科目 | 畜産振興事業団 |
(助成勘定) (款)助成事業費 (項)指定助成対象事業費 | |
部局等の名称 | 農林水産省 |
畜産振興事業団(助成事業実施団体) | |
助成の根拠 | 畜産物の価格安定等に関する法律(昭和36年法律第183号) |
事業主体 | 社団法人中央酪農会議 |
事業の概要 | 乳質の優れた搾乳牛を選抜することにより高品質な生乳生産を図るため、北海道ほか45都府県下の46指定団体が搾乳牛の個体乳質検査を行う場合に、社団法人中央酪農会議が畜産振興事業団の助成を受けて当該指定団体に奨励金を交付する事業 |
調査した奨励金交付先 | 北海道ほか17県下の18指定団体 |
調査した搾乳牛頭数 | 726,146頭(昭和62、63両年度) |
上記に対する搾乳牛選抜奨励金交付額の合計 | 254,151,100円(昭和62、63両年度) |
上記の事業において、奨励金交付の対象となった個体乳質検査を実施した上記の搾乳牛のうち721,491頭(奨励金相当額2億5252万余円)についての検査項目は、国の補助事業である乳用牛群総合改良推進事業で実施した乳成分検査の検査項目と同一となっており、事業の実施が効果的でないと認められる。
このような事態を生じているのは、国の補助事業の対象となっている搾乳牛を本件事業においても対象とする場合に、両検査における検査実施項目の重複を避けるための規定を設けてはいたが、近年の検査機器の進歩により1個の検査用の生乳から同時に多数の項目の検査をすることが可能な状況となっているのに、農林水産省において上記の規定をこの状況に対応したものとするよう畜産振興事業団を十分指導していなかったことなどによるもので、本件事業と同一の目的及び内容で平成元年度から実施される新搾乳牛選抜奨励金交付事業における個体乳質検査の検査項目が、国の補助事業において実施する乳成分検査の検査項目と同一の搾乳牛については、新搾乳牛選抜奨励金交付事業の対象から除くこととする措置を講ずる要があると認められた。
上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。
(説明)
農林水産省では、畜産物の価格安定等に関する法律(昭和36年法律第183号)に基づき、畜産振興事業団(以下「事業団」という。)に、その指定助成対象事業の一環として、昭和62、63両年度において社団法人中央酪農会議(以下「中央酪農会議」という。)が実施した搾乳牛選抜奨励金交付事業(以下「奨励金交付事業」という。)に対して助成させている。そして、この助成は、これと同一の目的及び内容で平成元年度から新たに実施される搾乳牛選抜奨励金交付事業に対しても引き続き行われることとなっている。
奨励金交付事業は、農林水産省が定めた酪農対策事業実施要綱(昭和59年農林水産事務次官依命通達59畜A第2720号)及び事業団が農林水産省の承認を受けて定めた酪農対策事業助成実施要綱(昭和59年59畜団第895号)に基づき、乳質の優れた搾乳牛を選抜(注1)
することにより高品質な生乳の生産を図るため指定団体(注2)
が搾乳牛の個体乳質検査(注3)
を行う場合に、中央酪農会議が事業団から搾乳牛1頭につき350円の助成を受けて、これと同額の奨励金を搾乳牛1頭につき年1回限り当該指定団体に交付する事業であって、その交付額は、62年度2億5603万余円、63年度2億5239万余円、計5億0843万余円となっている。
そして、奨励金交付事業の対象となる個体乳質検査の検査項目は、中央酪農会議が事業団の承認を受けて定めた高品質原料乳安定確保対策事業助成実施要領(昭和62年中酪発第7号。以下「中酪実施要領」という。)において、各搾乳牛につき乳脂率、無脂乳固形分率(注4)
、乳蛋白質率、体細胞数、細菌数及び指定団体が特に必要とするその他の項目のうち、いずれか2項目以上と定められている。
一方、農林水産省では、従来、乳用雌牛群の一層の能力向上及び合理的な飼養管理技術の改善を図り酪農の生産性向上に資するため、畜産総合対策基本要綱(昭和62年農林水産事務次官依命通達62畜B第1468号)等に基づき、農業協同組合、農業協同組合連合会等(以下「農協等」という。)が実施する乳用牛群総合改良推進事業(以下「牛群改良事業」という。)に対して、都道府県を通じて補助金を交付している(交付額62年度3億6511万余円、63年度3億5935万余円、計7億2446万余円)。そして、この牛群改良事業においては、搾乳牛1頭ごとに毎月1回、乳量、乳成分、飼料の給与量等の検定を行っており、このうち乳成分の検定(以下「乳成分検査」という。)については、乳脂率を必須検査項目とし、ほかに無脂乳固形分率及び乳蛋白質率の2項目を任意検査項目としている。
このように、牛群改良事業において実施する乳成分検査において、奨励金交付事業の対象となる個体乳質検査における検査項目の1つである乳脂率が必須検査項目とされていることから、中央酪農会議では、両検査による検査実施項目の重複を避けるため、中酪実施要領において、牛群改良事業による乳成分検査の対象となっている搾乳牛を個体乳質検査の対象とする場合には、前記の個体乳質検査の検査項目のうち乳脂率を除き2項目以上を検査することと規定している。
しかして、平成元年に本院が調査した北海道ほか17県下(注5)
の18指定団体では、昭和62、63両年度に搾乳牛1,105,877頭について中央酪農会議から奨励金の交付を受けて個体乳質検査を行っているが、このうち、726,146頭(62年度343,446頭、63年度382,700頭。これに係る奨励金交付額62年度1億2020万余円、63年度1億3394万余円、計2億5415万余円)は、牛群改良事業による乳成分検査の対象にもなっているため、両検査の実施状況を調査したところ、北海道ほか15県下(注6)
の16指定団体で次のような事態が見受けられた。
すなわち、上記の16指定団体が搾乳牛721,491頭(62年度340,219頭、63年度381,272頭)に対して実施した個体乳質検査の検査項目は、乳脂率、無脂乳固形分率及び乳蛋白質率の3項目、又はこの3項目に体細胞数、乳糖率のいずれか若しくは両方を加えたものとなっており、これらの項目は、当該指定団体が所在する道県の農協等が牛群改良事業により実施した乳成分検査の検査項目(乳脂率、無脂乳固形分率及び乳蛋白質率の3項目のほか、農協等によってはこれらの項目と一体的に任意に体細胞数及び乳糖率のいずれか若しくは両方を検査していた。)と同一であった。
しかしながら、牛群改良事業による乳成分検査は毎月1回実施されており、酪農家はこの乳成分検査の結果を利用して乳質の優れた搾乳牛の選抜を行うことにより個体乳質検査の目的を達することができるのであるから、乳成分検査の対象となっていた搾乳牛を重ねて個体乳質検査の対象とする要はなかったのに、これに対し奨励金を62年度1億1907万余円、63年度1億3344万余円、計2億5252万余円交付していて事業の実施が効果的でないと認められる。
このような事態を生じているのは、中酪実施要領において、牛群改良事業による乳成分検査の対象となっている搾乳牛を奨励金交付事業の対象となる個体乳質検査の対象とする場合には、両検査の検査実施項目の重複を避けるため、個体乳質検査の検査項目を乳脂率以外の2項目以上とする旨の規定を設けてはいるが、生乳の成分等の検査においては、近年における検査機器の進歩により、1個の検体(検査用の生乳)から乳脂率、無脂乳固形分率、乳蛋白質率の3項目、又はこの3項目に体細胞数及び乳糖率を加えた5項目までの検査を同時に行うことが可能な状況になっているのに、農林水産省において上記の規定をこのような状況に対応したものとするよう事業団及び中央酪農会議を十分指導していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、平成元年11月に、牛群改良事業による乳成分検査の対象となっている搾乳牛を新搾乳牛選抜奨励金交付事業の対象となる個体乳質検査の対象にしようとする場合は、乳成分検査の検査実施項目及び当該検査を行う検査機器により検査を行うことが可能なその他の項目以外の項目の検査を行う場合に限り、対象とすることができるものとする旨の通達を畜産振興事業団に発し、また、事業団では、この通達に基づき上記と同様の通達を社団法人中央酪農会議に発して、事業の効果的な実施を図る処置を講じた。
(注1) 搾乳牛を選抜 現に搾乳している牛のうち、乳質の優れた牛と劣る牛とを選り分け、劣る牛を廃用にすること
(注2) 指定団体 加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(昭和40年法律第112号)第6条の規定に基づき、都道府県の区域ごとに、当該都道府県知事の指定を受けた生乳生産者団体(農業協同組合連合会など)
(注3) 個体乳質検査 搾乳牛1頭ごとに、その生乳に含まれる乳脂肪の含有率等の検査をすること
(注4) 無脂乳固形分 牛乳の成分は、水分と固形分に区分されるが、固形分のうち、脂肪を除いたその他の成分(蛋白、乳糖等)をいう。
(注5) 北海道ほか17県 北海道、岩手、宮城、秋田、栃木、群馬、兵庫、島根、岡山、山口、愛媛、高知、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注6) 北海道ほか15県 北海道、岩手、宮城、栃木、群馬、兵庫、島根、岡山、山口、愛媛、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県