会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 (項)保健衛生諸費 | ||
部局等の名称 | 厚生本省、北海道ほか14県 | ||
補助の根拠 | 予算補助 | ||
事業主体 | 道県3、市町15、一部事務組合等25、計43事業主体 | ||
補助事業 | へき地中核病院の運営事業 | ||
事業内容 | へき地中核病院としての指定を受けた病院が行う無医地区への巡回診療、へき地診療所への医師派遣等 | ||
事業費 | 昭和61年度 | 568,419,127円 | |
昭和62年度 | 540,021,476円 | ||
上記に対する国庫補助金交付額 | 昭和61年度 昭和62年度 |
284,197,000円 269,871,000円 |
上記の事業主体では、無医地区に該当しない地区の巡回診療を事業の対象としたり、医師等の人件費の算出が適切でなかったりなどしたため、国庫補助金が昭和61年度約1億0910万円、62年度約1億0680万円適切に交付されていなかったと認められる。
このような事態を生じたのは、近年、交通の利便性が確保されるなどしていて事業の対象となる無医地区とするのは適切でないのにその実態の把握が十分でなかったこと、人件費の算出方法が明確にされていなかったことなどによるもので、無医地区であることの実態を十分把握させるとともに、費用の算出方法を具体的に明示するなどして、事業を適切に行う要があると認められた。
上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。
(説明)
厚生省では、離島、山村等の医療に恵まれない地域の住民の医療を確保するため、へき地保健医療対策実施要綱(昭和61年健政発第662号厚生省健康政策局長通知。以下「実施要綱」という。)により、都道府県等にへき地中核病院運営事業を実施させている。
この事業は、都道府県知事が、無医地区を有する広域市町村圏に所在する病院のうち、主要な診療科を有し、かつ、原則として200床程度の一般病床を有する病院であって、無医地区への巡回診療等を継続的に実施できると認められる都道府県立等の病院をへき地中核病院(以下「中核病院」という。)として指定し、この指定を受けた中核病院が無医地区への巡回診療や医師がいないへき地診療所への医師派遣等の医療活動を行うもので、この事業を実施した場合、毎年度の医療施設運営費等補助金交付要綱(厚生事務次官通知。以下「交付要綱」という)の定めるところにより、都道府県が、自ら実施するために要する費用及び市町村等が実施した事業に補助するために要する費用を、当該都道府県に補助しており、その交付額は、昭和61年度では30道府県に対し5億4803万余円、62年度では30道府県に対し5億5463万余円となっている。
しかして、上記の無医地区は、実施要綱等により、医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点としておおむね半径4キロメートル内に50人以上が居住している地区であって、かつ住民が最寄りの医療機関まで行くための定期交通機関がないか、又は、1日3往復以下であり、自家用車も普及していないなどの事情により、容易に医療機関を利用することができない地区とされている。
また、国庫補助金の交付額は、交付要綱により、〔1〕 都道府県が事業を実施した場合は、人件費、旅費等からなる医療活動費、医薬材料費等からなる医療費等の各種目ごとに所定の基準額と補助対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額を選定し、この各種目ごとに選定した額の合計額と総事業費から診療収入及び寄付金等の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に、また、〔2〕 市町村等が実施した事業に対し都道府県が補助した場合は、上記の計算方法により得られた額と都道府県が補助した額とを比較して少ない方の額に、2分の1の補助率を乗じて算定することになっている。この場合、
ア 補助対象経費の実支出額の算出に当たり、医師、看護婦等の給料、手当及び共済費は、専任者の場合には支出済額とし、また、兼任者の場合にはこれらの費用を病院に勤務すべき日数で日割計算をして、その日額に巡回診療等に従事した日数を乗じて得た額とすること、
イ 無医地区への巡回診療による診療収入額は中核病院の収入に計上することとし、へき地診療所への医師派遣による診療収入は当該へき地診療所の収入とすることとなっている。
しかして、本院が、北海道ほか18県(注1)
における61、62両年度のへき地中核病院運営事業について検査したところ、北海道ほか14県(注2)
において次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
1 巡回診療の対象地区について
地区の住民が医療機関まで行くためのバスが定期的に1日に4往復以上運行したり、地区の世帯に自家用車が普及したりなどしていて容易に医療機関を利用できる地区となっているのに、無医地区として巡回診療の対象としていたもの
(61年度)9道県 18事業主体 20中核病院 91地区 | 国庫補助金相当額3631万余円 |
(62年度)9道県 18事業主体 21中核病院 87地区 | 国庫補助金相当額3527万余円 |
2 人件費の実支出額の算出について
(1) 人件費の日割計算に当たり、巡回診療等に係る業務ではない、当該病院の入院患者等に対する診療等の業務に従事したことに対して支給される宿日直手当、超過勤務手当等の手当の額を含めて算出していたもの
(61年度)8道県 18事業主体 19中核病院 | 国庫補助金相当額956万余円 |
(62年度)7道県 16事業主体 17中核病院 | 国庫補助金相当額806万余円 |
(2) 巡回診療等に従事した日数は、往復に要する時同等を含めた従事時間が1日に4時間程度である日については、0.5日とするのが適切であると認められるのに1日として算出していたもの
(61年度)11県 17事業主体 17中核病院 | 国庫補助金相当額3451万余円 |
(62年度)11県 17事業主体 17中核病院 | 国庫補助金相当額3595万余円 |
3 診療報酬の請求等の取扱いについて
(1) 巡回診療の際に行った診察、検査、投薬等であっても、社会保険診療報酬支払基金等に対しその診療報酬を請求することができるのに請求していなかったもの
(61年度)7道県 24事業主体 27中核病院 | 国庫補助金相当額3073万余円 |
(62年度)7道県 23事業主体 26中核病院 | 国庫補助金相当額2813万余円 |
(2) へき地診療所への医師派遣に要した費用については、医師派遣による診療収入が診療所の収入となるものであることから、診療所に負担させるのが適切であると認められるのに負担させていなかったもの
(61年度)3県 5事業主体 5中核病院 | 国庫補助金相当額2416万余円 |
(62年度)2県 4事業主体 4中核病院 | 国庫補助金相当額2168万余円 |
上記の事態には重複しているものがあるので、その分を整理すると、適切に交付されていなかった国庫補助金は、61年度は15道県の43事業主体47中核病院で1億1691万円、62年度は15道県の42事業主体46中核病院で1億1211万余円となる。そして、へき地診療所に対しては別途国においてへき地診療所運営費補助金等による財政措置が行われていることから、前記3の(2)の事態についてへき地診療所に医師派遣の費用を負担させた場合にこの措置が行われたとしても、なお、61年度で約1億0910万円、62年度で約1億0680万円の国庫補助金が適切に交付されていなかったと認められる。
このような事態を生じたのは、
(ア) 事業主体において、補助金の交付申請に当たり無医地区であることの実態を十分に把握しないまま地域住民の要望を受けて巡回診療を実施していたこと、巡回診療の際の診療行為については診療報酬の請求が認められていないと誤認するなど制度に対する理解が十分でなかったこと、
(イ) 道県において、巡回診療等の実施状況を十分把握していなかったなどのため、補助金の交付申請時の審査や事業主体に対する指導等が十分行われていなかったこと、
(ウ) 厚生省において、人件費の実支出額の算出方法並びに診療報酬及び医師派遣に要する費用の取扱いを明確に示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、平成元年2月に都道府県に対して通達を発し、事業主体からの交付申請の内容を十分審査させるなど指導監督を徹底するとともに、無医地区の実態を十分に把握し無医地区であることを確認すること、また、実支出額の算出等に当たり、巡回診療等に関係のない手当については人件費の日割計算に含めないこと、巡回診療等に従事した日数については1日の従事時間が4時間以下の場合は0.5日として算出すること、巡回診療による診療報酬についてはその報酬相当額を、へき地診療所への医師派遣に要した費用については診療所から徴収しその額をそれぞれ収入に計上することとして、元年度から、へき地中核病院運営事業の適切な実施を図る処置を講じた。
(注1) 北海道ほか18県 北海道、青森、秋田、山形、栃木、石川、福井、山梨、岐阜、愛知、滋賀、島根、岡山、山口、徳島、福岡、大分、宮崎、鹿児島各県
(注2) 北海道ほか14県 北海道、青森、秋田、栃木、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、島根、岡山、徳島、福岡、大分、鹿児島各県