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  • 昭和63年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

漁業の調査、取締り等のために借り上げる船舶の用船料を適切に算定するよう改善させたもの


(2)漁業の調査、取締り等のために借り上げる船舶の用船料を適切に算定するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計(組織)水産庁(項)漁業調査取締費
部局等の名称 水産庁
契約名 用船契約 15契約
契約の概要 船舶を所有する民間の事業者から漁業の調査、取締り等の業務に使用する船舶を借り上げるもの
契約の相手方 東日本船舶株式会社ほか10事業者
契約 昭和63年4月〜11月 随意契約
用船料の単価 月額5,592,000円〜20,425,000円
用船料の合計 1,111,677,359円(昭和63年度)

 上記の用船契約において、用船料の算定に当たり、人件費の単価等の算定が適切でなかったため、用船料が約9310万円不経済となっていた。
 このように用船料が不経済となっているのは、水産庁が定めている人件費の単価等について、契約の相手方である事業者に雇用される乗組員の給与体系の変化などに応じて適時適切に見直すべきであったのに、これを行わなかったことなどによるもので、人件費の単価等を適切なものに改める要があると認められた。

 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)
 水産庁では、漁業秩序の維持確立及び水産資源の開発促進等を図るため、漁業の調査、違反操業の取締りなどの業務(以下「調査取締業務」という。)を実施しているが、この調査取締業務の実施に当たっては、同庁所有の船舶を使用して行うほか、船舶を所有する民間の事業者(以下「事業者」という。)等から船舶を借り上げ、これに同庁職員を漁業監督官等として乗船させる方法により行うこととして、多数の用船契約を締結している。
 これらの用船契約に係る用船料の算定については、水産庁は、昭和56年4月に全面改正した用船料算定基準(以下「算定基準」という。)(おいて、〔1〕 船体に係る経費として減価償却費、漁船保険の保険料等、〔2〕 乗組員の人件費として給与費、船員保険の保険料のうち船舶所有者負担分(以下「船員保険料」という。)等、〔3〕 運航に要する経費として主燃油持込金利等、〔4〕 その他経費として一般管理費等を計上して算定することとしている。そして、同庁は、63年度に11事業者と締結した15契約について、この算定基準に基づき総額11億5959万余円と算定していた。
 しかして、本院において、この用船料の算定方法について検査したところ、次のとおり、適切でないと認められる事態が見受けられた。

(1)人件費について

 船舶の乗組員の人件費のうち、給与費については、56年の算定基準の改正当時においてこの調査取締業務に船舶を貸し出すことを業務とする事業者が少なかったため、漁業を営んでいた事業者の漁船の乗組員の給与等について調査した結果に基づいて給与費の単価(月額)を、沿岸・沖合漁業に従事する漁船の職員及び部員(注1) 並びに遠洋漁業に従事する漁船の職員及び部員の4職種(以下「4職種」という。)に区分して、月額357,000円から650,000円と定め、これにそれぞれの乗組員数を乗じて給与費(月額)を算定することとしていた。
 しかしながら、近年、水産庁と用船契約を締結している事業者の中には、漁業を取り巻く社会情勢の変化の影響を受けて、漁業を中止し、同庁の調査取締業務にその所有する船舶を貸し出すことを主な業務とするものが増加しており、これらの事業者に雇用される乗組員の給与等は、漁業に従事する場合と比べて漁獲高の多寡に応じて支給される歩合給が無いなど、給与体系に変化が生じているものと認められた。このため、本院において、62年度及び63年度に同庁と用船契約を締結していた事業者が乗組員に支払った給与等を調査したところ、62年に実際に支給された給与等の平均月額は、算定基準に定める4職種で298,487円から558,322円となっており、また、63年でもほぼ同程度となっていて、算定基準の給与費の単価はこれに比べていずれも高額となっていた。したがって、給与費に係る算定基準を適切なものに改める要があると認められた。

 また、船員保険料についてみると、算定基準においては、上記の4職種の給与費の単価を基にして事業者が負担する乗組員1人当たりの保険料の月額をそれぞれ算定した上で、これらを単純平均して算出した91,000円を4職種一律の単価として定めている。しかしながら、実際に納付している保険料は算定基準で定めている給与費の単価を下回っている上記の実支給額によっていること、算定基準で定めている保険料の月額は、保険料算出の際に控除する要がある退職手当引当金繰入額を含めて算出されていること、遠洋海域と沿岸・沖合海域とでの調査取締業務に従事した職員及び部員別の延べ人月数がそれぞれ著しく異なっているのに一律の船員保険料とすることは適切ではないと認められることなどから適切な保険料の月額を4職種別に計算すると、52,650円から107,280円となる。

(2)主燃油持込金利について

 調査取締業務に使用するために借り上げた船舶の燃料油(A重油)について算定基準では、借上期間中に補充する分については、その都度水産庁が現物で支給するため考慮されていないが、借上開始の際に船舶所有者が購入し積載した分については、借上終了の際に同庁が現物で支給することになっているため購入費に係る借上期間中の金利相当額(これを「主燃油持込金利」という。)を計上することになっている。この主燃油持込金利は、船舶が積載する燃料油量に燃料油単価及び利率を乗じて算出することとし、60年11月の一部改正後の算定基準において、燃料油1kl当たりの単価は、調査取締業務を開始する地区ごとに区分して59,000円から63,000円と、また、利率は年10%と定めていた。
 しかしながら、算定基準を一部改正した60年以降も燃料油の価格は大幅に値下がりしており、また、市中金利も同様に低下しており、現に、水産庁が63年度に購入した燃料油(A重油)の契約単価は25,000円から30,000円、また、62年12月の都市銀行等の短期及び長期の貸出約定平均金利(注2) の平均は、4.314%及び6.087%となっていて、実勢を反映した燃料油単価及び利率により主燃油持込金利を算定するよう、算定基準を改める要があると認められた。

 いま、仮に上記(1)、(2)により算定額を修正計算すると、総額10億1849万余円となり、本件用船料11億1167万余円との差額約9310万円が節減できたと認められた。
 上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、平成元年3月に算定基準を改正し、人件費については、乗組員の給与等の実情を勘案した単価に、また、主燃油持込金利については、燃料油価格及び市中金利の動向等に即したものにそれぞれ改め、元年度以降に締結する契約から適用することとし、今後は給与等の実態を毎年把握し、適時適切に算定基準の見直しを行うこととする処置を講じた。

 (注1)  職員及び部員 水産庁では、算定基準において、船舶職員法(昭和26年法律第149号)の規定に基づいて、船舶の乗組員のうち海技従事者の免許を受けた船長、航海士、機関士、通信士等を職員とし、これら以外の甲板員、機関員等を部員として取り扱っている。

 (注2)  日本銀行発行の経済統計月報による。貸付期間により1年未満のものを短期、1年以上のものを長期としている。