会計名及び科目 | 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業給付費 |
部局等の名称 | 労働省 |
給付の根拠 | 雇用保険法(昭和49年法律第116号) |
給付金の種類 | 再就職手当 |
給付の内容 | 労働者が失業した場合に再就職を促進することを目的として支給される失業給付 |
支給の相手方 | 3,883人 |
上記に対する再就職手当支給額の合計 | 978,481,000円 |
雇用保険の再就職手当は、就職日の前日における基本手当の支給残日数が同手当の所定給付日数の2分の1以上あることなどを支給要件としているが、上記の3,883人に対する再就職手当の支給に当たり、受給者が就職日の前日までの期間について失業の認定を受けずに支給申請してきているのに、当該期間について失業の認定を行わないまま基本手当の支給残日数を把握し支給決定している不適切な事態が生じており、これらについて適切に基本手当の支給残日数を確認した場合には、再就職手当の支給要件を欠くことになったり、支給要件は満たすものの支給額が低額になったりすることから、上記再就職手当支給額のうち6億7988万余円は支給の要がなく、ひいては失業給付金4億3369万余円は支給の要がなかったと認められた。
このような事態を生じているのは、労働省において、支給要件を満たしているか否かの確認の取扱いに関し、具体的な運用について指針を示すことなく例外的取扱いを認めたこと、公共職業安定所において、受給資格者が就職日の前日までの期間について失業の認定を受けずに支給申請を行っているのに、安易に例外的取扱いを拠り所として再就職手当の支給決定をしていることなどによると認められる。
したがって、労働省において、再就職手当の支給が適切に行われるよう方策を樹立するとともに、各都道府県及び公共職業安定所に対してその施策の徹底を図るなど所要の措置を講ずる要がある。
上記に関し、平成元年11月17日に労働大臣に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。
貴省では、雇用保険法(昭和49年法律第116号。以下「法」という。)の規定に基づき、労働者が失業した場合に、労働者の生活の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進することを目的として各種の失業給付を行っており、雇用保険の被保険者が失業している間は、その日数に応じて基本手当を支給し、また、同手当の受給資格を有する者(以下「受給資格者」という。)が就職し一定の要件を満たす場合に、再就職手当を支給している。
この再就職手当は、昭和59年度に、基本手当の受給資格者の早期再就職を促進するために設けられた給付であり、62年度の支給額は690億2785万余円、63年度同635億3917万余円となっている。その支給要件についてみると、法第56条の2において、基本手当の受給資格者が、安定した職業に就いた場合で、就職日の前日における基本手当の支給残日数(当該職業に就かなかったこととした場合における同日の翌日から基本手当の支給を受けることができることとなる日数)が所定給付日数(受給資格者が基本手当を受けることができる日数)の2分の1以上あることなどの要件を満たして公共職業安定所長が必要があると認めたときに、支給されることとなっている。そして、再就職手当の額は、次表のとおり、所定給付日数及び支給残日数の区分に応じて、基本手当の日額(2,570円から7,330円)の30日分から120日分とされている。
所定給付日数 | 支給残日数 | 再就職手当の額 |
90日 | 45日以上 90日以下 | 30日分 |
180日 | 90日以上120日未満 120日以上180日以下 |
50日分 80日分 |
210日 | 105日以上140日未満 140日以上210日以下 |
50日分 85日分 |
240日 | 120日以上160日未満 160日以上240日以下 |
50日分 90日分 |
300日 | 150日以上200日未満 200日以上300日以下 |
70日分 120日分 |
受給資格者がこの再就職手当の支給を受けようとするときは、就職日の翌日から起算して原則として1箇月以内に、雇入年月日、就職先の事業所等を記載した再就職手当支給申請書に基本手当の支給状況が記載されている雇用保険受給資格者証を添えて、その者の居住地を管轄する公共職業安定所(以下「安定所」という。)に提出することとなっており、これに基づいて安定所では支給要件を満たすか否かを調査確認のうえ支給決定を行い、この支給決定に基づいて各都道府県が支給することとなっている。
そして、再就職手当の支給を決定する際に重要な要素となる基本手当の支給残日数については、前記のとおり法第56条の2において、就職日の前日における支給残日数によることとされているが、この支給残日数は、受給資格者から再就職手当の支給申請があった場合に、安定所が就職日の前日までの失業していた期間について失業の認定を行い、それに基づいて同日までの期間について基本手当を支給することによって確定するものであり、この規定を受けて貴省においても、業務取扱要領(昭和52年職業安定局長通達第500号)で、「支給残日数とは、所定給付日数から、既に支給した基本手当又は傷病手当の日数を差し引いた日数である。」とし、再就職手当の支給決定に当たっては、「原則として、就職日の前日までの期間に係る失業の認定を行った後支給残日数が所定給付日数の2分の1以上であるか否かの確認を行うこと」と規定している。また、同要領においては、再就職手当の支給申請者が、就職日の前日までの期間について失業の認定を受けて基本手当を受給したとしても支給残日数の要件を満たす場合であって、就職の都合により失業の認定に出頭できない場合などを想定して、例外的に、「当該認定日前の最新の認定日において行われた失業の認定の結果によって支給残日数を把握」することとする取扱い(以下「例外的取扱い」という。)を認めている。
しかして、本院が、北海道ほか41都府県管内(注) の札幌公共職業安定所ほか387安定所において前記要領で認めている例外的取扱いにより再就職手当の支給を受けていた者のうちから4,697人(62年度3,389人、63年度1,308人。これらの者に係る再就職手当の支給額62年度8億5910万余円、63年度3億3225万余円、計11億9135万余円)を対象として調査したところ、北海道ほか41都府県管内の札幌公共職業安定所ほか345安定所において次のような適切を欠く事態が見受けられた。
すなわち、安定所では、受給資格者が就職日の前日までの期間について失業の認定を受けずに再就職手当の支給申請をしてきたのに対し、当該期間について失業の認定を行うことなく、例外的取扱いにより支給残日数を把握し、支給残日数が所定給付日数の2分の1以上又は3分の2以上あるとして再就職手当の支給を決定しているが、就職日の前日までの期間について失業の認定を行い基本手当を支給することとした場合には、〔1〕 支給残日数が2分の1未満となり再就職手当の支給要件を欠くことになるもの、又は、〔2〕 支給残日数が2分の1以上3分の2未満となり、再就職手当の支給要件は満たしているものの支給額が低額になるものが、4,697人のうち3,883人について見受けられ、これを態様別に示すと次表のとおりである。
態様 | 受給者数 | 再就職手当支給額 | |
〔1〕 支給残日数が2分の1未満となり再就職手当の支給要件を欠くことになるもの |
62年度支給分 |
人 1,844 |
円 312,300,700 |
63年度支給分 | 913 | 153,993,000 | |
計 |
2,757 | 466,293,700 | |
〔2〕 支給残日数が2分の1以上3分の2未満となり、再就職手当の支給要件は満たしているものの支給額が低額になるもの | 62年度支給分 | 767 | 343,378,900 |
63年度支給分 | 359 | 168,808,400 | |
計 | 1,126 | 512,187,300 | |
合計 | 3,883 | 978,481,000 |
このうち〔1〕 の事態について事例を挙げると次のとおりである。
<事例>
受給者Aは、62年7月11日に離職し、安定所に出頭し基本手当の受給資格の決定(所定給付日数210日)を受けた。そして、62年10月27日から63年1月31日まで、97日分711,010円の基本手当を受給したのち、63年2月12日に再就職し、再就職手当の支給申請を行った。この申請を受けた安定所では、就職日の前日における支給残日数が所定給付日数210日から支給した基本手当の日数97日を差し引いた113日であり、所定給付日数210日の2分の1以上あるなど支給要件を満たしているとして、基本手当日額7,330円の50日分の再就職手当366,500円を支給決定していた。
しかし、同人は、2月1日から就職日の前日である2月11日までの11日間について失業の認定を受けていなかったものであり、当該期間について失業の認定を受けて基本手当(80,630円)を受給した場合には、支給残日数は102日となって所定給付日数の2分の1未満になり再就職手当の支給要件を欠くこととなるのに、安定所では、例外的取扱いにより把握した支給残日数が113日あるとして同手当の支給を決定していたものである。
そして、都道府県により、また、同一都道府県内でも安定所により、上記〔1〕 、〔2〕 の事態が傾向的に発生しているところもあるが、他方、就職日の前日までの期間について失業の認定を行ったうえで、支給残日数の確認を行っているところも見受けられ、その取扱いは都道府県又は安定所により区々となっている状況である。
いま、仮に、前記3,883人について、就職日の前日までの期間について失業の認定をしたとすれば、再就職手当の支給の要がなかったもの、支給額が低額となるものが生じ、この3,883人に対する再就職手当の支給額の合計9億7848万余円は2億9859万余円となり、当該失業の認定に係る基本手当の合計2億4619万余円を追加給付として支給したとしても、上記支給額との差額4億3369万余円は支給する要がなかったものと認められる。
このような事態を生じているのは、(1)貴省において、法第56条の2の規定を受けて、業務取扱要領で、再就職手当の支給に当たって、就職日の前日までの期間について失業の認定を行ったうえで支給残日数の確認を行うこととしていながら、就職日の前日までの期間について失業の認定を受け基本手当を受給したとしても支給残日数の要件を満たす者が、失業の認定に出頭できない場合などを想定して、例外的取扱いを認めたものの、その具体的な運用について指針を示していなかったこと、(2)安定所において、受給資格者が就職日の前日までの期間について失業の認定を受けずに再就職手当の支給申請を行っているのに、安易に前記要領中の例外的取扱いを拠り所として再就職手当の支給決定をしていること、(3)貴省及び都道府県において、上記のような安定所の取扱いに対し指導、監督が十分でなかったことなどによると認められる。
ついては、再就職手当の支給は、被保険者が失業した場合に、その再就職を促進するための給付として今後も引き続き行われるものであり、その額も多額に上ることが見込まれるのであるから、上記の事態にかんがみ、貴省において、すみやかに、再就職手当の支給が適切に行われるよう方策を樹立するとともに、各都道府県及び安定所に対してその施策の徹底を図るなど所要の措置を講ずる要があると認められる。
よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。
(注) 北海道ほか41都府県 北海道、東京都、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県