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  • 昭和63年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 第9 労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

競走事業従事者に係る雇用保険の取扱いの適正化を図るよう意見を表示したもの


(1) 競走事業従事者に係る雇用保険の取扱いの適正化を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 労働保険特別会計 (1)(徴収勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入
(項)印紙収入
(2)(雇用勘定) (項)失業給付費
部局等の名称 労働省
徴収及び給付の根拠 (1) 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)
(2) 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
徴収及び給付の種類 (1) 一般保険料(失業給付に充てる部分)、印紙保険料
(2) 日雇労働求職者給付金
給付の内容 日雇労働被保険者が失業した場合に支給する給付金
支給の相手方 16,884人
上記に係る保険料及び給付金の合計 昭和62年度 (1) 8億2684万余円 (うち印紙保険料4億0814万余円)
(2) 94億1126万余円

 労働省では、上記16,884人の競馬、競輪等の競走事業に従事する者について、その雇用契約が日々又は1開催期間ごとの雇用となっていることから日雇労働被保険者として取り扱い、競走事業が開催されない日については失業しているとして日雇労働求職者給付金を支給しているが、その雇用の実態は、長期にわたり安定した雇用関係、安定した雇用条件及び処遇が保障されていて、継続雇用的な性格を有しているものであり、事業主、就労場所等が常に変動し、社会的に不安定な立場にある労働者に対して失業給付を行うことを目的とした日雇労働被保険者制度の趣旨からみて適切でないと認められた。
 このような事態を生じているのは、労働省において、法令等で日雇労働被保険者の対象となる日雇労働者について雇用期間のみに着目した形式的要件しか定めておらず、また、競走事業に従事する者の雇用関係等の実態やこれらの者に対する公共職業安定所の取扱いについて十分把握することなく、適切に対処しなかったことなどによると認められる。
 したがって、労働省において、競走事業に従事する者の雇用関係等の実態などについて十分把握、検討し、雇用保険の取扱いが適正なものとなるよう所要の措置を講じ、もって日雇労働被保険者制度の適正な運営を図る要がある。

上記に関し、平成元年12月5日に労働大臣に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。

競走事業従事者に係る雇用保険の取扱いについて

 貴省では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業した場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、雇用保険制度を実施しており、この制度の被保険者は、一般被保険者、高年齢継続被保険者、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者に区分されている。
 このうち、日雇労働被保険者は日々又は30日以内の期間を定めて雇用される者(以下「日雇労働者」という。)を対象としているが、この中には、競馬法(昭和23年法律第158号)等に基づいて、北海道ほか39都府県(注1) の地方公共団体等163施行者が事業主となって117競走場において実施している競走事業(競馬、競輪、オートレース、競艇)で、競走事業開催日等に投票券の発売、払戻金の支払等の業務に従事している者(以下「競走事業従事者」という。)16,884人(注2) が含まれていて、これらの者に係る雇用保険料のうち失業給付に充てる部分の収入額は昭和62年度8億2684万余円(うち印紙保険料4億0814万余円)、これらの者に支給した日雇労働求職者給付金(以下「日雇給付金」という。)の支出額は62年度94億1126万余円(うち国庫負担金相当額31億3708万余円)となっている。
 そして、日雇労働被保険者に係る雇用保険制度(以下「日雇労働被保険者制度」という。)は、常用労働者が特定の事業主と継続的な雇用関係にあるのに対して、日雇労働者が不特定の事業主と短期間又は日々の雇用関係にあり、その労働条件及び就労場所も常に変動し、社会的にも不安定な立場にあることから、その雇用形態、賃金の支払方法等の特殊性に対処するため、一般被保険者等に係る雇用保険制度とは異なった制度として設けられているものである。
 日雇労働被保険者制度の仕組みは次のとおりとなっている。

(1) 日雇労働被保険者は、その者の居住地を管轄する公共職業安定所(以下「安定所」という。)に日雇労働被保険者資格取得届を提出し、日雇労働被保険者手帳(以下「日雇手帳」という。)の交付を受けなければならない。

(2) 日雇労働被保険者を雇用する事業主は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)及び同法施行規則(昭和47年労働省令第8号)の定めるところにより、日雇労働被保険者に支払う賃金を基に算出される一般保険料(賃金支払総額の1000分の14.5。このうち、失業給付に充てる部分(賃金支払総額の1000分の11)については事業主と被保険者が折半して負担)を納付するほか、あらかじめ安定所から雇用保険印紙購入通帳の交付を受け、これを雇用保険印紙(以下「印紙」という。)を販売する郵便局に提出して印紙を購入しておき、日雇労働被保険者に賃金を支払う都度、同人の日雇手帳の該当日欄に印紙(賃金日額に応じ146円、96円、63円又は41円の4種類の印紙)を貼付し消印する方法によって印紙保険料(事業主と被保険者が折半して負担)を納付する。

(3) 日雇給付金の支給は、日雇労働被保険者が失業した日の属する月の直前の2箇月間に、印紙保険料を通算して28日分以上納付していることを要件(以下「受給資格要件」という。)としており、安定所は、不就労日に出頭した日雇労働被保険者から日雇手帳の提出を受けて、受給資格要件を満たしているかどうか確認するとともに日々その日について失業の認定を行い、当該失業の認定に係る日分の日雇給付金(給付日額は、印紙の種類及び印紙保険料の納付日数等に応じて6,200円、4,100円、2,700円又は1,770円)を印紙保険料の納付日数に応じて1箇月間に13日分から17日分を限度として支給する。

 しかして、前記の競走事業従事者16,884人は、埼玉県ほか9都府県(注3) の47施行者が29競走場で開催している競走事業に就労する者であるが、安定所では、これらの者が雇用契約上日々又は1開催期聞(1箇月当たりおおむね6日から12日)ごとの雇用となっていること、1競走場で開催する2以上の施行者に雇用されたり、競走場をかけもち就労することにより2以上の施行者に雇用されたりなどしていて、同一の施行者の下での就労日数が一般被保険者の資格要件とされる月14日に満たないことを理由に、日雇労働被保険者として取り扱っている。
 そして、本院において、昭和63年1月から平成元年3月までの間に、上記の競走事業従事者についてその雇用関係、雇用条件、就労状況等の実態を調査したところ、これらの者を日雇労働被保険者として取り扱っていることについて、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。
 すなわち、競走事業従事者の雇用関係についてみると、施行者が競走事業従事者と締結した労働契約又は施行者が定めた就業規則、服務要綱等において日々又は1開催期間ごとの雇用としているものの当該労働契約等における他の条項によると、施行者は、選考試験に合格し、採用予定者として登録名簿に登録した者から競走事業従事者を雇用することとし、すべての登録者を当期の競走事業開催期間中に次期開催時の従事者として決定、その旨を通知しており、その登録は、心身の故障のため職務の遂行に支障がある場合などを除き、一定の年齢(ほとんどの場合65歳)に達して取り消されるまで長期にわたり有効としている状況である。

 ちなみに、上記の16,884人の勤続年数についてみると、10年未満の者5.2%、10年以上20年未満の者47.6%、20年以上の者47.2%となっていて、10年以上の者が94.8%を占めている。
 また、競走事業従事者の雇用条件及び処遇についてみると、就業規則、服務要綱等に賃金のほかに、通勤手当などの諸手当の支給、定期昇給、永年勤続表彰制度が、また、福利厚生等の業務を行う団体(共済会等)が定めた規程等に、一時金(夏季、年末、年度末)、及び退職金(又は離職餞別金。いずれも勤続年数を基に算定される。)制度が明文化されており、施行者によっては、さらに、病休等による休職、復職、見習期間等の規定も設けられており、これらはいずれも実際に就業規則等に定めるとおり実施されている状況である。
 そして、競走事業従事者の就労状況等についてみると、前記16,884人の中から任意に抽出した635人(競走事業における平均賃金日額約11,400円)のうち、〔1〕 競走事業への就労だけで受給資格要件が満たされる者は342人(54%)で、その月平均就労日数は17.5日、〔2〕 競走事業への就労だけでは受給資格要件が満たされないので、競走事業以外の事業所(以下「民間事業所」という。)に就労(平均賃金日額約4,700円)して不足日数を充足している者は293人(46%)で、その平均就労日数は15.3日となっており、いずれについても受給資格要件が満たされた後は、民間事業所へ就労することなく日雇給付金(ほとんどの者が最高日額の6,200円)を受給している状況となっている。

 上記についての事例を挙げると次のとおりである。

<事例1>

 受給者甲(53歳、女子)はA競艇場に毎月14日から19日(年間就労日数192日(月平均16.0日))2施行者の下で就労し、毎月、日雇給付金の受給資格を得ている
 そして、同人は競走事業の施行者から年間3,205,838円(賃金日額分2,080,908円(平均日額10,838円)、通勤手当116,100円、一時金1,008,830円)の賃金を得ているほか、競走事業に就労しない119日について失業の認定を受け、給付日額6,200円、合計737,800円の日雇給付金を受給し、年間総額3,943,638円の収入を得ている。
 ちなみに、同人に係る保険料納付額は、一般保険料のうち失業給付に充てる部分の額35,264円、印紙保険料27,832円、計63,096円(本人と施行者が折半して負担)である。

<事例2>
 受給者乙(46歳、女子)はB競輪場に毎月5日から13日(年間88日)及びC競馬場に毎月4日から13日(年間86日)就労しているほか、特定の民間事業所に8箇月間1日から2日(年間13日)就労し、合わせて1箇月当たり12日から20日(年間就労日数187日(月平均15.6日))就労することにより、毎月、日雇給付金の受給資格を得ている。
 そして、同人は競走事業の施行者から年間3,039,049円(賃金日額分1,956,226円(平均日額11,242円)、通勤手当、時間外手当等の諸手当111,918円、一時金970,905円)、民間事業所から年間51,870円(平均日額3,990円)、合計3,090,919円の賃金を得ているほか、競走事業又は民間事業所に就労しない126日について失業の認定を受け、給付日額6,200円、合計781,200円の日雇給付金を受給し、年間総額3,872,119円の収入を得ている。
 ちなみに、同人に係る保険料納付額は、一般保険料のうち失業給付に充てる部分の額33,999円、印紙保険料26,223円、計60,222円(本人と施行者が折半して負担)である。

 上記のとおり、施行者は競走事業従事者を雇用するに当たって契約上日々又は1開催期間ごとの雇用としているものの、その雇用の実態は、長期にわたり安定した雇用関係、安定した雇用条件、処遇を保障し、これを実行しており、競走事業従事者の雇用は継続雇用的な性格を有していると認められる。そして、安定所がこれらの者を日雇労働被保険者として取り扱い、非開催日の不就労日ごとに日雇給付金を支給しているのは、事業主、労働条件及び就労場所が常に変動し、社会的に不安定な立場にある労働者に対する失業給付を目的とした日雇労働被保険者制度の趣旨からみて適切とは認められない。
 そして、競走事業従事者に係る62年度の保険収支(労働保険特別会計)の状況についてみると、前記のとおり、雇用保険料のうち失業給付に充てる部分の収入額は8億2684万余円、日雇給付金の支出額は94億1126万余円となっており、その差額85億8441万余円のうち、日雇給付金支出額の3分の1に相当する額31億3708万余円については国庫が負担し、また、残余の額54億4733万余円については一般被保険者に係る保険料収入に依存している状況である。
 このような事態を生じているのは、

(1) 競走事業従事者の雇用関係等は、競走事業の開始当初は不安定であり、日々雇用の実態にあったとされているが、現在では、施行者における就業規則等も整備されて雇用が安定し、継続雇用的な性格を有しており、本来の日雇労働者の雇用関係等と著しくかい離した実態があると認められるにもかかわらず、安定所において、形式的には日々又は1開催期間ごとの雇用であることなどを理由に日雇労働者に該当するとして日雇労働被保険者の取扱いをしていること

(2) 貴省において、前記日雇労働被保険者制度に関する法令等で、日雇労働被保険者の対象となる日雇労働者について雇用期間のみに着目した形式的要件しか定めておらず、また、上記の実態や安定所の取扱いについて把握が十分でなく、適切な対処が行われてきていなかったこと

などによると認められる。
 ついては、前記のように、競走事業従事者の雇用は継続雇用的な性格を有するなどの実態となっており、かつ、これらの者に係る保険収支は、毎年度支出が収入を大幅に上回っている状況にかんがみ、貴省において、その雇用関係、雇用条件等の実態について十分に把握、検討して、雇用保険の取扱いが適正なものとなるよう所要の措置を講じ、もって日雇労働被保険者制度の適正な運営を図る要があると認められる。

よって、会計検査院法第36条の規定により、上記の意見を表示する。

(注1)  北海道ほか39都府県 北海道、東京都、京都、大阪両府、青森、岩手、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、山梨、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分各県

(注2)  昭和62年度中の日雇労働求職者給付金の受給者数

(注3)  埼玉県ほか9都府県 東京都、京都、大阪両府、埼玉、神奈川、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、高知各県