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  • 昭和63年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

政府開発援助の実施について


政府開発援助の実施について

 我が国の政府開発援助は、開発途上国の経済開発及び福祉の向上に寄与することを主たる目的として実施されているが、平成元年中に政府開発援助について調査したところ、直接借款の貸付対象となった機材等が十分稼働していなかったり、直接借款の貸付対象となった機材の一部が長期間未利用となっていたりしているものが4事業(昭和63年度末までの貸付実行累計額約152億円)、無償資金協力の対象となった施設が十分活用されていないものが1事業(贈与額約15億円)、プロジェクト方式技術協力の対象となった技術の移転が遅延しているものが1事業(63年度末までの経費累計額約5億円)見受けられた。
 これらの事態は、主として協力の相手となる開発途上国における事情によるものであるが、我が国としても援助実施体制の整備・拡充を図り、政府開発援助がより効果的・効率的に実施されることが望まれる。

(説明)
 我が国の政府開発援助は、開発途上国の経済開発及び福祉の向上に寄与することを主たる目的として、貸付けや贈与等の形態により実施されているが、このうち、直接借款は海外経済協力基金(以下「基金」という。)が、無償資金協力は外務省が、プロジェクト方式技術協力は国際協力事業団(以下「事業団」という。)が、それぞれ実施している。
 そして、直接借款は、協力の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)における運輸、電力、農業等社会経済開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用のうち、内貨分(注1) の資金の調達は原則として相手国側が自助努力により行うべきであるとの考え方から、外貨分(注2) を主たる対象として、相手国の政府・政府機関等に対し、長期かつ低利の資金を貸し付けるものである。また、無償資金協力は、相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設及び資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するものであり、さらに、プロジェクト方式技術協力は、研修員受入、専門家派遣、機材供与の3形態を1つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して実施するものであり、近年、無償資金協力とプロジェクト方式技術協力との連携も図られている。

 しかして、直接借款の実績は60年度の4127億1005万余円から63年度の6181億6832万余円へと最近3年間で約1.5倍(年平均約14.4%の伸び)に、また、無償資金協力の実績は60年度の1132億7825万余円から63年度の1564億1538万余円へと最近3年間で約1.4倍(年平均約11.4%の伸び)に、さらに、プロジェクト方式技術協力の実績は60年度の196億4478万余円から63年度の249億8105万余円へと最近3年間で約1.3倍(年平均約8.3%の伸び)に、それぞれ増加している。
 そして、直接借款の実施に当たっては、相手国政府からの要請を受けて我が国政府と相手国政府との間で直接借款に係る交換公文が締結された後、基金と相手国政府等との間で借款契約が締結されることになっているが、基金では、借款契約の締結前においては直接借款の対象となる事業の内容を審査し、締結後においては、必要に応じて、事業完了まで定期的に事業進捗状況報告書を徴求したり、中間監理のために職員を派遣したりしてその進捗状況等の把握に努めるとともに、進捗段階で発生する諸問題への対応策を助言したり、事業の完了を確認するために事業完了報告書を徴求したりなどしている。また、無償資金協力の実施に当たっては、外務省では、相手国からの要請に基づき、事前の調査を通じ、協力内容及び協力範囲につき合意した後、当該事業に係る両国の権利・義務関係を明記した交換公文を締結し、相手国が我が国の業者と締結した契約の認証を行うとともに、必要に応じて事業完了後に在外公館による事業の評価等を行っている。さらに、プロジェクト方式技術協力の実施に当たっては、事業団では、相手国からの要請に基づき、事前調査等を実施し、事業計画を含めた協力内容について相手国と協議を行い、これを政府間の合意に基づき実施し、調査団及び専門家からの報告書等により事業の進捗状況等を把握するとともに、事業完了後に調査団を派遣するなどして事業の評価等を行っている。

 しかして、本院が平成元年中に、直接借款、無償資金協力及びプロジェクト方式技術協力について、基金、外務省及び事業団から提出された計算書、証拠書類等に関する書面検査並びに基金、外務省及び事業団に対する会計実地検査を行うとともに、直接借款の対象となっている事業のうち20事業(昭和63年度末までの貸付実行累計額1038億6671万余円)、無償資金協力の対象となっている事業のうち20事業(贈与額計392億2283万余円)及びプロジェクト方式技術協力の対象となっている事業のうち16事業(63年度末までの経費累計額116億4099万余円)について、我が国援助実施機関職員等の立会いのもとに相手国の協力が得られた範囲内で現地の状況を調査したところ、直接借款の貸付対象となった機材等が十分稼働していなかったり、直接借款の貸付対象となった機材の一部が長期間未利用となっていたりしているものが4事業(63年度末までの貸付実行累計額約152億円)、無償資金協力の対象となった施設が十分活用されていないものが1事業(贈与額約15億円)、プロジェクト方式技術協力の対象となった技術の移転が遅延しているものが1事業(63年度末までの経費累計額約5億円)見受けられた。

 上記事態のうち主なものを掲げると次のとおりである。

<事例1>

通勤輸送強化事業(I)及び(II)
 これらの事業は、鉄道の同一路線を対象とするもので、通勤輸送強化事業(I)(以下「事業(I)」という。)では1日当たりの計画輸送量を25,000人として通勤用ディーゼル車両30両の調達、駅の新設等を行い、通勤輸送強化事業(II)(以下「事業(II)」という。)では1日当たりの計画輸送量を50,000人としてさらに通勤用ディーゼル車両35両の調達、車両修理基地の建設等を行うものである。そして、基金は、上記車両の調達等に要する資金を対象として、事業(I)については昭和50年度から52年度までの間に約18億円を貸し付け、事業(II)については54年度及び55年度に約30億円を貸し付けている。
 しかしながら、事業(II)において相手国が内貨予算により実施することになっていた車両修理基地の建設(計画工期52年から53年まで)は内貨予算不足により見送られ、その後、58年に同基地の建設(計画工期59年から61年まで)に要する資金のうち外貨分を対象として借款契約が締結されたものの、同基地の建設は内貨予算不足などにより遅延していて未だ完成しておらず(平成2年完成見込み)、このため車両の修理が十分に行えないことなどから、元年1月現在、事業(I)に係る車両(昭和51年稼働開始)のうち26両は55年ないし57年以降、事業(II)に係る車両(55年稼働開始)のうち16両は61年ないし63年以降、それぞれ故障により稼働していない状況となっている。
 このように、車両が十分に稼働していないことなどから、通勤線の1日当たり輸送量も、52年の約22,300人を頂点として、58年以降は漸減してきており、62年約5,500人、63年約3,200人と、事業(I)の計画輸送量であった25,000人をも大きく下回っているなど、本件事業の効果は十分発現していない状況となっている。

<事例2>

研究所拡充事業
 この事業は、総合研究所の繊維部門を強化することによって繊維産業の振興に資することを目的として実施されるもので、このうち、パイロツトプラントの建設、生産技術の移転、研究開発の指導等のため昭和55年からプロジェクト方式技術協力(63年度末までの経費累計額約5億円)が行われている。
 しかして、55年の技術協力に関する討議議事録等によれば、相手国が内貨予算で建設する建物(工期56年から58年まで)内に供与機材を据え付けて58年までにパイロツトプラントを完成させ、主としてこれを利用して技術移転を行うことになっている。
 しかしながら、内貨予算不足などにより建物の建設が遅れたため、パイロツトプラントは平成元年にようやく全面稼働が開始されたばかりであり、この間事業団としても協力内容の中で実施可能である関連工場での指導等により対応したものの、パイロツトプラントに係る供与機材を用いた技術移転は遅延している。

 このような事態を生じているのは、内貨予算が不足していたことなど主として相手国における事情によるものであるが、直接借款は、相手国が実施主体となって行う事業に対して相手国の自主的判断に基づく要請を受けて実施されるものであり、内貨分の資金の調達は原則として相手国側が自助努力により行うべきであるとされていること、無償資金協力は、相手国が主体となって行う経済・社会の発展のための事業に係る自助努力を支援するものであり、事業実施後の施設の運営及び維持・管理は相手国が責任をもって行うことになっていること、プロジェクト方式技術協力は、相手国の自助努力に対し主として技術的に協力するものであり、土地、建物及び組織運営に係る費用については原則として相手国が負担することになっていることから、我が国援助実施機関が上記の事態に対しても相手国の自助努力を前提とした対応をとっていたこと及び現行制度の枠内での対応には限度があったことなどにもよると認められる。
 政府開発援助は、近年著しく増大してきており、今後も引き続き実施されることが見込まれるのであるから、前記事態にかんがみ、我が国全体として、必要に応じて、相手国における内貨予算不足による事業の遅延に対して我が国が執り得る措置についての検討を行ったり、我が国援助実施機関相互の間、あるいは我が国援助実施機関と相手国との間の一層の連携強化に努めたりなどするとともに、事業全体の状況を一層的確に把握することなどができるよう援助実施体制の整備・拡充を図り、もって政府開発援助がより効果的・効率的に実施されることが望まれる。

 (注1)  内貨分 事業に要する資金のうち、相手国内で資機材を調達するなどのために相手国通貨(内貨)により支払われる部分

 (注2)  外貨分 事業に要する資金のうち、相手国外から資機材を調達するなどのために外国通貨(外貨)により支払われる部分