)を乗じて得た額に減額(以下「併給調整」という。)して支給することとなっている。
そして、この併給調整の手続についてみると、〔1〕 受給権者は、労災年金の支給決定を受けるために提出することになっている支給請求書又は届書(以下「請求書」という。)において、厚生年金保険、船員保険及び国民年金(以下「厚生年金保険等」という。)への加入や厚生年金等の受給状況を記載することとなっており、この請求書の提出を受けた労働基準監督署(以下「監督署」という。)は、その記載内容について実地調査や社会保険事務所への照会により調査確認し、厚生年金等の裁定を受けている者については、所要の併給調整を行ったうえ支給決定を行うこととなっている。また、〔2〕 厚生年金保険等の加入者で労災年金の支給決定時には厚生年金等の裁定を受けていなかったがその後裁定を受けたときは、遅滞なく監督署に厚生年金保険等の受給関係変更届(以下「変更届」という。)を提出することになっており、これの提出を受けた監督署はその内容を調査確認して、労災年金と厚生年金等との併給が開始された日に遡及して併給調整を行うこととなっている。さらに、〔3〕 受給権者は、毎年1回、2月中に監督署に提出することになっている定期報告書により、厚生年金等の受給状況を記載し報告することとなっており、これの提出を受けた監督署は、その内容を調査確認して、厚生年金等を受給していて併給調整の必要があることが判明したときは、労災年金と厚生年金等との併給が開始された日に遡及して併給調整を行うこととなっている。そして、前記62年2月支払期における労災年金の受給権者182,178人についてみると、併給調整を行っているものは94,731人、併給調整を行っていないもの(以下「非調整受給者」という。)は87,447人となっている。
しかして、本院において、上記の非調整受給者87,477人のうち、北海道労働基準局ほか19労働基準局(注2) 管内の監督署が労災年金の支給決定を行った56,106人の中から5,893人を抽出して、厚生年金等との併給調整の必要の有無について調査したところ、併給調整の必要があるのにこれを行っていなかったものが245人、併給調整は行っていたがその処理が遅延していたものが97人見受けられ、これらの342人に対する併給調整を要する期間における労災年金の過払額は総額1億9621万余円に上っていて、しかもこのうち2918万余円は、既に当該過払金に係る返納金債権の時効期限である5年を経過していて、回収できないものとなっていた。
そして、上記の342人について、
(1) 労災年金と厚生年金等とが併給調整されないまま支給されていた期間をみると、
〔1〕 1年未満のものが | 93人 | 1407万余円 | |
〔2〕 1年以上3年未満のものが | 123人 | 4926万余円 | |
〔3〕 3年以上5年未満のものが | 63人 | 5109万余円 | |
〔4〕 5年以上のものが | 63人 | 8177万余円 |
となっていて大部分が1年以上の長期間に及んでいる状況であった。
(2) 監督署における厚生年金保険等への加入状況及び厚生年金等の裁定状況の把握についてみると、
ア 労災年金の支給決定時における厚生年金保険等への加入状況の把握は、現に厚生年金等を受給している者はもとより、受給する可能性のある者についてその後における受給事実を確認するうえで必要なことであるのに、前記342人のうち、労災年金の支給決定時において、請求書の記載や実地調査等により、厚生年金保険等に加入していることを把握していたのは、146人(厚生年金保険の加入者184人中97人、国民年金の加入者158人中49人)にすぎず、残る196人については把握していない状況であった。
イ 労災年金の支給決定時に既に厚生年金等の裁定を受けていたのに、その事実を把握していなかったものは前記342人中108人(厚生年金保険で33人、国民年金で75人)であった。また、残る234人(厚生年金保険で151人、国民年金で83人)については、労災年金の支給決定後に厚生年金等の裁定を受けているのに、これについての調査を行っていないため、その事実を把握していない状況であった。
(3) 請求書等による厚生年金等の受給の報告状況及びこれらによる併給調整の実施の状況についてみると、
ア 上記(2)イの労災年金の支給決定時に既に厚生年金等の裁定を受けていた108人のうち、請求書においてその事実を申告していた者はわずか7人にすぎず、残りの101人はその事実を申告していなかった。そして、申請後に変更届で報告していた者が2人、定期報告書で初めて報告していた者が49人で、残る50人は何らの報告もしておらず、また、支給決定後に厚生年金等の裁定を受けた者234人のうち、その事実を変更届で報告していた者が21人、定期報告書で初めて報告していた者が106人で、残る107人は何らの報告もしていない状況であった。そして、変更届で報告していた23人のうち19人は変更届の提出が厚生年金等の裁定後0.5箇月から14箇月、平均4箇月遅延しており、また、定期報告書で初めて報告していた者155人のうち、その報告を裁定後最初の定期報告書で行っていた者が119人、裁定後2回目の定期報告書で行っていた者が15人、3回目以後の定期報告書で行っていた者が21人となっていた。
イ 監督署において、支給決定時に請求書により厚生年金等の裁定を受けていることを申告していた者7人については、いずれも最初の支払期までに併給調整の事務処理を行っておらず、その後も行っていなかったものが4人、変更届を受理した23人のうち、受理後の最初の支払期までに併給調整の事務処理を行っていなかったものが5人、その後も行っていなかったものが1人、さらに、定期報告書を受理した155人のうち、受理後の最初の支払期までに併給調整の事務処理を行っていなかったものが105人、その後も行っていなかったものが83人となっている状況であった。
このような事態となっているのは、
(1) 労災年金の受給権者において、監督署に支給決定を受けるために提出する請求書に
より厚生年金保険等への加入状況及び厚生年金等の受給の状況を申告すること、また、支給決定後に厚生年金等の裁定を受けたときは変更届により速やかにその状況を報告することになっているのに、これらについての理解が十分でないこと、
(2) 監督署において、
ア 労災年金の支給決定に当たって、請求書に対する調査確認が十分でないため、受給権者の厚生年金保険等への加入及び厚生年金等の受給についての把握が十分でなく、また、厚生年金保険等の加入者となっていて労災年金の支給決定後に厚生年金等を受給する可能性のある者については、現実に厚生年金等を受給して変更届の提出がなされるのを待って初めて併給調整の事務処理を行うこととしていて、社会保険事務所に照会するなどの積極的な調査確認を行っていないこと、
イ 受給権者から、労災年金に係る請求書、変更届又は定期報告書により、厚生年金等の受給の事実の報告があったのに、速やかな事実確認及びそれに基づく併給調整を行っていないこと、
ウ 労災年金の受給権者について行うことになっている社会保険事務所に対する厚生年金等の受給状況の照会が円滑に行われていないこと、
(3) 貴省において、監督署に対し、非調整受給者のうち厚生年金保険等に加入していて厚生年金等を受給する可能性のある者についての厚生年金等の受給事実の有無等に対する調査確認の時期、方法を具体的に示していなかったこと
などによると認められる。
ついては、貴省において、現在、非調整受給者となっている者について併給調整の必要の有無を見直すとともに、今後も引き続き新規の受給権者の発生と、それに対する併給調整の必要が見込まれることから、
(1) 労災年金の受給権者に対して、厚生年金等を受給しているときは、所定の手続により適正かつ速やかにその事実を報告することについて周知徹底させること、
(2) 監督署に対して、
ア 労災年金の支給決定に当たっては、請求書に対する調査確認を行って受給権者の厚生年金保険等への加入及び厚生年金等の受給についての把握を十分に行い、また、厚生年金保険等の加入者となっていて支給決定後に厚生年金等を受給する可能性のある者については、社会保険事務所に照会するなどの積極的な調査確認を行うよう指導すること、
イ 請求書、変更届又は定期報告書により厚生年金等を受給していることの報告があったときは、速やかに、その事実を確認し、併給調整を行うよう指導すること、
ウ 併給調整の事務処理を合理的かつ的確に行うため、社会保険事務所への照会事務を円滑に行うよう指導すること、
(3) 定期的に非調整受給者に関するリストを作成し、これを監督署に送付して、併給調整の必要性についての調査確認を行わせるなどの審査体制の確立を図ること、
また、今後、貴省及び社会保険庁で保有しているコンピュータにより、併給調整の事務処理が行えるよう検討すること
などの方途を講じ、適正な併給調整を行い、もって労災年金支給の適正化を図る要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) 厚生年金保険、船員保険及び国民年金の年金
〔1〕 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)の規定による障害厚生年金、遺族厚生年金 | |
〔2〕 国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定による障害基礎年金、遺族基礎年金、寡婦年金 | |
〔3〕 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号。以下「昭和60年改正法」という。)の規定による改正前の厚生年金保険法の規定による障害年金、遺族年金 | |
〔4〕 昭和60年改正法の規定による改正前の船員保険法の規定による障害年金、遺族年金 | |
〔5〕 昭和60年改正法の規定による改正前の国民年金法の規定による障害年金、母子年金、準母子年金、遺児年金、寡婦年金 |
(注2) 北海道労働基準局ほか19労働基準局 北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、広島、山口、徳島、福岡、長崎、鹿児島各労働基準局