会計名及び科目 | 農業経営基盤強化措置特別会計(項)農業改良資金貸付金 | |
部局等の名称 | 農林水産本省 | |
貸付けの根拠 | 農業改良資金助成法(昭和31年法律第102号) | |
貸付けの内容 | 農業改良資金の貸付事業を行う都道府県に対する貸付け(昭和59年度以前は補助金) | |
貸付先 | 青森県ほか22県 | |
上記に対する貸付額(昭和59年度以前は国庫補助金交付額)の合計 | 国庫補助金 | 322億2371万余円(昭和31年度〜59年度) |
貸付金 | 107億7188万余円(昭和60年度〜63年度) | |
計 | 429億9560万余円 |
上記各県の農業改良資金の貸付事業において、多額の余剰資金が生じているのに国への繰上償還等を行っていない県がある一方で、資金造成がいまだ十分でない県があるなど県の間で資金の偏在を生じていたり、また、農業改良資金の余裕金の運用益は、農業改良資金特別会計に計上し貸付財源に充てることになっているのに、これを適正に計上していなかったりしていて、法律の趣旨に沿わない事態となっていた。
このような事態を生じているのは、農林水産省が県に対し法律の趣旨を周知徹底していなかったこと、地方農政局等が県に対し繰上償還等について適切な指導を行っていなかったこと、県が実態に即した貸付事業計画を策定していなかったり、制度の趣旨を理解していなかったりしたことなどによると認められる。
したがって、農林水産省において、都道府県に対し、法律の趣旨の周知徹底を図り、実態に即した適切な貸付事業計画を策定するよう指導を強化するとともに、地方農政局に対し、貸付事業計画等を十分審査し、余剰資金を的確に把握することにより、繰上償還等や運用益の計上について適切な指導を行わせるなどして、農業改良資金の効率的かつ適切な運用を図る要がある。
上記に関し、平成元年12月5日に農林水産大臣に対して改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、農業改良資金助成法(昭和31年法律第102号。以下「法」という。)の規定に基づき、農業者又はその組織する団体(以下「農業者等」という。)に対して農業改良資金の貸付事業を行う都道府県に対し、当該事業に必要な資金の3分の2相当額を、この制度が発足した昭和31年度から59年度までは補助金として交付することにより、また、60年度以降は60年5月の法改正により無利子で貸し付けることにより、それぞれ助成を行っており、63年度までに補助金合計665億2746万余円、貸付金(以下「政府貸付金」という。)合計275億6595万余円、両者合計940億9341万余円(60年度以降国に納付され又は繰上償還された額45億1450万余円を除く。)を交付し、又は貸し付けている。
上記の農業改良資金の制度は、農業者が農業経営又は農家生活の改善を目的として自主的に能率的な農業技術の導入その他合理的な農業生産方式の導入を行い、農業経営の規模を拡大し、又は合理的な生活方式を導入することを促進し、及び農業後継者たる農村青少年が近代的な農業経営を担当するのにふさわしい者となることを助長するため、都道府県が農業者等に対し無利子で資金を貸し付けるものであり、農業者等からの償還金については都道府県において貸付財源として繰り返し使用される仕組みとなっている。そして、国は都道府県に対しその貸付けに必要な財源の一部を予算の範囲内で助成しているものである。
しかして、法、「農業改良資金制度運用基本要綱」(昭和60年農林水産事務次官依命通達60農蚕第2928号)等によると、都道府県における農業改良資金の貸付事業の経理は、都道府県の一般会計と区分して特別会計を設けて行わなければならず、この特別会計(以下単に「特別会計」という。)に属する資金の預託に係る利子収入(以下「運用益」という。)は、貸付財源に充てるものとされている。また、貸付財源に余裕がある場合その他一定の場合には、政府貸付金について繰上償還を行ったり、国庫補助金相当額について国に自主的に納付したりすることができることとなっている。そして、都道府県は、毎年度貸付事業を行うに当たっては、農業改良資金貸付事業計画(以下「貸付事業計画」という。)を地方農政局長等の承認を受けて策定することとなっている。
ところで、前記のように国の助成方法が補助方式から貸付け方式に改められた趣旨は、制度発足後約30年を経過したことに伴い、都道府県にこの制度が定着して資金の造成が進むとともに、貸付規模も相当の水準に達して既往貸付金に係る償還金が増大したことなどによって、既存の貸付財源が資金需要を上回り余剰資金が累積する都道府県が増える一方、既存の貸付財源では資金需要を満たせず更に資金造成を必要とする都道府県もあって、資金の偏在が顕著となってきたため、国の助成方法を貸付け方式に改めるとともに、都道府県の貸付財源に余裕がある場合等には国に政府貸付金の繰上償還及び国庫補助金の自主納付(以下「繰上償還等」という。)をすることができることとして、償還金及び自主納付金を貸付財源が不足している都道府県へ融通することによって都道府県の間の資金の過不足を調整し、国の助成資金の効率的な運用を図ることとしたものである。
そして、貴省では、政府貸付金の貸付け等に関する経理を明確にするため、一般会計と区分して、前記の法改正の際に旧自作農創設特別措置特別会計から改組された農業経営基盤強化措置特別会計において経理することとし、同会計において、政府貸付金、その償還金及び国庫補助金の自主納付金を管理している。
しかして、今回、本院において、62年度及び63年度の青森県ほか29県(注1)
における農業改良資金(63年度末における総額1017億1973万余円(うち国庫補助金472億6653万余円、政府貸付金189億5834万余円))の貸付事業の運営状況等について調査したところ、次のような事態が見受けられた。
1 県間で資金が著しく偏在していて法改正の趣旨が生かされていないもの
既に資金造成が十分行われ、貸付財源となる前年度繰越金や農業者等からの償還金が相当多額に上っていて、貸付規模からみて多額の余剰資金を生じている県が、次のとおり見受けられた。
〔1〕 前年度繰越金及び償還金がいずれも貸付金を上回っているもの
(62年度) | 岐阜、奈良、愛媛各県 | |
(63年度) | 岐阜、奈良両県 |
〔2〕 前年度繰越金又は償還金が貸付金を上回っているもの
(62年度) | 青森、富山、岡山、香川各県 | |
(63年度) | 青森、岡山、愛媛各県 |
〔3〕 以上のほか、前年度繰越金と償還金の合計額が貸付金を大幅に(貸付金の20%以上)上回っているもの
(62年度) | 福島、鳥取、広島、大分、鹿児島各県 | |
(63年度) | 福島、富山、鳥取、広島、大分、鹿児島各県 |
これらの県においては、62年度及び63年度の貸付事業計画の策定に当たり、前年度までの貸付枠あるいは県の貸付方針等にこだわり、農業者等における資金需要の見込みや過去の貸付実績等を十分考慮しないまま貸付計画額を著しく過大に設定(実績額の122%から318%)したり、前年度繰越金の額をほぼ正確に把握することができるにもかかわらず、これを著しく過小に計上(実績額の40%から51%)したりしている状況であり、適正な貸付事業計画を策定していれば余剰資金が判明して政府貸付金等の国への繰上償還等を行うことが可能であったと認められ、しかも、このうち62年度には青森県ほか3県(注2)
が、63年度には青森県ほか4県(注3)
がそれぞれ政府貸付金の貸付けを受けているが、その要はなかったと認められる。
一方、農業者等の資金需要がおう盛で、これに対する県の資金造成がいまだ十分でなく、前年度繰越金、償還金等では貸付けに必要な資金を賄えず、政府貸付金を借り入れたうえ更に県の一般会計から一時的に資金の融通を受けるなどしている県が、62年度では宮城県ほか8県(注4)
、63年度では茨城県ほか8県(注5)
見受けられる。
以上のように県の間で資金が偏在しているが、このような事態は、都道府県間の資金の過不足を調整し国の助成資金の効率的運用を図ることとした法改正の趣旨が生かされていないものと認められる。
しかして、各地方農政局の前記の〔1〕 、〔2〕 及び〔3〕 の各県に対する貸付事業計画の承認の際の審査状況についてみると、これらの県で貸付計画額と実績が著しくかい離していることや多額の翌年度繰越金が生じていることを把握しているのに、貸付事業計画の審査を十分行わなかったため、繰上償還等が可能であることなどを把握しておらず、これらについて適切な指導を行っていない状況であった。
いま、仮に、63年度において余剰資金を生じている前記青森県ほか10県(注6)
(これらの県における63年度貸付実績64億2970万余円)について、同年度の貸付計画額を貸付金の実績額相当額に資金繰りの必要性などを考慮して20%の余裕を見込んだ額とし、62年度からの繰越金と63年度に見込まれる償還金との合計額からこれを差し引いた額を余剰資金として繰上償還等が可能であった額を計算すると、19億1213万余円となり、福島県ほか3県(注7)
が63年度中に実際に繰上償還等を行った額1億7742万余円を考慮してもなお、17億3471万余円となり、しかも前記の青森県ほか4県(注3)
に対して同年度に行った政府貸付金3億7266万余円の貸付けは、その要がなかったことになる。
2 運用益を特別会計に適正に計上していないもの
特別会計で保有する余裕金を他の会計と合わせて運用して得た運用益を、適正に特別会計に計上しておらず計上不足となっているものが、青森県ほか20県(注8)
において見受けられた。
すなわち、上記21県においては特別会計の余裕金を単独で普通預金により運用しているほか、他の会計の余裕金と合わせて総合的に運用しており、この運用益の特別会計への計上状況についてみると、普通預金(年利0.26%)等で運用したものとし、62年度3245万余円、63年度3363万余円、合計6609万余円としているが、実際の余裕金の総合的運用は、利回りの高い大口定期預金等により行われており、その平均運用利回りは62年度2.65%から4.16%、63年度1.67%から4.52%となっていて、計上した運用益の利回りはこれに比べて著しく低いものとなっていた。
このような事態は、特別会計の運用益は貸付財源に充てるものとする前記要綱等の趣旨に沿わないものであるばかりでなく、上記各県においてこれらの運用益を適正に計上していれば、農業者等への貸付金として活用されることとなったり、当該県で繰上償還等を行うことが可能になったりするものであるから適切とは認められない。
いま、仮に実際の運用利回りにより運用益を計算すると、62年度3億2711万余円、63年度2億9578万余円、合計6億2290万余円となり、前記の実際に計上した金額はこれに比べ62年度2億9465万余円、63年度2億6214万余円、合計5億5680万余円が過小になっていて、これに対する国庫補助金及び政府貸付金相当額3億7120万余円が農業改良資金の貸付財源に充てられておらず適切とは認められない。
上記1、2のような事態を生じているのは、
貴省において、都道府県に対し〔1〕 60年の法改正により設けられた繰上償還等の制度の趣旨を周知徹底していなかったこと、〔2〕 繰上償還等が可能な額の算定の基準を示していなかったこと、〔3〕 運用益の計上方法について、その実態を把握しておらず、十分な指導を行っていなかったこと、
地方農政局等において、〔1〕 都道府県から提出された貸付事業計画の内容等に対する審査が十分でなく、法改正の趣旨に沿い都道府県における繰上償還等が可能な額を把握して適切な指導を行っていなかったこと、〔2〕 運用益の計上方法について、制度の趣旨に沿った適切な指導を行っていなかったこと、
県において、〔1〕 貸付事業計画の策定に当たり、前年度までの貸付枠あるいは県の貸付方針等にこだわり、実際の資金需要や過去の貸付実績等を十分考慮していなかったこと、〔2〕 制度の趣旨の理解が足りず繰上償還等に積極的でなかったこと、〔3〕 制度の趣旨を理解しないまま安易な運用益の計上方法を採用していたこと
などによると認められる。
ついては、貴省においては今後も引き続き農業改良資金の制度を運営していくのであるから、
都道府県に対し、〔1〕 都道府県の間の資金の過不足を調整し国の助成資金を効率的に運用するという60年の法改正の趣旨の周知徹底を図ること、〔2〕 実際の資金需要や過去の貸付実績等を十分考慮して実態に即した貸付事業計画を策定するよう指導を強化すること、〔3〕 繰上償還等が可能な額の算定の基準を示すこと、〔4〕 実際の運用利回りにより計算した運用益を特別会計に計上させること
とするとともに、
地方農政局に対し、〔1〕 貸付事業計画の内容等について十分な審査を行って、要貸付額及び繰上償還等が可能な額を的確に把握して適切な指導を行わせること、〔2〕 運用益の計上方法について適切な指導を行わせることとするなどの措置を講じ、農業改良資金の効率的かつ適切な運用を図る要があると認められる。
よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の処置を要求する。
(注1) 青森県ほか29県 青森、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、長野、静岡、新潟、富山、石川、岐阜、愛知、三重、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、岡山、広島、香川、愛媛、高知、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
(注2) 青森県ほか3県 青森、福島、岡山、香川各県
(注3) 青森県ほか4県 青森、福島、富山、岡山、広島各県
(注4) 宮城県ほか8県 宮城、秋田、栃木、群馬、静岡、新潟、愛知、高知、佐賀各県
(注5) 茨城県ほか8県 茨城、栃木、群馬、静岡、新潟、石川、愛知、高知、佐賀各県
(注6) 青森県ほか10県 青森、福島、富山、岐阜、奈良、鳥取、岡山、広島、愛媛、大分、鹿児島各県
(注7) 福島県ほか3県 福島、岐阜、奈良、岡山各県
(注8) 青森県ほか20県 青森、岩手、宮城、福島、群馬、静岡、新潟、富山、石川、愛知、奈良、和歌山、鳥取、岡山、広島、香川、愛媛、佐賀、大分、宮崎、鹿児島各県