意見を表示した部局等の名称 | 厚生省 保険局 | |
調査対象病院 | 厚生省 | 国立弘前病院ほか36病院 |
文部省 | 北海道大学医学部附属病院ほか50病院 | |
防衛庁 | 防衛医科大学校病院 | |
労働福祉事業団 | 美唄労災病院ほか9病院 | |
国家公務員等共済組合連合会 | 斗南病院ほか6病院 | |
日本電信電話株式会社 | 関東逓信病院ほか4病院 | |
東日本旅客鉄道株式会社ほか2旅客鉄道株式会社 | JR東京総合病院ほか3病院 | |
日本たばこ産業株式会社 | 東京専売病院ほか1病院 | |
計 | 117病院 | |
診療報酬請求の概要 | 保険医療機関等が療養の給付に関し、使用した医療用の酸素の費用を厚生大臣が定める診療報酬点数表に基づき請求するもの | |
調査対象病院の医療用酸素購入総額 | 12億7700万余円(昭和62、63両年度分) |
保険医療機関等が行う医療用酸素の診療報酬請求については、診療報酬点数表において、その購入価格を10円で除して得た点数によることと定められているにすぎないことから、本院の検査対象機関である上記の117病院において、診療報酬請求の実態について調査したところ、当該病院で購入し使用する各種容器のうち購入単価の割高な圧縮酸素の購入価格によっていたり、近隣の病院に問い合わせて独自に設定した価格によっていたりなどしていて、診療報酬請求の取扱いが区々となっており、このため、64病院では昭和62、63両年度で合計約17億0500万円(国の負担した額の推計額約7億円)超過請求している状況であった。
このような事態を生じているのは、酸素は温度が下がると体積が減少するなど、購入量に比べて使用量が相当減少することから、購入価格で診療報酬の請求をすると費用の回収ができないなどの請求側の事情もあるが、厚生省において、酸素の診療報酬の請求について上記のような定めを設けているだけで、具体的な算定方法を示していないことによると認められた。
したがって、厚生省において、各保険医療機関等における酸素の購入及び使用の態様に応じて適切に請求し得るよう、酸素に係る請求価格の具体的算定方法を明確にするなど、診療報酬請求の適正化、合理化を図る措置を講ずる要がある。
上記に関し、平成元年11月17日に厚生大臣に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、健康保険法(大正11年法律第70号)等保険関係法令に基づく療養の給付に関して、療養に要した費用のうち保険医療機関等がその診療報酬として国、市町村、健康保険組合等の保険者に対して請求することができる費用の額の算定方法を、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(昭和33年厚生省告示第177号。以下「診療報酬点数表」という。)により告示しているところである。そして、この診療報酬のうち、診察、処置及び手術等の技術料については診療報酬点数表において診療報酬点数として項目ごとに一定の点数を定めており、また、使用した薬剤等の購入費用については原則として別に定めている。
しかして、保険医療機関等が酸素吸入、酸素テント等に使用する医療用の酸素については、貴省において、その価格を定めておらず、診療報酬点数表において、その購入価格を10円で除して得た点数を基に費用を算定して請求することを定めているにすぎないことから、各保険医療機関等により、診療報酬請求額算定に当たっての単価の設定方法に差異を生じていることが思料されたので、本院において、国立弘前病院ほか116(注1) 病院(以下「病院」という。)の昭和62、63両年度における酸素(購入額合計、62年度6億2091万余円、63年度6億5609万余円、計12億7700万余円)に係る診療報酬請求の実態について調査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち各病院では、液体酸素を、大容量の定置型タンク(1気圧の気体に換算して90万リットル〜270万リットル程度、1リットル当たりの購入単価の平均値0.110円)又は小容量の可搬型タンク(同13万リットル程度、同0.254円)により、また、圧縮酸素を、大型ボンベ(同7000リットル程度、同0.300円)及び小型ボンベ(同1500リットル以下、同1.503円)により購入している。そして、ほとんどの病院では、主として安価な液体酸素を使用していたが、圧縮酸素も、タンクの故障等の際の予備用として大型ボンベで使用したり、患者が病室と手術室の間を移動する際に小型ボンベで使用したりする必要などがあるため、購入単価の異なる各種容器の酸素を併用せざるを得ない状況にあった。
そして、診療報酬請求額の算定に当たっては、併用している酸素の使用量を容器別に把握するのは困難なことから、一般に、単一の単価を設定し、これにより請求していた。この請求単価についてみると、使用している各種容器の酸素のうち、高額な圧縮酸素の購入単価を採用しているものが12病院、近隣の病院に問い合わせるなどして実際の購入単価と異なる単価を独自に設定しているものが79病院、最も低額な液体酸素の購入単価を採用しでいるものが11病院あるなど各病院で取扱いが区々となっていた。
このように取扱いが区々となっている背景としては、次のような事情があると認められた。すなわち、〔1〕 圧縮酸素の購入量は、保安上の必要から35℃時の体積を基準とすることとされていることなどから、ほとんどの病院では、すべての酸素についてこの体積で把握しているが、使用量は35℃時に比べて数%程度減少している室温時のものとなること、〔2〕 酸素の供給を受けるために使用している各種容器のうち、定置型タンクについては、供給を受けた液体酸素の量を計測する計器の誤差や充填の際等に液体酸素の気化による消失が15%程度、また、ボンベについては、ボンベ内部の汚染を防ぐために圧力を保持しておく必要があることなどから、一定量の酸素を残留させることとしており、このための酸素量が9%程度、それぞれ見込まれること、〔3〕 酸素の使用量を計測するためのフロート式の流量計には、10%程度の誤差が許容されていることなどから、診療報酬請求の基礎となる使用量は購入量に比べ相当減少するものであると認められ、購入単価をそのまま用いて請求単価とした場合には、費用の回収が困難になるため、購入単価に所要の修正を加えて請求単価とする、やむを得ない事情があると認められた。
しかしながら、実際に設定された請求単価についてみると、過半の病院において、購入費用を回収するために必要な価格を上回っていて、これにより請求していたために、請求超過額が次のように多額に上っていた。すなわち国立高崎病院ほか63病院(注2)
では、62年度約13億0100万円、63年度約11億8100万円、計約24億8300万円請求しており、本院が上記減少量を最大限に見込んで試算した価格(注3)
により算定される額(62年度約3億7600万円、63年度約4億0100万円、計約7億7700万円)を超えて請求する結果となっていて、その超過額の合計は62年度約9億2500万円(この請求に対する患者又は保険者の支払額のうち、国の負担した額の推計額は4億円程度)、63年度約7億7900万円(同3億円程度)、計約17億0500万円(同7億円程度)に上っている。
このような事態を生じているのは、
(1) 酸素がその使用状態などから、減少量を把握して使用に応じた購入単価を算定することが個々の保険医療機関等にとって困難なものであるにもかかわらず、貴省において、使用した酸素の費用の請求について具体的な指針を定めていないこと、
(2) (1)の事情及び各病院における酸素の容器別購入単価の間においても差異が大きい状態から、審査に当たる社会保険診療報酬支払基金等又は支払に当たる各保険者における適切な審査が困難となっていることなどによると認められる。
ついては、酸素の使用は各種医療行為を行うに当たり、必要不可欠のものであり、各保険医療機関等の酸素購入量は今後も増加することが予想されることなどにかんがみ、貴省において、各保険医療機関等における酸素の購入及び使用の態様に応じて適切に請求し得るよう、酸素に係る請求価格の具体的算定方法を明確にするなど診療報酬請求の適正化、合理化を図る措置を講ずる要があると認められる。
よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の意見を表示する。
(注1) 国立弘前病院ほか116病院 厚生省所管の国立弘前病院ほか36病院、文部省所管の北海道大学医学部附属病院ほか50病院、防衛庁所管の防衛医科大学校病院、労働福祉事業団運営の美唄労災病院ほか9病院、国家公務員等共済組合連合会運営の斗南病院ほか6病院、日本電信電話株式会社運営の関東逓信病院ほか4病院、東日本旅客鉄道株式会社ほか2旅客鉄道株式会社運営のJR東京総合病院ほか3病院、日本たばこ産業株式会社運営の東京専売病院ほか1病院
(注2) 国立高崎病院ほか63病院 厚生省所管の国立高崎病院ほか14病院、文部省所管の東北大学抗酸菌病研究所附属病院ほか21病院、防衛庁所管の防衛医科大学校病院、労働福祉事業団運営の美唄労災病院ほか8病院、国家公務員等共済組合連合会運営の斗南病院ほか6病院、日本電信電話株式会社運営の関東逓信病院ほか4病院、東日本旅客鉄道株式会社ほか1旅客鉄道株式会社運営のJR東京総合病院ほか2病院、日本たばこ産業株式会社運営の東京専売病院ほか1病院
(注3) 試算した価格 通常の使用状態で発生が予想される最大限の誤差等を各病院で22%から29%と見込み、これを購入量から控除して請求し得る量を算定のうえ、これにより各病院の購入費用を回収し得るように試算した価格